前回の記事「サプライチェーンマネジメント失敗事例から紐解く、SCM最適化を実現するための必要条件とは?」では、SCMの失敗事例から分かるSCM最適化の必要条件について言及しました。
一方で今回は、サプライチェーンマネジメント(以降、SCM)施策の成功事例を紹介します。SCMに成功したすべての企業に当てはまるのは、成功にいたるまで数多の失敗と苦難を経験している点です。
「七転八起」とはよく言ったものですが、まさに何度も転んでは起ち上りを繰り返し、また歩きだす、その飽くなきチャレンジ精神そのものが賞賛に値するものであり、企業発展の原動力と実感した次第です。言い換えれば、成功するには、簡単な道のりではなく、数々の失敗の連続を経験してそれを乗り越えて来ているということです。これはSCMに限ったことではないかもしれません。
彼らの成功例を紹介しますが、その表面的なカッコイイ結果をみるだけでなく、そこには失敗が大きな教訓になっていることも深読みしてみてください。
これからSCMを手がけようとしている方、また何らかSCM案件にすでに踏み込んでいる方も、とくにP計画、D実行、Cチェック、A行動の改善活動サイクルが非常に大事なことを認識ください。
※当メディア「現場改善ラボ」にてSCMの実践ヒントや事例に関する連載記事を執筆しております。本記事は「3記事目」です。
▼執筆者
リソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパン株式会社
RGPコンサルタント 木内 祥二
大学卒業後、住友電気工業に入社。海外部にて子会社の拡販支援を担当。その後オーストラリアに留学しMBAを取得。コスト削減のケーススタディでSCMと出会う。帰国後は様々な業種の外資系企業でSCMの実務を経験。現在はRGPのSCMコンサルタントとして活動中。
目次
国内大手企業のSCM成功事例
以下の表に挙げる国内有名企業5社は、いずれもSCM導入に成功している企業です。
企業名 | 売上高(円) | 営業利益(円) | 資本金(円) |
トヨタ自動車 | 45兆953億 | 5兆3,529億 | 35兆2,393億 |
ファーストリテイリング | 3兆1,038億 | 5,009億 | 2兆165億 |
アサヒビール | 2兆9,394億 | 2,691億 | 1兆3,628億 |
ヤマト運輸 | 1兆7,586億 | 400億 | 1兆2,386億 |
花王 | 1兆6,284億 | 1,466億 | 1兆988億 |
※2024年度実績
※各社決算月が同じではありません。また、数字は億単位で丸めております。
これらの企業がそれぞれどういうSCM施策を導入し、どういう点で成果が出て出ているのかをまとめていきます。各社、SCMを強化することで業務効率やコスト削減を実現しています。
トヨタ自動車のSCM成功事例
SCM施策 | 内容 | 主な成果 |
TPS: ジャスト・イン・タイム(JIT) | 必要な時に必要な分だけ生産 | ・在庫削減 ・コスト最適化 |
TPS: カンバン方式 | 工場内外で部品供給をリアルタイム調整 | ・生産リードタイム短縮 |
グローバルSCMの強化 | 現地調達・現地生産 | ・輸送コスト削減 ・供給安定化 |
AI・IoT活用 | 販売データをリアルタイム分析 | ・需要変動への柔軟対応 |
BCP(事業継続計画) | 供給網の多重化 | ・災害、パンデミック時の安定供給 |
ファーストリテイリングのSCM成功事例
SCM施策 | 内容 | 主な成果 |
情報システムを活用した需要予測の高度化(AIによる分析) | 需要予測に基づいた最適生産と、グローバルSCMの強化 | ・売残りリスクの低減 ・適正在庫の維持 ・売上最大化 |
SPA(製造小売業)モデルによる製造から販売までの管理 | 設計・生産・物流・販売を一元管理 | ・物流効率向上 ・配送スピードUP |
物流の自動化(倉庫ロボット導入) | RFID(ICタグ)活用で在庫管理の精度向上 | ・生産、販売の柔軟な対応力向上 |
アサヒビールのSCM成功事例
SCM施策 | 内容 | 主な成果 |
