以下の連載記事では、SCMの失敗例の紹介、そして成功例を国内大手5社と海外大手4社にしぼり紹介しました。
▼連載記事▼
【専門家解説】サプライチェーンマネジメント失敗事例から紐解く、SCM最適化を実現するヒント
【専門家解説】サプライチェーンマネジメント成功事例から分かる、SCM最適化に不可欠な要素とは?
そして成功例とはいえども、数々の試練を繰り返し、想定していなかった地震も経験し、それらをSCMの教訓として乗り越えていることも解説しました。
そこで、今回は、何がSCM最適化の必要条件なのか?の問いに、私なりですが、ずばり答えてみたいと思います。
※当メディア「現場改善ラボ」にてSCMの実践ヒントや事例に関する連載記事を執筆しております。本記事は「4記事目」です。
▼執筆者
リソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパン株式会社
RGPコンサルタント 木内 祥二
大学卒業後、住友電気工業に入社。海外部にて子会社の拡販支援を担当。その後オーストラリアに留学しMBAを取得。コスト削減のケーススタディでSCMと出会う。帰国後は様々な業種の外資系企業でSCMの実務を経験。現在はRGPのSCMコンサルタントとして活動中。
目次
「デジタルツールさえ導入すればSCMはうまくいく」は間違い
成功例のSCM施策の中でもデジタルツールがいくつも出てきたかと思いますが、それら最新のSCMデジタルツールをどんどん導入すれば最適化に向かうんじゃないか?というと、「ちょっと待った!」を、かけざるを得ません。
なぜなら、それらのツールがもつ機能を十分に発揮できるためのITインフラ(Data情報のインフラ)がもともと自社にあるのか?という問いを、まず先にしてみて下さい。
ほとんどのみなさんは、おそらく『うちの会社のデータって、どこの部門が管理しているんだ?IT部門がすべて管理しているんだろうか?顧客のデータやサプライヤのデータは、どこがもっている?販売単価、購買単価の履歴ってあるのか?製品マスター登録やBOM登録は、設計がもっているのか?だれがどのタイミングでアップデートしているんだ?』などなど思われたのではないでしょうか?
最終的には各部門がそれぞれ関連するデータは保管していたりして、一元管理していないことがわかることが多いのです。もちろん一元管理してますが、『海外子会社は別のシステムなんで、子会社にまかせてますね!』という回答もよくあります。これらの状況って、すでにITインフラが一元化されておらず、バラバラであることを意味してますよね。
SCM最適化のための2つの条件
ではあらためて、「SCM最適化のために必要な条件2つ」を解説します。
まず1つ目。刻々と変化するマーケット情報やあるいは変化する顧客の要件を察知し、それを後方部隊に伝達し、そこで柔軟に必要なオペレーションが実施され、物流も含め、お客様の要求する納期に届けることができること。これにつきるだろうと思います。
この状態に持っていくために必要なことは何なのか?確かにこの状態が維持できることが理想ではないかと私は思っておりますが、言うは易く行うは難しで、ハードルが高いことも事実です。
要するに気が変わりやすいお客様でも、その客が欲しいものを、欲しいときに、欲しいだけ、もっとも効率よく供給できる体制の維持ができているということ。これには、どうしても自社の部門間のスムースで効率のよい情報連携がまずカギであることは、もうおわかりでしょう。そうです、まず、これが第一の必要条件になります。
ほぼリアルタイムとは言わないまでも、週単位ぐらいの頻度でいいので、マーケット全体の状況を見直すことができ、主要顧客の需要にどんな変化がおこっているのか、ちょっとした変化を見落とさず、その情報を取り入れることができ、部門間でも共有ができる。さらに、それらの情報から適切なアクション、打ち手に結び付ける必要があります。いわゆる連携プレーです。ここには国内だけでなく海外全般を見渡せるグローバルな視野もはいってくるので、経営TOPの参画がはいってくる必要があるのです。変化しているマーケットに対してタイムリーに有効な打ち手を提案でき、ライバル会社よりも先に、決断し即実行できる社内の体制であること。これが、第二の必要条件になります。
