日本の製造業界での労働力として、技能実習生の存在は欠かせないものとなっている一方で、その背後には言語の壁や低賃金、長時間労働、労働災害の多発、さらには犯罪やハラスメント、失踪など数多くの問題が潜んでいます。
この記事では、技能実習生とは何か、制度の概要や現状、そして技能実習生が直面する問題点や問題に対する具体的な対策、技能実習生を職場に定着させるための方法のほか、技能実習生に関する最新の事件やニュースなど技能実習生の実態を紹介します。
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目次
技能実習生とは?
技能実習生とは、日本の先進的な技術やノウハウを学ぶために、主にアジア諸国から日本に来る外国人のことを指します。技能実習制度は、日本の高度な技術や製造業のノウハウを海外に伝えることを目的としています。ここでは、次の2つについて解説します。
- 技能実習制度の概要
- 技能実習制度の現状
技能実習制度の概要
技能実習制度とは、開発途上国への国際協力の一環として、日本の技術やノウハウを学ぶために設けられた制度のことです。外国人が、自国の産業発展に貢献するための実務能力を日本で身につけることを目的として、技能実習制度が設けられました。
厚生労働省の令和3年のデータから技能実習生の国籍別の数と割合を見ると、ベトナム人が最も多く202,218人で、技能実習生全体の64.0%を占め、2位が中国人(54,161人)で17.2%、3位がインドネシア人(29,716人)で9.4%、4位がフィリピン人(28,553人)で9.0%を占めています。ベトナムからの技能実習生が圧倒的に多く、人口の多い中国や発展途上の東南アジア諸国が技能実習生の多くを占めていることが分かります。
特にベトナム、中国、フィリピンなどは、経済的に成長しており、日本の高度な技術やノウハウを学ぶニーズが高いため、技能実習生の割合が高い傾向があると言えるでしょう。
参考元:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和3年10月末現在)
技能実習制度の現状
技能実習制度は、外国からの実習生が日本で技能や知識を習得することを目的とした制度です。しかし、製造業をはじめとする多くの業界では、技能実習制度の目的が曖昧になってきているのが現状です。
技能実習制度は、もともと人材育成を通じた国際貢献を目的として設立されましたが、現在では労働力確保の手段として利用されるケースが増えてきています。特に製造業では、技能実習生が生産ラインでの重要な役割を果たしている一方で、技能実習生の待遇や労働環境に問題が生じていることも少なくありません。
製造業の具体的な例として、自動車部品の組み立て工場や電子部品の製造工場などで、技能実習生が主要な労働力として活躍しています。しかし、技能実習生は低賃金で長時間労働を強いられることが多く、またパワハラやセクハラなどの人権侵害のリスクが高まってもいます。さらに、技能実習生の中には、不適切な待遇や労働環境に耐えかねて失踪するケースもあるのが実情です。
そのほか、技能実習生が借金を背負って日本に来るケースが増えており、求めていた給料と実際に支払われた給料にギャップを感じたことで失踪することも問題となっています。。こうした技能実習生の現状から、技能実習制度の適正な運用や改善が急がれます。
技能実習生の問題
技能実習生の問題として、主に挙げられるのは次の6つの問題です。
- 低賃金・残業代の未払い
- 長時間労働
- 労働災害の多発
- 犯罪への関与
- ハラスメント問題
- 失踪問題
それぞれ解説します。
低賃金・残業代の未払い
技能実習生の中には、未払いの給料や残業代が支払われていないというケースが散見されます。
例として、ある縫製工場で働く技能実習生は、給料の未払いや残業代が正しく支払われていないという問題を抱えていました。毎月の残業時間が180時間を超え、中には200時間を超える月もありました。しかし、残業代がきちんと支払われず、実質賃金に換算すると、時給400円という最低賃金を大きく下回る低賃金で働かされていました。
長時間労働
技能実習生は長時間労働を強いられるケースが多い傾向にあります。そもそも技能実習生は日本での滞在期間中に最大限の収入を得ようとするため、自主的に多くの時間を労働に費やす傾向があります。
それだけでなく、事業所側も技能実習生を長時間労働させることで、労働力不足を補おうとする動きが見られ、中には月の残業時間が200時間を超えることもあります。
長時間労働は製造業でも国籍を問わず重大な問題として存在しており、技能実習生の健康や生活の質を脅かす要因だと考えられます。
労働災害の多発
技能実習生として日本に来ている外国人労働者の間で労働災害が増加しているという事実は、製造業で教育係を担当している方にとっては非常に懸念される問題です。
2020年のデータによれば、外国人労働者の労働災害による死傷者数は4,682人に上り、その中でも死者数は30人と、前年の死傷者数3,928人、死者数21人から増加しています。特に注目すべきは、外国人技能実習生の労災事故が、日本の労働者の2倍の割合で発生している点です。