需要予測の高度化(AI・ビッグデータ活用・デジタルツイン) | 生産・在庫計画の精度を向上 | ・欠品率の低下 ・販売機会の最大化 |
生産計画の最適化(スマート工場化) | IoTを活用した生産設備のリアルタイム監視 | ・生産効率の向上 ・品質の安定化 |
物流の最適化(スマート物流システム) | AIによる配送ルート最適化スマート倉庫の導入 | ・配送コストの削減 ・CO2排出量削減 |
ヤマト運輸のSCM成功事例
SCM施策 | 内容 | 主な成果 |
「ラストワンマイル配送」の最適化 | AIによる配送ルートの最適化 | ・配送時間の短縮と正確性の向上 |
物流拠点の自動化と再配置 | 物流拠点の統廃合と再配置で効率UP | ・物流コスト削減と環境負荷低減 |
共同配送モデルの構築 | B2B・B2Cの共同配送でコスト削減 | ・EC市場への対応力向上 |
花王のSCM成功事例
SCM施策 | 内容 | 主な成果 |
AIによる需要予測システムの導入 | POSデータ・気象データ・SNSデータを活用 | ・品率低減と販売ロス削減 |
生産計画と物流の連携強化 | 工場と配送拠点の最適配置、小売店とデータ共有、リアルタイムで供給調整 | ・在庫適正化によるコスト最適化 |
リアルタイム在庫管理システムの構築 | 物流ネットワークの見直しで配送効率向上 | ・小売店との協力強化による供給の安定化 |
国内大手企業に共通するSCM施策のキーポイント
SCMに成功した5社に共通しているキーポイントを4つ挙げるとすれば、以下のとおりとなります。
①ジャスト・イン・タイム(JIT) & リーン生産
施策内容
- 必要なモノを、必要な量だけ、必要なタイミングで供給(無駄を徹底排除)
- リアルタイムな需給管理 で生産・流通・販売を最適化
- サプライヤーと密接な連携を強化(共同在庫管理・発注最適化)
関連記事:ジャストインタイム(Just In Time)とは?意味や3原則、メリットやデメリットを解説!
②需要予測 & AI・データ活用
施策内容
- POSデータ・ECデータ・IoTセンサーを活用し、需要をリアルタイム分析
- AIによる需給予測 で生産・物流・販売を最適化
- データドリブンなサプライチェーン管理を推進
③物流の効率化(ラストワンマイル & 拠点戦略)
施策内容
- 配送センターの最適配置(地域別拠点戦略) により、輸送距離を短縮
- ラストワンマイル配送の強化(EC需要増対応)
- 自動倉庫・ドローン・EVトラックなどの先進技術を活用
④環境配慮型サプライチェーン(グリーンSCM)
施策内容
- CO2削減・エネルギー効率向上を目指したサプライチェーン設計
- サステナブル物流(EV配送車・省エネ倉庫) を推進
- 再生可能エネルギー活用 & 廃棄物削減
また、紙面の都合上、日本国内だけでなく世界の中でもSCM導入を最も成功したと言われるトヨタ自動車にしぼり、彼らの失敗した経緯から同時にそれを教訓にした学びを是非、紹介したいと思います。
トヨタ自動車のSCM導入における失敗と対応策
トヨタは、「トヨタ生産方式(TPS)」を軸としたSCMの最適化により、世界最高レベルの効率的なサプライチェーンを築いてきました。しかし、その過程で多くの課題や失敗も経験しています。
特に、部品供給の問題、自然災害による供給網寸断、リコール問題、グローバル展開に伴う調整の難しさなどが、大きな壁となりました。
「ジャスト・イン・タイム(JIT)」の落とし穴(部品不足問題)
■問題点
- トヨタのSCMは、「ジャスト・イン・タイム(JIT)」方式を採用し、在庫を極限まで減らし、必要な部品を必要な時に供給する仕組み。
- しかし、部品供給が少しでも遅れると、生産ライン全体がストップするリスクがある。
- 2000年代初頭に、部品メーカーの供給遅延が発生し、一時的に生産停止を余儀なくされる事態が発生。
■トヨタの対応
- 「JIT」の柔軟性を高め、一部の重要部品は「セーフティストック(予備在庫)」を確保する方針に転換
- 部品メーカーと連携し、供給遅延リスクを最小化する「サプライヤーリレーションシップ」を強化
