生産計画は企業の収益に直結する他、客先との販売契約を遵守するためにも適切な計画が求められ、製造メーカーにとって非常に重要な役割を持っています。
その一方で、生産計画を適切に立てることは容易ではなく、多くの影響要因によって計画が予想通りに進まない場合もあります。そのためには、製造メーカーに合った生産手法を選択することや、生産計画を期間ごとに分けて作成することなどが重要です。
この記事では、生産計画の重要性やメリットのほか、生産計画の手法と実際の生産計画の立て方のポイントについて解説していきます。
目次
生産計画とは?
生産計画とは多くの製造メーカーが採用しており、製品をいつまでに、どれくらいの数を生産するのかを決める計画のことです。生産計画を立てる必要性は年々高まっていて、計画作成方法も無駄がなく、効率的に立案できる方法が考案されてきています。
ここでは生産計画を立てる目的やメリットについて解説していきます。
生産計画の目的や重要性
生産計画を立てる目的や重要性には以下の点が挙げられます。
無駄なコストの削減
生産計画を立てずに製品を製造すると、受注以上に生産して余剰在庫を抱えてしまいます。そのため、適切に生産計画を立てて、必要最小限の在庫に保つことで在庫置き場を縮小することが可能です。
それに伴い工場の敷地面積を拡大せずに済んだり、貸倉庫などの賃料も不必要になります。その他にも余剰で製品を製造するための、必要のない残業代や電力代などのコストも不要になります。
ユーザーに製品をスピーディーに届ける
生産計画が的確であれば、過去の受注状況から適切な在庫を常に確保することができます。そのため、ユーザーが注文してすぐに製品を出荷することができるのです。
逆に生産計画に問題があると、ユーザーが注文しても在庫が欠品していたり、製品を生産しようとしても原材料が無いなどの問題が起きてしまう点には注意が必要です。
長期的な企業活動を計画する
生産計画には短期間の計画から、年度を超えた長期的な計画もあります。長期的な生産計画を行うことで、その製造メーカーは将来どのような生産体制を持つべきか見直すことが可能です。
例えば、海外進出が必要になるのか、国内工場の拡大や移転などが必要か見極めて、将来のビジネスチャンスを逃さない準備ができます。
生産計画を行うメリット
生産計画を行うメリットは以下の項目が挙げられます。
- ユーザーに適切な納期で納品できる
- 過剰な設備投資が不要になる
- 余剰在庫を持つ必要がなくなる
- ムダな残業、電気代が不要になる
- 仕入れ先との取引がスムーズになる
適正な在庫管理により、ユーザーの注文が入ってから納品までがスピーディーに行えるほか、生産計画を仕入れ先と共有すると、仕入れ先が生産変動にスムーズに対応できるようになる点がメリットです。
また、過剰な生産のためのライン作業者の残業代や、ラインを動かす電気代が不要で、生産計画を達成するために、不必要な設備投資を抑えること、ムダ取りも可能になります。
関連記事:【トヨタ式】7つのムダとは?具体例を交えてムダを解説
生産計画が難しい理由
生産計画は製造メーカーが生産活動を行う上で、非常に重要なことは前項で解説しました。一方で生産計画の作成は、計画通りに生産が進まずに簡単ではないとも言われています。
ここではその理由について解説していきます。
受注数の変動で予定通りにいかない
生産計画を立てても、社会動向や客先事情などの影響で受注数が変動することが多々あります。特に長期的な生産計画の場合は、先行きが不透明な中で計画するため大きく予測を外れる可能性も。
予定よりも受注数が増えた場合は、生産が追い付かずに客先の要求する納期に製品が間に合わなくなり、売上拡大や将来のビジネスチャンスを失う原因になります。
一方で、受注数が減った場合は、余剰に製品を生産・保管するためにコストや労力が必要になります。こうした状況を起こさないためには、ある程度の受注変動に対応できる柔軟な計画と生産体制を組むことが重要になります。
設備故障や生産準備遅延が起きる
生産計画を立てても、必ずしもその計画通りに製品を生産できるとは限りません。例えば、生産ラインの設備が故障しても、修理部品が長納期品で復旧が遅れてしまうと、その期間の生産が停止してしまいます。そのため、日常的な設備保全が重要になります。
また、受注数の増加に伴い、ラインの生産能力を上げるために新たなラインや設備を導入する生産準備では、予定したラインオフに間に合わないリスクも考えられるのです。
特に新製品を生産する設備では新規の工程設計が必要になるため、前例のない加工方法にトライするなどして品質が確保できない可能性が高くなります。
関連記事:設備保全とは?種類と考え方、取り組む重要性や事例を解説!
