▼執筆者
株式会社エフェクト 代表取締役
石井 住枝 氏
改善の定義を改めて考えてみたいと思います。改善の定義って何でしょうか?似ている言葉ですが、改良、改善、カイゼンそれぞれ意味が異なります。
少し紐解きますと、改良とは、お金をかけて進化させることと定義をしています。改善は、起きている問題に対して、できるだけお金をかけずに、知恵を使って問題点を解決していくことで、カイゼンは、今がベストと思ったやり方であっても、更にもっと良くするために知恵を使っていくことを表しています。
目次
改善が生まれた理由
改善とカイゼンに共通することは、できるだけお金をかけずに知恵を使います。確かに、新しいものを買い換えた方が早いという時もあると思いますが、それでは、コストがかかりすぎてしまいます。つまり、改善の差が資本力の差となり、お金で改善の進み具合が決まってしまうと解釈されてしまいがちですが、改善とはお金をできるだけかけずに、知恵を使って行うことであり、誰でも継続して行うことができるのです。
トヨタ自動車や製造業では広く活用されている改善の考え方ですが、そもそもトヨタ自動車の始まりは、倉庫の中から始めたベンチャー企業です。戦争後に日本の復興を考えた時、幅広い雇用が生まれる裾野の広い産業をつくるために、自動車産業を選び、輸入車が多かった時代に国産車を作ると決めてスタートしたのです。
時代の背景もあり、素材品質も決して良いものが手に入らず、技術レベルも低い状態でありました。そして、融資を積極的に受けることができない時代でありましたので、手元にあるお金でなんとかしなければならなかったのです。だから知恵を使うしかなかったのです。技術も素材も良いとは言えない品質の中で、失敗を繰り返しながら技術の向上を目指し、蓄積を重ねてきたからうまれた改善の文化です。
だからこそ改善とは『知恵を使って、現状の仕事をさらに良くするために継続的に続けるカイゼン』であります。人間力の勝負であり、知恵を使った人材育成はチームワークを高め、企業の実力を上げることができます。
今日より明日が少しでも改善できていれば継続しつづけることができる、つまり改善に終わりがない、と言われるゆえんであり、改善の根っこにある考え方です。
改善に必要な最初のステップ
改善に大切なのはまず「定義を決める」ことです。社内において、同じ言葉で同じ背景がわかるようにする言葉の定義をあわせることが、改善を進めていくための最初のステップです。
難しく考えずに、身近な改善事例を挙げます。例えば、部品をストックの棚から取り出す時間、返却の手間、探している時間などを短縮するだけでも、毎日何回も行っていることであれば、これを改善できれば大きなコスト削減になります。そのためには、現状のやり方をしっかり観察した上で、向きを変え、動線を変えると、どのくらい楽になるのか。時間が短縮できるのか、間違いが減るのかのポイントで観察して、うまくできたものを標準とします。その過程が改善となります。
その後、新しい標準ルールを試してみて、維持できる様な仕掛けを考えることができれば、第一段階の改善となります。
改善するもの、問題を探すポイントは、時間がかかっていること、間違いを起こしやすい事、何度も行う事、面倒だなぁと思う事があれば、改善できるポイントがあるということ、それを発見するには、まずしっかり現状把握をすることです。
ムダの削減はお客様視点で
トヨタ生産方式の根幹に流れるのは『いかにしてお客様に喜んでもらうためにモノづくりをするのか』ということです。
そのために、品質/納期/お金/知恵を出すことであり、次の仕事に対して、喜んでもらうために、どうしたらいいのかをしっかり考えること、ひとりひとりが知恵を出し、次の人のために少しでも改善する行動にすることで、結果的に自分自身の仕事もやりやすくなる仕事のやり方というのが、根っこにあります。
改善は知恵を出す技術ですが、困難な状況に取り組むからこそ、知恵が良き人材育成につながるのです。
作業の中でムダが重なれば、時間もお金もお客様の商品の価格に付与しなければならなくなります。ムダはお客様のコストという考え方、これがトヨタ生産方式の根底にあり、それらをクリアしていく為に、ひとりひとりが改善意識を持ち、カイゼンに更なる挑戦をしていく姿勢であります。
カイゼンはチャレンジ
改善の重要性については少し理解を得られたと思いますが、次はどうしたら改善ができるようになるかですよね。「改善→カイゼン→イノベーション」実はこの順番がポイントなのです。
改善とは現状を見える化して、問題を顕在化させます。問題とゴール目標とのギャップを確認し、どうしたらその目標に近づくか、知恵を絞って改善をします、そして、効果があったものを標準値として設定し、この標準値をさらにもっといい方法はないかと問いかけながら、ストレッチのような少し負荷をかけながら、現状より、少しでも良くなる方法はないかとチャレンジしていくのがカイゼンです。
例えば、今よりも半分の時間で、品質を保ちながら仕上げることはできないか。と課題をつくり、レベルアップしていく考え方です。
難題ではありますが、「今の仕事が、どうしたらもっと良くなるのか」に挑戦し、発展させていくことにあります。ただし、このポイントだけがクローズアップされると、改善って原価低減、コスト削減などと表現されてしまいがちです。しかし、今より少しでも良くなるために、どうしたら良い品を良い価格でお客様に提供することができるかに挑戦している姿勢がカイゼンの考え方の中に流れています。
その先のアプローチとして、問題を解決したり、その仕事に新たなる価値を入れて新しい商品を生み出したり、今の進め方を中止し、全く別のアプローチで仕掛けるなど新たなチャレンジを促すこともあると思います。
これをイノベーションと考えれば、改善→カイゼン→イノベーションの順番はかなり効率的であるはずです。
問題発見から解決までできる人材の育成に必要な上司の心得
実際の現場では、やはり「即戦力が欲しい…」といった人材不足が課題でもあります。従来の人材育成は、採用し、教育し、OJTしながら年次を重ねるごとにレベルアップする育成方法が主流でありました。しかしながら、世の中が急速に発展していく中では、育成、じっくりOJTをしながら育成する時間がありません。
そのため、自ら率先し問題を見つけ解決していく自発的な人材が求められるのです。では上司として、改善できる人材をどのように育てていけばよいのか?
