TQMの用語は知っているけど、具体的に何をしたら良いかわからないと困っていませんか?TQMは、品質を改善して顧客や従業員を満足させるのが目的です。そのためには、全社一丸となってTQM活動に取り組む必要があります。
あなたの会社でも顧客を満足させたいなら、TQM活動を導入しましょう。そこで今回は、TQMの基本と進め方について解説していきます。TQM活動の事例についても紹介しているので、進め方の参考にしてみてください。
目次
TQM(総合的品質管理)とは?その目的
TQMとは、「TOTAL QUALITY MANAGEMENT」の略で、総合的品質管理と訳します。一般社団法人日本品質管理学会が発行しているTQM指針では、以下のように定義されています。
プロセス及びシステムの維持向上、改善及び革新を全部門・全階層の参加を得て様々な手法を駆使して行うことで、経営環境の変化に適した効果的かつ効率的な組織運営を実現する活動
(出典:TQM指針、JSQC-Std11-001:2022、一般社団法人日本品質管理学会)
また、TQMの活動の目的は以下のように記載されています。
顧客及び社会のニーズを満たす製品・サービスの提供と、働く人々の満足を通した組織の長期的な成功
(出典:TQM指針、JSQC-Std11-001:2022、一般社団法人日本品質管理学会)
少し難しい言葉が並んでいるので、かみ砕いて解説していきます。
品質を改善し、顧客を満足させる
品質管理は、品質に問題がない状態を常に続ける、つまり維持することが第一歩です。しかし、維持だけしていれば品質、あるいはサービスの質が安定するわけではありません。
品質は維持ではなく、常に改善が求められます。なぜなら、世の中は技術の進歩や生活習慣の変化によって、物の価値観や人々の考え方がたえず変わっていくからです。
去年まで斬新だと思っていた物が、今年は当たり前になり、来年には時代遅れになるようなこともしばしば起こります。
そのような変化の激しい世の中で、つねにお客様の満足を得るためには、たえず改善と革新が求められます。それができない会社やサービス業は、どんどんお客様が離れ、売り上げが減り、ビジネスが成り立たなくなるのです。
そのため、顧客のニーズを満たす製品やサービスを提供することが大事になります。
品質管理は全社で取り組む
では、改善をすれば常に良い結果が得られるでしょうか?改良だと思ってデザイン変更したら人気がなくなってしまうかもしれません。レシピを変えたら味が変わって、お客様が離れてしまう可能性もあります。
このように、一部の人が改善だと思っても、顧客の支持を得られない可能性があります。そこで、いろいろな立場の人が改善活動に参加することが重要になります。
つまり改善するには、現場で働く人のアイデアや手法といったテクニックだけでは不十分です。
市場の動向を調べて未来を予想するマーケティングや、お客様の求める満足とはなにかを情報収集する営業活動なども必要です。さらに、「会社としてどのような姿を目指すのか」という、経営者のビジョンも重要になります。
このように、顧客のニーズを満たすためには、会社全体で品質管理に取り組まなければいけないのです。
TQC(統合的品質管理)との違い
TQM(総合的品質保証)という言葉が生まれる前に、TQC(統合的品質管理)という手法がありました。
TQCは製造業がメイン
TQCは、製品の品質を向上させ、不良を減らして効率的な生産をするために現場で行われている活動です。よく知られているものに、QCサークル活動があります。
現場が中心となって改善活動を行い、管理職が活動の遂行状況を確認し、経営層がその成果を確認するという全社的な活動でした。つまり、いかにロスを少なく、効率的によいものを作るかという、製造業での活動がTQCです。
TQMは製造業以外のサービスも対象
TQCに対して、TQMが目指すのはモノの品質向上だけではありません。事務処理のやり方を見直して仕事の質を向上させたり、人やお金といったリソースを効率的に使って、経営の質を向上させたりすることも対象にします。
つまり、組織マネジメントの質を向上させるのがTQMなのです。
TQM活動に必要な考え方や手法
