製造業に勤めている方にとって、人手不足はすでに直面している問題でしょう。人手不足は単なる「人が足りない」という表面的な問題ではなく、企業経営に深刻な影響を及ぼす問題です。
「人手不足で悩んでいる…」
「人手不足の原因って何?」
「人手不足の解決法を知りたい!」
という疑問や悩みを抱えている方も多いはず。
そこでこの記事では、人手不足とは何か、人材不足とどう違うのかという基本的な定義から解説し、日本における人手不足の現状、特に2030年問題と呼ばれる少子高齢化の影響、そして人手不足がもたらす企業への影響について深堀りします。解決策として、賃金や福利厚生の見直しから、アウトソーシング、外国人の雇用促進、さらにはITツールの導入まで、多岐にわたる対策を紹介しましょう。
この記事は、人手不足問題に真剣に取り組みたいと考える方へ、ためになる情報を提供しています。この記事を参考に、人手不足の原因を知り、対策を練っていきましょう。
目次
人手不足とはどのような状態?人材不足との違い
人手不足を理解するためにここでは、人手不足の定義と人材不足との違いについて解説します。
人手不足とは
人手不足とは、単純に言えば仕事があるのに、仕事をこなすための人が足りない状態のことです。製造業は物理的な作業が多く、手作業が不可欠なため、人手不足は特に深刻な問題です。
たとえば、製品の組み立てラインで人手が足りないと、全体の生産性が低下し、納期遅延や品質の低下が起こる可能性もあります。
人手不足と人材不足の違い
人手不足と人材不足は似ているようで少し異なる概念です。人手不足は「数」に問題がある状態ですが、人材不足は「質」に問題があります。人材不足は必要なスキルや経験を持つ人が不足している状態を指します。
たとえば、製造業で新しい機械を導入したけれど、操作できる人材がいない場合は人材不足です。人手不足ならば、一時的なアルバイトや派遣社員の採用が解決策になります。一方で、人材不足の場合は、教育と研修による人員のスキル向上が解決策になります。
人手不足と人材不足は定義的に違いはあるものの、人が足りない状態は同じです。人手不足を解消し、教育を行って、人材不足を解消するということも可能でしょう。
日本における人手不足の現状は?人手不足倒産が増加
日本における人手不足の現状について、以下の4つの要素から解説します。
- 人手不足の現状
- 人手不足が顕著な業界
- 2030年問題(少子高齢化)
- 人手不足倒産の増加
人手不足の現状
日本商工会議所が2022年に実施したアンケート調査によれば、中小企業の64.9%が人手不足であると回答しています。人手不足が起きる理由には、少子高齢化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れ、需要と供給のアンバランスなどがあります。(参考元:日本商工会議所【「人手不足の状況および新卒採用・インターンシップの実施状況」の集計結果について】)
製造業では、人手不足は生産性の低下、過度な労働負荷につながる可能性があるため、深刻な問題の1つです。
さらに、地方企業、特に中小企業は、地方から都心への労働力人口の流出が進んでいるため、人手不足の影響が大きいのが現状です。労働人口の流出を防ぐためには、地方企業自体が魅力的な働き場所でなければなりません。
そのため、人材不足の現状は製造業に限らず、あらゆる所で深刻化しています。
人手不足が顕著な業界
人手不足は日本全体で深刻な問題となっていますが、特に「建設業」「運輸業・郵便業」では高度なスキルと体力が求められ、また労働環境も厳しいため、新たな労働力が集まりにくいと言われています。
「製造業」でも、特に労働集約型の部門では人手不足が顕著になっており、高度なスキルが必要な作業が多く、また新技術の導入が遅れている場合が多いことが理由としてあげられます。
2030年問題(少子高齢化)
2030年問題とは、少子高齢化が進むことで労働力が一層減少するという問題です。高齢者が増える一方で、若い労働力が減少するため、企業運営が困難を極めることになります。
日本政府の報告によれば、2030年時点で850万人以上の労働力が不足すると推計されています。(参考元:首相官邸ホームページ【労働力不足解消と女性の経済的自立実現に向けて】)
製造業では、高齢者が多くなると、重労働が難しくなります。さらに、若い労働力が不足すると、新しい技術やアイデアが生まれにくくなる懸念もあるでしょう。総じて、生産性の低下につながり、企業の競争力が失われる可能性があります。
人手不足倒産の増加
株式会社帝国データバンクの「全国企業倒産集計2023年上半期報 別紙号外リポート」によると、2023年上半期には「人手不足倒産」が110件発生し、前年同期から約1.8倍に急増。特に建設業や運輸・通信業での増加が目立ちます。また、従業員や経営幹部の退職・離職が原因となる「従業員退職型」の人手不足倒産も増加傾向です。
建設業では、職人や有資格者の不足が顕著で、事業の継続が困難になっていますが、製造業も同様に、専門技術を持つ人材が不足している場合、生産効率が低下し、最終的には倒産へとつながる可能性があります。
特に製造業では、一人一人のスキルが高く評価されるため、従業員が退職するとその従業員が担当していた業務が滞り、生産性が大きく低下するため、注意が必要です。
人手不足の原因とは?
