マスカスタマイゼーションとは、マスプロダクション(大量生産)とカスタマイゼーション(個別受注生産)の良いところを取った生産体制のことです。
ただ、何となく言葉の意味は理解できても、
「マスカスタマイゼーションの詳細な定義を知りたい!」
「マスカスタマイゼーションのメリットとデメリットを知りたい!」
「マスカスタマイゼーションの成功事例はあるの?」
などの疑問を抱える方も多いはず。
そこでこの記事では、大量生産と受注生産の融合としてのマスカスタマイゼーションの定義や背景、メリット・デメリットのほか、成功事例、そして実施に必要な技術を解説します。また、消費者の多様なニーズと企業の競争戦略の観点から、なぜマスカスタマイゼーションが注目を集めているのかも紹介します。
マスカスタマイゼーションはテクノロジーの進化で可能となった生産体制です。最初は理解できなくても、この記事を読めば必ず理解できるようになりますので、ぜひ参考にしてみてください。
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目次
マスカスタマイゼーションとは?求められる背景
マスカスタマイゼーションとは、マスプロダクション(大量生産)とカスタマイゼーション(個別受注生産)の良いところを取った生産体制のことです。まさにハイブリッドな生産体制と言って良いでしょう。ハイブリッドな生産体制を採用することで大量生産の低コストのメリットを保ちながら、多様な顧客のニーズに応える商品やサービスを提供することが可能です。
大量生産と受注生産の融合
大量生産と受注生産は、それぞれ異なるメリットを持っています。大量生産は、製品1つあたりの製造コストを大幅に抑えられるメリットが、受注生産は顧客の細かい要望に柔軟に応えられるメリットがあります。
マスカスタマイゼーションは、大量生産と受注生産の生産体制のメリットを組み合わせることで、製造業の新しい生産体制を構築する際に有効です。大量生産の効率性と受注生産の柔軟性を併せ持つマスカスタマイゼーションは、製造業の新しい潮流と言えるでしょう。
関心を集めている背景
関心を集めている背景として、ここでは消費者側の背景と企業側の背景の2つの側面から解説しましょう。
顧客ニーズの多様化(消費者側)
顧客ニーズの多様化によってマスカスタマイゼーションが注目を集めています。
近年、インターネットやモバイル端末の普及により、消費者はさまざまな情報を手軽に入手できるようになったため、消費者のニーズは以前よりもさらに多様化しています。
たとえば、オンラインで商品のスペックや価格を比較し、自分の好みやニーズに最も合った商品を選ぶことが一般的になっています。
そんな中、消費者の変化を背景に、企業は従来の大量生産モデルだけでは対応しきれなくなってきました。企業が、消費者一人ひとりの独自の要望や好みに応えるため、製品やサービスのカスタマイズが不可欠になったことで、マスカスタマイゼーションの重要性が高まってきました。マスカスタマイゼーションは、大量生産の効率性と個別のカスタマイズの柔軟性を組み合わせると、多様化する消費者のニーズに迅速に対応することが可能になります。
カスタマイゼーションに特化した「多品種少量生産」は、マスカスタマイゼーション同様、顧客ニーズの多様化により生まれた生産方式です。多品種少量生産の詳しい解説や成功のノウハウについて知りたい方は、下記の記事をご活用ください。
関連記事:多品種少量生産とは?多品種少量生産のやり方と求められている背景を分かりやすく解説!
