4M分析とは、一言で言ってしまえばMECE(”Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive”:「ミーシー」)を達成するための方法論の一つです。PEST分析、5フォース分析、4P分析、SWOT分析、3C分析など、数ある分析手法の一つです。すなわち「論理的に矛盾なく重複なく思考する」ために「ロジカルシンキング」することです。
こう説明しても「良く分からん!?」となるのが当然です。でも「製造業」の本質を理解してしまうと簡単なのです。いえ、全産業の構造を理解してしまうと4M分析は明解になってきます。そこで今回は、製造業に向いた4M分析のみに絞って解説します。
4M分析の絶対の尺度がこの社会にはあるのです。現在は、誰も変えることが出来ない「絶対の基準」です。それを、この記事で見つけることができるようにしていきましょう。
目次
4M分析とは?
4M分析とは、以下の4つの要素で物事を理解する方法です。
- Man(人)
- Machine(機械)
- Material(材料)
- Method(方法)
それぞれの項目に大変多くの内容がありますが、このフレームワークで仕事するとすれば、言葉通りで難しいとは感じないかもしれません。要素に分けることは、漠然とした大枠では捉えにくい内容を、捉えやすく、考えやすくする効果があります。
しかし、上記の順序は間違いとも言えます。実は「4.Method(方法)」が最初に分析されなければならない要素なのです。この「4.Method(方法)」、つまり製造方法にとどまらず、生産の全体像にある生産方式が、他の3つの要素の評価を決定してしまいます。
つまり「製造業」を理解すれば、4Mに分類して考えるまでもなく、全ての内容を判断できるのです。ではまず、4M各項目の内容を少しだけ覗いてみます。
1.Man(人)について
製造作業は「人の営み」の一部であり、「人の心」が基本です。すべての問題は(人)に帰着すると言われていることです。
2.~4.に分類できる内容でも、最終的には人がやることなので、人材にかかっています。それは逆に「人の心がともなわなければ何事も成就しない」のです。そのため、マニュアルやSOP(標準作業手順書)に基づく教育に加えて、「人数、配置、組織、指示の仕方、福祉」など、あらゆる人事管理の手法を駆使して、作業担当者のモチベーションを作り上げる必要があります。これが全ての基本であるモラルの向上をもたらします。
製造作業は「人の営み」の一部であり、「人の心」が基本にあります。これを理解できれば、4M分析で作業環境などの背景を含めて事実を正確に把握でき、効果を発揮できます。
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2.Machine(機械)について
機械単体だけの性能で考えるべきではなく、「4.Method(方法)」に分類されている生産方式を決めてから、どのような設備が必要であるのかを決めていきます。なぜなら、持続的にカイゼンを工程にかけていくとすると、製造業の基本方針は絶対的に工程結合で中間在庫を減らす方向であっても、全自動の専用機にまとめるべきでない工程も出てきます。
これがMECEの実戦での難しさであり、カイゼン活動を長年繰り返してきていないと獲得できないノウハウです。「机上論と実践」の差を正確に認識することが大切です。
その場合でも経験値を積み上げるには、実戦の前に「机上論」での回答を得ておくことが重要です。
3.Material(材料)について
材料には部品、製品と呼ぶべきものがあり、サプライチェーン構築の問題があります。これには生産拠点ごとのサプライヤーを含めて品質レベルを合わせていく難しさがあります。この前提に「多種少量生産」「混流生産」「順序生産」など「4.Method(方法)」で取り扱う「生産システム」の問題が基本にあります。
2022年現在は国際関係の問題で、希少金属、半導体といった材料供給に問題が生じる懸念が常にあります。
生産拠点ごとの材料の「品質レベル」を揃えることが、「混流生産」「順序生産」などでは重要で、ネット時代が進むと、生産拠点全てで、その企業の全種類の商品を生産できることが求められてきます。
4.Method(方法)について
方法には、この4Mの他の3つの要素の価値判断を決める生産方式の問題があります。本質的には生産方式が先に決められるべきですが、これを決めるのはビジネスモデルの「資金効率」です。これは資本主義経済では絶対的価値判断になってきます。投資家が配当を求めて投資対象として企業業績を見る以上、「投資効率」が高いことが求められます。
現在の世界情勢では、諸外国との競争の激化により「品質レベルを下げて」コスト削減を優先する気運や、少数の意見を無視しても販売を優先する「危険を冒す経営判断」をするケースも少なくありません。
そのため現代の製造業の「4.Method(方法)」は、投資家から見て、投資効率を高める資金効率の高いビジネスモデルであることが絶対的基準となってきます。しかし、投資家の視点は長期的視野ではなく、短期的視野であることが多く、ビジネスモデルの持続性を阻害する判断に注意が必要です。
関連記事:4Mとは?分析方法や変更管理の目的とポイントを解説
「4M分析」の基準は「4.Method(方法)」
「4.Method(方法)」の分析で良い事例を挙げてみます。現在、世界有数の自動車メーカーとなっている日本のトヨタ自動車は、半世紀以上前から「トヨタかんばん方式」と社内暗号で呼ばれていた生産方式を開発してきました。追従したのがキヤノン(Canon)でした。
アメリカに紹介されたとき「リーン生産方式」と呼ばれていました。それが現在では世界の量産工場のほとんどで、業種は多々あれども取り入れなければ生き残れない生産方式となっています。
関連記事:トヨタ生産方式(TPS)をわかりやすく解説!7つのムダ、メリットやデメリットとは?