人手不足では、生産効率が低下し、結果として企業の競争力が失われる危険性があります。その人手不足の原因について、ここでは以下の3つの視点から解説します。
- 労働市場における需要と供給のアンバランス
- 少子高齢化
- 労働集約的な業務体制
労働市場における需要と供給のアンバランス
労働市場の需要と供給のアンバランスは、特に製造業で目立ちます。主に以下の点から人材が製造業から遠ざかっています。
- 肉体労働である
- 夜勤や休日出勤がある
- 景気悪化で職を失うリスクがある
- 仕事に資格が必要な一方で、給与水準は低い
事務職などは比較的人手不足が深刻でない一方で、製造業の仕事は慢性的な人手不足が続いています。そのため労働市場では、需要と供給のアンバランスが起こっていると言えるでしょう。
少子高齢化
高齢者が増える一方で、若い労働力が減少しているため、少子高齢化は製造業にも大きな影響を与えています。
内閣府公開の『令和4年版高齢社会白書』によると、日本の総人口は、令和3年10月1日時点で、1億2,550万人。65歳以上人口は、3,621万人。総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は28.9%です。令和47年には、約2.6人に1人が65歳以上、約3.9人に1人が75歳以上になると推計されています。
▼高齢化の推移と将来推計▼
【引用元:内閣府『令和4年版高齢社会白書』より引用】
労働人口の減少から人手不足になるのは必然であると言えるでしょう。民間が行える少子高齢化対策には限りがあるため、政府の対策が必要になると考えられます。
労働集約的な業務体制
製造業は、製品の品質を確保するために、人の手による細かい作業が必要なため、労働集約的な業務体制が多いのが実情です。
たとえば、ある部品の組み立てには高度なスキルが必要で、そのためには熟練した職人が不可欠です。しかし、退職や人手不足によりスキルが継承されずに職人が不足すると、品質が低下し、結果として企業の評価も下がる可能性があります。
さらに、近年の業務効率化(DX化)が進んでおらず、マンパワーで業務を行う企業もあります。マンパワーで業務を行えば、それだけ人手が必要となり、結果的に人手不足に陥ります。
人手不足が企業に与える影響
厚生労働省の「令和元年版労働経済の分析」に記載の人手不足が企業経営や職場の環境に及ぼす影響に関する調査によると、人手不足が自社の会社経営に影響を及ぼしている企業は、全体の72.4%に及んでおり、そのうち22.5%は、「大きな影響を及ぼしている」状況にあるとのこと。
人手不足が職場の環境に及ぼす具体的な影響は、労使ともに、「残業時間の増加、休暇取得数の減少」が最多。次いで企業では「能力開発機会の減少」「離職者の増加」、労働者では、「従業員の働きがいや意欲の低下」「離職者の増加」などが挙げられています
つまり、残業時間の増加や休暇の減少が労働者の働く意欲を低下させ、それに伴い離職し、人材不足になるという連鎖反応が起こっています。
そして、離職や定年退職に伴って起こる問題が「ベテランのノウハウが若手に伝承されない、技術伝承が進まない」ことです。ベテラン社員が離職し人材不足に。人材不足になったため、人を雇用するけれども教育できる人材がいないという負の連鎖が起こります。
日本の企業は、この由々しき事態に対して、従業員の働く意欲を低下させないように生産性向上など、根本的な解決策を打つ必要があると考えられます。
一方で技術伝承の重要性は理解しつつも、効果的に進まないといったケースも少なくありません。その原因や効果的な対策は以下の記事で解説していますので、こちらも併せてご覧ください。
関連記事:技術伝承が進まない5つの課題と成功へ導く方法とは?事例をもとに必要な理由を紹介
また、現場改善ラボでは製造部門において技術・技能伝承が進まない理由と精鋭を育てるための技術・技能伝承の進め方について製造業のコンサルティングに従事してきた藤平 俊彦氏による解説動画を無料で視聴できます。ぜひこちらも併せてご覧ください。
人手不足を解消するための対策とは?
人手不足を解消するための対策として、主に以下の4つが考えられます。
- 賃金や福利厚生の見直し
- アウトソーシングの活用
- 外国人の雇用促進
- ITツールを導入する
賃金や福利厚生の見直し
人手不足を解決するために、賃金や福利厚生の見直しを考えることが重要です。良い条件を提供することで、新たな人材を惹きつけることができるでしょう。
たとえば、賃金を市場価格以上に設定することや、健康保険や退職金制度を充実させることなどが考えられます。人材を惹きつける策を講じることで、従業員が長期間働きたいと感じ、人手不足の解消につながります。
アウトソーシングの活用
アウトソーシングもまた、人手不足を解消する有効な手段です。専門的な業務を外部のプロフェッショナルに委託することで、内部のリソースを効率的に活用することが可能です。
たとえば、清掃などの非中核業務を外部に委託することや、専門的なスキルが必要なプロジェクトを外部のエキスパートに依頼することなどが考えられます。
外国人の雇用促進
外国人の雇用も、人手不足解消に有効です。多様なバックグラウンドを持つ人材が新しい視点やスキルをもたらす可能性があります。
外国人労働者のビザ手続きをサポートすることや、言語や文化の違いを考慮した研修プログラムを用意することで、スムーズに雇用や技術の伝承をすることができるでしょう。
ITツールを導入する
業務の効率化や自動化によって、少ない人数でも多くの仕事をこなせるようになるため、ITツールの導入も人手不足解消に役立ちます。
たとえば在庫管理や生産スケジュールを自動化するソフトウェアを導入することや、リモートワークを可能にするためのコミュニケーションツールを利用することなどが考えられます。
人手不足でも後世に技術やノウハウを残すには?
