「2025年問題」とは、日本が超高齢化社会に突入することで生じる社会問題を指します。まだ多くの人に知られていないものの、対処しなければ私たちの社会に大きな影響を与える可能性があります。この問題を放置すれば、その影響は30年以上にも及び、2025年をはるかに超えることになるでしょう。
本記事では、2025年問題の基本的な要素と、企業ができる対策や課題まで詳しく解説していきます。
目次
2025年問題とは?
2025年問題とは、団塊の世代が75歳以上となり、日本が超高齢社会に突入することを意味します。内閣府の「令和2年版高齢社会白書(全体版)」によると、2025年から75歳以上の総人口は約2200万人に拡大します。これにより、日本は人類史上初めて4人に1人が75歳以上の高齢者となる国となり、さまざまなジレンマが発生することになるでしょう。
<高齢化の推移と将来推計>
【引用:内閣府「令和2年版高齢社会白書(全体版)】
特に、高齢者人口が増加する一方で、病院や医療従事者の数が減少するため、医療需要が悪化します。また、核家族化で、介護をする人がいなくなることで、介護の必要性が高まると予想されます。その結果、これらの医療・介護ニーズに対応するための社会保障費の増大が、国や地方自治体の負担となるでしょう。
2025年以降に日本が直面する3つの課題とは?
2025年以降に日本が直面する課題には以下の3つがあります。
- 社会保障費の負荷が増加
- 医療/介護領域への圧迫
- 労働力の現象
ここからは、上記の課題について詳しく見ていきましょう。
社会保障費の負担が増加
最大の問題は、働けなくなった高齢者などを支えるための社会保障費の増大です。財務省の財政制度分科会「社会保障について①」の資料によると、特に75歳以上の高齢者は、他の世代に比べて医療や介護に多くのお金が必要となり、2025年には医療で47.8兆円、介護で15.3兆円、年金などを含めると必要な社会保障給付は約140〜140.6兆円になると予想されます。
<将来の社会保障給付の見通し>
こうした費用の増加は、医療費の高騰や高齢者がより高度な医療技術を利用する必要性から生じるものです。さらに、高齢者人口の急増は、社会保障制度に負担を与え続けています。この負担を軽減するためには、高齢化社会に対応するためのリソースの再配分と革新的なソリューションの促進が不可欠です。
2018年が約121兆円だったことを考えると、国民と経済の双方の全体的な健全性を確保するために、早急に対処する必要がある大幅な負担増と言えます。
医療/介護領域への圧迫
後期高齢者になると、徐々に身体が不自由になり、介護が必要になります。その中で、認知症に罹患する割合が徐々に増えることになるでしょう。
内閣府の「平成28年版高齢社会白書(概要版)」によると、65歳以上の高齢者の認知症患者数は2012年では462万人、高齢者の7人に1人の割合でした。一方、2025年になると患者数は約700万人、5人に1人が認知症になると予想されます。
<65歳以上の高齢者の認知症患者数と有病率の将来推計>
【引用:内閣府「平成28年版高齢社会白書(概要版)」】
ここで重要なのは、認知症の方は服用している薬の量が多いため、他の病気や併発症のリスクが高まる可能性があることです。さらに、介護者が適切な介護を行うためには、より多くのサポートが必要となります。介護者は、適切なトレーニングやリソースを利用することで、認知症患者を十分にケアし、より楽しい生活の質を高めることができるのです。
日本ではすでに、認知症ケアラーへの意識向上と支援に多くの取り組みがなされており、他の多くの国でも同様の取り組みがなされています。また、認知症の原因や治療法に関する研究も進められており、治療法の発見や認知症の方の寿命の延伸に貢献することが期待されています。
労働力の減少
日本の生産年齢人口は、少子化の進行などさまざまな要因で減少しており、2025年まで各業界で人手不足が加速する見通しです。ちなみに、政府は外国人労働者を増やすための施策に着手しています。「特定技能1号・2号」という新しいビザ制度を設け、これまで制限されていた農業、漁業、建設業などさまざまな業種で外国人労働者を働かせることができるようにしました。
外国人労働者を惹きつけ、適切に雇用するために、政府は外国人労働者の日本での職場への移行を支援するための新人支援センターを設置しています。これらのセンターでは、外国人労働者に日本の言語、文化、習慣を紹介するとともに、法的、実務的な支援を行っています。
さらに、政府はさまざまな文化交流プログラムを開始し、受け入れの雰囲気を醸成するために企業や団体に助成金を提供しています。政府は、2025年までの労働力不足の問題を解決するために、人材育成と教育に多大な資源を投入しています。
2025年問題に関連する用語との違い
2025年問題に関連する用語には以下のようなものがあります。
- 2025年の崖
- 2030年問題
- 2040年問題
ここからは、上記の用語について詳しく解説していきます。
2025年の崖
