予防保全とは、定期的に保全業務を行い、機械や設備の安定稼働を目指す活動のことです。一方、予知保全は、機械や設備の故障や不具合の予兆を検知し、検知したタイミングで保全業務を行う活動のことです。
定義だけ聞いても、
「予防保全と予知保全の具体的な違いは何?」
「予防保全と予知保全は具体的に何をするの?」
「予防保全と予知保全以外の保全活動ってあるの?」
といった疑問もあるはず。
そこでこの記事では、予防保全と予知保全の定義と運用方法、さらに保全活動によるメリットとデメリットについて詳しく解説します。また、予防保全と予知保全以外の保全活動も合わせて紹介します。
予防保全と予知保全はどちらとも、機械や設備が故障する前に行う保全活動のことですが、細かい違いがあります。この記事を読んで、違いや手法、保全の種類と適用例について理解を深め、現場改善を実現させましょう。
目次
予防保全とは
予防保全とは、工場の機械や設備の故障や不具合を防ぐために、決められた時期に決められた内容の保全活動を行うことです。PM(Preventive Maintenance)と呼ばれることもあります。
故障や不具合が生じてから保全活動を行う事後保全では、予期せぬ故障、トラブルの影響を受けてしまい、生産計画通りに業務が進まないといった事態を招きかねません。そのため、ダウンタイムを短くし、安定して現場が稼働するためには、予防保全の導入が不可欠です。
例えば、ある製造業の工場では、予防保全を導入し、突発的な故障によるダウンタイムが大幅に減少しました。結果として、生産性が向上し、コスト削減にもつながりました。また生産設備の不具合に気づかずに生産することによる不良品の発生を抑止し、品質の向上にも役立っています。
関連記事:設備保全とは?種類と考え方、取り組む重要性や事例を解説!
予知保全とは
予知保全は、近年期待される理想ともいえる設備保全で、定期的な保全活動や、事後保全でもなく、トラブルが起きそうなタイミングを予知し先手を打つ保全活動です。
近年、急速に発展を遂げたAI技術の予兆検知モデルや機械学習モデルを活用し、設備のトラブルを予知することが研究されています。現在、予知保全で活用されている機器としては、
- IoTセンサー
- 加速度センサー
- AEセンサー
- 電流センサー
この5つが代表的です。
IoTセンサーの活用
IoTセンサーは、設備の状態をリアルタイムで監視し、異常を早期に検知することが可能です。例えば、温度センサーは設備の温度上昇を検知し、予期せぬ故障を防げます。
関連記事:IoT をわかりやすく解説!普及した背景や今後の動向も交えて解説!
加速度センサーの活用
加速度センサーは、設備の振動を検知し、異常な振動が発生した場合に早期に警告することが可能です。例えば、モーターの異常な振動を加速度センサで検知し、モーターの故障を予防できます。
AEセンサーの活用
AE(Acoustic Emission)センサーは、設備から発生する超音波を検知し、異常を早期に検知することが可能です。例えば、ベアリングの異常音を検知し、ベアリングの故障を予防できます。
電流センサーの活用
電流センサーは、設備の電流を監視し、異常な電流の流れを早期に検知することが可能です。例えば、過大な電流が流れていることを検知し、電子部品の故障を予防できます。
事後保全とは
事後保全とは、設備や機器が故障やトラブルを起こした後に対処する保全のアプローチで、機械や設備などの故障や障害が既に発生した後に、その被害を最小限に抑え、できる限り早く機械を復旧させるための活動を指します。トラブルをできる限り早く解消し稼働率を上げるために、事後保全も大切と言えるでしょう。
特定の設備が故障したとしても、影響が生産全体に及ばない場合や、故障の頻度が非常に低い場合などは、事後保全が適切な選択となる場合もあります。
機械の故障や障害が発生した場合に不可欠な対応手段ですが、予防保全との組み合わせによって製造業の効率性と生産能力を最適化させ、稼働率を上げることが重要です。
関連記事:稼働率の計算方法は?可動率との違いや目安、改善策、改善事例を解説!