「上司からの指示をそのまま進めてしまう」
「内容を理解して仕事に反映する能力がない」
これらはよく現場から聞こえてくる話です。では、なぜ上司からの指示に対して、その言葉の通り受け止める人が増えているのでしょうか。
本当は、上司の指示の裏には背景があり、立場があり、今までの歴史経過経緯があり、そこにどんな含みがあるのか知る必要があるはずですが、その背景を部下から問われることも少ないのも事実です。しかし、部下の方々も背景に気がつかない方も多く、お互いの理解のずれがおきているのも要因の一つであると思います。
自ら考えて行動して欲しいという上司側の気持ちも理解できますが、それでは改善人財を育成することは難しいです。まずは、指示する際に背景を説明して、質問させて、内容の解釈を深めていくひと手間が大切です。
最初だけでいいので、最初の指示は「言って、言わせて、やって、やらせて、フォローする」この基本が改善人財育成のはじめに。です。もちろん上司の意図は、すぐには理解できないのですが、復唱や質問をしながら確認、噛み砕いて伝える必要があります。
そして、少し習慣がついて来たところで、次からの指示の後には、
「あなたはどう解釈しますか?」
「あなたは、どう進めればいいと思いますか?」
といった質問をすることで指示された人は考えるという行動を始めていきます。最初は根気が必要ですが、即戦力の育成をしたいと考える場合は、この方法が結果的に早いと私は感じています。
そのためには部下の成長の前に、まず指示を出す上司側に質問力を身に付けて欲しいと思います。質問力を鍛え、引き出す能力を高めることが大切です。改善人財に育成するために必要な上司の方からの問いをかけるファシリテーション力を活用し、答えを言うのではなく、考えさせ、目標を達成できるような投げかけが必要だと思います。
現場改善ラボでは、人材開発コンサルタントによる、OJTを効率化しつつ効果を最大化するための具体的な手法や新人の育成期間を短縮する方法について解説した動画を無料でご視聴いただけます。ぜひご参照ください。
改善の進め方は?
まずは、今のありのままの状態を正しく確認をする。その上で、何が問題なのかを発見することがとても大事です。特に、現状把握するポイントとしては、業務が標準化されず、個々のスキルに頼っているところはありませんか。通常はうまく回っているけど、その人が休むと途端に生産性が落ちる。そんな職場になっていないでしょうか。
もちろん、経験値、気配りレベル、様々な付加価値が必要な要素はあると思います。ただし、その人がいないとその人に聞かないとわからないっていう状態では、改善は進みません。その人がいなくても7割は問題なく回せる。ローテーションしてもそのレベルや質は保てるようになっているのか。そんな問いかけをしてみると、改善すべき優先順位は発見しやすくなると思います。
ただし、最初は小さな部分で進めることを推奨します。いきなり全社一斉にはせずに、数名の単位で試してみて、その結果を活用した上で、横展を考えて改善を広げていく事が大切です。
理想の改善できる人財を育てて、カイゼンがうまれる職場にしたいという想いは大切ですが、焦らずにひとつひとつ進めて行くことが早道だと私は思います。急激に変化している時代の中で対応していける改善、カイゼン力をぜひ身に着けて戴きたいと思います。
まずは、今の仕事をできるだけ標準化するステップを落とし込む。その単元が終わったら、次の工程に進めていくというステップバイステップで仕事を明確にしていくこと。これを続けていくことで、業務が標準化し、個々のスキルに頼らずとも最低レベルの仕事は回せていく、と思います。
改善からカイゼンへ、その標準値で定めた標準値を少しずつレベルアップさせていくことが会社の底上げです。継続していくことで、生産性、費用対効果が必然的と上がっていきます。
改善の重要性
改善とは、今ある仕事をまず現状把握し、やりにくいこと、時間がかかっていること、個人のスキルに頼っていること、そこが問題点であり、目標とのギャップが課題となります。
会社の中で、どういうレベルを達成したいか理想を描き、現状とのギャップを明確にすることで改善の準備ができます。
改善とは、目標のレベルに達成できるのかに知恵をつかうこと。あせらず、ひとつひとつステップアップをしていくことで、改善人財がうまれ、カイゼンできる風土を作っていくことができるのではないでしょうか。
最後まで読んでいただいた方に、私の無料メルマガ「1日5分、5日でわかる!トヨタ流A3思考術メール講座」をご案内します。無料メール講座をお申し込み後、メールの感想を送っていただいた方には、株式会社エフェクトでご用意した「トヨタ流・職場生産性カイゼン診断」90分(20万円相当)と、御社の強みを最大限活用するためのフィードバックシートを全て無料でお届けいたします。
以下より、現場改善ラボのメルマガ登録をしていただいた方限定で「トヨタ流A3思考術メール講座」のお申込みページへ遷移します。ぜひこの機会にご活用ください。
▼著者の無料メルマガお申込みページはこちら(現場改善ラボメルマガ登録お申込みフォーム)
以下のフォームから現場改善ラボのメルマガに登録いただいた方へ、著者のメルマガお申込みページをご案内いたします。