AIによる外観検査の導入が製造業で注目されています。近年の労働力不足、コスト削減、労働生産性の向上などの課題解決は、AI技術により解決しようとする試みが浸透してきました。ですが、AI外観検査を導入しようにも知識がなくて困っていませんか。
今回は、AI外観検査とは何か、メリットや導入の流れ、事例など基本事項を網羅して解説します。
目次
AI外観検査とは?
AI外観検査とは、製品や部品に付着した傷や汚れ、その他の異常を、静止画(画像)や動画データなどをもとに、AIの機械学習技術を用いて良品・不良品の判定を行い、自動検出する仕組みのことです。
AIについて
AI(人工知能)とは、人工的に構築されたコンピューターシステムによる知的な行動や判断能力のことを指します。
AIは、大量のデータやルールを学習し、自己学習を繰り返して、それらを利用して複雑な問題を解決したり、人間と同様の判断が実行可能です。これにより、人間の知能を超える精度やスピードでの問題解決が期待されています。たとえば、AIを活用した画像認識技術は、高い精度で物体や文字を認識することができます。
また、自然言語処理技術を用いたAIは、自然言語での問い合わせに対して自動応答が可能。さらに、AIを活用した音声認識技術は、音声をテキストデータに変換することが可能です。
これらの技術は、医療、製造業、金融、交通、エンターテインメント、教育などの様々な分野で活用されています。
外観検査について
外観検査は、製造業において製品の外観や形状、寸法、色、傷などの視覚的な特徴を検査するプロセスです。
外観検査は、製品の品質を確保するために非常に重要であり、製造プロセスの各工程で実施されますが、従来の外観検査では、検査装置や目視検査が主流でしたが、精度や効率が不十分でした。
しかし、AIを活用した外観検査により、高精度かつ高速で製品の外観検査を行うことができるようになりました。
AIによる外観検査は、製品の特徴を把握し異常を検知することができることで自己学習機能を持つため、検査精度が格段に向上します。
このようなAIによる外観検査は、品質管理を強化し生産性の向上につながるため、現在では様々な産業分野で導入が進んでいます。
関連記事:品質管理の基本を解説!目的や品質保証との違い、主な手法は?
AI外観検査の仕組み
AI外観検査の仕組みには、機械学習や深層学習、画像処理技術などを活用して学習するといった特徴があります。学習には、大量の正しい外観の画像と不良品とされた外観の画像が必要です。AIはこれらの画像から、不良品とされた外観の特徴を学習し、正しい外観の画像との違いを判別できるようになります。
製品の外観検査では、製品の画像を撮影し、AIが学習したモデルにもとづいて検査を実施。製品の画像に含まれる様々な特徴を分析し、不良品とされる外観の特徴との類似性も判断します。
そして、製品を良品として承認するか、不良品として拒否するかを決定するのです。
従来の外観検査との違い
従来の外観検査とAI外観検査との違いを紹介します。
製造品質やコストに直結する重要な要素のため、違いを理解することで、製造現場に導入するイメージがよりわかりやすくなります。
自動化の度合い
AI外観検査は自動化の度合いが高く、生産性や品質向上につながるとされています。従来の目視検査では,、人が良品と不良品の種類を覚え、判断、選別という多くの工数が発生します。
AI外観検査では、良品、不良品のデータを学習させれば、カメラやセンサーを使用し、自動的に検査を行うことができます。
そのため、AI外観検査は目視での発見が難しい、微細な不良も自動化により高速かつ高精度で検出可能で、多くを自動化してくれるため、生産性や品質向上につながるとされています。
判断の正確性
AI外観検査では、事前に学習した教師(正解、良品)データにもとづいて、正確かつ一貫した判断が行われます。その一方で、人間による判断は主観的であり、判断基準にばらつきが生じることがあります。
また、繰り返しの長時間作業では、体力と高い集中力が必要となり、疲労による判断力低下も起こるといった可能性もあります。そのため、人間による判断よりもAIのほうが正確で一貫したデータが取れるのです。
AI外観検査であれば、繰り返しの長時間作業でも判断の正確性は低下しません。
コスト
AI外観検査では、導入コストが高くなりますが、機械が自動的に検査を行うため、中長期的に見れば、トータルコストは削減につながるとされています。
人による目視検査では、人件費や多くの工数がかかり、コストが高くなる傾向があります。
AIの導入コストはピンからキリまで幅があるため、導入する場合はどの工程に導入が可能か、現状把握と見積り、人件費とのコストの比較検討が重要となります。
適用範囲
目視検査では、目で見える範囲の検査に限定されますが、AI外観検査は、カメラやセンサーを使用することで、可視範囲外の部分や、微細な欠陥の検査が可能になります。
