バリューチェーンとは、企業の活動を鎖(チェーン)のように捉え、それぞれの企業活動がどのように価値を生み出しているのかを理解するための思考方法またはフレームワークのことです。
一方で、この様に定義だけ聞いても分かりにくく「バリューチェーンのメリットって何?」「バリューチェーンの成功事例を知りたい!」といった疑問や悩みを抱えている方もいらっしゃると思います。
そこでこの記事では、バリューチェーンの定義とポーターの価値連鎖、サプライチェーンとの違い、主活動と支援活動について解説します。また、バリューチェーンの企業事例として、ニトリや伊藤園などを紹介します。
この記事を通じてバリューチェーンの理解を深め、バリューチェーンで企業の利益につなげる方法を学びましょう。
目次
バリューチェーンとは
バリューチェーンとは、製品やサービスがユーザーや顧客に届くまでの一連の活動を鎖(チェーン)のように捉えた概念です。
例えば、製造業では、原材料の調達から製品の製造、販売、アフターサービスまでがバリューチェーンに含まれます。
ここではバリューチェーンを理解するにあたり、
- ポーターの価値連鎖
- サプライチェーンとの違い
- バリューチェーンの「主活動」と「支援活動」
の3つを解説します。
ポーターの価値連鎖
ポーターの価値連鎖とは、経済学者マイケル・ポーターが著書『競争優位の戦略』の中で提唱したバリューチェーンのフレームワークのことで、企業の活動を「主活動」と「支援活動」の二つに分けて活動の貢献度を図る方法です。ポーターの価値連鎖により、企業はどの活動で価値を生み出し、どの活動でコストを削減できるかを明確にできます。
バリューチェーンを理解するには、下図のようにバリューチェーンの可視化が有効でしょう。図では、縦軸に支援活動を、横軸に主活動を並べます。
図からわかることは、支援活動のすべてが主活動のすべてと関連しておりバリューチェーン全体を形成していることです。
すべての活動が関連し、結果としてマージン、すなわち利益を生み出すチェーン状の経営体系が構成できます。
サプライチェーンとの違い
バリューチェーンと似ている用語であるサプライチェーンとの違いは、注目する価値に違いがあります。バリューチェーンとは単一企業における事業プロセスの連鎖と付加される価値に注目する概念のことであるのに対し、サプライチェーンとは複数の関連企業により供給されたモノの流れに注目する概念のことです。
サプライチェーンは製品の供給元からユーザーや顧客に届くまでの流れを追跡するのに対し、バリューチェーンはその過程でどのように価値が追加されるかを考えます。
たとえば、製造業では、サプライチェーンは原材料の調達から製品の配送までを管理しますが、バリューチェーンは活動がどのように製品の価値を高めるかを考えます。
またサプライチェーンについて、経済産業省が発行している『2023年版ものづくり白書』では、サプライチェーンの全体最適がDXの目的と言及されています。
関連記事:『2023年版ものづくり白書』徹底解剖:DXの方向性と脱炭素の実現
バリューチェーンの「主活動」と「支援活動」
バリューチェーンにおける主活動とは、製品の設計、製造、販売など、直接価値を生み出す活動を指し、支援活動とは、主活動を支えるための活動で、人事、財務、研究開発などのことを指します。「支援活動」は直接的には価値を生み出さないものの、主活動を効率的に行うためには不可欠なものです。
たとえば、研究開発部門は新しい製品の開発を支援し、結果として主活動である製造や販売がスムーズに行えるようになります。
バリューチェーンのメリット
バリューチェーンのメリットとして、主に
- 自社の強みと弱みを把握できる
- 競合他社の戦略を予測できる
- 各活動のムダを排除し、コスト削減につながる
- 製品の付加価値を高め、利益を最大化できる
の4つがあります。
自社の強みと弱みを把握できる
バリューチェーンは企業の活動を一連のプロセスとして捉え、それぞれ行っている活動がどのような価値を付加しているか明確にできるため、自社の活動における強みや弱みを把握したうえで、競合他社との差別化や効率化を図るのに有効です。
たとえば、製造業であれば、製品開発、生産、販売などの各プロセスでどのような価値が生み出されているかを分析することで、自社の強みと弱みを見つけられます。各プロセスで見つかった弱みを補ったり、強みを伸ばすことで、競合他社にはないさらなる価値を付加することができます。
競合他社の戦略を予測できる
バリューチェーンを活用することで、企業の価値創造のプロセスを明確にできるため、他社を分析することで、競合他社の強みや弱みから今後の戦略をを予測することも可能になります。
例えば、競合他社が製品開発に注力している場合、その企業の戦略は新製品の開発にあると予測できるでしょう。競合他社の戦略が分かれば自社でも次の一手を考えることが可能です。
各活動のムダを排除し、コスト削減につながる
バリューチェーンを用いると、各活動のムダを排除し、コスト削減につなげられます。なぜなら、バリューチェーンは企業の各活動を明確にできるため、それぞれの活動でムダな部分を見つけ出し、改善ができるからです。
