現場改善ラボ 記事一覧 お役立ち情報 スマートファクトリーとは?目的や進め方、事例をわかりやすく解説!

かつて技術力で高い評価を得てきた日本のものづくりですが、少子高齢化に伴い人手不足が深刻化しています。

また、製造業をとりまくグローバル市場も変化し、工場でもデジタルデータの活用を行い業務プロセスの改善や生産性の向上を目的とした、スマートファクトリー化に向けた取り組みが行われています。

本記事では、スマートファクトリーの意味や目的のほか、スマートファクトリー化の進め方、実際にスマートファクトリーを導入した事例について詳しく解説します。

スマートファクトリーとは?意味と目的

スマートファクトリーとはどのような工場を指すのでしょうか。ここではスマートファクトリーの意味や目的、最近メディアで取り上げられているDXとの違いについて詳しく解説します。

スマートファクトリーの意味

スマートファクトリーとは、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などの最新技術を用いて、製造現場の設備、材料、手順などのデジタルデータをもとに作業効率化や生産性の向上を継続的に実現した工場のことです。

スマートファクトリーは「インダストリー4.0」というコンセプトを、体現したものといわれています。インダストリー4.0とは、2011年にドイツ政府が提唱した製造業の領域にITを組み込むことで、生産プロセスの可視化や効率化といった、現場のあらゆる改善を実現するコンセプトのことです。

従来の製造業では、ロボットなどの機械を導入することによって業務効率化を目指してきましたが、スマートファクトリーでは、製造現場のあらゆるデータを収集することによって生産プロセス全体を見直し、最適な作業フローを分析して製造現場で活用するのが目的です。

スマートファクトリーの7つの目的

ここでは、スマートファクトリーを推進する目的として、経済産業省が発表した「スマートファクトリーロードマップ」に紹介されている以下の7つの項目を解説します。

  • 品質の向上
  • コストの削減
  • 生産性の向上
  • 製品化・量産化の期間短縮
  • 人材不足・育成への対応
  • 新たな付加価値の提供
  • リスク管理の強化

品質の向上

スマートファクトリー化の目的には、生産性の向上だけではなく、品質の向上も含まれています。例えば、作業員の作業(作業手順や作業結果)のデータを収集することで、ヒューマンエラーが発生しやすい作業を特定します。ヒューマンエラーを未然に防げば、製品不良率を削減することができるでしょう。

コストの削減

スマートファクトリーにより、生産計画やリソースの最適化が実現できれば、コスト削減も図れます。需給予測に基づいて適正な在庫管理ができれば、余剰在庫を削減できるでしょう。

生産性の向上

スマートファクトリーを稼働させれば、生産性が向上します。EMS(製造実行システム)などの生産管理システムのデータを活用し、製造ラインの設備の稼働率や作業員の作業進捗データを分析すれば、作業員の作業計画や設備の稼働計画を最適化することができます。

製品化・量産化の期間短縮

製品化や量産化の期間短縮も、スマートファクトリーによって解決できる課題の一つです。製品開発・設計事例を収集してデータベースに蓄積し、解析・シミュレーションソフトによって分析すれば、製品設計の自動化や製品開発、設計時間の短縮につながるでしょう。

人材不足・育成への対応

スマートファクトリーの実現によって人材不足を解消できます。熟練技能者の技能(ノウハウ、状況判断力、トラブルへの対応力)を分析し、技術や知見を体系化できれば、人材育成に活用したりロボットに学習させることも可能です。

新たな付加価値の提供

製品に関連した新たなサービスや、顧客のニーズに合わせたオンデマンドなサービスを提供することも可能になります。例えば、製品にセンサー・通信機能を組み込み、製品の使用状況や使用環境のデータを収集し分析することで、製品の利用改善や予防保全につながる知見を活用した新しいアフターサービスを生み出すこともできます。

リスク管理の強化

製品不具合などのリスク管理の強化も重要な目的です。製品にRFIDや通信機能を搭載すれば、不具合が発生した際、通信機能を通じて製品ユーザーを把握できます。迅速に不具合の対策を実施すれば、クレームを未然に防いだり、影響範囲を最小限にとどめることが可能です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)との違い

メディアでもよく取り上げられている「DX」(Digital Transformation)とスマートファクトリーとは、どのような違いがあるのでしょうか。経済産業省によると、DXは以下のように定義されています。