「多種少量生産」「混流生産」などと呼ばれていますが、「産業革命」とも言える「カイゼン」でした。現在、ネット社会になってきて、自動車をネット注文するとき、100を超えるオプションを組み合わせ、自分だけの1台を注文すると、2週間程度で世界のどこにでも納品できるシステム開発が進められています。
AIを使って生産管理をすることで実証実験を行ってきたのがBMWでした。このような生産現場のAI導入やIoT化を「インダストリー4.0(第4次産業革命)」とドイツ政府が提唱し、2011年より推進されています。
つまり、製造では「4.Method(方法)」で取り扱う生産方式が、資金効率競争の絶対的基本なのです。
『トヨタ生産方式と現場改善~産業の垣根を超えた改善の着眼点~』では、トヨタ自動車の改善哲学であるトヨタ生産方式に基づいた、カイゼンの共通視点を解説していますのでご覧ください。
資金効率が絶対の基準
「資金効率が絶対の基準」となっているのは「なぜなのか?」と言えば、それは「トヨタ生産方式(多種少量生産)」の資金効率が、「フォード生産方式(ロット生産)」と比べて1千倍とも考えられるほど高いからです。資本主義経済の企業では、これは「絶対の評価基準」です。配当金ばかりでなく給与水準も決めてしまいます。トヨタ生産方式は、「日本の製造業の最大の発明」とも言えるオペレーション技術です。
ここでは詳細は省きますが、4M分析を進めるとしても、その尺度は『資金効率に照らして合理的か?』となります。
「4M+etc.つまり6M、5M+1E分析」が正しい方法?
MECE(ミーシー)が基本で、言動に無駄があっては競争に勝てません。MECEとは「Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive」の頭文字で、モレなくダブりなく物事を整理していく考え方です。
何事も合理的に言動することが必要ですが、現実ではアナログな人間社会でのことをデジタルにしていかねば、数字にならず行動できません。すると、製造業では現実の動きを分析するために、4M分析のフレームワークは全体に抜けなく思考するのに大変便利です。
しかし現在は6Mや5M+1Eなど、さらに要素を加えてきています。これはつまり「デジタルシンキング」では常に「+etc.」があることを表しています。
6Mで追加されたもの
- 5.Measurement:検査・測定
- 6.Management:マネジメント
5M+1Eで追加されたもの
- 5.Measurement:検査・測定
- 8.Environment:環境
「5.Measurement:検査・測定」は元々重要な項目ですが、「検査・測定」が行われる作業工程は技術的には局限されるべきで、行われること自体が品質管理・生産技術にとって「悪」と見なさなければならない項目です。
しかし近年、排気ガス検査データ改ざん(自動車)や特殊鋼材の検査記録改ざん(鉄鋼)、寸法不足による強度不足(新幹線車両などの品質保証に関わる不祥事が起きています。「8.Environment:環境」も含めて、ないがしろにしないように重点管理されるようになっています。
このように、必ずしも要素の区分を増やすことは進歩に繋がるとは限りません。MECE(ミーシー)に言動しても、現場の実践では「重複して構える」ことが必要になります。日常業務をMECEに捉えることは必要なのですが、「変更管理」の場面では、失敗できない場面が多く出現します。その時「4つの方策」を用意して、第1の方策が困難と判断したら、すぐに第2の方策を繰り出す必要が生じます。
実戦の現場で、管理職はプロジェクトの展開ポイントについて「4つの方策を用意すること」が重要です。
製造業の資金効率は生産方式で決まる
トヨタ生産方式の資金効率が非常に高い理由を、ここでは簡単に触れておきます。オペレーション技術の視点で見ると、生産管理システムは在庫管理システムの拡張です。そのシステムの中心が在庫管理であることは、在庫を最小にすることで、最大の効率が望めると言うことになります。