予防保全と予知保全の違い
予防保全と予知保全の違いは主に、
- 保全のタイミングの違い
- 保全のきっかけの違い
の2つの違いがあります。
保全のタイミングの違い
予防保全は定期的に行われ、予知保全は故障や不具合の予兆を検知したタイミングで実施されます。つまり予防保全と予知保全は、実施のタイミングが違います。
予防保全はあらかじめ定められたスケジュールに基づいて行われる定期的な保全業務を行うことで、工場の機械や設備の故障や不具合を防ぐ活動で、機器の劣化や故障を未然に防ぐことが狙いです。
一方、予知保全では工場の機械や設備をデータやセンサーによりリアルタイムに監視を行い、機器の振る舞いに変化が生じたり、異常が検知された際に保全業務を行うことで、故障の発生を未然に防ぎます。
例えば、予防保全では、機械の使用時間や稼働回数に基づいて、定期的に潤滑油の交換や部品の点検を行います。対して、予知保全では、IoTデバイスやセンサーを用いて機械の振動や温度をリアルタイムで監視し、異常なパターンを検知した場合にのみ、保全活動を行うという違いがあります。
保全のきっかけの違い
予防保全のきっかけは「時間」または「使用状況」であり、予知保全のきっかけは「機器の状態や動作パターンの変化」で行われます。
予防保全は定期的なメンテナンスを指し、スケジュールや一定の稼働時間が経過した後に行われる予定的な保全であり、予想可能な故障を未然に防ぐことが目的です。予防保全の例としては、車の定期的なオイル交換やタイヤの回転、工場機械の定期的な検査と調整などがあります。
一方で、予知保全は機器の状態モニタリングと振動分析、熱画像分析、潤滑油分析などによるデータ分析に基づいて実施されるのが特徴です。モニタリングや分析の際に異常なパターンやトレンドが検出され、機器の故障を予測した際に保全作業が行われることで不具合が生じる前に問題を解決します。
予防保全のメリットとデメリット
予防保全には多くのメリットがありますが、デメリットもあります。ここでは予防保全のメリットとデメリットを詳しく解説しましょう。
予防保全のメリット
予防保全のメリットとして主に、
- 品質の維持
- 生産性の向上
- 設備の延命化
- 保全計画が立てやすい
といったことが挙げられます。
品質の維持
設備が万全でない状態の場合には、製品に不具合が発生する可能性があるため、予防保全は製品の品質維持に関係すると言えるでしょう。
例えば、機械の部品が摩耗していると、製品の精度に影響を及ぼす可能性があります。そこで、予防保全により、設備トラブルが起きる前の段階で対処できるため、製品品質の維持が期待できます。今後起こりうる故障を事前に対策する手法として、FMEA(故障モード影響解析)が挙げられます。
関連記事:FMEA(故障モード影響解析)とは?品質向上の取組みをわかりやすく解説【フォーマット例付き】
生産性の向上
設備に故障、不調があれば設備を止める必要があり、修理を終えるまでの間は製品の生産が停止するため、予防保全は生産性の向上にも関係します。予防保全でダウンタイムを回避し、生産性の向上を図れます。
設備の延命化
予防保全は設備の寿命を延ばす効果もあります。設備の故障時、故障の箇所以外にも加重などの負荷がかかる可能性もあり、故障と修理を繰り返すことで、設備の寿命を縮めてしまう可能性があるからです。予防保全で、故障を防げるため、設備の寿命を伸ばせる可能性もあるでしょう。
保全計画が立てやすい
予防保全は定期的に行われるため、保全作業のスケジュールを事前に計画することが可能です。必要な部品の調達や作業員のスケジューリングを効率的に行えます。また、予防保全により予期せぬ故障が減少するため、突発的な修理作業が減り、全体の作業計画が安定するでしょう。
例えば、製造ラインの一部であるプレス機械が突然故障した場合、修理のために他の作業を停止させる必要があります。他の作業を停止するのは、生産性の低下になりかねません。そこで、予防保全によって、突発的な故障を防ぎ、作業計画をスムーズに進めることが可能になります。
予防保全のデメリット
予防保全の実施は、製造業における生産性の向上や設備の寿命延長に関係しますが、保全工数の増加というデメリットも無視できません。予防保全は設備の故障を未然に防ぐために定期的な点検やメンテナンスを必要とします。つまり、時間と労力を必要とし、結果として工数が増える場合もあります。