第一の必要条件にもどりますが、自社の部門間のスムースで効率のよい情報連携を実現するには、まず情報を一元化しておき、欲しいデータをすぐに取り出せることが前提条件になってきます。これをITインフラとも言ってもいいかと思います。 生成AIやAIエージェントはこの大量のデータを基盤にしますので、すべてのデータが一括管理されていることが基本になります。多くの日本の製造業は、部門ごとにデータが散在していたり、営業と製造、あるいは国内と海外とでは異なるシステムを導入していたりすることが多々あるので、今、まさにデータの管理については、どこも大きな課題として認識しているはずです。
改めてERP(統合基幹システム)*の凄さ
「製造業は他業種に比べてDX(デジタル変革)に取り組んでいる企業の割合が高い。それはIPA(情報処理推進機構)の「DX動向2024」にも現れている。その一方で、製造業の多くはレガシーシステム*(過去の技術や仕組みで構築された古いシステム)が残っている。その刷新は喫緊の課題であり、状況は今後ますます難しくなる。なぜなら、
◆レガシーシステムを扱える人材の確保は困難
◆独自仕様の多いレガシーシステムの費用は高額
◆メーカーの再編などによりハードの調達が難しくなるといった問題が深刻になっていく。
日経クロステックの記事「製造業の7割に残るレガシーシステム」より抜粋。
当記事は日本の製造業はレガシーシステムの刷新が必要という喫緊の課題を取り上げた内容ですが、従来のやり方を捨てられず、リライト*により、そのまま比較的コストをかけずに継承はできることを提案しているものです。
しかし、一方リライトのデメリットとしては以下の通りです。
- 限界がある: 古いシステムでは最新技術や要件に対応しきれない場合がある。
- 複雑化のリスク: 改修を繰り返すことで、システムが複雑化し、保守が難しくなる可能性あり。
- 長期的な非効率: 根本的な問題を解決できない場合、将来的にさらなる改修が必要になることがある。
情報の一元化が実現できない可能性が高い上に、最新のAIを駆使することはできないとなれば、日本の企業はERP(統合基幹システム)を当たり前としたITインフラが整っている欧米にどんどん遅れをとることになり、ERPを積極的に導入している新興国にも、追い抜かれていくのではないかと危惧してしまうのは私だけでしょうか?
自分がIT専門ではないので、お叱りを受けるかもしれないが、こういった危惧をもっている方はきっと多いはずです。いままで何度もERP導入に立ち会ってきた経験から言いますと、思い切って標準のERPをまず導入することが、てっとり早いのではないでしょうか?もちろん企業により、置かれた状況が異なりますので深謀遠慮は大前提ですが、企業TOPの経営者の英断がまさに必要に迫られているのが、今ではないかと思う今日この頃です。
またERPメリットとデメリットとをあえて以下に記しましたが、最大のデメリットは全モジュールを導入すると高額になるケースが多い。ですので、いっぺんに導入するのではなく計画的に財務を管理する部分(売掛、買掛の管理)をまず導入し、それからSCMに関連する部分(P:生産計画、S:販売計画、I:在庫計画)を導入するなどして、モジュールの導入タイミングをずらしてもいいのかとも思います。
参考:ERPのメリット
- データの一元化: 部門間のデータを統合し、リアルタイムでの情報共有が可能。
- 業務効率化: 手作業の削減やプロセスの自動化により、業務の効率が向上。
- 経営判断の迅速化: 経営データの可視化により、迅速な意思決定が可能。
- セキュリティ強化: データの一元管理により、不正行為や情報漏洩のリスクが軽減。
参考:ERPのデメリット:
- 高コスト: 導入費用や運用コストが高額になる場合がある。
- 時間がかかる: 導入プロセスが複雑で、運用開始までに時間がかかることがある。