- 部品供給網の多元化(1つの部品に対して複数のサプライヤーを確保)
■学び
「JIT」は理想的な仕組みだが、柔軟性を持たせることが重要。
自然災害によるサプライチェーン寸断(東日本大震災・タイ洪水)
■問題点
- 2011年の東日本大震災では、トヨタの主要サプライヤーの工場が被災し、部品供給がストップ。
- 同年のタイ大洪水では、タイ国内の部品工場が浸水し、グローバルサプライチェーンが混乱。
- 「JIT」の影響で、代替部品の確保ができず、一時的に全世界で生産が減少(生産台数40%減)。
■トヨタの対応
- 「サプライチェーン・リスクマネジメント」の導入(被災リスクを事前に評価)
- サプライヤーの生産拠点を分散し、特定地域への依存度を低減
- 主要部品に関しては「グローバル調達ネットワーク」を構築し、代替供給を可能にする体制を整備
■学び
「JIT」は災害リスクに弱いため、リスク分散が必要。
リコール問題によるSCMの混乱(2009〜2010年の大規模リコール)
■問題点
- 2009〜2010年にかけて、トヨタはアクセルペダルの欠陥を原因とする過去最大規模のリコール(1,000万台超)を実施。
- 品質問題が発覚した際、サプライチェーン全体への影響が大きく、迅速な対応が難しかった。
- リコール対応のため、部品供給・製造プロセスに大きな混乱が生じた。
■トヨタの対応
- サプライヤーと協力し、品質管理体制を強化
- AIとビッグデータを活用し、リアルタイムで異常検知できるシステムを構築
- SCM全体で「トレーサビリティ(部品の追跡管理)」を強化し、不具合発生時の迅速対応を可能に
関連記事:トレーサビリティとは?目的やブロックチェーンとの関係、メリットや企業事例についても解説!
■学び
SCMにおける「品質管理の強化」が最も重要である。
グローバルSCMの統合の難しさ
■問題点
- トヨタは、2000年代以降、世界各地に工場を展開し、グローバルSCMを拡大。
- しかし、各地域で異なるサプライチェーン管理手法を採用していたため、統一性が欠如。
- 特に欧州や米国の工場での生産遅延や部品調達の問題が発生し、調整が難航。
■トヨタの対応
- グローバルSCMの統合管理システムを導入
- 「トヨタグローバルビジョン(2011年)」を発表し、サプライチェーンの標準化を推進
- デジタル技術(IoT・AI)を活用し、全世界の工場の生産データをリアルタイムで共有
■学び
地域ごとの違いを考慮しつつ、「標準化」と「統合」を両立することが重要。
トヨタのSCMの失敗と学び
課題 | 失敗のポイント | トヨタの対応 | 学び |
JITの落とし穴 | 部品供給が遅れると生産ラインが停止 | 重要部品のセーフティストック確保、サプライヤーとの協力強化 | JITは柔軟性を持たせることが必要 |
自然災害の影響 | 東日本大震災・タイ洪水でサプライチェーンが寸断 | 生産拠点の分散、代替供給ネットワーク構築 | リスク分散が必要 |
リコール問題 | 欠陥部品の影響がSCM全体に波及 | 品質管理の強化、AI・IoT活用による異常検知 | 品質管理がSCMの基盤 |
グローバルSCMの難しさ | 地域ごとのサプライチェーンの違いが統一性を阻害 | グローバル統合システムの導入 | 「標準化」と「地域適応」のバランスが重要 |
トヨタのSCMまとめ
トヨタはSCMを徹底的に最適化してきましたが、「JITのリスク」「自然災害」「リコール問題」「グローバル統合の難しさ」といった課題に直面しました。しかし、トヨタは失敗を教訓に改善を積み重ね、世界トップクラスのSCMを確立しました。特に、「柔軟性のあるJIT」「リスク分散」「品質管理」「デジタル活用」が、SCM成功のカギとなっていると言えます。
海外大手企業のSCM成功事例
次に海外企業ですが、限られた紙面ですので、選定が難しかったのですが、4社にしぼりました。最もSCM導入が成功している大手の会社でもあり、売上トップ争いを繰り広げるウォルマートとアマゾン、またスポーツブランドで世界のマーケットでデッドヒートを展開しているナイキとアディダスという組み合わせも興味あるかと思います。