例えば、ある設備が予防保全の対象となった場合、メンテナンスのために専門の技術者が必要になるでしょう。結果として、技術者が他の作業を行う時間を奪うことになり、全体の生産性に影響を及ぼす可能性があります。また、メンテナンスをする技術者が属人化してしまいやすいデメリットも挙げられます。設備保全の属人化に対する対策は、以下の動画も併せてご覧ください。
そこで、工数の増加を「コスト」と捉えるだけではなく「投資」と捉えることをおすすめします。なぜなら、予防保全によって設備の故障を未然に防ぎ、生産停止を防げれば、生産性の向上や設備の寿命延長を実現できるからです。長期的な視点から見れば、工数の増加を上回るメリットをもたらす可能性があります。
予防保全の種類
予防保全の種類は主に
- 時間基準保全
- 利用基準保全
- 状態基準保全
- 故障発見保全
の4種類があります。
時間基準保全
時間基準保全とは、設定された時間間隔ごとに機械などの設備のメンテナンスを行う予防保全のことです。
1年に1回の定期点検や5年に1回のオーバーホールなどが例として挙げられます。時間が経過することで設備の劣化が進む可能性があることから、時間基準保全が必要になります。
時間基準保全は、設備の故障履歴、製造元の推奨使用時間をもとにして、メンテナンスの間隔を決定します。
利用基準保全
利用基準保全とは、設備の利用回数や利用量を基準に機械などの設備のメンテナンスを行う予防保全のことです。
穿孔機で800ショットおきにメンテナンスを行う、トラックの走行距離が10,000kmになるごとにオイルを交換を行うなどが例として挙げられます。設備の使用状況がその劣化度合いに大きく影響を与えるため必要な保全です。利用基準保全は、設備の使用状況を定期的にモニタリングを行い、基準となる利用量が近づいたときに、メンテナンスを予定に入れます。
状態基準保全
状態基準保全とは、定期的に設備の稼働状態を測定して、状態が悪化した設備を修理や交換をする予防保全のことです。設備の状態が性能に直接影響を与えるため必要な方法です。
モーターの振動を測定し、異常な振動が検出されたら修理や交換を行うなどが例としてあります。状態基準保全は、設備を常時監視して、異常が検出されたら即座に対応します。
故障発見保全
故障発見保全とは、設備の故障を早期に発見して、大規模なダウンタイムを防止する予防保全のことです。早期に故障を発見することで、大規模な損害を防げます。
設備の異常音を検出して、異常音が検出されたら修理を行うといった方法です。故障発見保全は、設備の動作中に異常を検出し、早期に対応することで、設備のダウンタイムを最小限に抑えることが可能です。
予知保全のメリットとデメリット
予知保全はメリットもありますが、デメリットも少なからずあります。
そこで、ここでは予知保全のメリットとデメリットを詳しく解説します。
予知保全のメリット
予知保全のメリットとしては主に、
- 生産性の向上
- 設備の延命化
- 保全業務に携わる人員数の適正化
- フィールドサービスの収益化
の4つが挙げられます
生産性の向上
工場の機械や設備を常時監視して、故障や不具合の予兆を検知し、保全業務を行う活動が予知保全ですので、予知保全を行えば、突然の故障によるダウンタイムを減らせ、結果的に生産性の向上が期待できます。
例えば、IoTデバイスによって機械や設備をリアルタイムでモニタリングし、計測データをAIなどによって分析することで、異常を検知したらアラートを発するといったシステムの導入が可能となります。結果として、予期せぬ故障による生産停止を防ぎ、生産ラインの稼働率を高めることが可能です。
設備の延命化
予知保全は、機械や設備の故障などの兆候を、振動、温度の違いなどから把握できます。予知保全を行えば、原因の究明をしやすく、設備にダメージが及ぶ前の段階で修理が行えるので、設備の寿命を延ばすことが可能となります。
例えば、特定の部品が異常な振動を示し始めた場合、部品を早期に交換することで、全体の故障を防ぎ、設備の寿命を延ばすことが可能です。
保全業務に携わる人員数の適正化
予知保全は、故障や不具合の予兆を検知したタイミングで保全業務を実施することから、部品の費用や人件費が無駄になりにくく、コスト削減を図ることが可能です。
例えば、IoTデバイスやAIによる異常検知システムを導入することで、人が24時間監視する必要がなくなり、人員の効率的な配置が可能となります。
フィールドサービスの収益化