- 社員教育の必要性: 新しいシステムに慣れるためのトレーニングが必要。
ERP導入はTOPの英断が必要
確かにレガシー状態のシステムからERPを導入するとなると大きな変化をともないますので、現場は従来のシステムに慣れ親しんできたやり方を捨てることに、かなりの抵抗があります。私は事業会社に長く勤め、日系企業と外資系企業と両方を経験してますが、ERPの導入において、それぞれのアプローチの違いを目の当たりにしました。トップダウンですすめる外資系では本社が導入と決めたら、本社から導入部隊がやってきて一気に導入します。もちろんGo Liveするまでは滑った、転んだ、がついてまわりますが、本社が全面サポート体制をします。導入後もユーザー側が使えるレベルまで、教育期間までも含めたプランをもってサポートをします。
日系の製造業では、KAIZENと英語にまでなった世界に誇るべき現場での改善活動が理由で、日本経営が脚光浴びてきた経緯があり、経営TOPも現場の意見を大事にする文化が根強くあります。そのためか、簡単にはトップダウンでの判断が決めることができない優柔不断さを最近感じてます。何度も役員会などを通じて慎重にすすめていきますが、現場寄りの意見をもった方の役員も多く、結果としてレガシーを固執することに傾いてしまうこともしばしばあります。
ただグローバルレベルでの全体最適をめざす情報インフラの経営レベルと現場という個別最適の域をでることができない狭いレベルでの改善は段違いに次元なのです。そういう意味では企業TOPには思い切った英断が必要と私は思います。導入ありきですすめない限り、現場は必ずレガシーに固執するでしょう。今、ここが日本経営の大きなジレンマでもあり、ここを乗り越えていけば、今が新たな成長の変化点になるのではないかとも私は思っております。
前回の記事で紹介した国内5社・海外4社も共通しているSCM施策は、デジタル化を背景にしたSCMツールを取り入れAIやIoTを駆使してますが、かれらはERPを取り入れITインフラをしっかり整えていることを認識して欲しいのです(下記の表参照)。
もちろん、SCMツールがどういうものかは、みなさんにも説明したいと思ってますが、私がより言いたかったことは、それらSCMツールがちゃんと動くための情報インフラが大事であること、それにはERPを導入してデータの一元化がReadyの状態であることをお話ししたかったのです。
SCMで成功している日系5社、外資系4社が採用しているERPについて
トヨタ | ERPを導入する際に独自のカスタマイズを徹底的に行っている。特にクラウド型ERPとして「Oracle Fusion Cloud ERP」を一部の子会社で採用し、効率的な基幹システムの運用を実現。 |
アサヒビール | SAPの「SAP Ariba」を導入し、間接材の調達改革を進めている。また、mcframeというERPも採用し、基幹システムの統合を成功。 |
ヤマト運輸 | グローバルな会計システムとしてSAP社の「SAP ERP 6.0」を導入しているようだ。このシステムは、国内31社、海外10社のグループ企業で共通化され、2014年1月に全拠点での稼働を完了。 |
ファーストリテイリング | ユニクロを展開するファーストリテイリングは、SAPの「Concur Expense」を採用し、グローバル経費管理基盤を構築。また、サプライチェーン全体を管理する独自のシステムも導入。 |
花王 | SAP ERPをグローバルで導入しており、現在ではグループ企業の約98%が利用。また、「SAP Analytics Cloud」を活用し、管理会計情報の可視化を進めている。 |
ウォルマート | 以前はSAP R/3を使用していたが、現在は「Microsoft Dynamics AX」を採用。このシステムにより、財務管理、サプライチェーン管理、人材管理などを効率化。 |
アマゾン | 独自のERPシステムを構築している。特に、クラウドベースのAWS(Amazon Web Services)を活用し、ERP機能を統合していることが特徴 |
