生産管理をする上で、「セル生産方式ってどんな種類があるの?」「セル生産方式を効率的に機能させている事例は?」といった疑問やお悩みはないでしょうか。セル生産方式は、従来のライン生産方式の欠点を補うために開発された効率的な生産方法で、トヨタ自動車株式会社が開発したトヨタ生産方式をもとに考えられています。
本記事では、セル生産方式と従来のライン生産方式との違いやセル生産方式の主な種類、セル生産方式を導入するメリットやデメリットの他、導入事例やセル生産方式を効果的に機能させる仕組みについて紹介します。
この記事を読めば、セル生産方式がどのようなものか、また企業がどのように活用しているのかを理解できるでしょう。ぜひこの記事を参考に、最新の生産技術について理解を深めてください。
トヨタ生産方式に基づいて、株式会社カイゼン・マイスター社長 中小企業診断士の小森 治 氏が解説する動画も無料でご覧いただけますので、本記事と併せてご覧ください。
目次
セル生産方式とは?ライン生産方式との違い
セル生産方式とは、近年注目されている効率的な生産方法のことで、従来のライン生産方式の欠点を補うために開発されました。セル生産方式により、企業は生産性の向上やリードタイムの短縮を実現したことで、市場の変化にも柔軟に対応できるようになっています。
そもそも「セル」とは?
セルとは、製造工程を独立した単位に分割し、単位ごとに作業者が配置されることで、特定の製品や部品の組立作業が完結するように設計されたものです。
セルによって生産ライン全体が効率化されること、作業の見通しが良くなることが利点として挙げられます。セルの配置や大きさは、製品や生産量に応じて柔軟に変更できるため、多くの製品に対応可能です。
例えば、自動車部品の製造であれば、エンジン組立セル、ボディ組立セル、内装組立セルなど、それぞれの部品に特化したセルが存在します。セルごとに作業が分割されることで、スムーズな生産が実現できます。
セル生産方式の概要
セル生産方式は、トヨタ自動車株式会社が開発したトヨタ生産方式(TPS)の考え方をベースにしています。TPSは、「ムダの排除」と「自働化」を重視し、生産効率と品質向上を目指す生産管理手法です。セル生産方式は、TPSの考え方を取り入れつつ、生産ラインをより効率化・柔軟化するために開発されました。
具体的には、セル生産方式では、製造工程を独立した単位に分割し、各セルに作業者を配置します。作業者は、セル内で複数の工程を担当し、製品や部品の組立作業が完結するように役割分担されています。作業者が複数の工程を担当することでムダな移動や待ち時間が削減され、技術継承もスムーズに行われるため、生産ライン全体の効率化と作業者のスキルアップが実現可能です。
関連記事:トヨタ生産方式(TPS)をわかりやすく解説!7つのムダやメリット/デメリットとは?
ライン生産方式との違い
セル生産方式とライン生産方式の違いは、主に技術継承の難易度や多能工化の部分にあります。
セル生産方式では、作業者が複数の工程を担当することで作業者が幅広い知識とスキルを持つため、技術継承がスムーズに行われるほか、柔軟な対応が可能になることで多能工化の促進が可能です。例えば、急な製品変更や生産量の変動に対応できるほか、ようになります。作業者のスキルアップにより、品質の向上や生産効率の向上が期待できるでしょう。
一方、ライン生産方式では、作業者が特定の工程に専念するため、他の工程に関する知識やスキルが伸びにくく、技術継承が難しい点や、多能工化が進みにくい点が特徴です。そのため、製品の変更や生産量の変動に対応することが難しい場合があり、作業者のスキルが限定されることで、品質や生産効率の向上が期待できないこともあります。
これらにより、セル生産方式は、ライン生産方式に比べて技術継承の円滑化や多能工化を実現できるため、柔軟性や効率性に優れていると言えるでしょう。さらに、市場環境の変化や製品の多様化にも対応できることから、多くの企業がセル生産方式を導入しています。
例えば、トヨタ自動車はセル生産方式を活用して、効率的な生産ラインを構築したことで、車両の生産や部品の供給をスムーズに行っています。また、キヤノン株式会社やソニー株式会社などの電子機器メーカーも、セル生産方式を導入して、製品の多様化や市場の変化に迅速に対応できる生産体制を築いています。
セル生産方式が普及した4つの背景
