▼執筆者
QCD革新研究所 所長
中村 茂弘 氏
前回は「なぜ仕事を改善する必要があるのか?」について、レンガ職人ギルブレスの話を交えて解説しました。今回は工程分析による改善について、具体的な手法や演習を用いて解説していきます。
前回のコラムはこちら
工程分析の手法
ギルブレスが勉強した工程分析の内容について、具体的に見ていきます。ギルブレスは仕事を18の記号で表したわけですが、現場で使いやすいように研究し、仕事を4つにわけることにしました。
4つの内訳は以下の通りです。この4つの視点で仕事やモノ、情報の流れをつかみ改善点を発掘します。
◯(マル)
正味、付加価値を生む仕事、売れるモノづくりへつながるお金を意味する。旋盤作業であれば、材料を世界最良・最高スピードで研削する内容を示す。
▢(シカク)
検査、工程内で良品をつくれば、検査不要という判断をする。検査は出来るだけモノづくりの段階で行う工程内検査保証(自己完結型)生産を狙う。
▽(サンカク)
人の場合は手待ち、材料は仕掛かり、情報は保管・ファイルなどを意味する。工程の流れのスムーズ化、ネック工程対策、JITによる対策が有効。
→(ヤジルシ)
移動、運搬、搬送、情報の伝達という内容が、この対象となる。どうしても移動が必要な場合、太く短くを基本に近接を考える。
以上4つの視点から仕事をそれぞれ分類していきます。分類した結果、◯(マル)以外の▢(検査)・▽(待ち)・→(移動)はムダになるため、できるだけ減らすようにしていきます。
また、4つの視点から改善点を発掘すると同時に、ECRSという改善の質問をすることで、理想と現実の間でどれだけの改善が得られるかを見つけていきます。
ECRSとはEliminate(省略)・Combine(結合)・Rearrange(置き換え)・Simplify(単純化)の4つです。
- いらない仕事はEliminate(省略)
- 同時にできる仕事はCombine(結合)
- より良い方法があればRearrange(置き換え)
- できるだけ最終的にはSimplify(単純化・自動化)
工程分析をしてムダを見つけながら、ECRSの質問を行うことで、ムダを減らす改善も進めることができます。工程分析と改善を同時に行い、仕事の早期向上を目指しましょう。
工程分析:シールド板組立作業演習
具体的にシールド板の組立作業を見ていきます。このように実際に実演しながら、仕事を細かく見ていくことをパントマイムといいます。これがスピード改善の特徴でやっている内容になります。
作業内容は銅板と黄銅板を組み合わせ、4角をホッチキスで留め、スタンプで印を押すというものです。銅板は2m先に置いてあり、その銅板から1m隣に黄銅板が置いてあります。
まず12枚の銅板を2m先まで取りに行くのですが、ちょうど12枚取れないので多めに持ってきます。そして検査をしながら机に12枚並べ、余った銅板は元の位置に戻しに行きます。次に黄銅板を同じように持ってきて、机に並べ、元の位置に戻す、という内容を繰り返します。
この作業内容を先ほどの4つの記号、◯(マル)・▢(検査)・▽(待ち)・→(移動)で表してみましょう。銅板・黄銅板を取りに2m移動したのは、→(移動)です。そして銅板・黄銅板を取り上げる動作は◯(正味)になります。検査をしながら並べるのは▢(検査)と◯(正味)を同時にやっているな、という風に記号を付けていきます。
同様に全ての作業に記号を付けた結果は、全部で14工程あり、そのうち◯(正味)は5つでした。つまり◯(正味)は全体の37%となり、63%もムダをしていることになるのです。さらに1日800枚を作っているところ、不良が10%もあります。
というわけでどのように改善しようかということです。まず銅板・黄銅板は作業台の側に置くことで、取りに行くのと戻しに行く→(移動)をEliminate(省略)します。並べるのは両手で行うことでEliminate(省略)・Combine(結合)します。
しかしコンマ1mmの精度で合わせなければいけないため大変だというのです。そこでRearrange(置き換え)の原則により、治具を使うことにしました。そうすることで簡単に位置を合わせられるようになり、ズレがなくなったことで10%あった不良もなくすことができました。
このように全ての工程において改善していくと、移動のムダや調整のムダなどがなくなり、14あった工程がたったの4工程で終わるようになったのです。つまり生産性は3倍になり、2400枚作れるようになりました。不良もゼロです。
改善というのは、ムダを省くというのは、このようにして行います。同じモノを作るのに、良いやり方、一流のやり方を見つけていこう、ということですね。
立ったり歩いたりしないで、1つの場所で椅子に座って良い仕事をしようというわけです。
現場での改善実践法
昔は現場で改善を実施するために、時計を持ちながら紙と鉛筆を使って、というように面倒な手法をしていました。
しかし今は動画をとります。何をとるのかというと『ムダ』を取ります。つまり、ムダを取り去るという『取る』と、ビデオでムダを撮影するという『撮る』を同時に行うのです。撮影した現状を見ながら討論し、改善点を挙げていきます。
それからパントマイムで改善を行い、撮影することで、改善前後の比較をすることができます。ビデオで撮影すれば時間も一発でわかるため、比較するのも容易です。このようにやっていくのがスピード改善というわけです。
改善点を発掘する『ムダ発見ゲーム』
こちらは問題点を探し、改善点を発掘するゲームです。
問題点はまず、棚の手が届く一番取りやすい位置が空になっていることです。そして腰を曲げて棚のものを探しています。
ほかにも2個の小さなものを台車で運んでいたり、仕掛かりが溜まっているところがあります。仕掛かりが溜まっていると、もしそのなかに不良があった場合にフィードバックが遅くなってしまいます。
ある機械では空気を削っているだけで、監視の人も手待ちの状態です。油がこぼれていたり、不良の山が置いてあるのも全てムダです。
このようにさまざまなムダが工場にはあります。製造現場ではこういう見方をしてやっていくことが、スピード改善のムダ排除です。そして工程分析を利用することで、大きな改善を行うことができます。
終わりに
工程分析ではムダを見つけるのと同時に、ムダをなくしていくことで、スピード改善を実現できます。そのために4つの記号やECRSの改善の質問、導線図などを活用することが大切です。
演習問題のようにムダはあらゆるところに存在しています。これらを参考に工程分析の手法を身に付け、実践につなげていきましょう。