▼執筆者
株式会社エフェクト 代表取締役
石井 住枝 氏
仕事をスムーズに運ぶためには、段取りよく進めることがもちろん大切です。ところが、実際にはなかなかうまくいかないのも事実。それはなぜなのか?どうしてなのか、考えてみたいと思います。
例えば、仕事が重なり同時進行で進める予定でしたが、1つのものが思った以上に手間がかかってしまい、結局両方ともに遅れが生じてしまいました。どうして、そのようなことが起こってしまうのでしょうか?
一番の理由は、自分のキャパシティがわからずに仕事の目測を誤ってしまう事がひとつの要因です。
その上、仕事に取り掛かるのが遅れる人の要因に、上司に対していい人に思われたいと評価が優先されてしまい、仕事のクオリティよりも、相手の意向ばかり気にしてしまっているうちに、取りかかるのが遅れるのもよく見かけます。大切なのは仕事の中身であり、大切にすべきことの優先順位が間違ってしまっているのかもしれません。
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目次
「段取り力」を身につける
まず、行うべきことをリストアップし、それぞれのゴールを設定する。
上司から「会議の資料を作ってください」との指示の際、その背景を確認しているでしょうか?上司からは当然、会議の資料なのだから「会議の成果が上がるような資料作りをしてほしい」という意味が含まれているはずですが、それを理解せずに、言われた通りの資料だけを集めてまとめていないでしょうか。
もちろん、会議の段取りをしますが、まずやることは「この会議のゴール」を明確にして、何のために会議の資料をつくるのか?そのためには何をすべきなのか、リストアップすることです。書き出したものを上司にズレはないのか確認したり、解釈や目指すべきゴールを確認しながら、進めていくことがポイントです。
時々、依頼されたのだから確認しなくてもいい。任されたのだから、いちいち報告するのは信頼されていない。と考える方がいますが、ゴールのベクトルを合わせることは、報告というより確認作業かもしれません。そのズレを報告しながら確認をすると解釈すると理解しやすいかもしれません。
ポイント1.目的を具体的にする
1つ目のポイントは、その目的を具体的にすることです。
行うべきことをリストアップし、それぞれのボリューム確認し具体的に書き出すことです。リストアップした内容を具体的に確認せずに、スタートする方が意外と多くいらっしゃいます。
リストアップというと、ToDoリストを書き出すイメージがあるかもしれませんが、ToDoリストの弱点は、タスクそれぞれの時間がわかり難いことです。一覧に書き出すと、すべてが同じくらいの時間にみえて「こんなにもあるんだ」と考えすぎてしまうことがあります。
しかし、タスクによっては5分程度のものから、数時間かかるものが混ざっています。また、ひとつひとつを同じコストで考えてしまいがちで、「やらなければならないことが30もある!」と忙しいと思い込んでしまうことがあります。
まず、ToDoリストのタスクの軸をあわせ、そのタスクをガンチャートの様な計画表に逆算して入れることが必要です。
ポイントは、逆算、つまり資料完成のゴールの日を設定し、それぞれのタスクにかかる時間を調整して、計画表に落とし込むことです。
一つ一つを重ねていく仕事の進め方では、時間が足りなくなります。今とゴールの間に入れ込むまでが最初に行う事です。
ポイント2.現状を明確にして正しく書き出す
2つ目のポイントは、現状を明確にして、今の状態を正しく書き出すことです。
業務を依頼された際、今は他にどんな仕事を抱えていて、どんな順序で行動していくべきか?明確にする必要があります。つまり、優先順位をつけていくのですが、優先順位のポイントは、期限やボリュームよりも、できれば関わる人の多い事柄から始めるとスムーズに進みます。
会議の資料であれば、他部署や別会社に確認すべきことがある場合、そちらを先に進めるということです。理由は、相手の都合によって左右される、不確定要素をできるだけ排除するためです。社外の人が関わるときには特に、時間が読めない場合もありますので、早めに進めることが大切です。
しかし注意ポイントとして、自分の作業のボリュームは、少なく見積もりがちです。5分でできると思ったことが、実際にやってみると30分かかった、なんてことはよくあることです。自分の仕事に対しても「プラスα」の時間を入れて、リカバリーの時間を作って計画することをお勧めします。
また、計画通りに進まない理由のひとつに、予定外の事態が生じることがあります。体調を崩したり、緊急な仕事の依頼、
先方が急に出張となるかもしれません。何か起きたときに、リカバリーできる時間の余裕が必要です。
不確定要素をできるだけ少なく考え、必要な時間を計算し、期限内にできるように逆算します。もちろん、計画通りにいくとは限りませんが、計画を立てなければ順序立てた行動はできません。
ポイント3.真意を探り決裁権限のスケジュールと背景を考える