たとえば、生産プロセスでムダな工程があるとすれば、無駄な工程を改善することでコスト削減につなげられるでしょう。
関連記事:【トヨタ式】7つのムダとは?具体例を交えてムダを解説
製品の付加価値を高め、利益を最大化できる
バリューチェーンを活用することで、製品の付加価値を高め、利益の最大化を可能にします。バリューチェーンは企業の価値創造のプロセスを明確にできるため、どの活動が製品の価値を高めるのかを理解し、それに注力することで利益を最大化できます。
たとえば、各工程における資源配分を最適化することによって、余った資源で製品の品質向上に注力することができます。製品の品質が向上することによって、消費者にとって魅力的な製品となり、結果として利益を増加させられるでしょう。
業界別のバリューチェーン事例
業界別のバリューチェーン事例として、小売業では株式会社ニトリ、製造業では株式会社伊藤園の事例を紹介します。
小売業(ニトリ)
ニトリは、家具専門小売業界で圧倒的な売上規模と店舗網を持つ企業で、ニトリの成功の秘訣は製造物流小売モデルにあります。
ニトリの製造物流小売モデルは、自社で商品の企画から製造・物流・販売までを一貫して行っています。すべての工程を内製化することによって、徹底したコスト削減を可能にしています。
たとえば、ニトリの製品は、インドネシアやベトナムといった東南アジア諸国の子会社工場で製造され、中国にある物流センターで保管します。そこから国内の物流センターに分散されて各店舗へ配送されます。全てのバリューチェーンをニトリで掌握していることから、安価な商品を提供しながらも高い利益率を実現しました。
しかし、家具小売の市場規模は長期的な衰退傾向にあります。
ニトリが今後企業として成長するには、家具・インテリアだけではなく新たな事業拡大戦略が必要になります。ニトリはさらなる事業の拡大のため
- 商品単価・客単価の向上
- 販売エリアの拡大
- 事業分野の拡大
を3つの軸とした戦略を立てています。
「商品単価・客単価の向上」では、中〜高価格帯向けの家具を強化し、富裕層の取り込みを図っています。「販売エリアの拡大」では、海外展開することに注力。同業他社のイケアが世界展開しているように、欧米先進国市場や、新興国市場に目を向けるということです。
そして、「事業分野の拡大」では、住生活分野で家具以外にもニトリのモデルを横展開することを目指しています。
この3つの軸をもとに、ニトリでは高い利益率をあげながらも、さらなる成長が期待されています。
参考元:もしも、あなたが「ニトリホールディングス社長」ならば【RTOCS®】
製造業(伊藤園)
伊藤園は、製造業の中でも特に競争が激しい飲料業界で成功を収めている企業です。
伊藤園のバリューチェーンでは、製品の開発から製造、販売までを一貫して行うことで、品質管理を徹底し、消費者のニーズに迅速に対応しています。
たとえば、伊藤園は自社で茶葉を栽培し、製品の品質を一貫して管理しています。結果として、常に高品質な製品を消費者に提供することが可能になり、2013年には緑茶飲料市場で37%のマーケットシェアを獲得しました。
また伊藤園は、消費者の健康志向を捉え、健康に良い飲料の開発に注力しました。消費者のニーズを理解し、製品を開発することは、消費者からの信頼を得るための重要な戦略と言えるでしょう。
バリューチェーン分析の進め方
バリューチェーン分析の進め方として、ここでは
- 自社バリューチェーンの洗い出し
- コスト分析
- 自社内部の「強み」と「弱み」の分析
- VRIO分析
の4つの手順について解説しましょう。
自社バリューチェーンの洗い出し
自社のバリューチェーンを洗い出すことは、自社の価値創造プロセスを理解し、それぞれの活動がどの程度の価値をもたらしているかを把握するために重要です。
たとえば、製造業の場合、原材料の調達から製品の販売までの各ステップを詳細に洗い出し、それぞれがどの程度の価値をもたらしているかを評価します。
コスト分析
コスト分析は、各活動がどの程度のコストを発生させているかを理解するために必要です。コストを把握することで、無駄なコストを削減し、効率的な運営を実現することが可能になります。
たとえば、製品の生産コストを分析することで、原材料のコスト、労働コスト、エネルギーコストなど、どの部分でコスト削減の余地があるかを見つけられるでしょう。
自社内部の「強み」と「弱み」の分析
自社内部の「強み」と「弱み」の分析は、競争優位性を維持し、弱点を改善するために不可欠です。自社の強みを理解することで、それを活用して競争力を強化できます。また、弱みを把握することで、弱みを改善し、企業全体のパフォーマンスを向上させることも期待できます。
たとえば、製造業の場合、生産効率の高さが強みであれば、強みを活用して製品の価格競争力を上げることが可能です。一方、原材料の調達コストが高いという弱みがあれば、改善するための策を練ることもできます。
VRIO分析