人手不足でも後世に技術やノウハウを残す方法として、以下の3つが挙げられます。
- 従業員に技術継承の重要さを知ってもらう
- 業務工程の効率化
- 技術/ノウハウを動画で可視化
従業員に技術継承の重要さを知ってもらう
製造業において、人手不足は避けられない問題であり、その影響は現場改善にも及びます。人材不足でも、後世に技術やノウハウを残す方法は存在します。
たとえば、定期的な研修会を開き、技術継承の重要性についての研修を定期的に行い、技術伝承の重要性を共有しましょう。さらに、過去に技術継承がうまくいった成功事例も内外で共有し、その成果を可視化することも有効です。
従業員に技術伝承の重要性を知ってもらうことで自発的に教える体制の構築を作り出し、人手不足をカバーできる可能性があります。是非、効果的に活用しましょう。
業務工程の効率化
効率化によって生産性が向上し、結果として人手不足を補えるため、業務工程の効率化は、製造業では重要です。現場の作業フローを定期的に見直し、無駄を排除することが業務効率化の近道となります。
たとえば、部品の取り扱いや移動に時間がかかっている場合、現場の整理・整頓を徹底することで、ムダな時間を排除することができ、結果として全体の生産性が向上します。
また、IoTやAIなどの最新テクノロジーを活用して、業務プロセスを自動化または半自動化することも有効です。
さらに、業務効率化は個々の作業だけでなく、チーム全体での協力によっても可能です。定期的なミーティングを設けて、改善点や新しいアイデアを共有する文化を作ることが重要になるでしょう。
現場改善ラボでは、業務効率化についてさらに詳しい解説をした記事があります。ぜひこの機会に参考にしてみてください。
技術/ノウハウを動画で可視化
動きが伴う技術やノウハウを動画で残すことで、動画マニュアルとして視覚的に学ぶことが可能です。そのため、他の従業員の手間をかけずに技術の伝承や研修が可能になることから、人手不足を補うには動画マニュアルが有効です。
動画を軸とした現場教育システム『tebiki』では、この動画マニュアルを誰でも簡単に作成することが可能です。また、従業員の習熟度状況も可視化することができます。実際に動画マニュアル、tebikiを用いた技術伝承の事例としてトーヨーケム株式会社をご紹介します。
トーヨーケム株式会社は、東洋インキグループの一員として、ポリマー・塗加工関連事業を手がける企業です。700名以上の組織で動画マニュアルtebikiを活用しています。特に、技術伝承、人材教育、業務効率化、安全教育など多岐にわたる課題を解決しています。
従来、技術伝承はOJT(On-the-Job Training)に依存しており、教育のムラを生んでいました。しかしながら、動画マニュアルtebikiの導入により、技術伝承がスムーズに行えるようになりました。まさに技術伝承の手間を省き、人手不足を補った事例と言えるでしょう。
より詳細なトーヨーケムの事例については、以下の記事よりご覧ください。
参考元:新人からベテランまで700名を超える組織教育のグローバルスタンダードを目指す
人手不足の対策をしよう!【まとめ】
この記事では、人手不足とは何か、原因と影響、そして対策について詳しく解説しました。
人手不足とは、単に人数が足りない状態を指すのではなく、適切なスキルと人数のバランスが取れていない状態です。人材不足は特定のスキルなどが不足している状態を指します。
日本の労働市場では、特に製造業を中心に人手不足が顕著です。少子高齢化が進む中で、人材不足はさらに深刻化しています。人手不足による倒産も増加しており、企業に多大な影響を与えています。主な原因としては、労働市場の需要と供給のアンバランス、少子高齢化、そして労働集約的な業務体制があります。
人手不足が続くと、従業員の意欲の低下や社員教育機会の減少が起こり、企業全体の生産性に影響を与えます。そこで重要なのが、人手不足を解消するための対策です。賃金や福利厚生の見直し、アウトソーシングの活用、外国人の雇用促進、ITツールの導入などのアプローチが必要です。
さらに、人手不足が続く中で後世に技術やノウハウを残す方法も考えなければなりません。
人手不足を補うために、そして技術伝承を行うために有効な方法が動画マニュアルの活用です。特に動画マニュアルのtebikiは技術伝承の手間を減らし、人手不足を補うのに有効です。ぜひこの機会にtebikiの資料をダウンロードしてみませんか?