企業名 | 売上高(ドル) | 営業利益(ドル) | 資本金(ドル) |
ウォルマート | 6,809億8,500万 | 293億4,800万 | 2608億2,300万 |
アマゾン | 6,380億 | 686億 | 6,248億9,400万 |
ナイキ | 513億6,200万 | 63億1,100万 | 381億1,000万 |
アディダス | 214億2,700万 | 2億6,800万 | 180億2,000万 |
※2024年度実績
※各社決算月が同じではありません。
その彼らがどういうSCM施策を導入し、どういう効果が得られ、成功しているのかを以下に国内企業と同様に以下、表にまとめました。
ウォルマートのSCM成功事例
成功したSCM施策 | 施策の内容 | 得られた効果 |
クロスドッキング物流 | – 商品を倉庫で長期間保管せず、配送センターで即時仕分けし、店舗へ直送 – 需要予測をAI活用で最適化 | ・在庫コスト削減(15〜20%減) ・物流効率向上(配送時間短縮) |
RFID(無線ICタグ)活用 | – 商品・在庫のリアルタイム管理を強化 – サプライチェーンの可視化を実現 | ・棚卸時間50%削減 ・在庫の精度向上(欠品・過剰在庫防止) |
AmazonのSCM成功事例
成功したSCM施策 | 施策の内容 | 得られた効果 |
ロボット・AI活用の自動倉庫(Kivaロボット) | – 倉庫内のピッキング作業を自動化 – AIで最適な出荷・配送計画を実施 | ・出荷処理速度向上(生産性50%向上) ・労働コスト削減(1拠点で数百人分の業務削減) |
ラストマイル配送ネットワーク | – 配送センターを全国に分散し、配送時間を短縮 – ドローン・無人配送車を開発 | ・翌日、即日配送の実現 ・配送コスト削減(運送会社依存低減) |
ナイキのSCM成功事例
成功したSCM施策 | 施策の内容 | 得られた効果 |
デマンド・センシング(需要予測AI) | – AIを活用し、リアルタイムで需要予測 – 需要変動に応じた生産・在庫調整 | ・売上機会損失を最小化(欠品率減少) ・過剰在庫削減(約20%減) |
デジタルサプライチェーン(DTCモデル) | – 直営EC・アプリを活用し、仲介業者を減らす – オンデマンド生産で無駄を削減 | ・利益率向上(卸売依存から脱却) ・顧客満足度向上(パーソナライズ販売強化) |
アディダスのSCM成功事例
成功したSCM施策 | 施策の内容 | 得られた効果 |
スピードファクトリー(短納期生産) | – 3Dプリンター・ロボットを活用し、小規模な自動工場で即時生産 – 消費者の要望に応じたカスタム生産 | ・製造リードタイム75%短縮 ・生産コスト削減(人件費依存低減) |
ブロックチェーンを活用したトレーサビリティ | – 原材料から製品販売までの流通履歴を可視化 – サプライチェーンの透明性向上 | ・偽造品対策の強化 ・環境負荷低減(サステナブル調達促進) |
海外大手企業に共通するSCM施策のキーポイント
この4社に共通しているKeyポイントを4つあげるとすれば、以下のとおり。
①データ活用(AI・IoT・ビッグデータ)による 需要予測・在庫最適化
施策内容
- AI・機械学習を活用し、リアルタイムでの需要予測を実施
- IoTやRFID(無線ICタグ)を使い、在庫・商品の流れを可視化
- ビッグデータ分析により、需要変動に応じた迅速な調整
②ロジスティクス(物流)の最適化
施策内容
- 倉庫の自動化(ロボット・IoT活用) で出荷速度を向上
- 配送センターの分散配置 により、ラストマイル配送を効率化
- クロスドッキング(倉庫保管を減らし、直接配送)でリードタイム短縮
③デジタルサプライチェーン(SCMの可視化 & 直販モデル)
施策内容
- デジタルツイン(仮想SCM)で流通・生産状況をリアルタイム監視
- ブロックチェーンで商品の流通履歴を可視化
- 仲介業者を減らし、DTC(Direct to Consumer)モデルを強化
④柔軟な生産体制(マスカスタマイゼーション & 分散生産)
施策内容
- 消費者ニーズに応じたオンデマンド生産(マスカスタマイゼーション)