セル生産方式が広く普及した背景には次の4つが挙げられます。
- 市場環境の変化
- 製品の多様化
- 生産効率の追求
- 従来のライン生産方式の課題への対処
それぞれ解説します。
市場環境の変化
近年の市場環境は、競争が激化し消費者のニーズが多様化しています。そのため、企業は迅速に市場の変化に対応し、多様なニーズに応える製品を提供する必要があります。
セル生産方式は柔軟性が高く、生産ラインの変更や新設が容易であるため、市場環境の変化に対応しやすいです。
製品の多様化
製品の多様化が進む中で、企業は多くのバリエーションの製品を少量生産することが求められます。
セル生産方式は作業者が複数の工程を担当し、効率的に生産を進められるため、小ロット生産に適した柔軟性があり、多様な製品の生産にも対応可能です。
生産効率の追求
グローバル競争が激化する中で、企業は生産効率を向上させ、コスト削減を図る必要があります。
セル生産方式は作業者が複数の工程を担当することで、移動時間や待ち時間が削減されるため、無駄を排除し、生産効率の向上や多能工化による労働力の有効活用が可能です。
従来のライン生産方式の課題への対処
ライン生産方式には、労働者のスキルの偏りや生産ラインの柔軟性の欠如などの課題があります。セル生産方式はこのライン生産方式の課題に対処するために開発されました。なぜかと言えば、セル生産方式では作業者が複数の工程を担当するため、スキルの偏りを解消し、多能工化を促進することが可能だからです。
セル生産方式では作業者が複数の工程を担当するためスキルの偏りを解消し、多能工化を促進することができるほか、セルの配置が自由に変更できるため生産ラインの柔軟性も向上します。
これにより、製品の変更や生産量の変動にも迅速に対応できるようになります。
セル生産方式の主な種類
セル生産方式には主に以下の4つがあります。
- 1人方式
- 分業方式
- 巡回方式
- インライン方式
それぞれの特徴を交えながら解説しましょう。
1人方式
一人方式は、一人の作業者が製品の全工程を担当するセル生産方式で、作業者が高いスキルを持つことが求められます。一人方式は、一人で作業するため、生産効率の向上、作業者のスキルアップの促進が期待できますが、一方で一人で全工程を担当するため、生産量が多い場合に負担が増えることがデメリットです。
実施例としては、時計の組み立てや高級オーディオ機器といった精密な製品などが挙げられます。
分業方式
分業方式は、複数の作業者が担当する各工程をひとつのセル内で連続的に行う方式です。作業の効率化や作業者間のコミュニケーションがスムーズになるため、生産性が向上することが期待できます。また、分業方式は、迅速な製品変更にも対応可能であるというメリットがあります。
分業方式は家電製品や自動車部品の組み立てなど、中小規模の生産に適した方式であり、柔軟な生産体制を構築できるため、市場の変化に対応しやすいと言えるでしょう。
巡回方式
巡回方式は、作業者が複数のセルを巡回しながら各セルの工程を担当する方式です。作業者が複数のセルを管理することで、各セルの効率を最適化し、全体の生産性を向上させられます。
また、適切な作業者配置や効率的なリソース管理が実現可能で、自動車部品やプリント基板の組み立てなど、多品種少量生産に適しています。
インライン方式
インライン方式は、連続した工程を一直線上に配置し作業者が順番に工程を担当する方式です。工程間の移動が最小限に抑えられ、効率的な生産が実現可能です。
また、インライン方式は、連続した工程が特徴の製品に適しており、大量生産が可能であるというメリットがあります。例として、食品製造業や自動車部品の組み立てラインなど、高い生産性が求められる場合に適しており、生産プロセスの標準化や効率化を図れるため、コスト削減や品質向上が期待できるでしょう。
セル生産方式のメリットとデメリット
ここでは、セル生産方式のメリットとデメリットをそれぞれ紹介します。
メリット
セル生産方式のメリットとしては次の3つが挙げられます。
- 少人数で多品種少量生産可能
- 生産変動への高い適応力
- 安価な導入コスト
それぞれ解説します。
少人数で多品種少量生産可能
セル生産方式は、少人数で多品種の製品の少量生産が可能です。各セルが独立して機能し、作業者が複数の工程を担当できるため、人手不足の状況でも効率的な生産ができます。
例えば、手作業が多い工芸品の生産などでは、セル生産方式が適しています。