アディダス | SAP S/4HANAをAWS(Amazon Web Services)上で運用。このシステムは、グローバルな事業運営を一元化し、効率化と自動化を実現。 |
ナイキ | サプライチェーンのスピードと柔軟性を向上させるために、新しいERPシステムを導入。具体的には、SAPベースのシステムを採用し、グローバルネットワークでの運用を強化。 |
参考資料:各社ホームページ、また各社2024Annual Reportなどから。最新の情報は変化している可能性あり。
欧米のERPはFit To Standardが常識
また最近の面白い記事がありましたので紹介します。
『カイゼン大好きの日本企業にDXは困難 米国に負ける理由』(日経BP)木村岳史2024.12.19
によれば、「欧米ではERPをシングルインスタンス、つまり全社的に単一のシステムとして運用しているケースが多い。(日本企業が大好きな)各部門独自の業務のやり方を反映したアドオンをつくることなどは、よほどのことがない限り認められない。理由は簡単。業務プロセスやデータなどが標準化された単一のERPによって全世界の業務を処理することで、世界中の現場のデータをリアルタイムに入手・分析して、経営のPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを「早回し」するためだ。まさにそれがグローバル一体経営の本質だ。」
また最近よくFit To Standard*という言葉をERPソフトウェアの方は唱えます。これは、各企業があれもこれも要求事項をカスタマイズして外付けしていくやり方に対して、標準機能で使いこなすことを提案しているのです。まるでWindowsと同じ感覚で、新しいバージョンアップを簡単に更新できるよう設計しているので、適宜実施されるバージョンの変更も時間短縮化でき属人化も避けることができるというのです。この点でもアドオン好きな日本企業は一歩もニ歩もシステムセンスで遅れているといわざるを得ません。
SCM施策においても、まさにこのデジタル化時代の潮流にうまく乗り、大手だけでなく多くの中堅・中小の日本企業でも当たり前にように、自由にデジタルツールを活用できることが可能となれば、日本企業の巻き返しをはかるカギとなってくるのかと信じてはおります。
デジタルツール導入のまえに
今まで話してきたことと少し逆光することになるかもしれませんが、私なりの今までのSCMの経験や視点で、まず最新のデジタル化に飛びつく前に、かなり有効でハードルの低い、誰でもできるアナログのSCM的施策も提案してみたいと思います。デジタルにいくには道のりが遠いなと思っていた方が多いと思いますので、そちらをまず、みなさんには検討されてはどうかと思っている次第です。ちょっとホッとされましたでしょうか?
在庫アイテムのABC分析のすすめ
まず、5MTS(Make to Stock)*をビジネスモデル(在庫としてあらかじめ作り置きして、注文時に即納する体制)の製造業の場合、SCM課題のうち、在庫管理は多くの会社が悩みます。過剰であってもNG、欠品してもNG。ほとんどが在庫のABC分析をしているものと思っていたのですが、これが大手であっても、実はあんまり実行されていないことが多いのです。読者みなさまの会社で是非実施されていないのであれば、やってみてください。エクセルで簡単にできます。
在庫ABC分析とは?
在庫ABC分析とは、在庫を「重要度」に基づいてA・B・Cの3つのグループに分類し、管理の優先度を決める手法です。※6パレートの法則(80:20の法則)を基にしており、企業の売上に大きく影響する在庫を重点的に管理できます。
ABC分類の基準
■Aランク(重要度が最も高い)
- 全体の20%の在庫が売上の80%を占める
- 高回転率、高価値な商品
- 厳密な管理が必要(頻繁な在庫チェック、適正在庫の維持)
■Bランク(中程度の重要度)
- 全体の30%の在庫が売上の15%を占める
- Aほどではないが、一定の重要性がある
