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問題の真因は何か。問うべきは「個人」ではなく「仕組み、環境」
中井氏が三菱電機に着任直後、社長の漆間氏から繰り返し問われたのが「真因をよく調べてほしい」という言葉でした。報告するたびに「もっと真因を調べて」と返されたといいます。そこから導き出した答えが、「真因は個人ではなく仕組み、環境にある」という結論でした。
中井氏は「人間は元来善人」という言葉を引用しながら語ります。「善人が入社後に正しくないことをするのは、本人ではなく組織や仕組みの問題。これが真因です」と中井氏。人は崖っぷちに追い詰められた環境にいたら、一歩足を踏み外せば落ちてしまうリスクがある。だからこそ崖からの距離をたっぷり取れる環境をつくる、これが中井氏が行った品質風土改革の要でした。
信号機があるから、信号を守らないケースが起こりうる。立体交差にすれば解決できるように、環境で人の行動を変えることができる。目指すべきは、不適切行為を「起こす必要がない」状態をつくること。

三菱電機の品質風土改革では、6つの重点方策の下に19方策のKPIを定めてTQM(Total Quality Management:総合的品質管理)のスタイルで月次で進捗を管理。2021年から活動を推進してきました。
【品質風土改革の重点方策】
1.牽制機能の再構築
2.技術力・リソース課題への対策
3.品質コンプライアンス意識の再醸成
4.モノ造りマネジメントの正常化
5.設計のフロントローディング推進(設計検証、変更点検証の充実)
6.データに基づく品質管理と手続きの履行
デジタル化を進めて、検査員が本来の業務に集中できる環境を構築
講演当日、来場者から特に注目を浴びたのが、「技術力・リソース課題への対策」の一環として行われたIT化・デジタル化による品質強化の活動事例です。中井氏がここで強調したのは、デジタル化を進めるうえでの「目的設定」でした。製造業におけるデジタル化はしばしば、正確な測定の実現や、改ざんの防止といった文脈で語られます。しかし中井氏は、そうした語り方だけでは現場の本質を見誤ると指摘します。
「検査・品証の本来業務は、データを統計的に処理し、問題があれば設計や工程にフィードバックして対策を講じることだと思っています。計測してパソコンに数値を入力するような作業は、業務の本質ではありません。そういった付加価値の低い仕事をデジタル化し、本来集中すべき品証で高付加価値の仕事をしてもらう。その目的を達成するために『デジタル化』と言い続けて、活動してきました。」
具体的には、試験条件の設定から良否判定まで自働化できるシステムの導入や信頼性の高い自働試験環境を整備し、計測作業の作業時間削減を行ったと話しました。
IT化・デジタル化による品質強化に300億円を投資。そのポイントは?
さらに中井氏は、現場が前に進める仕組みづくりにも踏み込みました。推進の鍵は、費用の扱いを変えたことだったといいます。
「かかる費用を、製作所のPL(損益)から外したんです。本社でいったん全額プールして、効果が確実な案件から採用していく。実際の支払いは製作所が行うんですが、製作所のPLには含まない。これで現場が本当にやりたいことをやれるようにしました。」
もうひとつ踏み込んだのが、進捗の見える化です。製作所ごとにABC評価で通信簿のように公開し、執行役会議へ持っていくようにしたと言います。
「この施策は低評価のグループ(製作所)から怒られると思いきや、逆だったんですよ。『執行役会議でよく言ってくれた。おかげで投資できるようになった』と現場から感謝されました。結局、隠してもしょうがない。オープンにして現在地が見えれば、みんなが助けてくれるんです。」
目的設定を共有したうえで、財源の構造と評価の透明性を整える。この合わせ技の効果もあり、国内の量産系拠点の最終製品検査工程における検査機器のデジタル化割合は約8割を達成したと中井氏は振り返りました。

「健康診断」で課題を見える化。現場同士がナレッジシェアする文化へ
また「モノ造りマネジメントの正常化」のため、中井氏は日産自動車に勤務していた時にも行っていた「工場健康診断」という活動を三菱電機に持ち込んだと話します。
考え方は安全分野におけるヒヤリ・ハットと同じ。不良率、不適合、設備の故障率、離職率、正社員率など16項目を数値化し、中井氏自らも現場に行って評価・スコアリングする仕組みです。名前を「健康診断」とした理由は、病気の早期発見を良いことだと認識するのと同様に、工場の健康状態を見てほしいからだといいます。
工場健康診断を通じて多拠点交流を促進
さらに品質風土改革チームは、「健康診断」を「健康自慢」へ進化させました。工場を回ると優れた事例が数多くあるものの、資料には「○○本部外秘」と書かれていることがあり、これを変えたかったと中井氏は話します。
「他拠点との情報共有と事例の導入を促進するため、“パクり・パクられ”の仕組みを作ったんです。これまでは、パクること、パクられることは良いとらえ方ではありませんでしたが、パクった数、パクられた数を良い指標として紹介することにしました。工場健康診断、品質監査等で得られた良好事例をデータベース化して、ホームページで横展開し事例導入を加速しました。
この取り組みを始めて、別拠点同士の工場見学も行われるようになりました。見学を案内する側(パクられた側)は多少面倒な部分もあると思いますが、やっぱり取り組みを聞かれると嬉しいものです。いい健康状態をつくったら褒められる、そんな文化が広がっていきました。」
過去の成功体験で築かれた縦割り構造は、強い組織ほど根深く残るものです。中井氏が示したのは、それを正面から壊しにいくのではなく、人の気持ちが動くアプローチをして、横展開を「自慢」に変換することで自然と壁を越えていく設計でした。「当初の診断ベースから自慢し合う形へ変わり、工場常駐メンバーもそれを一緒に応援する関係に変わってきました」と中井氏は語りました。

現場と目線を合わせ続けるために、対話を忘れない
講演の締めくくりで中井氏が強調したのは、「目線」の話でした。仕組みは数多く変えてきたものの、現場が自走しなければ効果が出ないと語ります。
「誰かに言われたから、会社のルールだから、と現場の社員が言っているようでは絶対にダメ。従業員がやらされ感を持っていたら、現場の改革は続きません」
そして、現場で自分たちが考えて自走するための最も重要なポイントとして中井氏が挙げたのが、管理職側の視点の転換です。
「『なぜ報告しなかったんだ』と管理職は言いますが、それは違う。なぜ報告しなかったのではなく『役員・管理職が聞きに行かなかっただけ』だと思います。仕組みを作れば改革が進むのではなく、現場と目線を合わせて対話することではじめて成果が出るのです。」
役職者が工場を訪ねれば、お出迎えや見送りで赤絨毯のような扱いになりがちですが、役職関係なく現場へは当然作業服で行くべきといいます。「目線が合っていないと、現場は何も話してくれませんから」と中井氏。そして最後にこう締めくくりました。

「現場は生き物で、今年よくても来年は変わる。急に忙しくなればまた変わる。だから常に見続け、おかしいと思ったら手が上がるようにし、『本当に大丈夫?』と健康診断のように対話し続ける。これを幹部と従業員が一緒になって4年間続けてきました。終わりはないと思っていますので、引き続きやっていきます。」
仕組みと対話の両輪で品質を支える文化を再構築する。中井氏の講演は、製造業に関わるすべてのリーダーにとって、品質経営の本質を問い直す力強いメッセージとなりました。
※本講演が行われた、第8回 ものづくり戦略フォーラム in 東京のイベントページは以下のリンクからご覧いただけます。https://landingpage.tebiki.jp/conference20260626