「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」 

【引用:経済産業省「DX推進指標」とそのガイダンス


つまり、DXを製造業の生産現場に適用することが、スマートファクトリー化そのものといえるでしょう。

スマートファクトリー化をめぐる現状

ここでは、スマートファクトリー化が注目されている理由や、スマートファクトリーの現状と将来性について解説します。

スマートファクトリーが注目を集める背景

なぜスマートファクトリーが注目を集めているのか。その理由の一つとして、スマートファクトリーが製造業の国際競争力を高める手段として期待されていることがあげられます。

かつては個人の技術や技能が日本の製造業の強みでした。しかし、産業構造の大幅な変化や少子高齢化に伴い、ますます人手不足が深刻化し、技術や技能の継承が難しくなっています。

一方で欧米では、製品の品質を人に依存しない生産システムを早い段階で導入しました。作業の標準化や自動化を製造現場に取り入れたのです。その結果、グローバル市場では、日本と欧米との国際競争力に大きな差が生じています。

このような背景から、日本もスマートファクトリーを導入することで、日本の製造業の停滞状況を打開し、国際競争力を高めようとしています。

スマートファクトリー化の課題、普及率

では、日本でどのくらいスマートファクトリー化が普及しているのでしょうか。

経済産業省の「2022年版ものづくり白書」によると、ものづくり企業において、デジタル技術を活用していると回答した企業は、67.2%にのぼります。また、デジタル技術を活用した効果は、「生産性の向上」が55.6%と最も高く、多くの企業がデジタル技術の導入に効果を実感しています。

経済産業省「2022年版ものづくり白書」

【引用:経済産業省 2022年版ものづくり白書

このように、スマートファクトリー化に向けて積極的に動き出している企業がある一方で、スマートファクトリー化の必要性を理解していても、なかなか導入に踏みきれない企業があるのも事実です。

特に中小企業にとっては、予算の問題や、デジタル技術導入に必要なノウハウをもった人材が社内にいないなど、導入には多くの課題があります。

スマートファクトリー化の将来性

スマートファクトリー化は今後さらに重要になるでしょう。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、人の行動が大幅に制限され、製造現場においては、工場内での感染者発生や部品調達の遅延などにより工場の一時閉鎖も発生しました。

今後も同様の事態を想定し、「生産を止めないための取り組み」として、スマートファクトリー化は今後ますます求められると予想されます。

「生産ラインに作業員がいなくても、遠隔地から稼働状況を把握する」、「ロボットや無人搬送車を活用して生産ラインを無人化する」などといった取り組みが今後加速することが予想されます。

アフターコロナ時代も、スマートファクトリー化への積極的な取り組みが求められるのではないでしょうか。

経済産業省が示す「ものづくりスマート化ロードマップ」の概要

経済産業省によると、以下のようなものづくりを取り巻く外部環境の変化により、ものづくりのスマート化を実現する動きがもとめられています。

経済産業省「2040年のものづくりの未来の姿」外部環境変化

【引用:経済産業省「2040年のものづくりの未来の姿」(2040年ものづくり未来洞察調査)」

また、上記の外部環境の変化を受け、製造業は20~30年後のものづくりの未来に向けて以下の7つの戦略課題に対応することが求められます。さらに、7つの戦略課題のうち赤枠の4つの課題については、ものづくりのスマート化が対応方法の1つといえるとしています。

経済産業省「スマートファクトリーロードマップ」

【引用:経済産業省「 スマートファクトリーロードマップ」第4次産業革命に対応したものづくりの実現に向けて

スマートファクトリー化の推進は、それぞれの企業の生産性を向上させるためだけでなく、社会的にも意義があることから、推進されています。

スマートファクトリー化のメリットとデメリット

次に、スマートファクトリー化を導入するメリットとデメリットをご紹介します。

スマートファクトリー化するメリット

スマートファクトリー化することで、次のようなメリットが生まれます。

それぞれ解説していきます。

  • 人手不足の解消と技術やノウハウのデータ化
  • 製造工程の見える化
  • トラブルに柔軟に対応できる

人手不足の解消やノウハウのデータ化

スマートファクトリー化によって、熟練の従業員の経験、知識、勘などの属人的なノウハウを効率よく継承することが期待されています。

熟練従業員がどのような判断で作業を行っているか技術やノウハウをデータとして取得し、AI技術を使って分析することが可能です。

少子高齢化で深刻化する人手不足で技術の後継者も不足しています。データやツールを活用し、熟練技術者の行動やノウハウが体系化できれば、経験が浅い技術者でも製品品質を保つことができるでしょう。