TQM活動を推進するためのベースになる考え方や、手法として、以下の2つを解説します。
- QCサークル
- QC活動
QCサークル
QCサークルは小集団改善活動とも呼ばれ、少人数のグループ単位で行う品質改善活動のことです。作業者やスタッフを5人~10人程度のグループに分けて、それぞれにテーマを自ら決めて改善活動を行います。
一見、もっと人数が多いほうが、いろいろなアイデアが出て良いように思うかもしれません。しかし、意見やアイデアが多く出すぎるとまとまらなくなり、限られた時間の中で成果を出しにくくなります。
小規模の場合、一つ一つの活動は小さいため、大きな成果は得られないかもしれません。しかし、小さな成功を継続的に積み上げていくことで、全社的には大きな改善効果を生むことができます。そのため、少人数に分けたほうが効率的なのです。
QCサークルは他にもメリットがあります。QCサークルでは、活動のリーダーを選び、メンバーの役割分担を決め、全員で意見を出し合って課題の解決を図ります。そのため、リーダシップや責任感という人の成長を促し、成功体験によって達成感を得られ、職場の連帯感が向上します。
つまり、QCサークルはモノの改善や会社の効率化だけでなく、人材という財産を生み出せることもメリットなのです。
QCサークル活動を効果的に進めるためには、正しい進め方で取り組むことが重要です。現場改善ラボでは元トヨタ自動車九州株式会社で品質保証部や品質管理部、組立部に従事してきた古里 和敬氏による「現場で実践できる形骸化させないQCサークル活動における進め方」について解説した動画を無料で視聴できます。ぜひ、この機会にご視聴くださいませ。
またQCサークルの進め方や成功/失敗事例は、以下の記事で詳細に解説しているので、併せてご覧ください。
関連記事:【事例付】QCサークル活動の進め方|メリットやデメリットなども解説
QC活動
QC(Quality Control)活動とは、品質を向上/改善させるための活動すべてを指します。品質には、故障が少ないといったモノの品質以外にも、様々なものがあります。
たとえば、以下のようなものが挙げられます。
- プロセスの質:ミスを起こしにくい作業方法に改善する
- 仕事の質:データを間違いなく集計できる計算シートを作る
- サービスの質:快適に過ごしてもらうために明るく清掃の行き届いた店内をつくる
先述のQCサークル活動は、多くの会社でもっとも活発に取り組まれているQC活動のひとつです。しかし、それ以外にも多くのQC活動が行われています。たとえば、以下のような活動をする企業も多いでしょう。
- 整理整頓が十分かを確認し、働きやすい職場を維持改善するための5S活動
- 個人レベルで考える改善提案活動
- 安全維持も品質に影響を与えると考えられるので、職場の安全パトロールもQC活動
このように、組織の状態を改善し、安定した生産、効率的に組織のアウトプットを生み出すための活動は、すべてQC活動です。
品質改善の活動には多くの種類があります。品質改善に関連する記事も併せてチェックしましょう。
関連記事:製造業における品質改善5つの手法は?品質バラつき防止の取組事例を解説
TQM活動の進め方
TQM活動を円滑に進めるための6ステップを説明します。
テーマ/実施の目的を決める
はじめに、テーマと目的を決めることが重要です。
そのためには、メンバー全員で意見を出し合い、複数の課題をあげる必要があります。たとえば、コストダウンや時間短縮、来客数の増大など様々な課題があるはずです。
出された課題の中から、一番重要なテーマと、なぜそれが重要なのかを議論し、改善活動のテーマを決定します。テーマを決定するときには、QCサークルで使われるマトリクス図を使うと良いでしょう。
マトリックス図法について
実施する体制を構築する
会社の組織図のように、TQM活動でも体制をつくります。参加するメンバーそれぞれに役割を与えて、全員が参加しないと改善活動は進まないからです。
一番重要なのはリーダーの選定です。リーダーは、チームの意見をまとめ、活動が目的から逸れずに正しく進んでいるかを確認し、成果がでるようにリーダーシップを発揮する必要があります。
