現場改善ラボ 記事一覧 お役立ち情報 専門家コラム 【専門家解説】サプライチェーンマネジメント(SCM)とは?基本概念と仕組みをわかりやすく解説

今ではSCM(サプライチェーンマネジメント)という言葉は、様々なメディアで毎日のように目にするようになり、耳にも入ってくるようになりましたが、国内外問わずSCMの実務に携わってきた私から見ると、まだまだ企業の現場では、その本質に迫り切れていないのが現状と思っております。

そこで本記事では、私なりの現場視線で「SCMの本質」に少しでも迫ることができればと思います。
※当メディア「現場改善ラボ」にてSCMの実践ヒントや事例に関する連載記事を執筆しております。本記事は「1記事目」です。


▼執筆者
リソース・グローバル・プロフェッショナル・ジャパン株式会社
RGPコンサルタント 木内 祥二

大学卒業後、住友電気工業に入社。海外部にて子会社の拡販支援を担当。その後オーストラリアに留学しMBAを取得。コスト削減のケーススタディでSCMと出会う。帰国後は様々な業種の外資系企業でSCMの実務を経験。現在はRGPのSCMコンサルタントとして活動中。

SCM(サプライチェーンマネジメント)との出会い

SCMの定義や本質について言及する前に、SCMとの出会いについて紹介させてください。

私がはじめてSCMに出会ったのは、‘90年はじめに海外の大学で管理会計学のケーススタディの授業の時でした。その時の衝撃といったら、非常に興奮した記憶があり、これは日本では大学でも一般社会にも知らされていない理論だと、自分自身、早く帰国して日本に知らせねばならないと思ったほど衝撃的でした。

というのも、その時は日本が世界から脚光を浴び、‘79年エズラ・ヴオーゲル著の「Japan as number one」が有名になり、80年代に日本がバブル期の絶頂期でもあった背景もありますが、当時アメリカは産学一体で深く反省し、日本に追いつけとばかり日本経営を徹底的に研究していたタイミングで、90年にはMITの教授陣がアメリカ再生のための米日欧産業比較書とされる「Made In America」がレポートされてます。

そして、その少し前の84年にSCMの根幹思想をなすゴールドラット氏による「ザ・ゴール」が出版されました。当時、ゴールドラット氏は日本がこれ以上強くなることを恐れていたため、日本語訳が故意に遅らせ17年後の2001年にようやくなされたといわれてます。

SCMの定義 – 供給から消費までの一連の流れを最適化

まず、SCM(サプライチェーンマネジメント)の概念について触れていきましょう。有名かつ権威ある団体による定義を2つご紹介します。

ASCM(Association for Supply Chain Management)によるSCMの定義

最初に、SCMやオペレーション管理の専門知識を提供する、世界的に権威のある専門組織米国のASCM(Association for Supply Chain Management)によれば、「価値提供活動の初めから終わりまで、つまり原材料の供給者から最終需要者に至る全過程の個々の業務プロセスを、一つのビジネスプロセスとしてとらえ直し、企業や組織の壁を越えてプロセスの全体最適化を継続的に行い、製品・サービスの顧客付加価値を高め、企業に高収益をもたらす戦略的な経営管理手法」と定義されてます。

グロービズ経営大学院によるSCMの定義

次に、日本最大級のビジネススクールであるグロービス経営大学院によれば、「調達、製造、発送、販売といった各プロセスでの在庫量や滞留時間などを削減することで、顧客には最短かつタイムリーに製品を供給し、また、業界全体としてリードタイムの縮小、在庫の縮小、設備の稼働率向上などによるコスト削減、経営の効率化を目指す。」と定義されてます。

SCMの本質的な定義とは

もちろん、どちらも正しいのですが、なんとなくピンとこないという方のために、私なりの現場視線でまとめます。ずばりSCMの本質を定義しますと、「調達から出荷までのキャッシュフローをマネージする」ということなんです。

ようするに、余計な出費の原因となるムリ、ムダ、ムラ(3M)は省きましょう、取り除きしょうという管理であり、活動なんです。

SCM(サプライチェーンマネジメント)の歴史

ちょっと、SCMの歴史もちらっと見ておきましょう。SCMという言葉は、1982年に米国のコンサル会社ブース・アレン・ハミルトンのK.R.オリバーとM.D.ウェバーが、初めて用いたとされています。企業の競争力を高めるための重要な戦略として発展してきました。その少し前からSCMが生まれる前兆がありました。

  • 1960年代:物流の最適化に関心が集まり、在庫管理や輸送コストの削減が注目される。
  • 1980年代:情報技術の進化により、サプライチェーン全体の可視性が向上し、統合的な管理が可能となる。
  • 1990年代:グローバル化が進む中で、国際的なサプライチェーンの構築が重要視される。
  • 2000年代以降:インターネットとデジタル技術の普及により、リアルタイムのデータ分析や予測が可能となり、さらに最近ではAIを駆使して販売予測などの精度向上へと挑戦が続いている。

