本メディア「現場改善ラボ」にて私は、SCM最適化を実現するためのナレッジやヒントについて惜しみなく執筆させていただきました。以下が連載記事の一覧です。
▼連載記事▼
第1回:サプライチェーンマネジメント(SCM)とは?基本概念と仕組みをわかりやすく解説
第2回:サプライチェーンマネジメント失敗事例から紐解く、SCM最適化を実現するヒント
第3回:サプライチェーンマネジメント成功事例から分かる、SCM最適化に不可欠な要素とは?
第4回:SCM最適化に必要な「2つの条件」とは?
本記事がいよいよ最終回です。
SCMの基礎的な知識や歴史、実際にSCM施策に取り組んでみたもののほとんどの企業は失敗がともなっていること。そしてその失敗例や成功例も紹介しながら、SCMを最適化するための必要条件は何なのか?について解説してきました。ここまででSCMの本質とは何か?の理解が、少しでも深まっていただけたら幸甚です。
そして、最新のAI、IoTというデジタル技術が進む中、SCMデジタルツールを駆使するには企業のITインフラ(Dataの一元化)が必要であり、ほぼリアルタイムで必要な情報が取り出せ、KPI*が可視化され、経営陣の打ち手が即断即実行できる状態が大事であり、それには思い切ってERP(統合基幹システム)を導入することがカギだというお話も、させていただきました。
とはいうものの、読者のみなさんすべてが大手企業*や製造・販売拠点を海外にもっているグローバル企業*に所属されているわけではないでしょうから、なんでもかんでもERP導入がマストでもないだろうし、もちろんデジタルツールを駆使できないとSCM的には負け組なのかというと、まったくそんなこともありません。そこはあくまでケースバイケース。そんなに焦ることもないということも伝えたく、従来のアナログ的な手法もSCM施策として十分有効という話もさせていただきました。
「結局どっちなんだいっ!」って、TVCMではありませんが、そういう声も聞こえてきます。
結論から申しますと、会社の規模、置かれた状況や環境など、SWOT*などから自社や自分の事業部門を自己査定してみて、それによって最適なSCM施策があるということになります。
ですので、何らかの直面している会社のSCM課題をお持ちであれば、私どものような外部のコンサル(RGP株式会社)を利用していただき客観的にさらに浮彫にすることができます。流行りの言葉ですが、コンソルーション*(コンサルティングだけでなくソルーションを提供)を是非、試してみていただけるとよろしいかと思います。実際はSCM課題に見えて違う課題かもしれません。それくらいSCMとIT、またとくにSCMの本質はボトルネックを見つけることに視点があるという点では管理会計に深く関係していることも、今までのお話からもご理解いただけていると思います。
その点、とくにRGPのコンサルテーションはソルーションに力をおいておりますので、財務会計、管理会計はじめIT分野にも専門のコンサルタントがそろっております。クライエント様と課題に直面し、解決するまで伴走するのが得意とするところです。いつでもお力になれるかと存じますので気軽に私どもに、お声をかけていただければと存じます。
※当メディア「現場改善ラボ」にてSCMの実践ヒントや事例に関する連載記事を執筆しております。本記事は「5記事目(最終回)」です。
▼執筆者
リソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパン株式会社
RGPコンサルタント 木内 祥二
大学卒業後、住友電気工業に入社。海外部にて子会社の拡販支援を担当。その後オーストラリアに留学しMBAを取得。コスト削減のケーススタディでSCMと出会う。帰国後は様々な業種の外資系企業でSCMの実務を経験。現在はRGPのSCMコンサルタントとして活動中。
目次
規模にかかわらず有効なSCM施策のもう一つは?