製造業の現場において、外国人労働者が遭遇する労災事例としては、工場のプレス機に挟まれて頭を挟まれて亡くなる事故や、工場で使用済みの砂をベルトコンベヤーに載せる作業中に右腕をローラーに巻き込まれ、右腕を肩から切断する重傷を負う事故などが報告されています。技能実習生の事故は、会社側の労働安全衛生法違反が背景にあるとされ、外国人労働者が死傷する事故が全国で多発しています。
外国人労働者は日本の文化や言語、労働環境に慣れていないため、安全対策の不足や誤解が生じやすい傾向にあります。また、外国人労働者が弱い立場にあるため労災が起きた際に適切な補償を求めることが難しく、労災が隠されることも多いとされています。
外国人労働者の安全を確保するためには、日本語だけでなく技能実習生の母国語での安全教育や、適切な翻訳による安全教育、文化的な違いを考慮した指導が必要です。
現場改善ラボでは、労働安全コンサルタントとして工場の労働安全衛生問題を解決してきた鈴木 孝氏による現場で実践できる安全意識を形骸化させない安全教育の進め方について解説した動画を無料で視聴できます。是非併せてご覧ください。
犯罪への関与
技能実習生として日本に滞在している外国人の中には、犯罪に関与するケースが増加しているという報告があります。
例えば、在日ベトナム人の間で「闇バイト」を募る犯罪が増加しているという報告があります。SNS上のベトナム人コミュニティでは、詐欺や不正行為への勧誘が散見されており、捜査当局もすべてを把握しきれていないのが現状です。特に製造業の現場では、日本語が不慣れな技能実習生がSNS上の情報を信じて犯罪に手を染めるケースが増えています。
奈良県警が摘発した詐欺事件では、ベトナム人技能実習生らが携帯電話会社の紛失補償サービスを悪用し、新しいスマートフォンを不正に入手したと報告されています。技能実習生が日本の制度やサービスを十分に理解していないことや経済的な困窮から犯罪に手を染めることが背景にあると考えられます。
参考元:産経新聞「ベトナム人の「闇バイト」急増 円安で技能実習生が小遣い稼ぎか」
製造業でも、技能実習生の犯罪関与は深刻な問題として捉えられるべきです。なぜなら、技能実習生が犯罪に関与することで、企業の信頼やブランドイメージが損なわれる可能性があるからです。また、技能実習生自身も犯罪に関与することで、将来的なキャリアや生活に大きな影響を受ける可能性があります。
ハラスメント問題
技能実習生に対するハラスメントは、企業内の深刻な問題として取り上げられています。技能実習生は言語や文化の壁から自らの権利を主張しにくい立場にあるため、ハラスメントの対象となりやすいのが現状です。
特に製造業の現場では、高い集中力や緻密な作業が求められる中、ハラスメントによる精神的なストレスは作業の質を低下させる要因となります。例えば、上司や先輩からの過度な指導や無理な作業要求、または人間関係のトラブルがハラスメントの原因となることが考えられます。
企業は技能実習生のメンタルケアやハラスメント防止のための教育を徹底することで、より良い職場環境を作るべきです。
失踪問題
技能実習生の失踪問題は、日本の労働市場における深刻な課題として注目されています。技能実習生は日本での技術や経験を学ぶために来日するものの、多くが経済的な困難や職場でのトラブル、言語の壁などの問題に直面し、結果として失踪するケースが増加しています。
実例では、ベトナムからの技能実習生は、渡航費や教育費として約50万円を借り入れてから来日することが多いとされています。しかし、新型コロナウイルスの影響や雇用先でのトラブル、賃金の未払いなどの問題が横行し、失踪。実際に、毎年約5,000人前後の技能実習生が失踪しているとの報告があります。
参考元:MBSNEXS「ベトナム人の犯罪急増『技能実習の闇』」
また、失踪した技能実習生が不法就労や犯罪に手を染めるリスクも考えられるため、企業や受け入れ機関は技能実習生のサポートやフォローアップを徹底する必要があるでしょう。
このような技能実習生の問題を防止するには、受け入れ体制を整えることが重要です。以下から、どのような受け入れ体制を取れば良いのか解説した動画を無料で視聴できます。技能実習生の採用サポートを行っている専門家からの実践的なアドバイスを聞きたい方は、ぜひご覧ください。
問題発生の原因
技能実習生の問題発生の原因としては以下の3つが考えられます。
- 想定賃金と実質賃金とのギャップ
- 従業員との意思疎通ができていない
- 実習生側の情報収集不足
想定賃金と実質賃金とのギャップ
製造業における外国人技能実習生の受け入れが増加する中、想定賃金と実際に受け取る賃金とのギャップが問題となっています。多くの技能実習生は高い収入を期待して日本に来るものの、実際には期待を下回る賃金しか受け取れないケースが多い傾向にあります。
例えば、ベトナム北部の農村出身の技能実習生は、月12万円以上の収入を期待して来日。しかし、実際には月10万円程度しか受け取れなかったという事例があります。例のような賃金のギャップは、実習生の失踪や不正行為を助長する要因となっています。