たとえば、自動車のエンジンルーム内部や、携帯電話の基盤内部の検査などが挙げられます。品質改善はもちろんのこと、人の目でも見えないところや見落としを防ぐのにも、AI外観検査は役立つのです。
関連記事:製造業における品質改善5つの手法は?品質バラつき防止の取組事例を解説
AI外観検査のメリットとデメリット
AI外観検査にはメリットとデメリットがあります。それぞれを把握した上で、どの工程で導入するか検討するとよいでしょう。
メリット
高い精度
AIは、膨大な量のデータを学習することで、従来の人手による検査よりも高い精度を発揮します。特に、製品や機械の微細な部分や、人間の目では見落としがちな部分を正確に検査することが可能です。
さらに、AIは学習によって精度の向上、教師(正解)データを用いた学習によって、正しい検査結果をより多くのデータで蓄積し、より正確な判断を行うようになります。
迅速な検査
自動化された検査であるため、人手による検査よりも迅速に処理が可能です。また、検査結果の出力も瞬時に行われ、繰り返しの作業にも適しています。
AIによる外観検査によって、生産ラインのスピードを向上させることができ、製品の生産性を向上させることができるのです。
コスト削減
AI外観検査は、目視検査に比べてコストを削減することができます。目視検査員の教育、習熟度には時間とコストが多く発生し、能力にもバラツキが出ます。
また、目視検査ではヒューマンエラーが発生する可能性もあり、不良の流出、クレームにつながればそのコストも測り知れません。
ヒューマンエラーの防止
人間の疲労やミスによる検査漏れや誤判定を防ぐことができます。AI外観検査で自動化すれば、人のように疲労がたまることはなく、ヒューマンエラーを防止できます。
不良品の流出やクレームの発生を減らし、顧客満足度やブランドイメージを向上させることができるでしょう。
関連記事:ヒューマンエラー対策12選!5つの要因とミスを回避するポイントは?
デメリット
教師(正解)データの必要性
教師(正解)データは、機械学習や深層学習などの機械学習アルゴリズムをトレーニングするために必要です。そのためには事前に膨大なデータを用意し、学習させる必要があります。
たとえば、金属部品であれば、表面の欠陥(ひび割れ、凹み、欠けなど)を検出するために、不良品のデータが種類ごとに必要となります。
様々な種類の部品を扱っているとなればその分、教師(正解)データを用意する必要があるのはデメリットの一つです。
対象物の制約
AI外観検査は、対象物の外観を認識することができるため、外観が一定のものに限定されます。外観が変化するような製品や機械については、AI外観検査が適用できない場合があります。
製品によっては、外観だけでなく機能的な部分が重要である場合もあり、スマートフォンなどの電子機器については、外観だけでなく機能性も重要な要素です。
このような外観だけでなく、内部の部品や回路についても検査が必要である製品については、AI外観検査だけでは完全な検査を行うことができません。
トラブル時の対応
AI外観検査が異常を検知した場合、トラブルの原因を特定することが難しい場合があります。また、AI外観検査によってトラブルが生じた場合には、目視による検査に比べて対応が遅れる可能性も。
そのため、AIにのみ頼るのではなく、適切な予算やスタッフの確保も必要になるでしょう。
AI外観検査を導入する流れと費用
外観検査を導入する費用感は、数百万円から数千万円程度と言われています。ここからは経済産業省が提供する「AI導入ガイドブック」に沿って、導入手順と費用について詳しく解説していきます。
導入する流れ
3段階のステップで行います。
- 企画
・導入範囲の決定:改善点の把握、対象製品の決定、導入後の検査、工程の再設計
・機材見積:機材の見積り・手配の開始
- モデル構築
・データ取得:用意する画像データの定義、撮影機材の選定、撮影方法の特定
・モデル構築、最適化:モデルの基本理解、データの学習モデルの精度検証、実装準備
- 導入・運用
・検査現場へのモデル・機材の設置
・新たな検査方法の浸透
・定期的なモデルの再学習・再構築
企画
改善したい点を把握し、AI導入の必要性があることを確認します。たとえば、検査員の負担過多、検査に要する工数の増加など、困りごとを洗い出し、定量的に実態を把握します。
また、対象製品の決定、優先順位づけを行い、選定をするのも必要です。AI導入による効果、技術的に可能かなどを選定の軸として対象製品を選定しましょう。
最後に導入機材を見積もります。試作品を100円ショップや安価な材料を用いて作成することで、その後のAI導入のイメージがよりつかみやすくなるでしょう。
パソコンやカメラ、照明、固定するための器具などが基本的に必要となりますが、従来使用している検査機材を流用できる場合もあるため、それらを含め見積りをします。