80年代から90年代はじめにかけての米国では、危機に直面した大手伝統的なスーパーマーケットウォ―ルマートやZARAなどでQR(Quick Response), P&Gなどは ECR(Efficient Consumer Response)にビジネスモデルがヒットし起死回生のツールとなりました。これはどういうツールか簡単にいいますと、需要の変化に迅速かつ柔軟に対応するために、サプライチェーン全体で情報共有とプロセスの効率化を図る戦略的な供給手法と言えます。まさに消費者起点がSCMの始まりであり、このQRとECRが発展してSCMと言われるようになったとも言われております。

供給者側の勝手な都合でも作れば売れる量産時代は終わり、少量多品種の時代に最終顧客を起点にしたデマンドに同期化するSCMを実現できるオペレーションが企業の生き残りにつながる。そういう意味では、サプライチェーンという表現よりはデマンドチェーンという方が、個人的にはSCMの本質に近いと思っております。

SCM(サプライチェーンマネジメント)の目的 – コストにおけるムリムダムラの徹底排除

これまで、数社のグローバルな外資系の事業会社でSCMの統括責任者に携わってきましたが、どのCEOも、本社から来日されると「とにかく売上アップ、コストダウンに尽きる」とニコニコしながら言います(笑)。たしかに企業の組織は、大きくわけるとRevenue(売上)センターとCost(費用)センターという2つに分けられますが、SCMはまさに後者のCostセンターにあたります。コストアップになる要素を点検していくと、もちろん最初は原材料のコスト低減が徹底されるのですが、すぐに限界がきます。次点で点検するのが「調達から出荷までのプロセス工程におけるムリ、ムダ、ムラ」であり、ここを見渡すとやたら問題が見つかるんです。

SCMの目的はというと、「製品やサービスが消費者に届くまでのプロセス全体を最適化し、企業の競争力を高めること」 です。サプライチェーンには、原材料の調達、生産、物流、販売、顧客サービス など、複数のプロセスと各部門関係者、取引先も含めて関わっており、それらを効率的に管理すること、すなわちキャッシュフローを最小化すること、これに他なりません。

このSCMの目的のエッセンスがすべてつまっている書籍が冒頭にすこし触れました「ザ・ゴール」というゴールドラット著作の本です。是非、みなさん、SCMやオペレーションに従事される方だけでなく、将来経営を目指される方も含め、この本を一読することをおすすめします。

補足:SCMの根幹思想をなす「ザ・ゴール」について

「ザ・ゴール」の紹介を簡単にしますと、本社から売上を増加させないと工場を閉鎖すると通告を受けた工場長の主人公アレックスが、工場の売上を伸ばすため奔走するストーリーです。工程間の制約(ボトルネック)解消が売上に直結すると考えた彼は、TOC(theory of constraints)制約理論に基づいて、生産システムにおける制約(ボトルネック)の特定と最適化に焦点を当てます。

その結果アレックスは、工場の制約条件がプレス機であることを特定し、プレス機の稼働率を向上させる対策を講じ、成功を掴みます。そしてアレックスは従来の目標を「コスト削減」という経営指標から、より戦略的な目標である「利益最大化」に再定義します。これによって、ビジネスの長期的な成功を追求する姿勢が強化されました。

この話はサプライチェーンの全体最適化にも通ずると私は考えています。たとえば、購買部門が自部門の目標達成のためコストダウンに奔走するケース。材料が10個必要な状況のなか、取引先から「100個購入すれば10%値引きする」という提案があったとします。購買部門は値引きに魅力を感じ、100個購入しました。しかし、実際に使用したのは10個のみで、残りの90個は不良在庫となり、最終的には廃棄処分となるようなケースです。

確かに、購買部門は10%のコストダウンを達成したように見えます。しかし、会社全体で見ると、90個分の【不要な材料費】に加え、【保管コスト】と【廃棄コスト】まで発生しました。これらのコストは10%の値引き効果を打ち消し、最終的には、より大きな損失を招いています。

全体最適を担うマネジャーは常に、部分最適に走りやすい個々の部門を管理する必要があると言えるでしょう。

本当かうそか定かではありませんが、「日本人は、部分最適の改善にかけては世界で超一級だ。その日本人に『ザ・ゴール』に書いたような全体最適化の手法を教えてしまったら、貿易摩擦が再燃して世界経済が大混乱に陥る」というのが、日本語訳の出版を拒否し続けたゴールドラット氏の理由らしいです。

SCMと物流(ロジスティクス)の違い – より広範な視点で捉える

SCMというと物流のことではないかと思っている方のために、物流にすこし目を向けて説明します。物流2024年問題が話題になり、昨年ほど物流がメディアで頻繁に取り上げられた年はないくらいでした。

2024年問題とは

再度おさらいすると、2024年4月から施行された「働き方改革関連法」に基づき、トラックドライバーの時間外労働時間に上限規制が適用されることで、物流業界全体に大きな影響を及ぼす課題のことです。

これは、単なる業界の問題にとどまらず、消費者の日常生活や企業のサプライチェーン全体にも影響を及ぼす可能性がありました。物流各社がこの時とばかり、一斉に従来の運賃取引価格の値上げ攻勢にやってきて、対応を迫られたのは読者のみなさんも経験されたかと思います。現在も、この問題は継続して対策がとられている状況です。ここで、SCMと物流と違いについて触れておきたいと思います。

改めて、物流(ロジスティクス)とは?

