AIを使う人の力量の差が、製造業の競争力に直結する
堀江氏がまず強調したのは、生成AIというツールの「使い手による差」の大きさです。今のAIはネットで集めた情報を論理的に整理・組み合わせて、適切な回答をする精度が段違い。同じAIでも、話し相手として使う人と、AIの能力を存分に活かして仕事の道具として使い倒す人とでは、得られる成果がまるで違うと堀江氏は語ります。
「今のAIは、経営の壁打ち相手として非常に優秀です。経営コンサル代わりに『この場合どうなの?』というシチュエーションに分けた回答がすごく得意。複雑な条件を投げても、全部理由付きで、しかも人間より速く返してきます。賢い人ほど生産性が跳ね上がるツール、それがAIなんです」

モデルの進化も加速しています。堀江氏は、これまでのAIが「出来のいいジュニアエンジニア」レベルだったのに対し、Anthropic社の最新モデル(Claude Fable 5)は要求していない仕様まで先読みして提案してくる「気が利くエンジニア」というレベルに達したと評価します。だからこそ、管理職や経営層こそAIを使うべきだというのが堀江氏の主張です。
「ここにいる皆さんは管理職と聞きました。管理職こそAIを使わなきゃいけない。人間だと文句を言わざるを得ない厳しい納期や条件も、AIは何も言わずニコニコ結果を出してきます。昔プログラミングをやっていた人ほど生産性が爆上がりするので、絶対に使うべきです」
この「使い手の力量による差」は、製造業の現場でも、そのまま組織の競争力の差になっていくと話します。
安川電機の双腕ロボット×AI。バイオ実験の自動化が示す、日本の製造業の可能性
AIがロボットと組み合わさったとき何が起きるか。堀江氏が具体例として挙げたのが、実験ロボットによるバイオ実験の自動化です。産業技術総合研究所発と安川電機が共同開発した汎用ヒト型実験ロボット「まほろ」は、人間のような2本の腕でこれまで研究者が手作業でやってきた、液体を測って移したり、細かい容器を扱ったりといった極めて繊細な作業を安定的に行います。2026年4月には、東京科学大学のロボット未来創造センターで実験の自動化が本格的に動き出しています。
堀江氏がこの事例で注目したのは、生成AIがロボットの価値を一段引き上げた点でした。かつては実験手順をロボット言語に翻訳するのに多大な手間がかかっていた工程が、AIの進化でより平易な指示に置き換わりつつあるといいます。
「細胞を扱う実験のような繊細な操作は厳密な再現性が求められるので、人間よりもロボットのほうが得意なんです。しかも、必要な薬剤や試験管を供給する仕組みさえ整えれば、あとはリモートから指示するだけでアウトプットが自動で出てくる。生成AIによって、ロボットの価値が一気に跳ね上がりました」
では、こうしたAIロボットはどこから社会に広がっていくのか。堀江氏の答えは「コスパが合う領域から」でした。医薬価の高い再生医療の細胞製造であれば、高額なロボットでも投資に見合う。ファミレスの配膳ロボットが普及したのも、削減できる人件費がリース料を上回るからだといいます。
「一番身近な例が、ファミレスの配膳ロボットです。大きな店舗なら数人分の人件費が削減できて、リース料はそれを下回る。だから普及するんです。AIロボットも同じで、コスパが合う領域から順に入ってきます」
自社の現場のどの工程が最初に「コスパの壁」を越えるのか——その見極めが、導入の順序を左右するでしょう。
製造業はイーロン・マスクをベンチマークせよ
講演の後半、堀江氏がとりわけ力を込めたのが、イーロン・マスク氏をめぐる話でした。ただし、学ぶべきはロケットや宇宙開発の技術そのものではない、と堀江氏は釘を刺します。制約に直面したときの「発想の順序」こそがベンチマークに値するというのです。
「日本の製造業は、イーロン・マスクのスピードを絶対にベンチマークしなきゃいけません。彼はリチウムが足りなければ精錬所を自分で作るし、ロケット燃料のメタン輸送が大変ならガス田の開発まで視野に入れる。足りないものは、川上までさかのぼって自分で押さえにいくんです。そして極めつけは、物理法則から一から考え直すこと。『そもそも物理法則的にどうなの?』というレベルで設計をやり直しているんです」

既存の常識を所与とした改善ではなく、制約条件そのものを疑う——。ここに、日本の製造業への示唆があります。既存の設計や調達の枠組みを「当たり前」として受け入れていると、前提そのものを問い直す転換は難しくなるからです。
そして、その第一歩は意外にも身近なところにあると堀江氏は言います。経営者自身が、まずAIを触ってみること。自身が手がけるAI教育事業での実感として、社長が自ら学びに来る会社ほどAIを一気に導入でき、そうでない会社は発注先への丸投げから抜け出せないと語ります。
「社長が自ら学びに来る会社は、AIをガーンと導入できます。でも、そうじゃない会社は尻すぼみになる。自分でやらない会社は、結局すべて外注に丸投げしてしまうんです。プロトタイプなら誰でもすぐ作れる時代ですから、それをエンジニアに見せて『こう作って』と指示できる立場になればいい。部下に『AIはこう使うんだ』と背中で示すことが、皆さんの仕事です」

講演の最後、堀江氏はこう締めくくりました。「Claude CodeでもCodexでも何でもいいので、まずは使ってみる。それが第一歩です」。AIによる変化を自社に取り込めるかどうかは、外注先ではなく、経営者自身がどれだけ手を動かすかにかかっている。製造業に関わるリーダーにとって、変革の当事者は誰かを鋭く問い直す講演でした。
※本講演が行われた、第8回 ものづくり戦略フォーラム in 東京のイベントページは以下のリンクからご覧いただけます。https://landingpage.tebiki.jp/conference20260626