ベテランのような熟練技能者から中堅/若手社員へ、技術を伝えていくことで企業の資産ともいえるノウハウを残していくことができます。一方で、このような技術伝承は一筋縄でいかないのも実情です。以下の記事では、よくある6つの課題と効果的なツールを解説しています。

製造工程の見える化

生産ラインの作業工程、作業員、設備、材料など製造に関するあらゆる情報を可視化することができます。ネットワークカメラ、ウェアラブルデバイス・センサー、生産管理システムなどを活用すれば、作業に関するさまざまな情報をデータ化して収集・分析することが可能です。

製造現場が可視化されることで、生産状況の変化に柔軟に対応でき、生産性の向上が期待できます。

トラブルに柔軟に対応できる

スマートファクトリーが構築できていれば、生産ラインに予期せぬトラブルが発生しても、現状把握や原因究明に従来のような時間と労力をかける必要はありません。

生産ラインの自動化や製品の異常検知、設備の予知保全などで生産ラインの早期復旧やトラブルの影響の最小化を図ることができるでしょう。

スマートファクトリー化するデメリット

スマートファクトリー化することで次のようなデメリットが生まれます。

それぞれ解説していきます。

  • 導入コストが高い
  • 効果がでるまで時間がかかる

導入コストが高い

スマートファクトリーを導入するためには、IoTセンサー、クラウドサーバー、AIセンサーなど最新設備を揃えるだけで多額の費用がかかります。設備導入だけではなく、導入した最新設備を操作する従業員の教育コストも考慮しなければなりません。

効果がでるまで時間がかかる

スマートファクトリー化は即効性があるものではなく、設備を導入したからといってすぐに効果に結びつくものではありません。また、データを収集するだけではなく、分析しなければ意味がありません。

成果がでるまで数年単位でかかることもあります。スマートファクトリーの必要性を感じていても、なかなか導入まで踏みきれない企業が多いのが現状です。

スマートファクトリー化の事例

スマートファクトリーの実現には、工場の状態を可視化するデータの収集・分析技術と、データの分析結果を十分に活用できる生産ラインの最適化システムが必須となります。

ここでは、日本国内企業が実現したスマートファクトリーの事例を見ていきましょう。

富士通株式会社

国内および海外向けのノートPCやタブレットを生産している富士通島根では、IoT活用による生産の最適化に成功しています。

従来、製品のリペア工程のリードタイム遅延による追加輸送コストが課題でした。そこで、リペア工程の位置情報を把握するために、製品にセンサービーコンをとりつけ、位置情報、滞留時間、出荷期限などの情報を可視化マップ上で見える化を実施しました。

その結果、リペア工程の進捗がリアルタイムで把握できるようになり、作業の優先順位が明確になりました。リードタイムを従来より最大20%短縮でき、追加輸送コストを大幅に削減することすることに成功しています。

久野金属工業株式会社

自動車および産業用部品の設計、開発、金型製作、プレス加工を行う金属加工メーカーの久野金属工業は、ソフトウェア開発ベンダーである株式会社マイクロリンクと共に、研磨機のIoT化を実現しました。

高精度が求められる研磨機の操作は、ミクロン単位の調整が必要で、オペレーターの勘やコツに頼っていたため、研磨加工に時間がかかっていました。

そこで、IoT化を進め、工作機械のモーター電流値データを収集し、加工データや稼働実績と照合することで、研磨条件を最適化し、加工時間を短縮することに成功しています。

また、同社の生産ラインで実証実験を重ねて開発されたクラウドサービス「IoTGO」は、既存の設備を用いて低価格で利用できるので、中小企業でも導入しやすいサービスです。

トヨタ自動車株式会社

トヨタ生産方式は、人の生産性を上げる「自働化」と、必要なモノを必要な時に必要な分だけ用意する「ジャストインタイム」といった理念で構成されていましたが、ニーズの多様化による複雑な生産状況に対応するため、「工場IoT」を導入しました。

