▼執筆者
株式会社エフェクト 代表取締役
石井 住枝 氏
ここまで、現場発の改善を生み出すために必要な『カイゼン思考の土台作り』について、なぜ改善の視点が必要なのか?新人/中堅/マネージャー向けとそれぞれにフォーカスして解説してきました。
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いよいよ、最後のステージは組織編です。カイゼン思考のチーム実行力は、メンバーの強みを活かすために、リーダーがいかにして改善をするかがポイントになります。
目次
改善の第一歩は『現地現物による現状把握』
改善思考術では、最初に問題をできるだけ明確にすることから始まります。その上で現状把握をし、その中に潜む原因を分析し、根本原因をどうしたら改善できるのかを考えます。根本要因の解決策、実際に改善アクションのプロセスを進めることができれば、改善がどんどん進んで行くことになります。
しかし、変わる事に対して抵抗感が高ければ、単純に改善を進めることは難しくなります。人手不足で忙しい毎日が続けば
余計な事はしたくない、新しい事なんて、手間がかかって面倒だ。となってしまいます。さらに組織全体へ広げてるなんて「今のままで問題ない」という考え方になってしまうのも理解できます。
では、どうしたら、「改善」を前向きに考えていけるのでしょうか。それは「改善」した先にどんな事が起こるのかを具体的に明示することです。
改善しなくっちゃ、改善すべきである。といっても今の仕事の進め方に対して問題を感じていなければ、改善しません。だからこそ、最初に今のありのままの作業の進め方を観察して数値化してみます。
実際に計測した後に、こんな声がありました。
- 「思ったより、時間をかけていることがわかった」
- 「日によって、時間帯によって違いがある」
- 「AさんとBさんでこんなにもやり方が違うなんてしらなかった」
- 「Cさんも同じような悩みがあった事を初めて知った」
日常で、当たり前のように進めている作業であっても、時間帯によってバラつきがあり、人によって歩き方や姿勢、手首の使い方など違いが明確になりました。また、同じような作業をしている中で面倒だ、手間がかかると似たような事を考えている人がいることが分かりました。
このような現状把握は観察して、ヒヤリングして、計測してみて初めて明らかになる事があります。そして、この現状把握の過程を進めるほどに、問題点が明確になってくるのです。
問題とは、時間帯によってバラつきがあるという「ムラ」のある作業があること。作業の姿勢、やり方に違いがあること「ムダ」が発生している事実。手間がかかる、面倒だと感じる「ムリ」している作業。これらの「ムラ」「ムダ」「ムリ」の作業を問題であると捉えられるかどうかです。
そして、この問題と思う作業が改善されたら、無駄なく、ムラなく、生産性が上がって、楽になる未来を提示できるか。この未来をリーダーが提示することが、改善文化を作っていく第一歩になります。
だからこそ、現地現物で現状把握をすることで、現場スタッフと連携が高まり、組織内のコミュニケーションが改善され、問題解決に取り組む姿勢が浸透し、経営改善につながるという流れにつながるのです。
問題解決と評価をセットで考える
実際にA3思考術を進めていくと、リーダーの改善が日常になり、自らの作業が楽になるだけでなく、改善スキルも向上が図れます。継続することで、現場の問題解決に取り組む文化が浸透していきますので、経営改善につながる相乗効果が期待できます。
改善とは現状把握を見える化し、問題を顕在化し、知恵を絞って改善していきますが、その成果/効果があったものを標準値として設定し、この標準値をさらにもっと良い方法へとレベルアップしていきます。イメージとしては、負荷をかけながらレベルアップする様な感じです。カイゼンには終わりがありません。今より少しでも良くなろうとして続けていくからです。
そして、さらに異なったアプローチで問題解決したり、その仕事に新たなる価値を加えて新商品を作ったり、別のアプローチを仕掛けるなど、新たなチャレンジを促していきます。改善してカイゼンして、その先にイノベーションという順番は効果的だと思います。
会社が目指すレベルとはどういうものなのか、具体的に提示することが、向かう方向を合わせることに繋がります。例えば、品質レベルで言えば、1日のアウトプット量、生産量、1つの伝票にかかるコストや時間や手間、プロジェクトの費用対効果など、どんなレベルで求めていくのかの明示がされているでしょうか。
人によって、日常の作業標準という時間がバラバラ、経験によっても標準値に違いが必要です。経験値とか階層が上がっていくようなレベルアップ、負荷を変化させた標準値も必要で、どのぐらいレベルアップするかの基準も明確する必要があります。
ポイントはムリなレベルアップではなく、少し努力すれば達成する様な目標設定です。この目標値は、実際の作業をみていないと、人によって伸びしろが異なりますので、リーダーの観察力が求められます。
しかし「問題点がなかなか上がってこない」と嘆く声も聞きます。もしかしたら、問題を発見した際、その問題をどう提案をするかというルール、仕組みがありますか?