従業員との意思疎通ができていない
製造業の現場では、外国人技能実習生と日本人従業員との間で意思疎通が難しい場面が多々見られます。言葉の壁や文化の違い、さらには技能実習生の日本に対する期待と現実とのギャップなど、多くの要因が絡みあっています。
実習生の中には、日本の高度な技術を学ぶことを期待して来日したものの、実際の業務内容や待遇に失望するケースも少なくありません。例のような実習生と従業員との間の摩擦や不満を生む原因となり、従業員との意思疎通がうまくいかない要因となります。
実習生側の情報収集不足
外国人技能実習生の中には、日本に来る前の情報収集が不足しているケースが散見されます。送り出し機関からの誇大な宣伝や、不正確な情報にもとづいて日本に来る実習生が多い傾向にあります。
例えば、一部の実習生は、日本での高い収入や技術の習得を期待して来日したものの、実際の待遇や業務内容にショックを受けることがあります。また、SNSを通じて得た情報にもとづいて行動する実習生も増えており、失踪や不正行為を助長する要因となっています。
自国の産業発展のための技術を習得するという本来の目的に即した企業選びができないなど、技能実習生自身の意識の問題もあるでしょう。
技能実習生に関する事件の最新ニュース
技能実習生に関する事件の最新ニュースとして、次の2つを解説します。
- ベトナム人技能実習生の赤ちゃん遺棄
- ベトナム人技能実習生への暴行事件
ベトナム人技能実習生の赤ちゃん遺棄
2023年4月に広島・東広島市で最近発生した事件では、生後間もない赤ちゃんの遺体が空き地で発見され、19歳のベトナム人技能実習生の女性が逮捕されました。「妊娠したら帰国させられる」という誤解を持ち、赤ちゃんを遺棄したと本人の口から語られています。
この事件の背景として、日本の企業や社会とのコミュニケーションが不足していることがあると考えられます。適切な情報を技能実習生に伝えれば、赤ちゃんを遺棄するという事件は防げたはずです。
この事件を受けて、製造業の現場では技能実習生のサポート体制の見直しや、技能実習生のメンタルケアの充実が求められています。技能実習生との信頼関係を築くことで、より良い労働環境を実現し、現場改善を進められます。
参考元:ベトナム人技能実習生による「赤ちゃん遺棄」事件はなぜ連発しているのか?
ベトナム人技能実習生への暴行事件
岡山市内の建設会社で働いていたベトナム人技能実習生が2年間にわたって日本人の同僚から暴行を受けていたと訴えた事件です。
男性は2019年に家族を支えるために来日し、建設会社で働き始めましたが、日本語が下手だったことを理由に同僚から暴力を受けるようになりました。暴行はエスカレートし、2020年には同僚に安全靴で左胸を蹴られてろっ骨が3本折られるなどの重傷を負いました。
男性は2021年に労働組合に相談し、保護されました。この事件は大きな反響を呼び、法務大臣も監督機関に対して改善を勧告するように指示しました。
参考元:「ろっ骨3本折られた」ベトナム人技能実習生が訴えた暴行被害とは 取材で詳細語る
技能実習生問題の対策
技能実習生問題の対策として考えられるのは以下の4点です。
- 定期的な相談の場を設ける
- 技能実習生について社内への理解を深める
- 不法行為を是正する
- 労働環境を整備する
それぞれ解説します。
定期的な相談の場を設ける
技能実習生は新しい環境や文化に適応する中で多くの不安や疑問を抱えていることが多い傾向にあります。加えて製造業の現場では、機械の操作方法や安全対策など専門的な知識や技術が求められる場面も多く、不安に思う技能実習生も多いでしょう。
解決策として、仕事内容のみならず日本での生活に関する定期的な相談の場を設けることで、技能実習生の不安や疑問を解消し安全かつ効率的な業務遂行をサポートすることで、トラブルも未然に防ぐことができます。
技能実習生について社内への理解を深める
技能実習生との円滑なコミュニケーションや協力は、社内全体の理解と協力が不可欠です。
製造業の現場では、チームワークが非常に重要です。技能実習生の背景や文化を理解することで、よりスムーズなコミュニケーションが可能となり、生産性の向上も期待できます。
不法行為を是正する
技能実習生の権利を守り、公正な労働環境を提供することが企業の社会的責任です。製造業でも、長時間労働や賃金未払いなどの不法行為が発生することがあります。
このような不法行為を発生させないためにも、問題が生じやすい体制を早急に是正することで技能実習生の信頼を得るとともに、企業のブランドイメージを向上させることが可能です。
労働環境の整備
技能実習生が安全かつ効率的に業務を遂行するためには、適切な労働環境が必要です。
製造業の現場では、機械の操作や物流作業など、危険を伴う作業が多いため、安全対策の徹底や労働環境の整備は不可欠です。技能実習生のための研修や教育を実施し安全な労働環境を提供することで、事故のリスクの低減が期待できます。
技能実習生を職場に定着させるには?