生産ラインの状況をリアルタイムで見える化し、各システムに分散されていた情報を集約。また、エンジン部品加工設備で実際の加工時の様子をCADデータで再現し、実際の加工で発生した問題を確認する取り組みを行っています。

株式会社ジェイテクト

自動車部品、ベアリング(軸受)工作機械を製造する株式会社ジェイテクトは、スマート工場の実現に向けてモノ(Things)だけではなく、人やサービスまでもつなぐIoE(Internet of Everything)をコンセプトとして、人が主役のスマート工場の実現に向けてさまざまな取り組みを進めています。

同社のエッジ型解析モジュール「TOYOPUC-AAA」は、既存の生産設備に接続し、データ収集や蓄積、解析が簡単にできます。端末の近くで分散して処理を行えるエッジコンピューティングにより、リアルタイム解析にも対応しています。

OSとしてWindows Embedded Standard7を搭載しているため、特別なソフトウェアがなくても、さまざまなデータ表示が可能です。生産設備の情報を簡単に見える化することができます。

株式会社IHI

株式会社IHIは、人工知能によるセンサー情報の解析で、人と機械がお互いの利点を活かしながら協働できるスマートファクトリーの実現に取り組んでいます。

ウェアラブル機器により、作業員の歩行距離や関節に掛かる負荷を計算し、作業員の作業負荷を均等化しました。また、人工知能によって機械が人の意図を理解し、人に合わせて適切にサポートすることで、人はより付加価値の高い作業に注力できるようになります。人と機械の協働によるスマート工場の実現を図っています。

スマートファクトリー化の進め方

スマートファクトリーを導入するためには、設備間のネットワークを構築してデータ収集や蓄積を行う必要があります。そのためシステム構築、機器購入ネットワーク整備など多額の導入予算を確保しなければなりません。

いきなり大規模な投資に踏み切るとリスクが高くなるため、スマートファクトリーの構築は段階的に進めたほうがよいでしょう。小規模な概念実証を繰り返して、課題を解決する最適な方法は何なのか、期待する効果が得られる見込みはどれぐらいあるのかを事前に検証すべきです。失敗リスクを最小限に抑えながらスマートファクトリー化を進めましょう。

また、スマートファクトリー化に利用できる国や自治体の補助金制度が利用できる場合もあるため、定期的に情報収集するのがおすすめです。

スマートファクトリー化で押さえておきたいポイント

スマートファクトリー化を成功させるために抑えておきたいいくつかのポイントをご紹介します。

自社の課題を明確にする

まず、自社の課題を明確にすることが重要です。経営者だけの判断ではなく、製造現場担当者のヒアリングから始めなければいけません。

「人手不足で製造リードタイムがかかっているラインがある」「このような機能があれば業務効率化ができそうだ」など各部門も課題を把握することで、改善すべき課題がみえてきます。

スモールスタートで成功体験を積む

最初から製造ライン全体の最適化の視点で進めようとせず、製造ラインの一部などスモールスタートで成果を積み上げることが大切です。

製造部門での業務プロセスの改革は、他部門にも影響するため、社内で軋轢が生じてしまう可能性があります。まずは小規模で始めてPoC(概念検証)を繰り返し成功体験を積み上げて段階的に規模を広げていくほうがよいでしょう。

IoTの専門家の存在が不可欠

スマートファクトリー化を推進するためには、製造技術と情報技術の両方のスキルを兼ね備えた人材が不可欠です。社内にデジタル技術導入に必要なノウハウに対応できる人材がいない場合は、スマートファクトリーの導入をサポートするITベンダーや外部のプロの手を借りることも検討しましょう。

まとめ

本記事では、スマートファクトリーの目的や進め方、実際にスマートファクトリーを導入した事例について、メリットや特徴をふまえ、詳しく解説しました。

日本の製造業を取り巻く事業環境は刻々と変化しています。グローバル市場の変化に柔軟に対応し、日本の国際競争力を高めるためには、スマートファクトリー化による生産性の向上、作業者の負担軽減は必要不可欠な取り組みといえるでしょう。

本記事でご紹介した課題や、導入までのポイントなどを踏まえて、スマートファクトリー化に向けて小さな規模から取り組みを開始してみてはいかがでしょうか。

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