モデル構築
モデル構築の際は、AIのモデル学習用に、良品、不良品を判断するための画像データを取得します。たとえば、良品50個×5枚ずつ、不良の種類(欠け、穴、傷の大きさ)ごとに20個の製品×5枚ずつの写真撮影が必要です。不良品が目標数集まらない場合、その種類の不良品検知精度が低くなる恐れがあります。
モデル構築方法は主に2つあります。
自動モデル構築(GUI:Graphical User Interface)は、マウスのクリックやドラッグで操作が完結するプログラミングの知識に依存しないモデル。
自力モデル構築はプログラミングスキルをもとに、カスタマイズが可能なモデルです。自力モデル構築は自由度が高い分、専門的な知識を持つ人材が必要となります。
いずれかの方法で初期モデルを構築したのち、画像を投入し良品、不良品を判別。AIの判別結果とこちらが求めている判別結果を比較し精度を検証し、さらにモデルを修正し導入準備を進めます。
導入・運用
検査現場へモデル、機材を設置し不具合がないかを確認します。
よくある不具合として、装置は動いているが、カメラが映らない、装置全体が動いているが、不良判定の比率がおかしいなど、考えられる原因を特定し対応します。
また、AI活用効果を最大化するため、使用上の注意点や書き出しなどを通じて新たな検査方法を浸透させましょう。作業手順書を作成、研修(OJT)を行い、使用方法に誤りがないよう、属人化しないように現場へ伝達することが大切です。
現場改善ラボでは、人材開発コンサルタントによるOJTを効率化しつつ効果を最大化するための具体的な手法について解説した動画を無料でご視聴いただけます。OJTについてもっと知りたいという方は、ぜひご参照ください。
費用
結論、導入するシステムの規模によって大きく差がありますが、一般的には数百万円から数千万円程度といわれています。
AI外観検査にかかる費用の主な項目は、以下の通りです。
- ソフトウェア
- 自動外観検査用カメラ
- レンズ
- その他導入サービスの人件費
既存の検査装置を流用する場合でも費用は変動するため、一概にはわかりません。
ですが、AI導入ガイドブックによると約30万円で導入した事例もありますので、リソースが潤沢な大企業に限らず中小企業でも導入できる可能性があります。
一度見積もりを出してみるといいでしょう。
AI外観検査を導入した事例
AI外観検査を導入した事例を2つ紹介します。導入に至った背景や効果などをみていきましょう。
トヨタ自動車株式会社
トヨタの事例では1人の作業者が1日約数万個の歯車の部品を、目視検査で行っており、人にかかる負担が大きいものでした。また、目視検査では小さな欠陥を判定するため、高齢者の方では検査が難しく、作業者を限定せざるを得ません。
AI外観検査装置を導入した結果、誰でも検査ができるようになり、「作業負担が軽くなった」と現場からは喜びの声が上がっています。不良検出率は100%で、検査精度面においても大きな効果が表れました。
【参考:トヨタ自動車向けにAI外観検査装置を追加導入 検査の効率化で電動化需要に対応】
キユーピー株式会社
キユーピー株式会社のニンジンの検査工程では、目視検査で規定外の形状や変色したものを取り除いています。作業者の身体的負担が大きく、作業改善が必要でした。
しかしAI外観検査装置を導入することで作業効率が向上し、働く人にも身体的負担の少ない工程へと生まれ変わったのです。
さらに検査装置は操作性、作業性にも優れており、ボタン1つで誰でも簡単に操作できるうえ、分解、洗浄も楽にできるシンプルな構造となりました。
【参考:キューピー株式会社『AIを活用した原料検査装置をグループに展開』】
まとめ
- AI外観検査は、製品や部品の欠陥(傷や変形など)を画像や動画データなどをもとに、自動検査する仕組みのこと
- AI外観検査の仕組みは、機械学習や深層学習、画像処理技術などを活用している
- 目視検査と比較すると、判断の正確性、コスト、適用範囲などにおいてAI外観検査のメリットは大きい
- デメリットは、正解、不良データが大量に必要。トラブル時は専門スタッフが必要な場合がある
- 導入する手順は、3段階。企画、モデル構築、導入・運用の順で、「AI導入ガイドブック」が参考になる
- トヨタ自動車株式会社やキューピー株式会社での導入事例があり、作業者の負担が減り、作業性が向上した
AI外観検査は、これからの製造現場のみならず、企業においての課題を解決する要です。
人員不足や作業性、品質向上、コスト削減が叫ばれる中、AI技術の導入は各業界に当たり前となるでしょう。基礎的な知識を学び、AI外観検査が導入可能か、まずは専門家に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。