企業が競争優位に勝つため(企業側)
企業にとって、マスカスタマイゼーションは競争優位を築くための重要な戦略です。市場に投入された商品やサービスは、時間とともに競合他社に模倣される可能性が高く、結果として商品の価値が低下してしまうからです。
いわゆるコモディティ化のリスクを回避するためには、企業は価格以外の付加価値を提供する必要があります。そこでマスカスタマイゼーションにより、企業は顧客の独自のニーズに応えることで、競合との差別化と顧客のロイヤルティを獲得することが期待できます。
マスカスタマイゼーションのメリットと成功事例
大量生産と受注生産のメリットを組み合わせた新しい生産手法であるマスカスタマイゼーション。ここではそんなマスカスタマイゼーションのメリットや成功事例について解説しましょう。
マスカスタマイゼーションで可能なこと
マスカスタマイゼーションでは、大量生産により、製品1つあたりの製造コストを大幅に削減することが可能です。原料の大量仕入れにより単価を下げるだけでなく、機械的な生産体制を整えることで、時間あたりの生産数を大きくできるからです。
たとえば、大量に部品を仕入れることで、部品1つあたりのコストを下げられます。また、出荷リードタイムも短縮され、市場への製品投入が迅速に行えます。
製造コストの大幅な削減やリードタイムの短縮は大きなメリットと言えるでしょう。
リードタイムを短縮する方法については、下記の記事で詳しく解説しています。詳しく知りたい方は、ぜひご活用してください。
関連記事:「タクトタイム」「サイクルタイム」「リードタイム」の意味や違いをわかりやすく解説!
また、顧客のニーズに合わせて製品をカスタマイズすることも可能です。顧客からの具体的な要望やフィードバックを直接製品に反映させることができます。
たとえば、顧客が特定の色やデザインの製品を求めた場合、受注生産を採用している企業は要望に応じた製品を提供できます。結果として、製品に付加価値がつき、顧客満足度も向上させられるでしょう。
さらに、製造する製品はすでに顧客からの注文が確定しており、在庫を抱えるリスクが低くなるため、受注生産は在庫リスクを軽減する事もできます。
マスカスタマイゼーションの成功事例
マスカスタマイゼーションの成功事例として、
- ナイキ(NIKE by you)
- ユニクロ
- フクル
の3つの事例を紹介しましょう。
ナイキ(NIKE by you)
NIKE by YOUは、消費者が自分の好みに合わせてスニーカーをカスタマイズできるサービスです。たとえば、好きなカラーリングやデザインを選択することで、唯一無二のスニーカーを作成することが可能です。
NIKE by YOUの成功の背景には、消費者の個別のニーズに迅速に応えられるマスカスタマイゼーションの導入があげられます。従来の大量生産モデルでは、一般的なニーズを満たす製品しか提供できませんでしたが、マスカスタマイゼーションを採用することで、消費者一人ひとりの独自の要望に応えられるようになりました。
また、消費者が自分の好みに合わせて製品をカスタマイズすることで、製品に対する愛着や満足度が高まることから、ナイキはNIKE by YOUを通じて、消費者との関係を深めることにも成功しました。
参考元:オンワードも本腰!‟マスカスタマイゼーション″の魅力
ユニクロ
ユニクロは、独自の技術と戦略を駆使して、アパレル業界でのマスカスタマイゼーションを実現した企業です。ユニクロのマスカスタマイゼーションの中心となるのが、無縫製3Dニット技術「ホールガーメント」です。
ホールガーメントは1本の糸から全自動でニットを立体的に編み上げられ、通常のニットに比べて糸のロスを30%も削減しました。さらに、縫い合わせの工程が不要となり、省力化とサステナビリティを両立させられます。
ユニクロはIoTの進化により、サイズや色、素材の違いに応じて連続生産が可能となり、オンデマンドの量産システムやマスカスタマイゼーションを実現しています。
また、ユニクロはデジタル技術を駆使して、商品の企画から生産、販売までの全プロセスを一体化させる取り組みに注力しています。顧客のニーズに迅速に対応し、高品質な商品を効率的に提供することを可能にしました。
参考元:「大変な強気」のファストリ、柳井氏の言葉から読み解くユニクロ・GUの勝ち筋とは
