三現主義とは、実際の「現場」で「現物」を観察し、「現実」を認識した上で問題解決を進める考え方を指します。
この記事を読んでいる方は「三現主義によって品質向上や生産性の向上を図れる?」「三現主義と5ゲン主義の違いとは?」「三現主義についてトヨタやホンダの事例を知りたい!」といった疑問や思いを抱えているのではないでしょうか。
そこでこの記事では、三現主義の基本的な定義から、製造現場における三現主義の目的や重要性、さらには「5ゲン主義」という派生語までを詳しく解説します。また、トヨタやホンダなどの大手企業がどのように三現主義を取り入れているのか、その具体的な事例も紹介します。
三現主義の考え方は、情報化時代でも非常に重要であり、経営者やリーダーが自らの目で確かめ、耳で聞き、肌で感じることによって、正確な経営判断を下すための基盤となります。特に製造業に従事する方々や、現場改善を求める方にとって、三現主義は必須の考え方と言えるでしょう。
製造業の現場で日々の業務や課題解決に直結する三現主義という考え方を、この記事を通じて学んでみてください。
目次
三現主義とは?3つの「現」について
三現主義とは?言葉の意味
三現主義とは製造業における現場改善の考え方の1つで、「現場」「現物」「現実」の3つの「現」を重視する考え方のことを指し、3つの「現」をもとにした実際の観察や認識が、問題解決につながるという考え方です。
たとえば、製造業では、新しい製品の生産ラインが計画された場合、「現場」で生産ラインの実際の動きや作業員の動線を直接観察することで、無駄な動きや効率の悪い部分を発見できます。また「現物」で実際に生産される車や部品を直接確認し、品質の問題や組み立ての難しさなどをチェック。「現場」や「現物」の観察から得られた情報をもとに、生産計画や品質目標などの「現実」の課題や目標を設定します。
3つの「現」について
3つの「現」とは具体的に、以下の3つを指します。
- 現場
- 現物
- 現実
現場
現場は、製造業で実際にものづくりをしている場所を指し、実際の作業や状況を直接観察することが求められます。現場の観察を通じて、安全対策が十分でない箇所や、作業員の負担が大きい作業なども発見できます。現場での実態を理解することが、問題点や改善点を見つけ出すきっかけとなるでしょう。そのため、三現主義で現場改善を行う場合、最初に行うべきことは現場の観察による状況の把握です。
現物
現物は、製造業の製品や部品、工程などの「物」を指します。実際に制作した物を直接観察することで、隠れた問題点や新たな視点を得られるため、品質の問題や生産効率の向上点などを発見することが可能です。たとえば、現物を直接観察することで、部品の形状を少し変えるだけで組み立て時間が短縮できるといった効率化のアイデアが生まれる可能性もあります。
現実
現実は、現場や現物にもとづく実際の状況や問題点を現実的に捉えることを意味します。現実を正確に捉えることで、適切な対策や改善策を立てられるでしょう。たとえば、製造業の現場で頻繁に遅延が発生している場合、原因が単に作業員のスキル不足なのか、それとも機械や設備に問題があるのかを現実的に評価する必要があります。
製造現場における三現主義の目的や重要性
三現主義は机上の空論ではない現場主義の改善活動です。そこでここでは、以下の3つを解説しましょう。
- 三現主義の目的
- 三現主義の重要性
- 三現主義の必要な場面
三現主義の目的
三現主義は、製造現場において、机上の空論を避け、実際の「現場」で「現物」を観察し、「現実」を正確に認識することを目的としています。三現主義の考え方は、単にデータや情報に頼るのではなく、実際の現場での観察や体験を重視するものです。情報化時代でも、実際に現場での経験や観察が最も信頼性のある情報源でとなります。
たとえば、製造ラインの不具合や効率の低下は、現場での観察や体験を通じて最も早く、そして正確に把握できます。
三現主義の重要性