物流とは、物品の移動や保管に関わる一連のプロセスのことを指します。具体的には、商品が生産者から消費者に届くまでの間に行われる以下のような活動を含みます。物流というと輸送だけと思っている方もおりますが、輸送だけではありません。以下の5つの要素があるのです。

  • 輸送:商品を出発地点から目的地まで運ぶプロセス。トラック、鉄道、船舶、航空機などの輸送手段が使用されます。
  • 保管:商品を一時的に保管すること。倉庫や配送センターで行われます。
  • 在庫管理:保管中の商品数量を管理し、需要に応じて適切な量を維持すること。
  • 包装:商品を安全に輸送できるように包装すること。
  • 配送:最終的に消費者の手元に商品を届けるプロセス。

物流は、効率的で経済的な物品の流れを実現するために重要な役割を果たしており、企業の競争力を高める要因となっています。これら一つ一つの活動にコストが発生します。物流問題もこれらの各活動に細分化して、各業者がトラックから鉄道や内航船の活用を高めていくモーダルシフト、またトラックの自動運転の挑戦や、リサイクル可能な包装箱に切り替えるとか、エネルギー効率の高い建物や、太陽光発電や風力発電を活用した物流施設の建設など、一層の工夫を迫れられていくステージに入っております。

SCMと物流との大きな違い

SCMと物流の違いは、今までは物流は一企業内の活動領域であるのに対して、SCMは製品設計、商品開発や財務会計までマネジメント範囲を広げ、調達、生産、販売、流通を経て製品が消費者にわたるまでのモノと情報の流れを管理する範囲の広さの違いを指摘されておりましたが、昨今では、両者ともさらに進んで、一企業の壁を超えて業界としての仕組み構築に主眼が置かれていると言えます。

ロジスティクスはそもそも兵站(へいたん)という軍事用語から来ています。補給・輸送・管理という3つの要素から成立つ総合的な軍事業務で、戦闘地帯へ後方から必要な物資や兵員を配置するといった活動全般を言います。戦闘地帯への兵力・兵器・武器弾薬・食料を補給する上では、敵に対して優位になるように、これらの戦争資源をよりスピーディに補給(サプライ)することであり、まさにサバイバルのためのサプライチェーンと言えるのです。

ビジネスシーンにおいても販売の前線にマーケットの需要と同期化(シンクロナイズ)すべく、製品がタイムリーに供給されていなければ、ビジネス戦争には勝てないということになります。

補足:グローバルSCM(サプライチェーンマネジメント)とは?

いままでSCMの定義、目的、歴史をみて、またとくに話題となっている物流(ロジスティクス)との違いなど、基本的なSCMの知識はさらっと共有できたと思います。そこで、もうひとつ最近グローバルサプライチェーンという言葉もよく耳にすると思いますので、その内容や概念について、ここで少し触れておきたいと思います。

グローバルという言葉から、ご想像のとおり、サプライチェーンの活動が一国にとどまらず、諸外国にわたって展開することがあります。具体的には、サプライチェーンを国内拠点に限らず、世界規模で原材料の調達から販売まで行なうことを指します。世界のリーディングカンパニーは、デジタル化・自動化・サステナビリティを活用した先進的なサプライチェーン戦略をグローバルに展開しております。

さいごに

本記事では、SCMの本質に迫るための発信を私なりの視点でまとめました。サプライチェーンにおけるムリムダムラを排除することがSCMであると言えばそれまでですが、それに至るまでのプロセスは大変煩雑でハードルが高く、数多の企業がSCM最適化に苦戦しています。

そこで次の記事では、SCM最適化を実現するためのヒントについて言及します。

▼参考文献
・Japan as No1(1979.1.1):エズラ・ヴオーゲル
・Made In America(1990.3.5):M.L. ダートウゾス, R.K. レスター他
・The Goal(2001.5.18):エリヤフ・ゴールドラット
・P&Gに見るECR革命: 経営改革への決断(1989.9.1):山崎康司  
・製造業の輸送改善:(2018.3.30):仙石恵一
・現場でできる物流改善(2002.12.20)花房陵
報道発表資料:「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を策定しました – 国土交通省
・ブロックチェーン:総務省|平成30年版 情報通信白書|ブロックチェーンの概要
・インダストリアル4.0:総務省|平成30年版 情報通信白書|インダストリー4.0とは

▼参考団体、組織、KeyWord
・ASCM:Association for Supply Chain Management – ASCM
・グロービス経営大学院:グロービス経営大学院(ビジネススクール)|創造と変革のMBA
・ブース・アレン・ハミルトン:Booz Allen
・QR(クイックレスポンス):ウォルマートのデジタルトランスフォーメーション | KGI Official Blog
・ECR:ECR(いーしーあーる):情報マネジメント用語辞典 – ITmedia エンタープライズ

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