- 製造拠点の分散配置でサプライチェーンのリスク分散
- 3Dプリンターやロボットを活用した短納期生産
また、紙面の都合上、中でも最も成功したと思われ、直近4半期(2024年10月~12月期)の売上で初めてウォルマートを抜いた、まさにノリに乗っているAmazonにしぼり、実は彼らも失敗と苦難の連続から多くを学び、それを教訓にしてきていることを紹介したいと思います。
AmazonのSCM導入における失敗と対応策
Amazonは現在、世界最強のサプライチェーン・マネジメント(SCM)を構築している企業の一つといわれてます。その過程では多くの失敗や課題を経験しました。特に、急成長による物流の混乱、過剰投資、コスト管理の難しさ、労働環境の問題などが大きな障害となりました。
急成長による物流の混乱(2000年代前半)
■問題点
- 1990年代後半から2000年代初頭にかけて、Amazonは急成長し、物流体制が追いつかずに大混乱。
- 当時のAmazonは、サードパーティの配送業者(UPS、FedEx)に依存していたため、配送遅延が頻発。
- 特にクリスマスシーズンでは、需要が急増し、注文が処理しきれずに遅延・欠品が発生。
■Amazonの対応
- フルフィルメントセンター(FC)の増設(自社倉庫を増やし、在庫管理を強化)
- 在庫管理システムをAI・ビッグデータ活用で高度化
- 独自の配送ネットワーク「Amazon Logistics」を構築(2013年〜)
■学び
「外部依存ではなく、自社で物流を管理する必要がある」と気付き、自社物流網を構築した。
在庫管理の失敗(過剰在庫・欠品問題)
■問題点
- 2000年代初頭、Amazonは急拡大に伴い、在庫管理が適切に機能せず、過剰在庫と欠品を繰り返す。
- 人気商品が欠品し、売上機会を逃す一方、不人気商品は過剰在庫となり、倉庫コストが膨張。
■Amazonの対応
- AIとビッグデータを活用した需要予測モデルを導入(2012年〜)
- 「アンティシパトリー・シッピング(予測配送)」を開発(2013年)
- プライム会員向けに「ワンクリック注文」導入で購買データを収集
■学び
データ分析を強化し、「適正在庫」と「需要予測」の精度を向上させることが重要と認識。
過剰投資によるコスト負担(2010年代)
■問題点
- AmazonはSCMを強化するために、大規模な設備投資を行ったが、一時的に利益率が大幅に低下。
- 物流拠点の拡大とロボット導入により、数十億ドル単位の投資が必要になり、短期的に収益を圧迫。
- 2014年、当時の決算で2億ドルの赤字を計上し、「過剰投資ではないか?」と投資家から批判を受ける。
■Amazonの対応
- 投資の優先順位を見直し、「プライム配送」と「AI最適化」に集中投資
- AWS(クラウド事業)を成長させ、物流投資を支える収益源とする
- 倉庫のロボット導入を加速し、長期的にコスト削減
■学び
短期的な利益よりも、長期的な競争優位を築く投資が重要。
労働環境の問題(2010年代〜現在)
■問題点
- Amazonの倉庫(フルフィルメントセンター)では、労働環境の悪化が問題視され、従業員の不満が噴出。
- 過酷な労働時間、厳格な生産性評価が従業員に大きな負担を強いていた。
- 2018年には、倉庫労働者のストライキや労働組合の抗議運動が発生。
■Amazonの対応
- AIとロボット導入を加速し、労働負担を軽減
- 最低賃金を引き上げ(米国では時給15ドルに)
- 作業の自動化を進め、人間の負担を減らす(Kivaロボット活用)
■学び
「従業員満足度の向上もSCMの一部」と認識し、改善を進めた。
コロナ禍での物流崩壊(2020年)
■問題点
- 2020年の新型コロナウイルスのパンデミックで、Amazonの物流網が一時的に崩壊。
- 需要急増(EC利用者の爆発的増加)により、配送遅延や在庫不足が深刻化。
- 倉庫の労働者が感染リスクを理由に出勤拒否し、人手不足が発生。
■Amazonの対応
- 緊急で新規倉庫スタッフを10万人以上採用
- 物流センターを24時間フル稼働にシフト
- アルゴリズムを改良し、最優先商品(医療品・生活必需品)を優先配送