- 適度な管理が必要(定期的な発注と在庫最適化)
■Cランク(重要度が低い)
- 全体の50%の在庫が売上の5%しか占めない
- 低回転率、低価値な商品
- 過剰在庫になりやすいため、管理コストを抑える
在庫ABC分析のメリット
■在庫管理の効率化
重要なAランク商品にリソースを集中し、Cランクはコストを抑えることで、在庫管理を最適化できる。
■資金の有効活用
高価値なAランク品を適切に管理することで、在庫過剰や資金の無駄遣いを防げる。倉庫スペースの最適化
■倉庫スペースの最適化
Aランク品を取り出しやすい場所に配置し、Cランク品は省スペースにすることで作業効率を向上。
■発注・補充の最適化
Aランクは頻繁に補充し、Cランクは必要に応じて発注することで、ムダな仕入れを防ぐ。
■需要予測とコスト削減
どの商品が売上に貢献しているかを把握し、適切な発注計画を立てられる。
ここまでのまとめと学びのポイント
在庫ABC分析を活用することで、在庫を最適に管理し、コスト削減と売上向上を両立できます。特に、重要な在庫にフォーカスし、効率的なオペレーションを実現できる点が大きなメリットです。
参考資料:ABC分析のやり方|エクセルを使って在庫管理に活かす方法
※筆者:岡本茂靖(在庫管理アドバイザー、日本物流学会理事)
上記は教科書レベルの在庫ABC分析の説明になってますが、私から付け加えますとパレートの法則(80:20の法則を利用して管理コストを下げることができます。そしてCグループになったアイテムでもまったく直近で動きがないアイテムは製造中止、出荷頻度の低いものは、在庫品ではなくMTO(受注製造品)*など、在庫アイテムの見直しを営業や開発同席で実施してみてください。
要は在庫アイテムの統廃合会議を強くおすすめします。Bグループの中には、AアイテムとApplication領域が重なっている場合などもあり統合できる場合も多々あります。
外資系のメーカーではProduct Life Cycle*を管理しているProduct Mangerの方がいるんですが、日系の企業には、設計・開発はあっても、このポジションの方がいないため、製品点数が年々増える一方で製品統廃合が、しづらい状態に陥っている会社が多いです。その結果、SKU*が増え、倉庫の棚もどんどん増える一方となり、在庫保管コストが膨れ上がっているところが多いの実情です。その結果、結局SKUの内上位20%で、売上の80%いや90%のシェアをしめる場合もあるのにかかわらずムダな在庫保管コストが発生していることも多々あるのです。
管理会計学のすすめ:原価を知ることがSCMに通ずる初めの一歩!
2点目におすすめしたいのは、製品の原価とその原価構成の明細を知ることです。これは財務に情報があるはずですが、開発、マーケティング、営業、SCM(特に購買、物流)、製造部門のリーダーの方は知るべき情報と思います。ただコスト情報が他社や同業に漏れることを恐れ、あえて取り扱いには注意は必要です。
製品原価を知る、その原価構成を知る、つきつめていくと原料が高いのか?あるいは、自社のある製造工程に問題があるのか?設備の段取り替えに時間がかかっているのか?外注先での特殊な工程に工数がかかっているのか?梱包に異常なくらいのコストがかかっているのか?外部の委託加工代が高いのか?配送ルートの問題で物流コストが高いのか?など、最初の記事で紹介したゴールドラットのいうボトルネックという「犯人」が、数字から判断でき、目星をつけることができるのです。
私がビジネススクールの管理会計学の授業から、SCMの重要性を感じたのは、まさにここでした。もちろん間接費の配賦の問題が重要であることは、管理会計学の主要課題でもあったのですが、むしろある程度の精度が保たれていれば、どうやって間接費を製品コストとして配賦すべきかの議論よりも、ボトルネックとなる部分をみつけるための手段になるんだとピンときたのです。そこで、「ちょっと管理会計学っていきなり言われても、困るよな~!」という方も多いかと思うので、以下簡単に説明します。
管理会計学とは?そしてその重要性とは?