多数の工程のある製造業では、材料在庫から仕掛在庫、完成品在庫までの膨大な在庫を抱えることになります。そのため1ロットあたり1,000台のロットであれば、論理的には「工程数×1,000台分」の数だけ、最低でも在庫があることになります。それが、トヨタ方式では「工程数×1台分」が理論在庫となります。
つまり在庫は、理論的には1/1,000となり、必要資金は1/1,000になります。理論的ではなく実際には1/1,000の資金量にはなりませんが、これだけでなく加工場所が1/10程度になるため、工場敷地、工場建屋、運搬装置、管理人数など、膨大な資金や経費が削減できるのです。
つまり目的は資金効率向上により、必要な技術が決まり、工員が目指すべき能力も見えてきます。すると「有効な人材」「必要な機械設備」「必要な材料・部品」「必要なオペレーション技術」などが見えてきます。すなわち、高資金効率に必要な生産方式を目指せば、当然に必要な他の要素が決まります。
4M分析の方法/書き方は?
特性要因図が4M分析の始まり
4Mのフレームワークが便利であると気が付いたのは、特性要因図が使われていたからでしょう。特性要因図で分析を進める時に、「人・物・金」に分類して考えることが行われてきました。しかし、この3分類では一般的すぎて製造業としては視野が広がりすぎるので、4Mにされてきたと見えます。
この前提には、特性要因図を作るのは「目的・目標」が明確になり、必要な要素が見定められることがあるからです。つまり、「目的・目標」を明確にすることが最初のステップと言えます。
この最初のステップと、次に要素を出していくときにも「ディベート」ではなく「ブレインストーミング」で多数の意見を求め、KJ法でまとめていくのが有効です。「ブレインストーミング」では他の人の意見を批判しない点が、有効に働きます。
ここで出てきた「小要素」を「大きな要素4M」の枝として登録していきます。
日常業務とプロジェクトで目的・目標は違う
当事者の「前進する動機付け」が最難関の課題といえます。
現在、しきりに叫ばれているDXの推進は、組織全体で前進しようとする動機が見つけにくいため、提唱しなければならない状態になってきたと言えます。このため、4M分析を進めるにあたり特性要因図の目的・目標を定めることが最も重要なのです。
日常業務において、前進する目的は業績の向上やコストの削減が通常です。目標を30%以上に設定すると、方法論をカイゼンしないと達成できないので、前進するプロジェクトが始まります。つまり、日常は常にプロジェクト推進の状態にする必要があるといえます。
プロジェクトにおける4M分析の目的は、問題を把握しカイゼンすることにある
プロジェクトレベルに達した日常的に行われる4M分析は、「30%以上の生産性向上」を目指すので、何らかの「カイゼン」が必要です。すると、当然に特性要因図に「コストダウン30%」などの「目的・目標」が掲げられます。
例えば、混流生産するには、工場作業者が「多能工」になる必要があります。それには、数年の研修期間が必要になります。そこで現場で作業中に表示される「デジタルSOP」となってくるのです。
このように「目的・目標」を明確にすることによって
- Man(人)
- Machine(機械)
- Material(材料)
- Method(方法)
の全ての必要な内容も明確になってきます。特に4.Method(方法)が先に決まらなければ、高い目標は実現できないことになります。
現状維持から前進するモチベーションに変えていくのも、QCサークル活動の重要な機能といえます。
関連記事:【事例付】QCサークル(小集団改善)活動の進め方とは?メリットやデメリットなども解説
問題整理における4M分析の視点
事故、不良などの問題が起きた時、再発防止と根本的再発防止をはかるときのフレームワークとして考えていくと、「4M分析」はもれなく問題点、解決方法などを見定めることができます。
問題が起きると「誰が?」と責任追及が起こり、同時に責任逃れの動きが表面化して、本当の原因にまで調査が行きつかないことが起こります。特に労働災害のとき、直接的な原因だけでなく、その背景となったオペレーション技術の問題などを突き詰め、根本的解決を図るような場面では4M分析は威力を発揮します。
