- 安全衛生責任者の業務内容や役割を知りたい
- 安全衛生責任者の選任は義務?資格は必要?
- 安全衛生責任者の講習内容は?
このような疑問を持たれている事業者は多いのではないでしょうか?
安全衛生管理に取り組むことは、企業や事業場にとって重要なテーマです。その中でも、安全衛生責任者の存在は、労働災害や健康被害の予防に大きな役割を果たします。
安全衛生責任者の選任は、一定の事業規模を有する企業や事業場において義務化されており、選任の要件は労働安全衛生法によって定められています。選任するために資格は必要ありませんが、安全衛生責任者には専門的な知識と技能が求められるので講習の受講が必要です。
本記事では、安全衛生責任者の役割と義務、選任するために必要な講習内容について解説していきます。
目次
安全衛生責任者とは?
安全衛生責任者は労働安全衛生法や関連法令に基づき、安全衛生管理する役割があります。
そのため、安全衛生責任者は、事業所や職場において従業員の健康と安全の確保を目的に、安全衛生管理に関する知識や技能を持った人の選任が必要です。
安全衛生責任者の選任は、資格は不要で専門の講習を受けて必要な知識やスキルを取得すれば選任が可能です。安全衛生責任者は、職場での危険作業やリスク分析や未然防止策の検討、緊急事態に対処する方法など、安全衛生管理に必要な様々なトピックへの対応が必要となります。
建設業などの現場では元請負事業者から関係請負人に業務を依頼することが多く、現場全体の安全を網羅的に監視するために安全管理の体制を構築します。
元請負事業が統括安全衛生責任者として管理体制のトップに位置付けられ、各々の下請け事業者から安全衛生責任者が選任される流れです。
安全衛生責任者の選任は義務?資格は必要?
安全衛生責任者を選任する義務や資格について解説していきます。
義務について
安全衛生責任者は以下の条件に当てはまる場合は、選任が義務化されています。
- 建設業や造船業の特定事業に該当する現場において、特定元方事業者が統括安全衛生責任者を選任しなければならない場合、関係者請負人から各々選任する義務がある
- 労働者数30人以上の現場:ずい道等の建設業務、圧気工法を扱う業務、一定の橋梁建設業務
- 労働者数50人以上の現場:鉄骨・鉄骨鉄筋コンクリート造りの建設業務、造船・木造建設等
【引用:厚生労働省_安全衛生責任者】
安全衛生責任者を選任した関係請負人は、選任した旨を遅延なく特定元方事業者へ連絡し厚生労働省で定める事項について対応が必要です。
また、安全衛生責任者が疾病や事故などやむを得ない理由で職務に就けない場合は、代理者の選任が必要になるので予め内部で代理者を決めておきましょう。
資格について
安全衛生責任者の資格はありませんが、専門の講習を受ける必要があります。
講習の内容は、職場でのリスクの特定や予防措置、緊急事態に対処する方法など、安全衛生管理に必要な知識や技能の取得が要求事項です。安全衛生責任者は、職場の安全衛生管理に関する問題を解決するために、協力関係を築き、職場全体の安全性の確保を目指します。
なお、建設業の安全衛生責任者には職長が選任されることが多く、職長・安全衛生責任者教育として受講されるケースがほとんどです。
講習の他に、安全衛生責任者に選任されたばかりの人や選任予定の人を対象に、職長・安全衛生責任者教育カリキュラムに基づく教育が厚生労働省から指示されています。
さらに安全衛生責任者に選任されてから5年経過した場合や機械や設備など大きな変更があった場合は再教育が必要です。講習や教育を受けて習得した知識と技能を活用し、健康と安全に配慮した作業環境の維持に努めましょう。
安全衛生責任者の役割
この章では安全衛生責任者の役割について解説していきます。
役割について
安全衛生責任者の主な役割は以下です。まずは厚生労働省で定められている職務内容を確認してから実務レベルの具体的な役割を見ていきましょう。
- 厚生労働省が定める職務内容
- 完全衛生管理の計画立案と実施
- 事故や災害の予防対策の推進
- 作業環境の改善や安全衛生教育の実施
厚生労働省が定める職務内容
厚生労働省が定める安全衛生責任者の役割は以下になります。
- 統括安全衛生責任者との連絡
- 統括安全衛生責任者から連絡を受けた事項の関係者への連絡