このリーダーは、必ずしも職級の高い人や、ベテランが担当する必要はありません。むしろ、若手で今まで前に出ていなかった人をリーダーにしてもよいでしょう。補佐役が助けながらテーマを推進し、リーダーとなった社員を育成する、ということもよくやられています。
そして、リーダー以外のメンバーには、以下のように、必ず何か役割で活動に参加してもらいます。
- 情報収集係
- データまとめ係
- 上司への報告担当
何かの役割を持たせ、ひとつの目的に向かって全員参加することで、連帯感を強められます。いつもの業務とは違う役職を与え、いろいろな経験も積んでもらえば、メンバーに成長してもらうことも可能です。
現状把握~改善目標の設定
次に、自分の組織の現状を理解し、改善目標と活動期限を設定しましょう。
現状把握
課題を選定した時に、なぜそれに取り組むのか理由を明確にしました。その理由は、あるべき姿や達成したい姿に対して、現状がそこに到達していないからだったはずです。
たとえば、ある仕事に時間がかかりすぎているとします。その時間を短縮したいのであれば、どの処理にどのくらいの時間がかかっているのかを実際に計ってみましょう。なんとなくあの作業に時間がかかっている、というあいまいな情報ではなく、数字で比較し、事実を確認するのです。
もしコストであれば、材料のコスト分析をして、金額で比較します。このように、数値化して現状を明らかにするのが、現状把握です。
改善目標の設定
次に、改善目標を設定します。
あるべき姿がそのまま目標値となることもあります。すぐに到達が難しければ、3か年計画のように中期の到達目標を設定し、1年ごとに達成したい目標を設定しても良いでしょう。
もちろん、このとき設定した改善目標は、最初に立てた「実施の目的」を達成するものでなければ意味がありません。
コストダウンであれば現状よりも安く、生産性向上であれば今と同じ時間で処理できる数を増やすなど、現状よりも改善した姿を目標値に設定します。
活動期間の設定
目標と同時に、活動期間も設定します。期限を決めておくことは、だらだら活動しないために重要です。
ただし、あまりにも高い理想を目標値とし、短い活動期間に設定してしまうと、達成不可能な活動になってしまい、メンバーの士気はあがりません。少し背伸びすれば手が届くところに目標値と期限を設定することが重要です。
施策検討
現状把握と目標設定ができたら、目標と現状のギャップを埋めるために、なにをすればよいかを考えます。これを施策検討といいます。
先ほどの作業時間の改善を例にすると、以下のような流れになります。
- もっとも時間がかかっている作業をさらに細かく分解する
- 無駄な動きをしていないか確認する
- 無駄をなくすため、どのような手段があるか考える
お金をかけてシステム導入すれば達成できても、それにより得られる効果を考えると費用がかかりすぎることもあります。費用がかかりすぎる場合は、別の方法で同じ効果が得られないかをさらに検討しましょう。
このように、アイデアを出して、予備実験をしたり、効果を見積もったりを繰り返して、目標値が達成できる最善の施策を導き出します。
目標達成に向けた施策がどのような内容なのかを、管理職や経営者に報告、相談することも重要です。TQM活動は自分たちだけでやるのではなく、組織の関係者も巻き込んで行いましょう。
QCサークル/QC活動の実施
QCサークル活動をやったことがある人は気付いたかもしれませんが、今までのステップはQCサークル活動の進め方と同じです。大規模、小規模のQCサークル活動がいくつか集まって、その成果が顧客満足向上や経営資源の効率化に結びつきます。
目標達成に向けて決めた施策を実行し、思っていたような効果があるのかを定期的にレビューしながらQC活動を実施しましょう。どこかに難しさがあって思ったように進んでいない場合は、活動メンバーだけで議論せず、上司や別の部署の専門家にもアドバイスを求めます。
目標が達成できないからといって、安易に目標を下げるのはおすすめしません。達成するために別の施策が無いかを検討しましょう。
また、施策の見直しだけでなく、目標が難しすぎるのか、期間を少し延長すれば達成できそうなのかなど、いろいろな観点で検討するのが重要です。
成果の確認~標準化