2025年は、「2025年の壁」と呼ばれるデッドラインに指定されています。なぜなら、その頃には超高齢化社会が始まり、既存のITサービス産業や広く使われているERPシステム「SAP」のサポートがなくなっているからです。そのため、この出来事を 「2025年の壁」と呼んでいます。
2030年問題
「2030年問題」によって、政府は医療・介護の負担をさらに増やさざるを得なくなるでしょう。総務省統計局のデータによると、2030年には高齢化がさらに進み、65歳以上の人口比率が32.8%となり、総人口の約1/3を占めると予想されています。これは、高齢者人口を25.4%程度と予測していた2025年問題を上回る水準です。
つまり、わずか5年で高齢者人口が7.4%以上も増加することになります。政府は介護職の増員を図りましたが、養成された専門職の数は必要な人数よりはるかに少ないままとなっています。その結果、経済産業省の試算では、2030年の介護職の需要は295万人、供給は227万人で、68万人の不足が予想されるでしょう。これは、家族のサポートを受けられない高齢者が、晩年を自立して、あるいは尊厳を持って生活するための介護サービスを十分に受けられないという深刻な事態を意味します。
政府はすでに、看護師不足を抑制するために、看護師になるために必要な訓練量を減らし、職業を追求する人にインセンティブを与えるなどの政策を導入し始めています。しかし、高齢者介護の負担は、すべての人、特に高齢の親族の近くに住む人や一緒に住む人で分担する必要があり、その結果、高齢者が安心して暮らせるようになるでしょう。
2040年問題
日本の高齢者人口は2040年には約4,000万人に増加し、それまで社会保障費は増加し続けます。一方、生産年齢人口は減少を続け、社会と社会保障費を支える労働力の不足が深刻化すると言われています。つまり、現在の現役世代が高齢化社会を支える負担に直面することになり、個人が将来に向けた資産形成を始めることが重要になるでしょう。老後の生活を維持し、継続的なコストに対応するためには、少額投資も選択肢の一つです。
しかし、超高齢社会のピークであり、日本の将来像が見えてくる2040年以降も、高齢化率は40%程度にとどまるという予測もあります。このように、高齢者の負担はいつまで経っても減らず、止まらないため、将来への備えを始める必要性が一層高まっています。
つまり、「2025年問題」とは、少子高齢化が進み、超高齢社会の入り口に差し掛かったときに顕在化する社会保障費などの問題の総称です。社会保障費の負担軽減と将来への備えのために、今から個人で準備を始める必要があり、老後の生活設計に最適な選択肢を選ぶことが重要です。
現在働いている人は、毎月少しずつ管理しやすい投資を行うなど、資産形成から問題への備えを考え始めるとよいでしょう。例えば、楽天証券が提供するiDeCoは、月々5,000円から年金積立を始めることができます。60歳以降は、iDeCoで積み立てた年金を定期的に受け取ることが可能です。また、楽天生命では、未使用の保険料を一生涯払い戻す「超医療保険バックアップ」サービスも提供しており、晩年の健康リスクを軽減することができるでしょう。
企業が直面する3つの課題とは?
企業が2025年において直面する3つの課題は以下のとおりです。
- 人材採用の難易度が上がる
- 業績が低下していく
- 事業継承/技術伝承が進まない
ここからは、上記の3つについて解説していきます。
人材採用の難易度が上げる
人材採用の難易度が上がる
少子化の影響により、15-24歳の就業者数は2025年に向けて減少を続けることが予想されます。そのため、人材の総量が減少し、特に従業員のニーズが多い業種では労働市場にひずみが生じる可能性があります。このように減少が続く中でも、企業が競争力を維持し、刻々と変化する経済に対応するためには、新卒採用を継続する必要があるでしょう。
なぜなら、実際に企業を動かし、最新の技術やトレンド、アイデアを取り入れるのは人であるため、2025年にかけて新卒者の獲得競争は激化すると予想されるからです。そのため、多くの企業では、将来的な労働者数の減少によって新卒の人材プールに大きな影響が出ないように、積極的な対策を取っています。
企業は、インターンシップの提供、採用活動の主導、在宅勤務のオプションなど、より変わった福利厚生の提供など、さまざまな戦略を実施し、採用希望者の関心を集めています。また、企業と大学は、学生に経験や知識を提供し、就職市場で優位に立つために、さまざまな共同プロジェクトを計画中です。
業績が低下していく
就業者数は2005年の6356万人から2015年には6274万人、2025年には6091万人に減少すると予測されています。一人当たりの平均所得も2005年から2025年にかけて、370万円→355万円→341万円と減少し、社会の活力は失われつつあるでしょう。労働市場の構造が従来と同じであれば、労働者数が減少し、所得が減少し、それに乗じる総労働所得も2025年には減少し、日本の国内経済が衰退していくことになります。
そうすると、日本経済では、所得の低下により可処分所得が減少し、支出が減り、GDP成長率が低下するという悪循環に陥ります。また、雇用者数が減少するため、企業や個人から徴収する税金が減り、社会保障や福祉に充てる政府の財源が減少するでしょう。また、雇用者数が減少することで、企業や個人から徴収する税金が減り、社会保障や福祉に充てる政府の財源も減少するため、すでに衰退していた道路や学校、病院などの既存のインフラを修復することができなくなります。