VRIO分析は、企業のリソースが持つ価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣可能性(Imitability)、組織化(Organization)の4つの観点から、その競争優位性を評価する手法です。VRIO分析により、企業は自社のリソースがどの程度競争優位性を持つかを評価し、戦略を策定できます。
たとえば、製造業の場合、独自の製造技術や特許などが競争優位性を持つリソースです。リソースがどの程度の価値を持ち、他社に模倣されにくいか、そしてそれを組織全体で活用できているかを評価します。VRIO分析を行うことで、自社が提供できる価値を把握することができ、競合他社との差別化が可能になります。
DX化におけるバリューチェーンの変容
DX化におけるバリューチェーンの変容について、
- デジタル社会におけるバリューチェーンのあり方
- DX化によるバリューチェーンの強化
- DX化にむけてバリューチェーンの再定義を進めている企業事例
の3項目について解説しましょう。
デジタル社会におけるバリューチェーンのあり方
デジタル社会では、バリューチェーンのあり方も大きく変わります。なぜなら、デジタル技術の進化により、従来の物理的な制約が取り払われ、新たなビジネスモデルが生まれるからです。
例えば、3Dプリンティング技術。製品の設計から製造までのプロセスは、3Dプリンティング技術により、大幅に短縮されるでしょう。
また、クラウド技術の活用により、データの共有と活用が容易になるため、DXを構築する技術は製造業のバリューチェーンを再定義し、新たな価値創出の一助けになると考えられます。
社会のデジタル化によって事業環境は常に変化し、企業は市場の変化に柔軟に対応する必要に迫られている状態です。
DX化によるバリューチェーンの強化
DX化により、製造業のバリューチェーンはさらに強化されます。なぜなら、DX化は企業がデジタル技術を最大限に活用し、ビジネスプロセスを効率化し、新たな価値を創出するための手段だからです。
たとえば、AIを活用した予測保全により、機械の故障を予測し、予防することができます。そのため、ダウンタイムを減らし、生産効率を向上させることが可能です。また、ビッグデータの分析により、市場の動向を把握し、製品開発やマーケティング戦略を最適化することもできます。
また、ビッグデータに代表されるデータの収集では、事業活動のコストや価値について理解を深めるのに役立ちます。「なぜこの製品が売れているのか?」とデータから分析することで、収益の増加も見込めるでしょう。
DX化にむけてバリューチェーンの再定義を進めている企業事例
DX化にむけたバリューチェーンの再定義を進めている企業事例として、
- 大和ハウス
- 富士通と電通グループの共同プロジェクト
の2つの事例を解説しましょう。
大和ハウス
大和ハウス工業は「建築の工業化」をBIM(Building Information Modeling)で達成し、既存の建設プロセスからの脱却を図っており、DXを活用してバリューチェーンの再定義を進めている企業です。
具体的には、設計から施工、維持管理までの一連のプロセスをデジタル化し、効率化と品質向上を実現しました。
また、大和ハウス工業は、バックオフィスのデジタル化と並行して、バリューチェーンのデジタル化を進めており、業界全体のスマート化につなげる「建設プラットフォーム」の構築や、お客さまとのつながりを強化する取り組みに注力しています。
大和ハウス工業の取り組みは、製造業におけるバリューチェーンの再定義と、新たな価値創出機会の提供につながると言えるでしょう。
富士通と電通グループの共同プロジェクト
富士通と電通グループの共同プロジェクトは、「データは企業の競争力を高め、新たな価値を創造するための重要な要素である」という理念のもと、データを活用した新たなビジネスモデルの創出を目指しているプロジェクトです。
具体的な取り組みとして、製造現場のデータを活用して、生産効率の向上や品質の向上を実現し、企業の競争力を高めることを目指しています。
参考元:新たなDXの鍵は“インクルーシブ”。バリューチェーンの分断改善で生まれる価値とは?
バリューチェーンを理解して企業の利益につなげよう!【まとめ】
この記事では、バリューチェーンの概念と重要性、そして活用方法について詳しく解説してきました。
バリューチェーンは、企業が提供する価値を生み出す一連の活動を表す概念で、ポーターの価値連鎖として知られています。
バリューチェーンはサプライチェーンとは異なり、企業の「主活動」と「支援活動」を通じて価値を創出します。
またバリューチェーンの活用は、自社の強みと弱みを把握し、競合他社の戦略を予測することを可能にするほか、各活動のムダを排除し、コスト削減や製品の付加価値を高め、利益の最大化を可能にします。
デジタル社会では大和ハウスや富士通と電通グループの共同プロジェクトのようにバリューチェーンのあり方をDX化で変えることにより、バリューチェーンが強化されます。
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