三現主義は、製造現場の問題解決や改善において、現場の実態を正確に把握し、適切な判断を下すために不可欠です。情報システムやインターネットの普及により、多くのデータや情報が手に入る時代でも、実際に現場を目で確かめること、耳で聞くこと、肌で感じることの重要性は変わりません。現場では、現物を直接確認することで、データだけでは得られない多角的な情報を得られます。
たとえば、製品の微妙な色味や質感、部品の締結状態など、目で見て手で触れることで初めてわかる事項が多い傾向にあります。目で見て手で触れた情報は、品質向上や効率化に直結する重要な要素と言えるでしょう。
また、三現主義は現実を直視することも重要です。現実を直視することで、トラブルや品質不良の実態がわかりやすいからです。
たとえば、生産効率が低下している原因を探る際、データ分析だけでは「何」が起きているのかはわかっても、「なぜ」起きているのかまでは明らかにできません。そのため、現場に足を運ぶことで問題の根本原因を突き止めることが可能です。
ホンダやトヨタ自動車などの企業は、三現主義の原理原則に基づいて製造活動を行っており、結果として高い品質と効率を実現しています。ホンダやトヨタ自動車は、三現主義が製造現場における問題解決や改善の鍵であることを示していると言えるでしょう。
特にトヨタ自動車における三現主義の重要性は、自工程完結の発案者でトヨタ自動車元副社長の佐々木 眞一氏が現場改善ラボでのイベント講演の内容からも垣間見えます。
▼佐々木氏が語る品質経営の歴史
佐々木氏:トヨタ自動車の創業者、豊田喜一郎はお客様の車が故障する都度、自ら故障現場に赴き謝罪をするとともに、使用状況や故障原因を確認し原因追求を行っていました。会社に戻ると設計や製造現場にフィードバックをし、改善に結びつけたことをこれがトヨタのお客様ニーズ把握の源流となっております。
当然社長の行動を社員も見習い、現地現物でのお客様ニーズの把握や故障原因の追求を行い、改善することがトヨタのDNAの一つとなりました。
より詳細な佐々木氏の講演を知りたい方はこちらをご覧ください。
関連記事:トヨタ元副社長が語る『品質経営の歴史と課題』【IMPROVE開催レポート】
ホンダとトヨタ自動車の事例は後述の事例で詳しく解説します。
三現主義の必要な場面
三現主義が必要な場面とは、具体的には現場の加工・製造や品質管理の工程を行う場所になります。製造業の加工・製造や品質管理工程の現場では事故や品質不良などの問題が多くなる傾向にあるからです。
データだけでは物足りず、人間の感覚といった五感でしか把握できない機械の微妙な音変化など現場にしかない事故の要素や改善の要素があります。また加工・製造や品質管理の現場では、作業員の働きぶりを観察することで、初期段階で問題を察知し、大きなトラブルを防ぐことが可能です。
三現主義の派生語「5ゲン主義」とは?考え方や違い
三現主義の派生語「5ゲン主義」があります。ここでは、5ゲン主義の具体的な定義と三現主義は古いのかどうかを解説します。
5ゲン主義とは?
5ゲン主義とは、三現主義の「現場」「現物」「現実」の3つの「現」を、さらに「原理」と「原則」を加えた考え方のことです。
5ゲン主義は、三現主義の進化系とも言える考え方であり、物事が起こる原因やメカニズムを理解する「原理」と物事のルールや規則を知る「原則」を追加することで、より具体的な問題の解決策や対策を見つけることを可能にしました。単に現場の状況を観察するだけではなく、その背後にある原因やルールを理解することで、より効果的な改善策を導き出すことができます。
たとえば、製造現場で不具合の原因を突き止める際に、現場での観察だけでなく、その不具合が起こる原理や原則を理解することで、根本的な解決策を見つけることが可能です。原理/原則を追及するためには「なぜなぜ分析」が効果的といえるでしょう。
関連記事:改善につなげる『なぜなぜ分析の進め方』は?鉄則や落とし穴、事例を解説!
三現主義はもう古い?