日本人と同じ扱いをする
技能実習生の定着は企業の生産性向上や人手不足の解消に直結するといえます。定着のための最も基本的な対策は、日本人と同じ扱いをすることです。
製造業では、現場の人材不足が顕著で技能実習生の過酷な労働環境や低賃金の問題が指摘されています。しかし、外国人労働者の待遇を日本人と同等に設定することで、技能実習生のモチベーションを高め、定着率を向上させることが可能です。特に、賃金や労働時間、休日の取得など、基本的な労働条件を日本人と同じにすることが求められます。
教育制度の完備
教育制度の完備は、技能実習生の定着を促進するために重要です。なぜなら、技能実習生は日本の職場文化や業務内容に慣れるのに時間がかかることが多いからです。
製造業の現場では、機械の操作方法や安全対策など、特有の知識や技術が求められます。そのため、技能実習生に対して十分な研修や教育を提供することで、技能実習生のスキルアップを促し、職場への適応をスムーズに進めることが可能です。
技能実習生の教育には動画マニュアルがおすすめ
技能実習生の教育には動画マニュアルの活用がおすすめです。技能実習生が働くことの多い製造業などの現場産業では、作業のほとんどが人の動きで構成されています。また、実習生も出身国籍がバラバラであり、OJTや紙マニュアルで教育をするのには限界があります。
こういった問題を解決できるのが動画マニュアルです。動画マニュアルであれば、紙マニュアルでは伝えきれない人の動きや作業内容を直感的に理解することができます。例えば、動画マニュアルtebikiは外国人労働者を受け入れている多くの製造業で利用されています。動画マニュアルtebikiには、動画の自動翻訳機能が搭載されており、100ヵ国語以上の言語に対応することが可能です。技能実習生との言語の壁を取り払う手段として、有効活用されています。
動画マニュアルtebikiは技能実習生の教育制度を充実させる有効な手段と言えるでしょう。
技能実習生の問題を理解し、現場改善を【まとめ】
技能実習生制度は、外国人が日本の技術や知識を学ぶための制度として設立されました。しかし、その実態は低賃金、残業代の未払い、長時間労働などの労働環境の問題、労働災害の多発、犯罪への関与、ハラスメント、失踪など多くの問題を抱えています。
。問題の背後には、想定賃金と実質賃金とのギャップ、従業員との意思疎通の不足、実習生側の情報収集不足など原因があります。
最近のニュースでも、ベトナム人技能実習生の赤ちゃん遺棄事件やベトナム人技能実習生への暴行事件など、技能実習生に関する悲しい事件が報じられています。紹介した事件は、技能実習生の置かれている状況の深刻さを物語っているといえます。
技能実習生の問題を解決するための対策として、定期的な相談の場の設置、技能実習生についての社内教育の強化、不法行為の是正、労働環境の整備など多くの取り組みが必要です。
また、技能実習生を職場に定着させるためには、日本人と同じ扱いをすること、教育制度の完備など彼らを尊重しサポートする姿勢が求められます。
技能実習生の問題は、単なる外国人労働者の問題ではありません。日本の労働環境や社会の問題でもあります。技能実習生の問題を深く理解し現場の改善を進めることで、より良い労働環境を作り上げられるでしょう。
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