- 請負人に係る実施についての管理
- 請負人が労働者の作業実施計画と、特定元方事業者が作成する仕事や工程の計画等との整合性を統括安全衛生責任者と調整
- 請負人の労働者が行う作業及び当該労働者以外の者の行う作業によって生ずる混在作業に起因する労働災害に係る危険の有無の確認
- 請負人がその仕事の一部を他の請負人に請け負わせている場合における当該他の請負人の安全衛生責任者との作業間の連絡調整
これらの活動を統括安全衛生責任者等と一体となって現場の安全衛生管理を実施していきます。
<安全衛生管理の計画立案と実施>
安全衛生責任者の実務レベルでの役割の一つは、安全衛生管理の計画立案と実施です。
安全衛生責任者は、従業員の安全衛生に関する責任を有し、具体的な安全衛生管理の方針や従業員に対する教育内容を計画して実施します。
従業員の健康と安全を確保し、組織の生産性と利益を向上させることが安全衛生責任者の役割になります。
<事故や災害の予防対策の推進>
事故や災害の予防対策を推進することは、安全衛生責任者の実務レベルでの役割の一つです。
安全衛生計画の策定や実施の他に、現場や事業所内で発生した事故や災害時の緊急時に対応しなければなりません。また日常的な業務の中で、危険予知や事故原因の分析、改善策を提案し予防対策の推進が必要です。
事故や災害を未然に防ぐ施策を検討することで、作業者の健康や安全を守る重要な役割を担っています。事故の予防や対策方法の一つとして危険予知訓練も効果的です。
関連記事:KYT(危険予知訓練)とは?取り組む4つの目的や方法、業界別の例題を解説!
<作業環境の改善や安全衛生教育の実施>
安全衛生責任者の実務レベルでの役割の一つは、作業環境の改善や安全衛生教育を実施することです。
例えば、現場の設備レイアウトや材料の置き方などを改善して、従業員の負担を軽減したり、業務効率を高めたりします。作業環境の改善には「5S活動」に取り組む必要があります。
また、安全衛生教育の計画を策定し、従業員に適切な安全衛生の知識を提供することで、事故や怪我のリスクの低減が可能です。このような活動を通じて、安全衛生責任者は職場の安全性を向上させる役割があります。
職長との違い
安全衛生責任者と職長の違いは、職務内容です。
安全衛生責任者は、職場の安全衛生を管理することが求められるのに対し、職長は職場における管理責任を持ち、生産性向上や従業員の指導に重点を置きます。
- 安全衛生責任者は、職場におけるリスクの特定、予防措置の設計、適切な装備の使用、そして緊急事態に対処する方法など、職場の安全衛生管理に必要な知識やスキルが必要
- 職長は、部下の指導や生産性向上に重点を置き、職場の安全衛生管理に関する知識や技能は含まれない
安全衛生責任者は、職場において従業員の健康と安全を確保するため、常に安全衛生管理に関する知識や技能の維持が必要です。
一方、職長は職場全体の管理責任を持つため、安全衛生管理に関する知識や技能を持つことが望ましいですが、必須ではありません。
以上のように、安全衛生責任者は、職場での安全衛生管理に特化した役割を持ち、職場の安全性を確保するために必要な知識や技能を持っている必要がありますが、職長は、職場全体の管理責任を持ち、生産性向上や部下の指導を行う必要があります。
関連記事:職長教育と安全衛生責任者教育の違いは?実施目的や再教育の期限を解説
統括安全衛生責任者との違い
安全衛生責任者と統括安全衛生責任者の違いは管理の役割です。
- 統括安全衛生責任者は、事業所全体の安全衛生管理について監督する役割
- 安全衛生責任者は、事業所全体における安全衛生管理を実務レベルで安全管理する役割
統括安全衛生責任者は作業員に安全な作業環境を提供するため、安全衛生管理に関する法律や規則に基づいて、安全衛生に関する方針や計画を策定します。
従業員に周知徹底し、安全衛生管理に関する研修や教育することも役割の一つです。
一方、事業所での安全衛生に関する規則や法令の遵守を監督し、作業員への安全教育が役割です。また、事故が発生した場合には、統括安全責任者への連絡調整役を担い、現場の安全衛生管理全般について職務上の責任を有します。
関連記事:統括安全衛生責任者とは?職務や義務をわかりやすく解説!