三現主義は、製造現場における品質管理や問題解決の基本的な考え方として長らく重視されてきました。しかし、情報化時代やリモートワークの普及に伴い、現場を直接訪れることなく問題を把握する「デジタル三現主義」の考え方も生まれてきました。
以上の背景から、三現主義が古くなったのではないかという声もあるかもしれません。しかし、実際の現場での観察や体験の重要性、つまり三現主義の重要性は変わりません。なぜなら、データや情報だけでは把握できない現場の実態やニュアンスを理解するためには、直接現場を訪れることが不可欠だからです。
ただし、5ゲン主義のように、新しい考え方やアプローチを取り入れることで、三現主義をさらに進化させ、現場の問題解決や改善をより効果的に行えるでしょう。
トヨタ自動車やホンダによる三現主義の視点による改善事例
三現主義の視点による改善事例として、トヨタ自動車とホンダの事例を解説しましょう。
トヨタ自動車の事例
トヨタの外国人初の副社長、ディディ・ルロワ氏は、トヨタの生産方法やTPS(トヨタ生産方式)に関する考えを高く評価している人物です。
ルロワ氏は、トヨタでの研修を受けた際、三現主義の重要性を学んだとのこと。トヨタの生産方法は、実際の現場での確認と、実際の物をもとにした判断を重視しています。
実際にトヨタで起こった事例として、マイナーチェンジを控えていたプリウスの写真が社内の連携不足により販売店に一枚しかない状態でした。「それでは車の魅力が顧客に伝わらない」とルロワ氏が感じ、顧客のニーズに応えるため、すぐさまプリウスの写真を複数手配。
このルロワ氏の行動は、現場を考えた三現主義の事例と言えるでしょう。
参考元:トヨタの副社長ディディエ・ルロワ、世界で進める現地現物
ホンダの事例
ホンダも、三現主義を取り入れた現場改善の取り組みを行っています。
ホンダの考え方の基盤は、トヨタ生産方式にあり、「異常が発生した場合、機械は直ちに停止し、不良品を作らない」という「自働化」やJIT(Just in Time)という、各プロセスが必要とするものだけを停滞なく生産するという考えをもとに製造・販売しています。
実際にホンダの経営陣も現場に足を運び、市場の声に耳を傾ける努力を行っています。
三現主義を実践することで、現場の声や情報を直接収集できるため、間接的な情報や推測に頼らずに、問題の本質をつかめるでしょう。
生産性を向上させ利益につなげる三現主義の視点とは?
新型コロナウイルスの影響で、多くの企業がリモートワークを導入し、従来の「現地・現物」の考え方が難しくなってきました。しかし、トヨタ自動車の考え方では、リモートワークであっても「現地・現物」の精神は変わらないとされています。これは、三現主義が単に「現場に行って実物を見る」という表面的な意味ではなく、事象に関する情報を徹底的に集め、その中から真実を捉え、有効な解決策を見いだすという深い意味を持っているからです。
トヨタ生産方式(TPS)は、改善活動の代表格として製造業で普及しています。しかし、改善とは製造業などの特定の産業にのみ適用可能なものではなく、あらゆる産業に適用可能な共通の視点です。そのため、製造業に限らず、あらゆる業種の方が学ぶべき哲学がトヨタ生産方式と言ってよいでしょう。
現場改善ラボでは、各国のトヨタ関連会社の役員や社長を歴任した小森 治氏が解説する『トヨタ生産方式と現場改善の視点』の講演動画を無料でご覧いただけます。
ぜひこの機会に三現主義の真髄であるトヨタ生産方式を学んでみませんか?
三現主義を理解し現場改善をしよう!【まとめ】
製造業において、品質や生産性の向上を目指す基盤として「三現主義」が注目されています。
三現主義は、具体的には「現場」「現物」「現実」の3つの「現」を重視するもので、問題を正確に把握し、効果的な改善策を導き出すためのものです。
三現主義の目的は、事象に関する情報を徹底的に集め、その中から真実を捉え、有効な解決策を見いだすこと。その重要性は、迅速かつ正確な問題解決を可能とする点にあります。
近年では、三現主義の考え方をさらに発展させた「5ゲン主義」という考え方も登場しています。しかし、5ゲン主義によって三現主義が古くなったわけではありません。むしろ、現場の状況や課題に応じて、適切な考え方や手法を選択することが求められます。
三現主義は、単なる考え方や手法にとどまらず、現場の実態や課題を深く理解し、改善を進めるための哲学でもあるといえるでしょう。