話をもどしますが、もし会社の規模にかかわらず有効なSCM施策があるとすれば、何かについてもうすこしお話しましょう。前回もすでにふれましたがMTS(在庫をつくり置きする事業形態)の会社であれば在庫のABC分析、またどんな事業形態であれ、製品の原価をしり、原価構成を把握することが大事という話をしました。
あともうひとつ重要な施策とすれば、KPIの可視化が出来ていない会社が多いというのが実感です。現在あるレガシーシステムの情報インフラであっても、月単位の頻度であれば重要なKPI情報をアップデートできるかと思います。
現場で共有できるKPI、また経営陣が見るべきKPIがありますが、やはり、前者の場合、現場や部門の従業員のモチベーションにつながるKPIがいいと思います。ここに代表的なSCMのKPIを紹介しますので、是非みなさんの会社でも取り入れてみてはいかがでしょうか?もちろん、KPIを取り入れることそのものが目的ではなく、この指標から打ち手となるアクションに結び付けることが重要です。そのKPIをみながら、部内会議や他部門との会議(S&OP会議、品質会議など)で、どんな打ち手にするか活発で建設的な議論がなされといいかと思います。
可視化すべきSCMの代表的なKPIの例
サプライチェーンマネジメント(SCM)において、KPI(重要業績評価指標)は、業務のパフォーマンスを測定し、最適化するためにも重要な指標です。あるクライアントでは、売上予算と実績の精度をKPIにしているところもありました。予実に乖離が出た場合、その原因が工場起因の品質トラブルだったのか、物流起因の輸出時のコンテナが十分に準備できなかったのか、もともと営業起因で客先から注文がはいっていなかったのかなど。原因をつきとめるきっかけにできます。以下はSCMのあくまで代表的なKPIですが、その説明をしますので、参考にしてみてください。
一言ヒントを◆で追加しました。
在庫回転率(Inventory Turnover Rate)
- 定義: 一定期間内(通常12ヶ月)に在庫が何回入れ替わったかを示す指標。
- フォーミュラ:在庫回転率=直近12ヶ月売上原価÷当月在庫金額
在庫回転率は、販売と在庫の効率を判断するために使われます。高い回転率は、需要に応じた在庫の適正管理がされていることを示し、低い場合は在庫過剰や需要予測の不正確さを示唆します。
◆業界の在庫回転率を把握するためにも、同業他社と比較し自社の実力をチェックする。他社の在庫回転率は有価証券報告書から算出可です。(P/Lの当期売上原価、B/S:期末月の棚卸試案金額で算出可)
◆全体だけでなく、SKU毎の在庫回転率とABC分析から適正在庫の設定を決めておく。
◆毎月更新していくことで、異常な在庫回転率を早期発見し手を打っていくことができる。
顧客満足度(Customer Satisfaction)
- 定義: 顧客が商品やサービスに対する満足度を評価する指標。
顧客アンケートやレビューを通じて測定される。評価の視点はQCDSで。高い顧客満足度は、リピート購入やブランドロイヤルティに繋がります。
◆製品の品質不良だけでなく顧客からのサービスを含めたクレームも、品質とみなす。
◆カスハラは除外。とくに重要顧客の声を真剣に傾けることがマーケットを知ることにが可。
リードタイム(Lead Time)
- 定義: 注文から納品までに要する時間。
リードタイムの短縮は、顧客の要求に迅速に応える能力を向上させ、競争力を高めます。サプライヤーの選定や内部プロセスの改善がリードタイムに影響を与えます。
◆在庫ABC分析の結果、特にAグループで、なおかつ長納期品のワーストのものを対象に、短縮化を検討してみること。なんらかがボトルネットになっているはずです。
納期順守率(On-Time Delivery Rate)
- 定義: 顧客の要求した日付に納品された割合。
順守率は、供給者のパフォーマンスを示します。高い順守率は、信頼性のあるサプライチェーンを意味し、顧客の信頼を得る上で重要。
◆MTS品は即納体制が当たり前、MTO品は約束回答納期に対しての順守率が現実的。理由は顧客の当初希望納期が、あまりに常識はずれの無理な納期があるため、それは除外しましょう。
輸送コスト(Transportation Cost)
- 定義: 商品を顧客に届けるためにかかる輸送の費用。
輸送コストは、全体のSCMコストに大きく影響します。この指標を管理することで、効率的な輸送方法を見つけ、物流コスト削減に繋げることができます。
◆とくにロジ部門は、物流コストとして、上記の「輸送コスト」と、社内で発生する「社内物流コスト」を分けて管理することをおすすめします。
◆「社内物流コスト」には、倉庫の人件費以外に、入出庫、ピッキング、仕分け、梱包、保管費などがあります。棚に在庫があれば、一分一秒その製品の保管費が発生していることを意識してください。もしその在庫アイテムがCグループの長期膠着在庫品であれば、あなたならどうしますか?