■学び
予測不能な事態に備え、「サプライチェーンの柔軟性」を確保することが不可欠。
AmazonのSCMまとめ
課題 | 失敗のポイント | Amazonの対応 | 学び |
急成長による物流混乱 | 配送遅延・倉庫管理の混乱 | 自社物流(Amazon Logistics)を構築 | 物流を外部依存せず、自社管理することが重要 |
在庫管理の失敗 | 欠品・過剰在庫の発生 | AI予測モデル・アンティシパトリーシッピング導入 | データ分析による在庫最適化が不可欠 |
過剰投資による利益圧迫 | 大規模投資で一時的に赤字 | AWSの利益を活用し、長期投資を継続 | 短期利益より長期競争優位を優先 |
労働環境問題 | 過酷な労働環境・ストライキ | 賃金引き上げ、ロボット導入 | 労働環境の改善もSCM戦略の一環 |
コロナ禍での物流崩壊 | 人手不足・配送遅延 | 緊急雇用・優先配送の導入 | サプライチェーンの柔軟性が必要 |
Amazonは、多くの失敗を経験しながらも、データ活用とテクノロジーを駆使し、世界最強のサプライチェーンを構築しました。この「試行錯誤のプロセス」こそが、Amazonの強さの源泉と言えましょう。
まとめ
今回の記事で、できるだけ限られた紙面で成功している国内、海外のTOP企業のSCMの施策と効果をまとめてみました。SCMを成功させるのに必要な条件というテーマで、成功企業の共通する部分も明らかにしたつもりです。すでに、SCMを最適化させるために必要なヒント(キーワード)が、みなさんの頭の中で浮かび上がってきているかと思います。
ただ是非みなさん、これをきっかけに他社にもどんな成功例があるのか、そして彼らなりの直面した問題や失敗例を機会があれば見てください。国内、中堅企業でも、たとえば無印良品、アスクルなど、海外ではP&GなどもSCM施策を実施して成功を体験した立派な企業であります。
次回の記事では、今回の記事でもさかんに言及しているAI、IoT用語について解説します。そして、実際に失敗例、成功例から浮かび上がってきたSCMを成功させる必要条件について、ずばり私なりの表現で記していきたいと思います。
▼参考文献
・戦略的サプライチェーンマネジメント ―― 競争優位を生み出す5つの原則 単行本 – 2015/2/3
・ショシャナ・コーエン (著), ジョセフ・ルーセル (著), 尾崎正弘 (監修), 鈴木慎介 (監修), & 1 その他
・トヨタ・サプライチェーン・マネジメント 上 単行本 – 2010/9/1 アナン V.アイアー (著), 西宮 久雄 (翻訳)
・トヨタ・サプライチェーン・マネジメント 下 単行本 – 2010/9/1 アナン V.アイアー (著), 西宮 久雄 (翻訳)
・トヨタの失敗学 「ミス」を「成果」に変える仕事術 単行本 – 2016/8/4 (株)OJTソリューションズ (著)
・「ウォルマート」 ‐ 2000/5/26、ボブ オルテガ (著), Bob Ortega (原名), 長谷川 真実 (翻訳)
・「ウォルマートはなぜ、世界最強企業になれたのか (グローバル企業の前衛)」 2014/9/2、ネルソン・リクテンスタイン (著), 佐々木 洋 (翻訳)
・Amazon創業者ジェフ・ベゾスのお金を生み出す伝え方 単行本 – 2023/8/3 カーマイン・ガロ (著), 鈴木ファストアーベント理恵 (翻訳)
・Invent & Wander──ジェフ・ベゾス Collected Writings ペーパーバック – 2021/12/8 ジェフ・ベゾス (その他), ウォルター・アイザックソン (その他), 関 美和 (翻訳)
会社、参考団体、組織、KeyWord
・Amazon について – About Amazon | Japan
・Nike News – The official news website for NIKE, Inc.
・Walmart | Save Money. Live better.
・トヨタ自動車WEBサイト
・株式会社 ファーストリテイリング
・アサヒビール
・ヤマト運輸
・Kao 花王株式会社