仕入れ先の原材料や部品が供給されない
生産計画を計画通り運用しようとしても、製品に使う原材料や部品が仕入れ先都合で供給されない場合があります。実際に2023年現在は、半導体の納期が大幅に遅れてしまい、電化製品や車の納期に影響が出ています。
こうしたトラブルを事前に予期することは難しいため、発生すればその都度生産計画を見直しする必要があるのです。
生産計画の手法
生産計画には大きく分けて「PULL型(引っ張り方式)」と「PUSH型(押し出し方式)」の2つがあります。PULL型とPUSH型は生産数の立て方に大きな違いがあり、メリット・デメリットが存在します。
PULL型(引っ張り方式)
PULL型生産計画は注文量に応じて生産数を決めていく方式です。直接ユーザーへ製品を売るメーカーでは、ユーザーが販売店などで製品を購入してから工場へ生産の指示が出されます。
そのため、在庫を最小限に抑えることができるので、物流倉庫などを余分に抱える必要がなくなります。
一方で、ユーザーに製品が届くまでに日数がかかりやすくなるデメリットもあります。生産ラインにトラブルが発生すると、停止時間だけ製品の出荷が遅れて直接ユーザーへの影響が発生してしまいます。
代表的なPULL型生産計画に「トヨタ生産方式」があり、カンバン生産方式が挙げられます。カンバン生産方式では、生産計画に基づいた数量分のカンバンが用意されて、後工程から送られてくるカンバンの数量を確認したうえで生産ラインが稼働します。
そのため、カンバンがなくなった時点で生産ラインが停止するので、余剰に製品を製造することが無くなります。
在庫を置くための無駄なスペース、ラインを稼働するための電力・人件費などが削減できるため製品の原価を下げられるメリットがあります。
関連記事:【図解あり】かんばん方式をわかりやすく解説!メリット/デメリットは?
PUSH型(押し出し方式)
PUSH型生産計画は、ユーザーの注文が入る前に立てた生産計画をもとに生産数を決めていく方式です。ユーザーの注文数に影響されずに生産数を決めていくことができるので、生産管理がシンプルで世界的に見るとPULL型生産計画より利用されているシステムです。
生産数がある程度安定していて、予測しやすい製品を製造している場合は、ラインの生産計画が立てやすいメリットがあり、在庫をある程度抱えて計画を立てるのが一般的なので、急に注文数が増加しても納品が遅れる可能性が少なくなります。
また、生産ラインが予期せぬ故障などで停止した場合も、ユーザーへの納品遅れが発生しにくいこともメリットです。
一方で、注文数が落ち込むと余分な在庫を抱えてしまい、保管するスペースの確保が必要になります。
その他にも保管した製品の劣化が起きないように管理する必要が発生したり、在庫が一定数に減少するまで生産ラインをストップするなどのロスが起こるのはデメリットといえるでしょう。
生産計画の立て方とポイント
生産計画の立て方は設定する期間の長さによって、異なる日程計画を立てることが一般的です。長期的な日程計画は生産ラインの能力増強や新設を検討することなどが目的で、短期的な日程計画は日々の生産数を管理して取引先で欠品を起こさないことが目的というように使い分ける必要があるためです。
一般的には「大日程計画」「中日程計画」「小日程計画」というように区分されています。それではそれぞれの日程計画の目的や、立て方について解説していきます。
大日程計画を作成する
大日程計画では、3か月から1年といった期間の生産計画を作成していきます。社会の動向や、取引先からの注文状況、会社の売上・利益目標などを基にして、長期的な生産を計画します。
長期的な生産計画では予期せぬトラブルや、予想以上の受注発生で当初の計画からずれる可能性があるため、大日程計画は、都度メンテナンスしながら将来の生産量を見直していくようにしましょう。
大日程計画を作成する目的は、長期的な視点で今後変動する生産量に対して準備をすることが目的です。具体的には以下の項目について検討を行っていきます。
1.生産数が増大する場合
・新ライン導入や既存ラインの能力増強などの設備投資計画
・設計変更による製造工程の合理化
・品質保証計画
・製造人員の確保
2.生産数が縮小する場合
・既存ライン数の縮小や、一部設備の転用・売却などによる能力縮小
・生産数減少に伴う収益改善計画
・製造人員の見直し
中日程計画を作成する
中期日程計画では1か月から3か月といった期間の生産計画を作成します。大日程計画に比べて確度の高い情報をベースに検討できるため、より正確な計画を作成することが可能になります。