フクル
フクルは、アパレル製造業において、現代の消費者は、自分だけのオリジナルな商品を求めているという理由から、マスカスタマイゼーションの仕組みを導入し、お客様の「こんな服が欲しい」という要望を叶えることを目指している企業です。
フクルは、お客様の趣向に合わせた「デザイン」「素材」「色」「柄」を選び、体型に合わせて「サイズ調整」を行い、一着ずつ仕立て上げるサービスを提供しています。
フクルが提供するマスカスタマイゼーションのサービスは、高度なIoT技術を活用して実現しています。一点生産の非効率性をなくし、丁寧な手作業による製品作りを可能にしました。また、フクルは、日本の繊維産業の未来を考え、新しい産業構造の構築を目指している企業です。
参考元:『脱』大量生産
マスカスタマイゼーションのデメリット
マスカスタマイゼーションのデメリットとして主に、
- 導入までに手間とコストがかかる
- 従業員の負担が増える
- 製品の完全なカスタマイズは難しい
の3つがあげられます。
導入までに手間とコストがかかる
マスカスタマイゼーションを導入する際、考慮すべきことは、導入に伴う手間とコストです。新しい生産ラインの設定や、専用の設備・ソフトウェアの導入が必要となることが多いからです。
たとえば、特定の顧客の要望に応じた製品を生産するための新しい機械を導入する場合、機械の購入費用や設置・運用のための人件費が発生するので注意が必要でしょう。
従業員の負担が増える
マスカスタマイゼーションの導入は、従業員の負担が増える可能性があります。なぜなら、カスタマイズされた製品の生産には、従来の一般的な生産方法とは異なるスキルや知識が求められることが多いからです。
たとえば、従業員が新しい機械の操作方法を学ぶ必要がある場合や、特定の顧客の要望に応じて製品の設計を変更するスキルが必要となる場合が考えられます。
製品の完全なカスタマイズは難しい
製造業では、生産効率やコストを考慮すると、全ての顧客の要望に100%応えることは現実的ではないため、マスカスタマイゼーションだけでは、製品の完全なカスタマイゼーションは難しいという点を考慮する必要があります。
たとえば、ある顧客が非常に特殊な材料を使用した製品を要望しても、材料の調達が難しい、またはコストが高すぎる場合、要望に応えることが難しくなることがあります。
マスカスタマイゼーション実施に必要な技術
マスカスタマイゼーション実施に必要な技術として、ここでは
- ジェネレーティブデザイン
- デジタルファブリケーション
- デジタルツイン
の3つを解説しましょう。
ジェネレーティブデザイン
ジェネレーティブデザインは、コンピュータが最適なデザインを自動的に生成する技術です。ジェネレーティブデザインを使用すると、人間の手では考えつかないような革新的なデザインが生まれる可能性があります。
たとえば、製造業での部品の設計時に、ジェネレーティブデザインを使用すると、最適な形状や材料を自動的に選択してくれます。結果として、製品の品質向上やコスト削減が期待できるだけでなく、いままででは考えられなかった組み合わせで製品の製造ができるといった利点もあります。
デジタルファブリケーション
デジタルファブリケーションは、デジタルデータをもとに物理的な製品を製造する技術です。デジタルファブリケーションを使用することで、従来の製造方法よりも迅速かつ正確に製品を生産できます。
デジタルファブリケーションの代表例として3Dスティックプリンタが挙げられます。3Dプリンタを使用して部品を製造する場合、デジタルデータをもとに短時間で複雑な形状の部品を製造することが可能です。
デジタルツイン
デジタルツインは、実際の製品やシステムのデジタル上の複製を作成する技術です。デジタルツインを使用することで、製品の性能をシミュレーションしたり、問題点を早期に発見したりできます。
たとえば、製造ラインの効率化を目指す際に、デジタルツインを使用してシミュレーションを行うことで、最適な生産ラインの設計を行えるため、業務効率化にもつながります。
日本の製造業における課題
日本の製造業は
日本の製造業は、少子高齢化や労働力不足という大きな課題に直面しています。少子高齢化や労働力不足は、生産量の減少や労働コストの増加を引き起こす可能性があります。そのため、現場業務のデジタル化を推進し、業務を効率化することが急務です。