生産変動への高い適応力
セル生産方式は、各セルが独立しているため、市場の需要に応じてセルの数を増減させることが容易であるため、生産量の変動に対して柔軟に対応できるというメリットもあります。
例えば、季節商品の生産など、需要が変動する製品に対してセル生産方式が効果的です。
安価な導入コスト
セル生産方式は、導入コストが比較的安いというメリットもあります。
従来の大規模な生産ラインに比べ、必要な設備やスペースが少なく済むため、初期投資が抑えられます。例えば、新規事業を立ち上げる際や、製品の試作を行う場合には、セル生産方式が適しているでしょう。
デメリット
一方デメリットとしては次の3つが挙げられます。
- 労働集約的で自動化しにくく品質が不安定
- 作業者の教育が長期
- 複雑な工程管理
それぞれ解説します。
労働集約的で自動化しにくく品質が不安定
セル生産方式は、作業者が複数の工程を担当するため、自動化が進んだ大規模な生産ラインに比べて労働力が必要であり、自動化が困難です。
例えば、精密機械の生産などでは、品質の安定化が難しい場合があります。
作業者の教育が長期
セル生産方式では、作業者が複数の工程を担当するため、習熟するまで教育や育成に時間がかかるというデメリットがあります。
例えば、電子機器の組み立てや複雑な機械部品の加工などでは、作業者には多くのスキルと知識が求められ、教育期間が長くなる場合があります。
複雑な工程管理
セル生産方式では各セルが独立して機能し、作業者が複数の工程を担当するため、工程全体の管理やコントロールが難しくなり工程管理が複雑になります。
例えば、製品の仕様変更や急な生産量の変動があった場合、各セルの調整が必要となり、管理が煩雑になることがあります。
セル生産方式の導入事例
セル生産方式を導入した企業は多くありますが、中でも突出して成果を挙げている企業の中に、キヤノン株式会社、トヨタ自動車株式会社、ソニー株式会社があります。
ここでは、3社の導入事例について解説しましょう。
キヤノン株式会社
キヤノン株式会社は、1998年からセル生産方式を導入しており、その効果を最大限にいかしています。キヤノンがセル生産方式を導入した背景には、多品種少量生産への対応があります。
セル生産方式は、各セルが独立して機能するため、製品のラインナップが増えても、迅速かつ効率的に生産を行うことが可能です。例えば、キヤノンはデジタルカメラやプリンターなど、多様な製品を取り扱っており、市場のニーズに合わせて生産計画を柔軟に変更することが求められています。
また、キヤノンのセル生産方式は、短いリードタイムを実現しています。従来の生産ラインよりも工程間の移動が少なく、組立から出荷までの時間が短縮されるからです。例えば、新製品の市場投入が急がれる場合や、季節的な需要の変化に対応する際にも、短いリードタイムがキヤノンの強みとなります。
さらに、キヤノンのセル生産方式では、コスト削減も実現しています。各セルが独立して機能するため、専用の設備や大量の在庫を必要とせず、リソースの有効活用が可能になるからです。例えば、設備の共有化や在庫の最適化が実現し、コスト削減が図られています。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社は、セル生産方式の発展に大きく貢献した企業の一つです。トヨタ生産方式(TPS:Toyota Production System)やJIT(Just In Time)がセル生産方式の進化に重要な役割を果たしたからです。
1980年代、トヨタは自動車部品の組立ラインで自動化が困難な場面に直面し、U字ラインや二の字ラインといったセル生産方式の一つの形態を開発しました。U字ラインでは、複数の大型工作機をU字型に並べ、多能工が工作機を渡り歩いて作業を実施していました。結果として、生産効率が向上し、工程管理が容易になりました。
1990年代に入り、「一人屋台方式」が登場し、セル生産方式が広く認知されるようになります。一人屋台方式では、作業者一人で複数の作業を行うことが特徴です。結果として、トヨタ自動車株式会社のTPSやJITの考え方に基づいて発展しました。
トヨタ自動車株式会社は、セル生産方式を適用し、生産効率の向上や品質の安定化を実現しています。例えば、高機能コピー機の生産では、部品が1,000点以上あるにもかかわらず、一人で生産が可能になりました。トヨタ自動車株式会社は、セル生産方式を活用し、製造業の生産効率や品質向上に寄与しています。