一方で、作成した計画に対して必要な対策を講じる期間が短く、計画の作成が遅れると対応が困難になるため注意が必要です。そのため、中期日程計画は毎週のように見直しを行い、関係部署へ情報共有をリアルタイムに実施する必要があります。
中期日程計画を作成する目的には以下のような項目があります。
- 仕入れ先への発注計画
- 製造人員の確保
- 残業、休日出勤の計画作成
- 昼夜勤などの交代勤務計画
- 製造人員の有給取得計画
小日程計画を作成する
小日程計画では、1週間から1か月といった期間の生産計画を作成します。中日程計画をもとに、日々の生産数を稼働日・稼働時間によって割り出して立案しますが、単純に月の生産数を、稼働日数で割れば作成できるわけではありません。
小日程計画を立てる際は、以下の5つの項目についても検討して、日々の生産数を決めていきましょう。
- ラインの非稼働率
- ラインの生産品種段取り替え(多品種の製品を同一ラインで生産している場合)
- 設備のメンテナンスなど
- ラインの改造工事など
- 生産遅れや余剰在庫数
まず、小日程計画は製造部署が日々の実績を管理して、管理部署で実績をもとに見直しをします。もしもラインが、長時間にわたって予期せぬ停止をした場合は、その時間に生産できなかった分を別日に振り分けて合計の生産量を確保する必要があります。
また、自動車部品のように製品が鋳造ライン、加工ライン、組み立てラインのように分かれている場合は、ラインごとに小日程計画を作成し、各ラインに対して生産在庫をどれくらい確保するのかをしっかり検討しましょう。
この計画を間違えると、鋳造品が欠品して加工ラインが停止するなどトラブルとなってしまうため、整然とした日々の生産を継続するためには緻密な計画が求められます。
生産計画/管理はエクセルでできる?
エクセルで行うメリットとデメリット
生産計画の作成でよく使われる方法にエクセルがあります。エクセルで作成するメリットとデメリットを解説します。
メリット
- 初期投資がかからない
- 専用システムより汎用性が高い
- カスタマイズしやすい
- トラブル時に計画修正がしやすい
エクセルで生産計画を組むと、パソコンがあれば作成が可能であり、多くの社員が扱うことができます。また、生産機種の追加や、管理指標を変えたい時などに専用ソフトと違って自由に項目を変えることができる点もメリットといえるでしょう。
デメリット
- データ量の増大で処理が遅くなる
- データの信頼性が低い
- 複数人で同時編集できない
エクセルで作業する際は、膨大なデータ量を扱ったり、グラフを用いると処理が遅くなりフリーズすることがあり、それにより作業効率が落ちる場合があります。
また、ネットワーク上のすべてのパソコンで編集が可能だと、管理者が不明確になりデータの信頼性が低下してしまうため、パスワードの使用や編集権限の変更が必要となる点がデメリットです。
生産管理システムの導入で効率化も可能
エクセルによるデメリットを改善する方法として、生産管理システムの導入があります。生産管理システムとは、生産計画や納期・減価・在庫までを一貫して対応することができるシステムです。
例えば、バーコードを受注や製造、出庫などのタイミングで読み取り、リアルタイムに在庫や納期状況を把握することができます。
そのため、エクセルのような手入力作業が不要で、管理工数の削減や誤入力のリスクを下げることが可能です。
一方で導入にはコストがかかり、ランニングコストもかかるので、自社のメリットとなるか検討する必要があります。
関連記事:生産管理システムとは?製造業で導入するメリットやデメリットをわかりやすく解説
まとめ
生産計画について、なぜ作成する必要があるのか、作成の方法や難しさについて解説してきました。
生産計画は企業の集積に直結し、ユーザーや取引先の要求に応えることで将来のビジネスチャンス拡大にも繋がる重要な計画です。
非常に重要な計画ですが、様々な影響要因によって予測が外れる場合が多く、その作成は難しいといわれています。
可能な限り適切な生産計画を立てるためには、製品やユーザーの性質に合った生産方式を選択することや、長期~短期間に分けて生産計画を組むことが重要です。
また、生産管理システムを導入することによって、手入力作業が不要で、生産計画や納期・減価・在庫まで対応することができます。
生産計画から管理までの工数を減らしたい場合は、予算と相談してシステムの導入を検討するといいでしょう。