管理会計学は、企業の経営判断を支援するための会計手法であり、「経営の意思決定」や「業績管理」のために財務データを活用することを目的としています。企業の戦略策定や業務改善において、非常に重要な役割を果たします。
管理会計学の重要性
■意思決定のサポート
- 経営者や管理者は、コスト分析・利益計画・価格設定などのデータを基に、最適な判断を行う必要があります。
- 例えば、新製品の価格設定をする際に、原価計算や採算性分析を行うことで、適切な価格戦略を立てられます。
■企業のコスト管理と利益最大化
- コスト削減:原価計算を通じて、どの部分のコストが高いのかを分析し、改善策を講じることができる。
- 利益の最大化:限界利益や損益分岐点分析を活用し、より高い利益を生み出すための戦略を立てる。
■業績評価とパフォーマンス管理
- 部門別やプロジェクト単位での業績管理を行い、目標達成度を把握できる。
- KPI(Key Performance Indicator)を用いることで、組織全体のパフォーマンスを可視化し、改善につなげる。
■戦略的経営の支援
- 企業の中長期的な成長のために、管理会計は市場分析や投資計画の策定に貢献。
- 例えば、投資判断の際に「キャッシュフロー分析」や「ROI(投資収益率)」を活用することで、リスクを最小限に抑えながら適切な投資ができる。
■経営資源の最適配分
- 限られた資源(ヒト・モノ・カネ)をどこに配分するかを決める際に、管理会計データが有効。
- 例えば、「アクティビティ・ベースド・コスティング(ABC)」を活用し、どの業務に重点を置くべきかを明確にできる。
管理会計学の活用例
- 製造業:原価計算を活用してコスト削減
- 小売業:売上データを分析し、利益率の高い商品に集中
- サービス業:労働生産性を分析し、業務効率を向上
- IT企業:プロジェクト単位で収益性を評価し、投資判断を行う
ここまでのまとめと学びのポイント
管理会計学は、企業経営の「意思決定」「コスト管理」「業績評価」「戦略策定」をサポートし、企業の競争力向上に貢献します。単なる財務データの記録ではなく、データを活用して未来の経営をより良い方向へ導くための学問であること、それが最大の重要性と言えます。
参考資料:基本も実務知識もこれ1冊で! 管理会計 本格入門 単行本 – 2021/3/27
駒井 伸俊 (著)
管理会計学を少し学んだ私は製造業であれば、製品の標準原価を必ずもっているべきと以前から強く思っているのですが、なかなか標準原価計算*を実際に採用している会社は少ないのです。私は財務の専門ではないので、またまたお叱りを受けてしまうのかもしれませんが、製造コストをつきつめていけば、理想的に製造ができたと仮定したときのコストをSKUごとに標準原価としてもっておけば、それをベンチマークにして、毎月のActualの製造コストと標準原価との差異から、生産性の改善に結び付けられるはずです。製造現場でもデジタルツールがすすんでいれば、今月のすべての工程でのギャップ分析の結果を数字で表現してくれる。どの工程に異常値がでているかが、瞬時に数値で教えてくれるのです。生産性の良し悪しの基準値として使えるということです。
また製品の原価を知れば、SKUごとの利益も知ることになります。上記の在庫ABC分析ですが、各SKUの製品そのものの売上実績だけでなく、売上利益を算出することも可能になります。そうすることにより、売上と利益から見えてくる貢献度合いにより、製品の重要性も数字で明らかになり、さらに顧客とひもづけることにより、売上実績、顧客先別のSKUごとの利益を降順でデータをソートすれば、営業はどのアイテムと顧客の組み合わせが重要なのかが数値で見えてくるのです。
おわりに
今回の記事は、SCM最適化の必要条件について、明らかにした上で、各社成功しているSCMデジタルツールについて説明しようとしましたが、それらのデジタルツールを駆使できるための必要条件はすべての情報が一元化されているITインフラが整っていることがより重要であること、それには改めてERP導入を経営トップが英断することが大事という話を主にしました。個別最適レベルの現場とグローバルレベルの経営戦略のマネジメントの土俵が、そもそも違うということをあえて触れさせていただきました。
紙面の都合もありますので、おまちかねとは思いますが以下のSCMデジタルツールについて、次回の最終章で説明致します。
- 販売データのリアル分析ツール:トヨタ
- デジタルツイン:ユニクロ
- スマート工場:アサヒビール
- ラストワンマイル:ヤマト運輸
- ブロックチェーン:アディダス
- KIVAロボット:アマゾン