キャッシュフローマージン(Cash Flow Margin)
- 定義: サプライチェーンに関連する資金の流れとその効率性を示す指標。
キャッシュフローマージンが高いと、企業はより良い資金運用ができ、投資や事業拡大の余地が広がります。サプライチェーンの各段階でのキャッシュフローの管理は重要です。
◆キャッシュフローマージン(%)=営業キャッシュフロー÷売上高×100
◆なぜSCMのKPIかというと、営業キャッシュフローのひとつに、売掛金、在庫、買掛金の変動によるキャッシュフローの増減が含まれるためです。たとえば、在庫が減ると現金が増え、プラスになります。サプライヤーとの支払い条件の交渉で支払いサイトを長くすれば、現金が増えることになります。
◆ただ、ここまでの話で気がついている読者がいると思いますが、隠れたキャッシュフローがSCMの工程にはたくさんあるということ。あるクライアントでしたが、資材倉庫が整理されていないため、いざ出庫となって必要な部材を探すのに構内外まで数時間もさがしているということもありました。FIFO(先入先出)の原則もなく、こういった整理・整頓が実は大事であることがわかります。
これらKPIは、経営者であれば、すべてチェックする必要ありますが、SCMの現場担当者であれば、その年度の部門目標などに基づいて、2~3つぐらい選定すればいいのではないかと思います。あまりたくさんあっても、現場は混乱しますので要注意です。
SCMデジタルツールあれこれ
いよいよ、みなさんお待ちかね!成功事例の企業が採用している最新デジタルツールについて、少し触れておきたいと思います。スマート工場、スマート倉庫なども非常に興味深いですよね。
デジタルの基本となるもの
デジタルツールの説明の前に、デジタルインフラとよぶにはさまざまなものがありますので、とくにSCMに関連する以下5つのものを説明しましょう。
- IoT(モノのインターネット):
センサーやデバイスがインターネットを介して相互に接続され、データの収集や共有を行う技術です。これにより、リアルタイムの情報取得や遠隔操作が可能となり、さまざまな分野での効率化や新たなサービスの創出が期待されています。例として、スマート家電や自動運転車があります。
- AI(人工知能):
AIは「Artificial Intelligence」の略で、コンピュータが人間の知能を模倣し学習、推論、判断、問題解決を行う技術のことです。機械学習やディープラーニングなどの技術を活用し、画像認識、自然言語処理、自動運転など、多岐にわたる分野で応用されています。
- ビッグデータ:
大量かつ多様なデータセットのことで、従来のデータ処理手法では扱いきれない規模のデータのことです。これらのデータを分析することで、ビジネスの洞察や新たな価値の創出が可能となります。例として、オンラインショッピングでのレコメンド機能があります。
- モバイル:
携帯電話やタブレットなどの携帯型デバイスを指し、これらを活用したモバイル技術やサービス全般を指します。モバイル技術の進化により、いつでもどこでも情報の取得やコミュニケーションが可能となりました。
- 5G:
第5世代移動通信システムの略称で、従来の通信規格よりも高速・大容量・低遅延の通信を実現します。これによりVRやAR*, IoTデバイスの増加や高品質な動画配信、自動運転などの新たな技術の普及が期待されています。
- インダストリアル4.0:
ドイツで提唱された第4次産業革命を指す概念で、IoTやAI、ビッグデータなどの先進技術を活用し、製造業の高度な自動化や効率化を目指す取り組みです。これにより、スマートファクトリーの実現や効率的な生産プロセスによる生産の最適化が進められています。
これらの技術や概念は相互に関連し合っており、またSCMとオペレーションとの連携がより密接になります。優れているところは、現状を迅速に的確に数値で把握するだけでなく、ある程度未来をも予測できるツールとなるため、すべての産業や社会の革新を推進していくことになると思います。みなさんも実感されているかと思いますが、アマゾンやインターネットでも、自分が検索したログや、購入した経緯から、自分の趣向にあったPRや推奨をしてくる。
活躍するSCMデジタルツール
販売分析、需要予測、在庫最適化にデジタルツールが活躍しています。