たとえば、労働者が不足する中での生産活動は、労働者一人当たりの負担が増加し、労働時間の延長や過重労働が生じることもあります。
そのため、工場の自動化により、労働時間の延長や過重労働を改善し、労働力の確保や生産効率の向上に大きく貢献することや少ない労働力で多様な製品を生産することが期待されます。
工場の自動化とマスカスタマイゼーションの両立に向けて
生産効率と顧客満足度の向上が期待できるため、工場の自動化とマスカスタマイゼーションの両立は、今後の製造業で注目を集めると考えられます。本項では、両立を実現したアディダスの事例と、第4次産業革命に先駆けた、日本独自の取り組みである「コネクテッド・インダストリーズ」について紹介します。
アディダスの事例
アディダスは、マスカスタマイゼーションの流れを先取りして、実店舗で消費者の足の形に関する情報を計測し、データを工場に送信することで、ロボットが全自動で製造する「スピードファクトリー」を実現しました。
アディダスは、消費者のニーズに迅速に応えるため、製造プロセスの効率化とスピードアップが不可欠でした。アディダスは従来アジアでの生産を中心としていたものを、ドイツ国内のスピードファクトリーでの生産にシフトすることで注文から販売までの期間を大幅に短縮し、消費者のニーズに迅速に応えることが可能となりました。
大量生産のメリットを活かしつつ、消費者の個別のニーズに応えるマスカスタマイゼーションを実現するため、新しい生産方式やサプライチェーンの構築など、アディダスの取り組みは製造業でも見習うべき事例と言えるでしょう。
参考元:スマート工場が5G待望のキラーアプリに、期待集めるネットワークスライシング
コネクテッド・インダストリーズ
コネクテッド・インダストリーズとは、2017年3月に経済産業省によって発表された、日本の産業が目指す新しいコンセプトのことです。第4次産業革命の日本版とも言えるもので、世界の先進国の先を行くための日本独自の取り組みとして位置づけられています。
2010年代に入り、IoTとAIの進化によって、新しい産業革命が生まれつつあり、特にドイツはその先駆けとして「インダストリー4.0」というコンセプトを発表しています。中でも、サイバーフィジカルシステム(CPS)という仕組みが活用されています。CPSは、現実の世界の情報をIoTやセンサー技術で収集し、データをサイバー空間に送り、AIで分析して現実世界にフィードバックする技術です。
日本のコネクテッド・インダストリーズは、CPSを基盤としつつ、日本独自の強みである製造現場の正確なデータを活用することを重視しています。特徴として「人間中心」という考え方を採用し、システムを優先する欧米とは異なるアプローチで、人と技術の協調を重視するものです。
製造業に勤める方や、現場改善を目指す方にとって、技術の進化や自動化だけでなく、人の役割や価値を最大限に活かせるため、「人間中心」のアプローチは非常に魅力的と言えます。コネクテッド・インダストリーズは、IoTやAIの技術を活用しつつ、人の知識や経験を大切にすることで、より高度な製造業を実現できるでしょう。
参考元:第4次産業革命の主導権争いに名乗りを上げる日本の「コネクテッド・インダストリーズ」とは?
マスカスタマイゼーションを活用して現場を改善!【まとめ】
この記事では、マスカスタマイゼーションの背景やメリット、デメリット、そして必要な技術や成功事例について解説しました。
マスカスタマイゼーションとは、大量生産と受注生産の融合のことで消費者のニーズが多様化する中、企業は競争優位を保つために取り入れています。
一方で、マスカスタマイゼーションには導入には手間とコストがかかること、従業員の負担が増えること、製品の完全なカスタマイズが難しいことなど、様々な課題が挙げられます。
しかし、ジェネレーティブデザインやデジタルファブリケーション、デジタルツインなどを駆使することで、より効率的な生産が可能となります。
マスカスタマイゼーションはDX時代の新しい生産体制です。DX時代を生き抜くためにマスカスタマイゼーションを含めた、製造業におけるDXへの取り組み動画を現場改善ラボでは無料で視聴可能です。ぜひこの機会に動画をご覧ください。