問題整理における4M分析の視点では、4.Method(方法)のところは、Management(管理状態・手法)として分析することが有効です。日常業務では作業そのものは苦労もあり意識しやすいですが、オペレーション技術については、意識が向きにくい領域です。
仕事とは「作業そのもの」だけという意識が蔓延している場合、そこが認識されずに事故に繋がっている可能性があります。その時は、原因にたどり着けず繰り返すことになります。パワーハラスメントなど「人権侵害になる問題」では、「認識できていない」ことが原因であることが多いようです。
問題整理すなわち4M分析で、最も有効な手段は「なぜを5回繰り返せ(なぜなぜ分析)」なのです。問題点の本質を掴むことに失敗しないためには「なぜを5回繰り返す」ことです。ほとんどの場合2回繰り返せば本当の原因が分かってきます。
「なぜなぜ」がなぜ嫌われるかと言うと、4M分析は要素に分けて考察していきますが、「なぜなぜ」では「要素に関係なく」原因に迫ります。そのとき「関係性」を広く見直すのが難しいので、要素の関係性を軽視する傾向が強くなっています。
『なぜなぜ分析~事実の把握と論理的つながり~』では、なぜなぜ分析を効果的に活用し、適切な対策を立案するポイントとして、事実の把握と論理的つながりについて解説していますのでご覧ください。
それぞれの要素は関係性が強く、連動して影響し合います。要素に分けず、全体像から問題を把握できることが理想ですが、言い換えれば4M分析とは「抜けが起きないために補佐してくれるツール」なのです。
この補佐を受けなくても問題を掴むには、日頃から一つ一つの仕事を理解しておくことです。4M分析についても知識としてではなく「何をするツールなのか?」深く理解しておくことが重要です。
変更点管理における4M分析の視点
「問題整理における4M分析の視点」や「変更点管理における4M分析の視点」においても、通常の4M分析と違いを設ける必要はありません。「問題点」を見つけるのが4M分析であり、「変更点」をコントロールするのも4M分析の役割でもあります。
すなわち4M分析の役割は、「カイゼン」であり「品質保全」でもありますが、常に前向きな「目的・目標」が定まっていることが基準となるのです。
しかし、何事も「メンテナンス」の必要性があります。企業の管理システムも日々のメンテナンスと「カイゼン」を進めなければなりません。そのためには、常に前進する「目的・目標」を定め、そのための尺度を持って4M分析を行うことです。
変更点管理の点において日常のメンテナンスの意味では、仕事のモジュール化を進め、変更点の影響範囲を限定しておくと、「カイゼン」活動を後押しすることになります。
4M分析を活用した品質管理のポイント
品質管理を行う場合に、起きた問題の「再発防止」から始めることが定石です。再発防止対策ができるようになるには、原因を正確に、もれなく見定めることが必須です。「なぜを5回繰り返せ」とはトヨタ自動車が行ってきた品質管理における原因究明のフレームワークです。これもまた、「原因究明が表面的に終わらないようにする手法」です。根本的な解決を図るためには4Mや6Mなどにこだわらず、「真の原因を見定める」との意欲が重要です。
4M分析のための4M分析に陥らないことです。品質管理で4M分析する時も「目的があり、目標がある」時なのです。
まとめ:4M分析の目的は、「国民の福祉に寄与する」ことが基礎
4M分析するのは「目的があり、目標がある」ときです。その「目的・目標」は資金効率向上が絶対のものであり、その具体的展開でなければならないのです。
民間企業の場合、4M分析を行う目的は「利潤を追求する」ことなので、絶対の基準は「資金効率の向上」となります。しかし、企業の社会的存在理由の基礎として、民間企業には「社会的責任」があります。そのため「最低賃金」など社会福祉は最優先事項となります。
「パワーハラスメント」「個人の人権侵害」などはもってのほかで、自治体と同様に「国民の福祉に寄与する」ことが基礎となります。4M分析を行うとき、この優先順位を意識する必要があります。