さらに、働き手の減少は、退職した人が再び労働市場に参入する選択肢を持たないため、労働力の縮小を引き起こし、高齢化、依存率の上昇、貧困や障害によって悪化する社会問題の可能性をもたらします。
事業継承/技術伝承が進まない
2025年に企業が直面する問題のひとつに「事業承継」があります。日本の企業・法人は、その9割が中小企業であり、2025年には約380万人の中小企業経営者のうち245万人が70歳を迎えるといわれています。そのため、多くの企業が、戦略的な事業計画や財産計画などのツールや手法を駆使して、現在と将来の世代のために事業を最適な状態にすることに取り組んでいます。
多くの場合、これらの計画には、組織構造の変更、株式の分配、財務の適切な管理と引継ぎ、後継者の育成などが含まれます。さらに、そのうちの127万人は、会社を継ぐ後継者が見つからず、廃業の危機に瀕しているといえるでしょう。だからこそ、中小企業の後継者として優秀な人材を確保するための政策やインセンティブを、政府や民間企業が整備することが重要なのです。そうすることで、企業の存続と労働者の雇用を確保することができます。
その場合、650万人の従業員が職を失い、22兆円相当のGDPが失われる可能性があります。その影響を和らげるために、政府は、企業が従業員の定年を延長できるようにしたり、中小企業の事業承継関連費用を支援する緊急補助金や融資を行うなど、被災者への経済的支援を検討する必要があるでしょう。
事業承継には、事業の継続と安定した雇用を確保するために、政府、民間企業、個人の協働が必要であることは明らかです。
企業が今できる2つのこと
企業が2025年問題において、今できる2つのこととして以下のようなものがあります。
- 多能工化で生産性を上げていく
- ベテランの技術/ノウハウを残していく
ここからは、上記の内容について詳しく見ていきましょう。
多能工化で生産性を上げていく
生産性を高め、労働力を最小化するための成功策が、多能工化です。これは、現場に蓄積されたノウハウをデジタル化し、データ化して業務プロセスの改善に活用することで、効率と品質の向上を目指すものです。例えば、手作業による規格や稼働率のバラツキが見られる場合、IoTシステムを導入することで、生産の最適化と省力化を同時に実現することができます。
10人から5人へ、より効率化するイメージです。人手を自動化装置やロボットに置き換え、自動化・部分自動化することで、大幅な工数削減が実現します。
関連記事:多能工とは?メリット/デメリット、失敗しない進め方を解説
ベテランの技術/ノウハウを残していく
高齢の経営者は、事業を誰にどのように引き継ぐかについて検討する必要があります。後継者が決まったら、円滑な事業承継のために、前倒しで着々と進めていくのがおすすめです。親族や従業員の中に後継者がいない場合は、中小企業庁が主導する「企業合併・買収(M&A)」によって、第三者に会社を譲り渡すという方法もあります。一代で築き上げた企業であれば反対もあるかもしれませんが、従業員の雇用を守り、買収される可能性があるところまで会社の価値を高めることができるでしょう。
また経営者だけでなく、現場で働く高齢の従業員が持つノウハウを受け継いでいく視点も重要です。特に製造現場において、手作業のカン・コツや発生頻度が少ない作業などを、若手へ伝承していく取り組みも事業の継続には必要です。
関連記事:【事例付】技術伝承が進まない5つの課題と成功へ導く方法とは?事例をもとに必要な理由を紹介
多能工や技術伝承を効果的に進める方法は?
多能工や技術伝承を効果的に進めるのであれば、「動画マニュアル」の導入がおすすめです。動画マニュアルとは、これまで紙で共有されていたマニュアルや作業手順書を動画にしたものです。
誰かに何かを伝えるとき、より効率的に伝えるには、視覚的に表現するのが一番だと考えたことはないでしょうか。口頭や文章で表現するのは大変なことですが、目で見て理解するのが一番早いと感じたことがあるはずです。例えば、料理のレシピはよく知られている例です。材料さえあれば、言葉で説明することは可能でしょう。
しかし、作り方の説明はどうでしょうか。例えば、タマネギの切り方。タマネギの食感を生かすために、「くし形に切ってください」と言われたら、どうすればいいか分かるでしょうか?映像なら、言葉がわからなくても、意志が伝わらなくても、簡単に伝えることができるのです。
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まとめ
2025年問題は、急速に進む高齢化社会をどう乗り切るかだけでなく、その先の日本の展望を左右する重要な問題といえるでしょう。少ない人数で多くのお年寄りを支えるのは大変なことかもしれません。しかし、連邦政府、地方自治体、企業、そして住民が一体となってこの問題に取り組むことが、課題解決への道筋となります。日本の安定した社会は、これからの未来にかかっているのです。