TQM活動期間が終了したら、成果を確認します。
目標を達成できたのか、未達だったとしても何%まで到達したのかを、ここでも数字で確認し、事実をレビューします。目標値だけでなく、期間についても適切だったかレビューしましょう。
そして、改善したところは仕様書や手順書、ルール(規定)としてまとめ、文書化します。
もし文書化しないと、活動したメンバーがいなくなったら忘れ去られてしまいます。せっかくの成果が一過性のものにならないように、必ず文章に残しておきましょう。
代表的なTQM活動事例:トヨタ式TQM
TQM活動の事例として、日本を代表する企業で、品質活動の歴史も長いトヨタ自動車の活動を紹介します。
トヨタでは1995年に、それまで行っていたTQC活動からTQM活動へと名称を変更しました。その際に、従来の物やサービスの質向上だけでなく、仕事の質や経営の質という、企業マネジメント手法の改善活動へと進化させました。
トヨタ式のTQM活動の特徴は、科学的アプローチと自工程完結です。品質は工程で作りこむというのがトヨタの品質管理の考え方です。不良品をあとで選り分けるのではなく、不良を作らない、後工程へ流さないという、自工程完結の生産方式が浸透しています。
この生産方式は「トヨタ生産方式(TPS)」と呼ばれ、今日では多くの製造現場が採用する生産方式です。
関連記事:トヨタ生産方式(TPS)をわかりやすく解説!7つのムダ、メリットやデメリットとは?
そして、ひとつの組織での小規模な活動ではなく、組織横断的に、さらに関係会社や仕入先にも活動に参加させて、共通課題の解決に取り組みます。
このとき、解決すべき課題の原因究明をするために、部品一つ一つの作り方まで徹底的に分析し、不具合が生まれるメカニズムを明らかにして、不安の種をつぶしていきます。このような科学的なアプローチを積み上げた結果、完成車としての検査を不要にするという取り組みをしています。
このような大きなプロジェクトを推進するために、経営層は進捗を確認し、結果をレビューするという立場で参加し、次の活動への指示を出します。このようにして、継続的に経営環境の改善PDCAを回しているのが、トヨタ式のTQM活動です。
詳しくは、「トヨタ自動車75年史」をご覧ください。
医療/看護領域のTQM活動事例
製造業を中心に発展してきた品質管理手法ですが、最近では医療現場への適用事例も多く見られるようになりました。いくつかの病院ではTQM活動のひとつとして、QCサークル活動の報告会を開催しています。
広島県立病院のTQM活動事例
たとえば、広島県立病院では、『人の和,知恵の和,職場の和』というスローガンのもと、QCサークル活動を活発に行っています。
上がっているテーマは外来患者の待機時間削減や、インシデント件数の削減、書類作成時間の短縮などです。来院する患者の不安や不満を減らす取り組みが多く報告されていることがわかります。
詳しくは、「広島県立病院のTQM活動」をご覧ください。
徳島県立中央病院のTQM活動事例
徳島県立中央病院では、患者とのコミュニケーション向上や、活気のある職場づくりを目的としたTQM活動を行っています。顧客(患者)、従業員の満足度が向上する活動です。
その活動内容は、あいさつや清掃といった5S活動や、待合室の環境改善などがあります。そのほか、患者が迷わずに診察室へたどり着けるように迷子の撲滅といった、ユニークな活動報告が見られるのも特徴です。
詳しくは、「徳島県立中央病院のTQM活動」をご覧ください。
まとめ
今回はTQMの基本と進め方、TQM活動の事例について解説してきました。
TQM活動は、顧客の満足を得てお客様を増やし、長期的に安定したビジネスができるようにすることを目的としています。そのために全社一丸となってTQM活動に取り組みましょう。
TQM活動はトヨタ自動車を始め、製造業で多く実施されています。しかし、TQM活動はモノの品質の改善に限定されたものではありません。最近では、医療機関でも患者満足度の向上をめざして、TQM活動を導入する病院が増えてきています。
今後も業界を超えて品質改善手法が広く応用され、仕事や経営環境が改善されて、安心して住みやすい社会が実現することを期待しましょう。