1. AIを活用した需要予測と在庫最適化
AIにより、過去の販売データや季節性、プロモーション情報など多様な要因を分析し、高精度な需要予測が可能となり、在庫の過不足を防ぎ、効率的な在庫管理が可能になる。
2. IoTによるリアルタイムな在庫管理
IoT技術を活用することで、倉庫内の在庫状況をリアルタイムで把握できます。センサーやRFID(無線ICタグ)を商品に取り付けることで、在庫の入出庫や現在の数量を即時に確認でき、在庫管理の精度と効率が向上。
3. ビッグデータを活用したマーケット動向の把握と在庫管理
ビッグデータを分析することで、顧客の購買傾向や市場のトレンドを把握し、需要予測の精度を高めることが可能です。これにより、在庫の最適化やマーケティング戦略の強化が実現します。
例を挙げましょう。
- トヨタ:
トヨタは、AIを活用して需要予測を行い、生産計画や在庫管理を効率化しています。特に、トヨタ生産方式と連携し、部品の在庫や将来の需要をリアルタイムで把握するシステムを導入しています。
- アサヒビール:
アサヒビールは、AIを活用した需要予測システムを導入し、新商品の需要予測精度を向上させています。この取り組みにより、年間約3億円のコスト削減効果を試算しています。
- ユニクロ:
ユニクロは、Googleと共同でAIを活用した需要予測モデルを開発し、在庫管理や生産計画の最適化を実現しています。これにより、必要なタイミングで必要な量を生産・供給する効率的なサプライチェーンを構築しています。
- 花王:
花王は、AIを活用して新製品の需要予測モデルを開発し、需要計画の精度向上を図っています。これにより、過剰在庫のリスクを低減し、在庫管理の効率化を実現しています。
補足:デジタルツインについて
最近デジタルツインという技術が注目されてます。現実世界の物理的な対象(工場、製品、設備、システムなど)を仮想空間上に再現し、リアルタイムでモニタリングやシミュレーションを行うことができる技術です。
これにより、現実世界での実験や検証が困難な状況でも、仮想空間内でのシミュレーションを通じて問題解決や新技術の開発が可能。 デジタルツインは、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの先進技術を組み合わせ、リアルタイムで収集されるデータを活用し、物理的なモノの状態や動作を正確に反映する仕組みです。この技術により、将来の問題を予測し予防できるようになります。例えば、機械の故障や生産ラインのボトルネックを予測することが可能。そのため、問題が発生する前に予防対策を打つことが可能。また工場のラインなど、モノやプロセスをリアルタイムでモニタリングすることで、迅速な対応が可能となり、生産性や安全性の向上につながります。
スマート工場とは:
インダストリアル4.0の中核的な要素であり、IoTやAI、ビッグデータ、ロボットなどのデジタル技術を活用して生産プロセスを自動化・最適化した次世代型工場を指します。これにより、従来の工場よりも効率的かつ柔軟な生産が可能になります。
例:アサヒビールのスマート工場
同社はAIやIoT技術を活用した「スマートビール工場」の実現に向けて取り組んでいます。
具体的な取り組みの一例として、2024年8月に明石工場に約85億円を投じて新たな製造棟と『次世代SMART・ライン』を導入しました。 この新ラインは、従来の製造ラインと比較して約60%の人員で稼働可能であり、約20%の省スペース化を実現しています。さらに、設備の連結によりコンベヤーの使用を最小限に抑え、ボトル搬送に必要な電力を約40%削減しています。これにより、容器のさらなる軽量化が可能となり、持続可能な容器包装の実現に向けた取り組みを強化しています。また、スマートなオペレーション業務の確立を目指し、製造工程で発生する廃棄物搬送の自動化や管理日報のペーパーレス化、デジタル技術を活用した品質保証能力の強化など、従業員の生産性向上にも取り組んでいます。これらの取り組みにより、アサヒビールは生産効率の向上、省エネルギー化、持続可能な生産体制の構築を推進しています。
ラストワンマイル(物流業界の共通課題 )とは:
物流業界における「ラストワンマイル」とは、物流の最終拠点からエンドユーザー(顧客)に商品が届くまでの最後の配送区間を指します。 この区間は、配送センターや物流拠点から消費者の手元に商品が届くまでの最終工程であり、物流全体の中でも特に重要な部分とされています。 ラストワンマイルは、物流コスト全体の約3割を占めるとも言われており、効率化が求められる領域です。また、消費者との直接的な接点であるため、サービス品質や顧客満足度に直結する重要なフェーズでもあります。近年のEC市場の拡大に伴い、ラストワンマイルの効率化とサービス向上が物流業界全体の課題となっています。
例 ヤマト運輸の挑戦:
同社はAIやデジタルツールを活用してこの課題に取り組んでおり、業務効率化やサービス向上を推進しています。
- 配送業務量予測と適正配車システムの導入:
ビッグデータとAIを活用し、顧客ごとの日々の配送業務量を予測するシステムと、適正な配車を行うシステムを開発・導入しています。これにより、業務効率化とサービス品質の向上を図っています。
- AIオペレーターによる集荷受付:
電話での集荷依頼の一次受付として、AIオペレーターを導入しています。2020年11月に法人向けサービスを開始し、2021年1月にはエリアを拡大、4月からは個人向けサービスも開始しました。これにより、コールセンターの負荷軽減と顧客満足度の向上を実現しています。
- MLOpsの導入:
約6,500の宅急便拠点における数カ月先の業務量を予測するAIを開発し、MLOps(機械学習の運用自動化)を導入しています。これにより、AIモデルの運用効率化と精度向上を実現しています。
- LINEを活用したチャットボットサービス:
2018年にチャットアプリ「LINE」を利用したサービスを拡充し、チャットボットを活用して荷物の配達時間などをお知らせする取り組みを行っています。これにより、業務の効率化と顧客への利便性向上を図っています。
スマート倉庫とは:
スマート倉庫とは、最新のテクノロジーを活用して効率的に管理・運営される倉庫のことを指します。以下のような特徴があります:
- 自動化技術: ロボットや自動運搬機が物品の仕分けや移動を行い、作業を効率化する。
- IoTセンサー: 温度や湿度、在庫状況をリアルタイムでモニタリングし、最適な状態を維持する。
- AI(人工知能): 在庫管理や需要予測を行い、作業効率を最大化させる。
- クラウドベースのシステム: データを一元管理し、どこからでもアクセス可能にする。
これにより、人手不足の解消やコスト削減、作業ミスの防止など、多くのメリットを提供します。物流業界や小売業で特に注目されています。
例 アマゾン KIVAロボット:
同社は2012年にKiva Systemsを買収し、倉庫内の自動化を推進しました。Kivaロボットは商品棚を持ち上げて作業員のもとへ運ぶ自律移動型ロボットで、これにより作業員が倉庫内を歩き回る必要がなくなり、効率が大幅に向上しました。 この導入により、倉庫運用コストを約20%削減し、1拠点あたり約2200万ドルのコスト削減を実現しました。 さらに、ロボットの導入により、作業員の負担軽減や生産性向上が図られています。 アマゾンは、倉庫内の自動化を積極的に進めており、2025年までに約750,000台のロボットを導入しています。これらのロボットは、商品のピッキングや仕分け、搬送など多岐にわたる作業を担当し、効率化とコスト削減に寄与しています。
ブロックチェーンとは:
ブロックチェーンとは、データを「ブロック」と呼ばれる単位でまとめ、これらのブロックを鎖(チェーン)のように連結して記録する技術のこと。 この構造により、業者間の取引データの改ざんは極めて困難であり、上流から下流まで高い信頼性と透明性を持つ分散型のデータベースとして機能します。
仕組みは以下のとおりです。
- 取引の発生:ユーザー間で取引(トランザクション)が行われると、その情報がネットワーク上に送信。
- 取引の検証:ネットワーク内の複数のコンピューター(ノード)が取引の正当性を確認。
- ブロックの生成:検証された取引情報が一定数集まると、新たなブロックが生成。
- ブロックの連結:新しいブロックが既存のチェーンに追加され、取引履歴が時系列で連続的に記録。
SCMにおけるブロックチェーンの活用:
商品の生産から流通、販売までの全過程をブロックチェーンで記録し、透明性と追跡性を確保することが可。
