▼執筆者
QCD革新研究所 所長
中村 茂弘 氏
なぜ仕事を改善する必要があるのでしょうか?そもそも改善とはどういうことなのでしょうか。仕事と改善の関係を踏まえ、それらについて解説していきます。
なぜ改善が必要なのか
なぜ改善が必要なのかというと、人生を有意義に過ごすため、そして自分を高めるためです。人生には学校に入ったとき、卒業したとき、就職したとき、そしてリタイアしたときという4回の転機があります。リタイアしたときには、いい人生を送ったかなと振り返るわけです。では、いい人生を送るためにはどうするのかというと、会社にいる時間が人生のなかでも大きいので、仕事の場を利用して力量を高めていくことが大事になります。
力量を高めていくためには、高い目標を持ち、現状を精細に分析し、自分で企画を作り、Plan・Do・Check(計画・行動・確認)を繰り返していきます。
要するに高い目標に向かって、一歩ずつ進めていくことが大事なわけです。
個人が行う仕事と改善の関係
会社は良いモノを安く早く作ることで、社会貢献していくわけです。そのなかで、如何に良い方法でやるか、一回得た良い方法を如何にムダなく使うかが大切です。
会社の目的は収益向上です。それから個人の育成になります。この2つを同時にやっていこうというわけです。仕事はボランティアではないので、赤字にならないよう、利益を得るため如何に最良の仕事をやっていくかが大事です。仕事には原価がかかりますが、原価が売上を超えない限りは利益が出ます。そして得たお金を、次の活動の材料を買うために使います。これが資金繰りといいまして、このような内容で企業は構成されています。
しかし、個人があって会社があるわけで、人がいないで会社が運営されるはずがありません。そこで会社と個人が高い価値を生み出すには、ムダを省きます。ムダを省くということは、同じ仕事をやるにしても力量を高めるということです。力量を高めた仕事は企業価値を高め、収益を高め、良いモノを作り、社会貢献します。それが家族のため、会社のためとなります。徹底的に最良の仕事を求めることが、改善の目的となります。
しかし同じ仕事を短時間でやるために、労働強度を上げてはいけません。それでは人が倒れてしまいます。また、やるべきことをやらずに、手抜きをして早く終わらせてもいけません。あくまでムダを省いて改善します。昔は良いモノを作ったり、技術を上げるために、お金や時間、手間をかけていました。これからの取り組みは、良いモノを作るためにはコストも少なく、短期間でやるということです。
レンガ職人ギルブレスの仕事の分析と改善
かつて大きな改善を具体的にやった人はいるのかということで、これはレンガ職人のギルブレスが参考になります。ギルブレスはIE(インダストリアルエンジニアリング)という手法の元を作った1人です。
百数十年前にギルブレスはレンガ職人として会社に入りました。目的はお金を儲けるためです。しかしギルブレスはレンガ職人になったばかりの素人なので、生産性はないわけです。そこでこのまま素人でいるより、ベテランから仕事を教わる方が良いと考え、それを実践します。そうすることで3ヶ月経つと、ベテランと同じ生産性にまでなったのです。
世の中には仕事のできる天才的な人はいますが、ギルブレスはそれとはまた違いました。仕事というのは手があって、腕が動いて、腰が動いてという風に行われており、レンガ職人は必ずしも体の大きい人ばかりではないということから、仕事を分析したのです。
ギルブレスは分析のために、仕事をサーブリック記号という18の記号に直しました。仕事を化学的に目で見てわかるようにするためです。仕事は大きく分けて、第一類(仕事に必要な要素)・第二類(第一類の阻害要素)・第三類(仕事の停止)の3つに分類されています。仕事に必要な要素・仕事をそれぞれ全て記号で表すことで、仕事が化学的に目で見てわかるようになり、ムダまでわかるようになります。
例えばレンガ積みでは、レンガを練っているときに、レンガ積みはできません。ここでムダが生まれます。そこでコンクリートミキサーを作り、牛馬にレンガを練る仕事をさせることで、そのムダを省くことができたのです。ほかにも必要なところに必要なレンガだけを置くようにしたり、足場を作って作業しやすいようにしたりすることで、ムダを省いています。「必要は発明の母である」という言葉はエジソンが有名にしたようですが、ギルブレスが最初に言ったといわれています。
仕事をして時間がかかるということは、記号で仕事を分析し、技術を上げることが大切です。技術を上げれば、仕事にかかる時間が必ず短くなります。そして同じ技術をやるにしても、同じ道具を使うにしても、道具の使い方を工夫するというわけです。これが改善の中身です。
STカット問題
しかし技術を上げることや、道具の使い方を工夫することで時間を短くすることを知らない人が、悪い意味で時間をカットしている場合もあります。
例えば作業者が一生懸命に働いたり、改善したりすることで作業時間が短くなったので、その分の作業者の数を減らすとします。しかし一人ひとりの負担は大きくなる一方で、報酬は全く増えません。せっかく一生懸命に働いたり、改善したというのに、事実上は首切りに加担したような形で、自身の収入も増えない状況です。作業者もこれはおかしいよ、ということになってしまいますよね。これがSTカット問題です。
常にこういう問題はつきまとうわけですが、これは搾取であり、今回の改善の対象ではありません。時間さえ短くすれば、何をしても良いわけではないのです。大切なことは、会社のため、自分のため、仲間のために行った改善が、会社を善くして、自分を善くして、そしてお客さまのためになる仕事をするということです。
改善とは
改善というのは文字の通り、善く改める、ということで、スポーツでいう練習と同じです。そして生産販売というのは、スポーツでいう試合です。
例えば遠くにあるモノを近くに持ってくることは、0.1%であったとしても立派な改善といえます。この0.1%はスポーツでいう、マラソンやサッカーを毎日練習するのと同じなのです。
毎日0.1%の改善を、1ヶ月の仕事を残業も含めて25日として、12ヶ月続けるとします。そうすると0.1%×25日×12ヶ月=30%、つまり1年間で30%もの改善となります。お金をかけたわけではなく、遠くにあるモノを近くに持ってくるという簡単な改善が、30%もの改善につながるわけです。さらに1年目1.3%、2年目1.3%、3年目1.3%というように、30%の改善を3年間続けると、2倍にもなるのです。
如何に問題意識を持ってやるかということが、改善の一番最初のポイントなのです。
終わりに
仕事を改善することは会社のためにも、自分のためにもなり、人生を有意義に過ごすことにつながります。そして改善とはムダを省くことであり、良いモノをコストも少なく、短期間で作るために取り組むことが大切です。
たった0.1%の改善であっても、長い目で見れば大きな改善となるので、如何に問題意識を持って取り組むかということを、改善のポイントとしてまずは意識しましょう。