安全衛生責任者に選任されるための講習内容
安全衛生責任者に選任されるためには、安全衛生責任者講習を受講する必要があります。安全衛生責任者は職長と兼任されることが多いため、合わせて受講できるようなカリキュラムになっていることが多いです。
安全衛生責任者教育の内容
安全衛生責任者教育で学ぶ内容は職長教育の内容とほぼ同じです。
ただし、職長教育の講習内容に加えて「安全衛生責任者の職務等」、「統括安全衛生管理の進め方」という2科目が各1時間ずつ追加されています。
講習の内容は、安全衛生に関する基本的な知識から実践的な技能まで、多岐にわたる内容を学ぶことが可能です。安全衛生法や労働災害の原因だけでなく、最新の安全衛生技術やトレンド情報も入手できるので、得た情報を自社に展開できるメリットがあります。
安全衛生責任者教育の講習内容と時間配分
安全衛生責任者教育の講習内容と時間配分は、6つの講義を2日に分けて14時間の受講が必要です。
受講内容 | 受講時間 |
作業方法の決定および労働者の配置に関すること | 2時間(120分) |
労働者に対する指導又は監督の方法に関すること | 2.5時間(150分) |
安全及び衛生上の観点から行うべき措置 | 4.5時間(270分) |
災害発生時等の対応策 | 1.5時間(90分) |
安全衛生責任者の職務等 | 1時間(60分) |
統括安全衛生管理の進め方 | 1時間(60分) |
安全衛生責任者教育の受講方法
職長・安全衛生責任者の受講方法は以下です。
- 対面受講
- オンライン受講
受講方法について詳しく解説していきます。
<対面受講>
職長・安全責任者の受講方法の一つは対面受講です。対面受講は他の受講者と交流しながら学べるので、学習をより深められます。
また、直接講師へ質問できるため、その場で疑問点を解消することが可能です。
<オンライン受講>
オンライン受講は、職長・安全衛生責任者教育の受講方法の一つです。
オンライン教育は、自分のペースで学習できるので、仕事で日中時間が確保できず、スケジュール調整が難しい人におすすめな受講方法になります。また、多くのオンライン教育プログラムには、ビデオやクイズ、模擬試験などの学習リソースがあります。
職長・安全衛生責任者教育のメリット
職長・安全衛生責任者教育を受講するメリットは、職場の安全衛生水準を向上させ、労働災害のタネを未然防止できることです。従業員がより安全に仕事ができる必要な方法や手順を学び、学んだことを職場の従業員へ詳しく教育できます。
たとえば、火災や地震に対する対応方法、作業中における危険な行動や状況を回避するための注意点、必要な道具や器具の使用方法などが学べるので、職場での事故や災害のリスクの低減が可能です。また、教育を受けたリーダーが、従業員に対して適切な指導をすれば、従業員の安全意識の向上が図れます。
安全衛生責任者になった後も、継続的な教育や研修が不可欠です。新しい安全衛生法が制定された場合や、新しい危険因子が発生した場合、それに対応するために常に最新の知識を習得する必要があります。
現場で発生した事故やトラブルを分析し、改善策を提案するための技能も必要です。これらのスキルを磨くために、安全衛生責任者は継続的な教育や研修に積極的に参加していきましょう。
まとめ
本記事では、安全衛生責任者の役割と義務、選任するために必要な講習内容について解説しました。
安全衛生責任者は、現場や事業場において従業員の安全と健康を確保するための安全衛生業務に関する責任者です。安全衛生業務の統括や指導・監督、安全衛生計画の策定・実施、事故・災害の予防・対策などの役割があります。統括安全責任者が選任される事業所では、請負業者から安全衛生責任者の選任が義務となりますが、選任に特別な資格はなく、講習を受けて必要な知識やスキルの取得が可能です。
安全衛生責任者として従業員の安全衛生に関する意識の向上や事故の防止に努め、従業員が安全で働きやすい環境作りをしていきましょう。