問題を発見したときにどう対処していくか、提案後の解決方法、解決した後の横展、会社の基準値の見直しなど、改善提案をどう評価するのか、問題解決と会社の評価基準が別々になっていないでしょうか。問題発見して改善した内容は、できるだけ多くの人に公表し、内容を横展開して仕組みにすることが大切です。
問題発見力を鍛える
また、問題発見力が少ない場合は、問題を発見するトレーニングもよい効果に繋がります。問題の発見の仕方、問題をどう解決していくか、その過程を一緒に体験して日常化することです。
把握する視点/ポイントを明確にする
現地現物でいかに詳しく現状把握するかに対しては、把握する視点/ポイントを明確にします。理想とのギャップの違いを発見し、どうすればギャップを埋めることができるのか?その問題の解決方法を考え、実証して進めます。
その問題発見力を鍛える方法は、日常の創意工夫や改善提案活動を活用することも、とてもトレーニングになります。問題発見を現場にすべて任せてしまうのではなく、時にはテーマを決めてその中で問題を発見するなど、範囲を絞って実施するなどの機会も有効です。
A3思考術研修を実施したある企業のお話
ある企業の営業にA3思考術研修を実施した際、今までのやり方に固執しがちで、異なるスタイルで営業し受注をするということに抵抗感を持つ方が多くいました。法人営業がどうしたら改善できるのかが最大のテーマでした。
進め方のポイントは「テーマ設定の決め方」です。例えば、会社方針が社員にまで落とし込まれているかどうか、特に問題解決を行う意義、ゴールの設定を明確にして、
具体的に個別業務に落とし込んで、具体的に数値目標管理を決定してから進めました。
現場の問題の抽出は、現地現物です。そして会社の人事には、育成のポイントを明示して戴きました。簡単に言えば、会社としてどんな人材になってほしいのか。を提示してもらいました。
実は、社員に対してどんな人財になって欲しいのか個別に提示していない場面を多くみました。不思議ですが、社員の人材採用のときに、どんな人材が必要なのかと、しっかり絞っているはずですが、社員となった後、各年次階層においてどう育てていけばいいのか、どんなふうになってほしいのか、理想形を提示していないケースがありました。
社内でどんなふうに活躍してほしいのか、どんな人材になってほしいのかを体系化し、プロジェクトごとに、階層別または年代に合わせて育成計画を作り、定点観察していくこと。その上で、本人と向き合って、理想人財になるためには、何が不足して、そのためにはどんなトレーニングが必要なのか考えていくことが、人事改革のポイントでもあります。
現場の問題点と人事の育成の想いを重ねて、A3思考術研修を進めて行きますが、大切なのはゴールを明確にして共有化した上で進めていくことです。その提示をするからこそ、改善人財が育成できるのです。
A3思考術による改善活動
最近のAI技術の進歩により、様々な業種で自動化やロボット化が進んでいます。このような状況下では、機械による作業や判断が増え、人間の持つ柔軟な思考力や創造性が更に求められています。
改善思考術は、問題解決や改善において、現状分析や課題抽出、原因究明、改善策の立案など、シンプルで実践的な思考手法を提供しています。このスキルを身に付けることで、自分たちの業務プロセスや製品・サービスの改善を自ら実施できる様になる考え方であり、さらにA3思考術は、グループでの活動を前提とした手法なので、相互理解を深め、コミュニケーション力を高めることができます。また、現状に満足せず、常に改善を追求する姿勢を養うことができます。
AI技術の進歩によって、過去のデータを元に予測や分析ができますが、その結果が常に正しいわけではありません。
A3思考術による改善活動は、経験や知見、そしてデータを組み合わせることで、より正確な判断を下すことができます。つまり、A3思考術は、AIがカバーできない人間の柔軟な思考力を高め、改善に必要な正しい判断を行うことができる手法であると言えます。
A3思考術は、PDCAサイクルとも関連があります。PDCAサイクルは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)のサイクルで、常に現状を評価し、改善点を見つけ出し、次の改善につなげることができる手法です。8ステップも、PDCAサイクルと同様に現状分析から改善策の実行までを一連の流れとして捉えています。
AIの発展により、競争が激化するビジネス環境の中で、中小企業は常に自社のビジネスプロセスを改善し、競争力を維持する必要があります。自発的に問題を発見し改善策を考える力を持った幹部社員育成は容易なことではありません。多くの場合、問題の把握が困難で、問題の原因を正確に把握し、解決策を提示することは、さらに難しいと言えます。
「経営の鍵は幹部社員の改善思考にある! -A3 思考術を知らずに経営の未来は語れない」
このタイトルは、今後のビジネスの方向性に大きく関わるものであり、中小企業にとっても非常に重要な問題です。
A3思考術は、幹部社員の改善思考を鍛え、中小企業の発展に不可欠なものです。問題の原因を明確にし、解決策を見つけるための手法であるA3思考術は、トヨタ自動車をはじめ多くの企業で採用されています。A3思考術は、経営陣、幹部、リーダーの問題解決力が飛躍的に向上し、会社全体の改善につながる効果が出ています。
AIを有効活用するには、A3思考術のような8ステップの考え方や改善思考を鍛えることが不可欠となってきました。自発的に考える力、問題発見力を身に付けることは、経営改善につながります。昨今の激化する市場の変化や競合企業の動向に対応するためには、いかに素早く適切に改善策を実行できるかが重要です。
そのためにはリーダー、そして経営幹部が改善思考を持ち、それを組織内に広めることで加速していきます。社員の改善思考の育成に力を注ぎ、企業の未来を切り拓いていくために、ぜひカイゼン思考の土台をつくり、現地現物で現場発のカイゼンを生み出して戴きたいと思います。
5回にわたり、改善思考の土台づくりをお届けしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
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