- データ共有の効率化:企業間で共有すべき最低限の情報を安全かつ効率的に共有できる。
- トレーサビリティの向上:製品の加工履歴や移動履歴、受渡履歴をブロックチェーン上に記録することで、異常があればすぐに検出でき、不正防止や品質管理に役立つ。
例 アディダスの挑戦
アディダスは、ブロックチェーン技術を活用して、原材料から完成品までの動きをマッピングし、ロットレベルでほぼリアルタイムのトレーサビリティを確立。これにより、商品のサステナビリティ指標を自動的に計算し、責任ある原材料調達を証明。運用開始から4か月間で、8,000施設で1万点におよぶ素材と商品にわたる100万件以上の取引を管理し、手作業によるコストを最小限に抑えることができたとのこと。これによりサイクルポリエステル100%移行や商品10点中9点に持続可能なテクノロジー、素材、デザイン、製造方法を採用するなど、サステナビリティ指標を高めている。
デジタル時代のリスクについて
駆け足でデジタルツールの紹介と実例などもさらっと見てきましたが、メリット面も多い反面、以下サイバーセキュリティの問題はじめクラウドの仕様はコスト安で、とっつき易いので流行りではありますが、以下のリスクがつきまといます。
IT専門チームでの対応を常に怠らないようにすべきです。また、もし発生したときの対応や
アクションも事前に決めておく必要があります。
- サイバー攻撃:
ランサムウェア攻撃、フィッシング詐欺、DDoS攻撃など、システムを狙った悪意のある行為が増えています。特にDXではネットワークに依存する部分が増えるため、攻撃対象が広がります。
- データ漏洩:
社内外の重要データ(顧客情報、経営情報など)が不正アクセスやシステムの脆弱性を通じて漏洩する可能性があります。
- クラウド利用のリスク:
クラウドサービスにデータを保存する際、運営者側のセキュリティが破られると甚大な被害につながります。
- 内部リスク:
従業員による意図的または無意図的な情報漏洩や、不適切なアクセス管理がリスク要因です。
- IoT機器のセキュリティ:
IoT(モノのインターネット)機器はセキュリティが甘い場合が多く、それが攻撃経路になることがあります。
おわりに
5回にわたってSCMに関する記事を担当させていただきました。説明不足のところも多いと思いますが、これをきっかけに、SCMに興味をもっていただければ幸甚です。また改めて気がついたのですが、SCMを語りだすと企業経営そのものに直結する話が多いということ、そのため営業やオペレーションはじめ、ITや財務の部門とも、多くの連携プレーが必要であることも再度認識した次第です。
確かにSCMは複雑に見えるのですが、最初に申し上げたように、材料調達から製品の出荷までのEnd To Endプロセスにおけるトータルキャッシュフローマネジメントであるということを念頭に、それ自体の活動がすべてSCMであり、経営に直結していることを意識していただければ、私の主旨は伝わったことになります。
また本来のSCMの視点は、部分最適ではなく全体最適を意識しているということです。みなさまの所属される会社が、このSCMの視点をもち一層の競争力をつけられ、マーケットというある意味生き残りをかけた厳しい戦場で、常に戦果をあげられんことをお祈りしております。
ありがとうございました。
補足:言葉の解説
KPI
KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)とは、企業や組織が目標を達成するために、その進捗状況やパフォーマンスを定量的に評価するための指標を指します。
大手企業
「大手企業」に明確な法的定義はないが、一般的には以下のような基準で判断されている。
1. 従業員数:1,000人以上の従業員を抱える企業が一般的に「大手企業」とみなされることが多い。
2. 売上高:売上高が1,000億円以上ある企業は大手とみなされる傾向があります。
3. 資本金:10億円以上の資本金を持つ企業は大手企業とされることが多い。
4. 上場の有無:東京証券取引所プライム市場(旧・東証一部)に上場している企業は大手企業と見なされることが多い。
5. 業界での影響力:各業界でトップクラスのシェアを持つ企業や、広く知名度がある企業も「大手」とされることが多い。