トヨタ生産方式については、トヨタ関連会社の社長を歴任し、実際のトヨタの製造現場を見てきた小森氏が解説する動画を公開しているので、こちらも併せてご覧ください。
ソニー株式会社
ソニー株式会社は、ベルトコンベヤー式の生産方法では、多品種・少量生産に対応しづらく、効率が悪いため、多品種・少量生産に適した「セル生産方式」を1992年に世界で初めて導入し、製造業に革新をもたらしました。
ソニーは、消費者の個性や付加価値を求めるニーズに応えるために、多品種化が進む音響・映像(AV)、家電の製造にセル生産方式を取り入れることで、効率的な生産を実現しています。
セル生産方式は、一つの製品を流れ作業で作るのではなく、一人もしくは数人が一つの製品の組み立て、検査まで行う方法であり、製造職人の復権とも言える方法です。
結果として、ソニーは従業員の創造性や尊厳を大切にする作業環境を提供し、効率的で柔軟な生産体制を構築しました。
ダイナミックセル生産方式にも注目が集まる
近年では、新しい生産方式としてダイナミックセル生産方式に注目が集まっています。ダイナミックセル生産方式は、セル生産方式とライン生産方式の優れた点を組み合わせたものであり、生産効率や柔軟性の向上が期待できます。
ダイナミックセル生産方式は、各工程をセルに分けて作業し、インターネットでセル同士を接続し、セルでインターネットによる一つの大きなセルの流れを形成します。結果として、仕様の異なる製品を既存の生産ラインで製造可能としたり、多品種少量生産が得意なセル生産方式よりも生産効率を高めたりすることが可能です。
例えば、新車のモデルを開発する場合を考えてみましょう。ダイナミックセル生産方式は、ボディーのみ変更する場合は、必要なセルだけを新しくし、他のセルはそのまま使い回すことが可能なため、変更による労力や混乱を最小限に抑えられます。
また、ダイナミックセル生産方式は、作業の遅れやトラブルが生じた際にもラインの流れを組み替えられるため、リアルタイムに状況を判断し、最適な生産工程に変更できます。生産効率や柔軟性の向上を目指す企業としては注目するべき生産方式と言えるでしょう。
セル生産方式を効果的に機能させる仕組み
セル生産方式を効果的に機能させるためには、デメリットを克服し、生産効率や品質を向上させる仕組みが求められます。
労働集約的で自動化しにくく品質が不安定な問題に対処するためには、適切な技術の導入と効果的な作業分担が重要であり、労働集約的な作業を自動化することで、品質の安定化や労働力の削減が可能となります例えば、ロボットやAI技術を導入し、精密機械の生産などで作業者の負担を軽減し、品質の向上を図ることが可能です。
次に、作業者の教育が長期化する問題に対しては、効率的な教育プログラムの開発とスキルアップを促す環境づくりによる教育期間の短縮が求められます。実践的なトレーニングやシミュレーションを活用し、電子機器の組み立てや複雑な機械部品の加工などで作業者のスキルアップを促すことなどが良い例でしょう。
また、複雑な工程管理に対処するためには、デジタル技術を活用した効率的な生産管理システムを導入することが不可欠です。デジタル技術を用いることで、各セル間のコミュニケーションが円滑になり、工程全体の管理や調整が容易になります。
例えば、製品の仕様変更や急な生産量の変動があった場合でも、デジタル技術を用いたシステムにより、各セルの調整を迅速かつ効率的に行えます。
セル生産方式の革新と企業事例【まとめ】
セル生産方式とは製品ごとにセルと呼ばれる単位で生産を行う方法で、従業員が製品の組み立てや検査まで一貫して担当します。
一方で、ライン生産方式は、一人一人が特定の作業を担当し、製品が流れ作業で組み立てられる方法で、セル生産方式とは主に技術継承の難易度や多能工化の部分に違いがあります。
セル生産方式の普及は、企業が多品種・少量生産への対応や、従業員の創造性や尊厳を重視するようになった背景にあり、セル生産方式には一人方式、分業方式、巡回方式、インライン方式などから自社の製品に適した方法を選択することが重要です。
セル生産方式の元となったトヨタ生産方式を含め、注目されている製造業のノウハウは現場改善ラボ限定の動画で視聴できます。ぜひこの機会に、動画も一緒にご覧ください。