▼執筆者
QCD革新研究所 所長
中村 茂弘 氏
前回は、大きな改善の実行に必要な工程分析について解説しました。今回は、大きな改善を実際に現場で適用した事例を紹介していきます。自分自身も現場に立ったつもりで見ていきましょう。
前回のコラムはこちら
製造現場の改善実践事例
こちらは実際にある企業で行った事例になります。
現場では作業者がしっかりと動き、一生懸命に働いていました。しかしよく見ると実はモノ作りと関係していないということがわかったのです。ECRSを実践し改善を行うと、リードタイムは減少し、仕掛かりの山だった場所は空き地になり大きなスペースができました。
また、プレス職場で手で運んでいたものを、台車を使うことで簡単にできるようになりました。ポイントとなるムダへの気づきは以下の3点です。
- 今まで動いていれば仕事していると思っていた。
- 1分1秒のムダなど関係ないと思っていた。
- 後工程から「急ぐ!」と言われ残業までして生産したものが、床に積み上げている、ナニコレ?
作業者は一生懸命に働いているつもりでしたが、付加価値のない動きをしていてはムダになります。そして関係ないと思っていたその1分1秒のムダでさえも、大きなムダになってしまうのです。
これらのことは後から言われると、なるほどとなるものです。初めから気づくにこしたことはありませんが、やってる人は見えないのです。現場の作業をビデオで撮り、教育を受けて初めてわかったのです。
よってプロは自分の動きを動画で撮るわけです。頑張って働いている様子を撮るのではなく、動画で仕事を撮影し、4つの記号とECRSを使って、これは一流の仕事なんだろうかと見ながら、ムダを省いて改善していきます。同じ仕事をするのであれば、ムダは排除していこうということです。
プレス作業における改善の実践事例
こちらはプレス作業における事例の紹介です。
ここではプレス6台を使って、モノ作りをしています。6台のプレスには3名の作業者が付いて作業しているという状況です。作業者はプレスに材料を取り付けて、取り出すということを行っています。
企業からの実際のオーダーは6台のプレスに対して、それぞれロボットを1台ずつ付けてほしいというものでした。しかし現実をよく見てみると、かなりムダが多く、いろいろ検討しなければいけないということになります。どこで、誰が、あるいは何が、どの程度仕事をしているのかという観点から見ていくと、改善点がはっきりしてきます。
いつ、どこで、誰が仕事をしているかというのは、IE的な見方なのですが、ここではプレスが仕事をしており、作業者は手待ちの状態でした。プレスは一瞬で仕事を終わらせてしまうので、作業者にムダが生じていたのです。さらにプレス1台に、2つの型を同時に載せることができました。つまり6台あったプレスは、3台で十分というわけです。そして材料の移動はつなぎを良くすることで、簡単な横送りのロボットでもできるようにしました。
これらの改善にはECRSのCombine(結合)と作業者の手待ち減少、ロボットでの自動化によるRearrange(置き換え)を用いています。
結果として、3台のプレスにそれぞれ簡易ロボットを1台ずつ付けるだけで済み、人の移動による手待ちもなくなり、生産性が数倍上がったというわけです。最初の改善の要求とは違いましたが、ロボットの設置は6台から3台に減ったため、投資の費用を安くすることができました。さらにそれ以外のムダの排除もでき、生産性も上がったという事例です。
パントマイム改善の事例
こちらはアメリカの工場でのパントマイムを使った改善事例です。職場の現状を捉え、パントマイムで再現し、改善するという3つの流れで進めていきます。
まずは職場の現状の様子を捉えます。職場は電気部品の組立工程で、作業手順は以下の通りです。
- プレスを使い部品を組み立てます。
- 後ろにあるプレスでワイヤーに部品を結合します。
- 2の隣にあるプレスでワイヤーをコネクターに入れて圧入します。
- 1で組み立てた部品と3でできた部品を組み合わせます。
次に改善前の職場の現状を、パントマイムで再現していきます。あたかもここにプレスがあるかのように、1〜4の作業を再現して行うわけです。そのためにダンボールや人の力を使用し、簡単にですが実際の職場の様子を再現していきます。これが現状分析です。
それから改善へと進みます。この現状をどう改善するかということで、まず机上で検討したわけですが、それだけではダメです。図面に書いただけではなく、実際にパントマイムで改善案をやっていくことが必要なのです。もちろん机上で検討した改善でも、良いアイデアは生まれます。しかしパントマイムで実際にやると、改善案の欠点が見つかるなど、思っていた通りにはならない場合もあります。
今回の場合でも、机上の検討で良いアイデアは出ましたが、実際にパントマイムで行うと、手が入りにくいところが見つかったり、まだまだ欠点が残っていました。よって机上でどれだけ良い改善案を考えたとしても、実際にパントマイムで再現し、より現実に近い状態でシミュレーションすることが重要です。
そしてここで一度、改善前後の内容と時間の比較をしていきます。パントマイムの再現をビデオで撮影し比較するのですが、改善前後ともゆっくりと行ったものを撮影していきます。改善前後の両方をゆっくりやることで作業内容も良くわかり、時間の比較もできるからです。その時間の差は、実際の時間でも同じくらい減ることになります。
ビデオを比較した結果は、まだ改善しなければいけないところがあるということで、装置化することになりました。
そのほかに見つかった改善点としては、1台のプレスで2つの作業を同時にできるということです。また作業手順2に関して、製品の形状を変えることにより、肩の負担の大きかったペンチを使った動作をなくせることもわかりました。さらにプレスの位置を変更することで移動を減らし、部品の取り出しは両手同時動作で行うといった改善も行っています。
改善後の結果としては、工程の工数を45%低減させることができ、短期間に成果を予定通り得たということです。
終わりに
現場で働いているときには気づかないことも、ビデオで仕事を撮影することで改善点が見えてきます。また、改善点を探す際には机上で検討するだけではなく、パントマイムで再現することで、机上では気づかなかった欠点や新たな改善点が見つかります。
今回の事例では、百数十年前にできた工程分析を使ったわけですが、使い方によってはすごく大きな改善ができるのです。今でも同じことを繰り返していますので、ここで学んだことを参考にして、皆さんのところでもお使いになってください。