グローバル企業
「グローバル企業」には明確な法的定義はありませんが、一般的に以下のような特徴を持つ企業を指します。
1. 海外市場での事業展開
- 複数の国・地域で事業を展開していることが基本要件。
- 単なる輸出企業ではなく、海外に支社・工場・販売拠点などを持つ企業が多い。
2. 売上の一定割合が海外から
- 総売上の30%以上が海外市場からの収益である企業は、グローバル企業と見なされやすい。
- 例えば、トヨタ自動車は売上の約70%が海外市場から。
3. 多国籍な経営体制
- 経営陣や従業員が多国籍で構成されている。
- 本社がある国だけでなく、海外子会社のトップにも現地出身の経営者を起用するケースが多い。
4. 国際的なブランド・知名度
- 世界中で知られるブランド力を持ち、グローバルな競争力を有する。
- 例: Apple, Google, Toyota, Unilever, Samsung など。
5. 国際的な資本市場での上場
- 日本企業の場合、ニューヨーク証券取引所(NYSE)やNASDAQに上場していると、グローバル企業としての認知度が高まる。
- 例: ソニー、トヨタ、ホンダなどはNYSEにも上場。
6. 世界的なサプライチェーンと調達網
- 生産拠点やサプライチェーンが国境を越えて広がっている。
- 例: アップルは部品調達を世界各国で行い、最終組み立てを中国で実施。
7. 国際的なCSR(企業の社会的責任)への取り組み
- 環境問題、人権問題、持続可能性などに関して国際基準での責任を果たす。
- 例: SDGsへの取り組み、カーボンニュートラル戦略など。
まとめ
単に海外に進出しているだけでなく、売上・ブランド・経営・市場・サプライチェーンなど、多方面でグローバルな視点を持つ企業が「グローバル企業」と呼ばれます。
SWOT
SWOT分析とは、企業や事業の戦略を立てる際に使われるフレームワークで、「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」の4つの視点から分析する手法です。
SWOT分析の4要素
- Strengths(強み):企業や事業の内部要因で、競争優位性を持つ要素
- 例:ブランド力、技術力、コスト競争力、独自のノウハウ
- Weaknesses(弱み):企業や事業の内部要因で、改善が必要な要素
- 例:認知度の低さ、人材不足、財務の脆弱性、設備の老朽化
- Opportunities(機会):外部環境の変化がもたらすプラスの要因
- 例:市場の成長、規制緩和、新技術の登場、海外展開のチャンス
- Threats(脅威):外部環境の変化がもたらすマイナスの要因
- 例:競争の激化、原材料価格の上昇、法規制の強化、景気後退
SWOT分析の活用方法
- 内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)を整理することで、企業の立ち位置を明確にする
- 「強み × 機会」の組み合わせを活かして、成長戦略を立てる
- 「弱み × 脅威」の組み合わせを改善し、リスクを軽減する
- 競争戦略や新規事業の方向性を決める際に活用
VRとAR
VR(Virtual Reality、仮想現実)とAR(Augmented Reality、拡張現実)は、現実世界と仮想世界を融合させる技術ですが、そのアプローチや体験内容に違いがあります。
- VR(仮想現実): VRは、ユーザーを完全に仮想の環境に没入させる技術です。専用のヘッドセットやゴーグルを装着することで、視覚や聴覚を通じて現実とは異なる3Dの仮想空間を体験できます。これにより、ユーザーは仮想世界での探索や操作を行うことが可能となります。
- AR(拡張現実): ARは、現実の風景にデジタル情報を重ね合わせて表示する技術です。スマートフォンやタブレットのカメラを通じて現実世界を映し、その上にテキストや画像、3Dモデルなどの仮想オブジェクトを表示します。これにより、ユーザーは現実世界を拡張した新たな体験を得ることができます。
- これらの技術は、エンターテインメントや教育、医療、製造業など、さまざまな分野で活用されています。
参考文献&資料
デジタルツイン
スマート工場
ラストワンマイル
アマゾン KIVAロボット倉庫
ブロックチェーン