3つ目のポイントは、真因を探り決裁権限のスケジュールと背景を考えることです。
決裁権限のスケジュールは、期限を決めると明確になります。どのような順番なら、期限に間に合うかということです。
大切なことは「会議の内容を充実させること(=真因)」です。そこで、参加者にモチベーション高く会議に参加してもらうためにはどうすればいいか?例えば、資料は当日ではなく、3日前に配布して読んでから参加してもらおう。そのためには、何日までに資料ができていなければならない、そのためには何日までに、依頼をしなければならない……
というスケジュールが見えてきます。何のためにこの会議が開催されるのかという「真因」を探り出すことが大切です。
ポイント4.ペース配分/データ調査の期限とまとめる時間の確保
4つ目のポイントは、ペース配分/データ調査の期限とまとめる時間の確保です。
「ペース配分を決める」なんて当たり前に聞こえますが、意外とできていないのです。ToDoリストをつくりました、それぞれの時間を決めました、いつやらなければならないかを決めました。それから・・が大切ですが、実際に行動に移すとなれば、当然、それ以外の日常の業務があるはずです。自分のスケジュール表に、自らの仕事を入れていなければ、スケジュール通りには実行できないはずです。
手帳のスケジュールには、「○月○日、○時から○○会議」と書いてあって、ToDoリストを別につくっていませんか?会議と会議の間に電話をする予定などは、スケジュール表には書かれていません。さらに、例えば会議中の一段落したとき、急ぎの資料を手持ちであれば、合間の時間で書類に目を通すことができるかもしれません。スケジュールとToDoリストを一体化しておかなければ、会議にその書類を持っていくこともできないでしょう。
「何日に会議開催通知書を作成する」と、自分の期限を設定し、逆算してデータや参加者のスケジュールなど調べる時間や通知書を作成する時間まで、スケジュールの中に組み込んでいるでしょうか。それぞれの見積もりの時間のあとに、逆算計画を立ててスタートしているかどうかで段取り力が決まります。
つまり、どれだけ想像を膨らませるか?段取り力には創造力や過去の経験を改善する力が必要なのです。
トヨタの現場で体感したカイゼンの段取り力
では、現場でのバージョンも考えてみたいと思います。現場での段取りでいえば、会社で使うモノを決める時にも段取り力は有効です。
トヨタに在席していた時に保護具の開発に携わっていたのですが、今の様にパソコンがない中で、さまざまな強度計算や実験の結果など、諸先輩による手書きでたくさんの計算式が書いてありました。
例えば、安全帯の強度計算。
安全ベルトにはロープがあります。ロープは太く縒られているので、梁などの角に当たってもジリジリと切れることで、ショックアブソーバーの役目もしています。そのために、ある程度の太さも必要です。
実際に行った実験では、ロープの太さや縒り、材質を調べた後に、70㎏の砂をいれた袋をつけて、梁から落下させて、ロープがどのように切れるのか、何度も落下させて検証しています。その検証結果をもとに、強度計算の式がつづられていました。
勿論、JIS規格など保証されている商品でありますが、実際の現場で作業する人の「命」を守るものであるので、その責任を他人に任せず、自らで試して、強度計算して社内での使用を決めるという技術責任者の仕事がありました。
これが、物を購入するときの技術管理者目線の段取りです。誰のために購入するのか。その目的が命を守るものであれば、自らの目で安全性を確認しなければ、社員の安全を保障することはできません。それが技術管理者の責任でもあります。
勿論、その次のステップでは、安全帯をかける梁の強度や使い方へと更なる安全管理へと横展していくのですが、大切なことは、何のために強度計算が必要なのか?を考える段取り力です。もちろん、期限がありますのでスケジュールを逆算して、その中で最大限できることをリストアップして、ガンチャートに計画をたて、実験、検証し、保証をしていきます。
本気の段取り力は、単に効率的に行うだけではなく、期限内に必要な検証をすることも段取り力のひとつです。そして、段取りしたことを標準化することで、他のメンバーに再現が可能となります。活用する人が増えれば、さらにカスタマイズされ、知恵が増え、もっと使いやすいものにバージョンアップされることでカイゼンが進んで行きます。
依頼された仕事を請負の仕事として取り組むのではなく、どうしたらもっと効率良くかつ品質向上できるか?と考えて取り組みを周りと一緒に進めることが、改善であり、カイゼンの段取り力です。
段取力とは、目先の効率化だけでなく、目的意識をもち、何のために改善し続けいくのか、その先の人のことを考えた改善を進めて戴ければ、会社全体に改善思考が広がっていくと思います。
まずは、段取り力から整えてみませんか。
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