予知保全は、自社の製品の納入先に対するサービスとして提供することが可能です。生産設備のトラブルによるダウンタイムを未然に防げるという顧客のメリットがあるので、中長期的なサービスとして収益化を図れます。
例えば、自社製品の保守・メンテナンスを提供する際に、予知保全の体制を導入することで、顧客に対して付加価値を提供し、サービスを収益化できます。結果として、単なる製品販売だけでなく、継続的なサービス提供による収益を得ることが可能となるでしょう。
予知保全のデメリット
予知保全のデメリットとして挙げるとすれば、IoT機器の導入コストでしょう。予知保全を実現するためには、IoT機器の導入が必要となるため、当然導入コストが発生します。
例えば、ある製造業の工場では、予知保全の導入によりダウンタイムを大幅に削減し、生産効率を向上させました。一方で、各機械にIoTデバイスを取り付け、データの収集や分析をするシステムを構築する必要がありました。設備投資は、初期コストとして大きな負担となりました。
しかし、IoT機器の導入コストは、人件費や部品交換費の削減、ダウンタイムの最小化による生産効率の向上など、長期的な視点で見れば十分に回収可能なものです。そのため、予知保全の導入を検討する際には、初期投資のコストだけでなく、その後の運用コストや効果も考慮に入れることが重要です。
その他の保全
最後に、その他の保全として
- 保全予防
- 定期保全
- 計画保全
- 予兆保全
を解説しましょう。
保全予防
保全予防とは、機械などの設備が故障しないこと、また故障した場合には、素早い修理対応が望ましいという観点から、信頼性や保全性の高い設備を設計し、設置する保全活動のことを指します。
そのため、「決められた時期に決められた内容の保全活動を行う」予防保全とは、実施するタイミングが異なります。
機械などの設備の故障は生産ラインの停止を引き起こし、製造業にとっては大きな損失となることがありますが、保全予防により故障しにくい機械の設置を行えば、故障自体を少なくすることも可能です。
また、機械が故障した場合でも、保全予防を行っていれば迅速な修理が可能となり、生産ラインの停止時間を短縮できるでしょう。
例えば、コンベヤーベルトの軸受けなどの動作部位には潤滑油が必要となりますが、自動給油装置を付けることで設備保全を必要としない設備としたり、部品の取り替えが簡単な設備を導入するといった対策が挙げられます。
定期保全
定期保全とは、機械や設備の故障を防ぐために、定められた期間や運転時間ごとに行われる保全活動のことです。定期保全が必要な理由として、一定の期間や稼働時間が経過することで機械や設備は摩耗や劣化が進行し、故障のリスクが高まるからです。
例えば、自動車のエンジンオイル交換は定期保全の一例でしょう。エンジンオイルは一定の走行距離ごとに交換する必要があります。オイルが劣化するとエンジンの潤滑が悪くなり、エンジンの故障につながる可能性があるからです。
計画保全
計画保全とは、未然に設備の故障を防ぐために、専門保全の部門が中心となって、計画的に保全体制を整備する保全活動のことです。
計画保全の目的は、故障をなくす体制づくりにあります。具体的には、設備の利用可能性を高めるために、平均故障間隔の延長と平均修復時間の短縮を行います。結果として、生産性向上が実現できます。
予兆保全
予兆保全は、予知保全と同じ意味と考えてよい言葉です。予兆保全は、機械や設備のモニタリングや分析を行い故障を予防するための手法で、設備が故障する前に異常を検知・予測し、適切なメンテナンスを行うことを目指します。そのため、予兆保全(予知保全)を導入すれば、機械の故障を未然に防ぎ、生産効率を向上させることが可能となります。
予防保全と予知保全の違いを理解して現場改善をしよう!【まとめ】
この記事では、予防保全と予知保全の違いを中心に解説しました。
予防保全は、設備の故障を未然に防ぐために定期的に保全業務を行うもので、予知保全はIoT機器などを活用して設備の異常を事前に検知し、そのタイミングで保全業務をおこなったりするものです。予防保全には、品質の維持や生産性の向上、設備の延命化などのメリットがある一方で、工数が増えるというデメリットも存在します。
予知保全には、生産性の向上、設備の延命化などの効果がある一方で、IoT機器の導入によりコストが発生するデメリットもあります。
保全におすすめのITツールや技術に関して、以下の動画も併せてご覧ください。