- RFID:ウォルマート
補足:言葉の解説
ERP(統合基幹システム)
ERPとは、企業の持つ資源=「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を一か所に集めて管理し、有効活用するという考え方、またはそれを実現するためのシステムを指します。ERPは「Enterprise Resource Planning」の頭文字をとっており、直訳すると「企業資源計画」となります。
ERPの特徴:
- 業務の効率化:各部門の情報を統合し、データの二重入力を防ぐ。
- データの一元管理:リアルタイムで正確な情報を取得できる。
- 意思決定の迅速化:経営層が的確な判断を行いやすくなる。
- コスト削減:業務プロセスの最適化により、無駄を削減。
- 代表的なERPソフトウェア
- SAP S/4HANA(SAP)
- Oracle Fusion Cloud ERP(Oracle)
- Microsoft Dynamics (Microsoft)
- Biz∫(NTTデータ)
- GLOVIA(富士通)
- HUE(ワークスアプリケーションズ)
- GRANDIT(GRANDIT)
- OBIC7(オービック)
企業が成長し、業務が複雑化するほど、ERPの導入が有効になります。
レガシーシステム
レガシーシステムとは、導入から長い期間が経過した旧型のシステムを指します。過去の技術や仕組みで構築されており、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の足かせになることが懸念されています。
リライト
リライトとは、アプリケーションの機能をそのままに、プログラムを新しい環境に合わせて、古い言語から新しい言語に最適に書き換える手法のことです。
Fit To Standard
Fit to Standardとは、業務内容に合わせてシステム開発や機能変更をするのではなく、システムの標準機能に合わせて業務を変えることです。 日本語の読み方としては「フィット・トゥ・スタンダード」と表記します。
MTS
MTS(Make to Stock)とは、顧客からの注文を受ける前に、需要予測に基づいて製品を生産する方式のことです。生産管理の難易度は下がりますが、在庫負担が大きくなるという特徴があります。
パレートの法則(80:20の法則)
パレートの法則(80:20の法則)は、重要な結果の80%は、原因の20%によって生み出されるという考え方です。ABC在庫分析では、在庫売上の80%は在庫アイテムの上位20%によって達成されている。
MTO
MTO(Make to Order)とは、製品在庫や部品在庫を持たずに、注文を受けてから部品を調達して組み立てる生産方式のことです。在庫負担が基本的にないのが特徴です。納期内に部品を調達し、組み立てることが重要になります。
Product Life Cycle
プロダクト・ライフサイクルとは、製品やサービスが市場に登場してから消滅するまでの流れを表す概念です。製品の売上と利益の変遷を、導入期、成長期、成熟期、衰退期の4つの段階で説明するモデルとしても知られています。
SKU
SKUとは、Stock Keeping Unit(ストック・キーピング・ユニット)の略で、在庫管理における最小の品目数を数えるための単位です。同じ商品でも色やサイズ、パッケージなどによってSKUが異なります。
標準原価計算
標準原価計算とは、製品の原価を計算し、実際の原価との差額を分析する方法です。標準原価に基づいて計算を行い、製造現場で利益を出すために、予算や目標を管理します。標準原価は、材料の標準使用量や標準価格、従業員の標準人件費などから算定されます
参考文献&資料
- 「製造業の約7割に残るレガシーシステム」 日経クロステック: 2/23/2025
- 「カイゼン大好きの日本企業にDXは困難 米国に負ける理由」日経BP木村岳史2024.12.19
- 世界一わかりやすいSAPの教科書 入門編 単行本 – とく著2021/8/27
- 経営革新ーSAP ERPとDX「データとデジタル技術の活用」ー鈴木 忠雄 | 2021/7/29
- 特集ERP新時代 出典:日経コンピュータ、2023年11月9日号 pp.12-25
- SAP とは? | 定義と意義 ITトレンド
- ZDNET Japan–CIOとITマネージャーの課題を解決するオンラインメディア
- マジック・クアドラント2024年/2025年 | ガートナージャパン
- ABC分析のやり方|エクセルを使って在庫管理に活かす方法
- 基本も実務知識もこれ1冊で! 管理会計 本格入門 単行本