現場改善ラボ 記事一覧 お役立ち情報 製造業における海外工場のよくある6つの課題と改善指針

かんたんデジタル現場帳票「tebiki現場分析」や、かんたん動画マニュアル作成ツール「tebiki現場教育」を展開する、現場改善ラボ編集部です。

多くの日本製造業が海外に工場拠点を設け、事業拡大を図っています。しかし海外工場の運営は決して容易ではなく、国内とは異なる様々な課題に直面します。たとえば、言語や文化の壁、人材育成の難しさ、品質管理の徹底、複雑なサプライチェーンなどです。

この記事では、海外工場が直面しやすい主要な6つの課題を深掘りし、それぞれの具体的な解決策と、生産性改善に成功した企業事例を解説します。海外工場の運営が具体的にどのような課題に直面するのか、イメージがつくようになるはずです。

製造業における海外工場が直面する主な課題

海外での工場運営には、日本国内では想定し得ない多様な課題があります。これらの課題を整理して、有効な対策を練ることが海外事業成功の第一歩と言えるでしょう。

ここでは、多くの日本企業が海外工場で直面する可能性のある主な課題を分類して解説します。

人材・組織に関する課題

労働に対する価値観やキャリアパスの考え方は、国によって大きく異なります。日本的な終身雇用を前提とした人材育成や、やる人がいないなら自分がやるという職務意識が通用しないケースが多く、現地に合わせた勤務体系の構築が求められます。

海外特有の「一定のスキルが身についたら転職してステップアップするのが当たり前」という、出入りの多い従業員をうまく活用しなければなりません。

例えば海外工場に拠点を持つ株式会社Archem でも、「日本国内に比べて転職が一般的で人材が定着しづらい」という課題があり、現場教育に大きな問題を抱えていました。

転職の多い海外工場では、新人教育に大きな課題があると言われています。マニュアルが分かりにくく、教えた通りに作業できない、頻繁に人が変わるので教育に時間がかかりすぎる、指導者によって教育の質に差が出てスキルにバラつきが発生してしまう、等の事態に陥りやすく、理解度の確認まで含めた教育の仕組みの構築が必要です。

※最終的に同社は、現場教育の体制をブラッシュアップし、正しい作業手順が定着する仕組み作りに成功しています(詳しい事例はこちらをクリック)。

コミュニケーション・文化に関する課題

文化や習慣の違いと並んで大きな障壁になるのが「言語」です。日本語はもちろん、英語が必ずしも通じるとは限りません

例えば、生産工場が多くあるアセアン地域は、それぞれの地域で言語が異なるためローカル言語に変換した作業マニュアルが必要です。また、北米や欧州は出稼ぎや移民が多く、そこで働く労働者は英語ネイティブではないため、作業指示が正しく伝わらない場合があることを認識しておく必要があります。

加えて文化的な面で言うと、報告・連絡・相談という日本では当たり前な文化がそもそも根付いていなかったり、時間に対する感覚や意思決定プロセスの違い、宗教的なタブーなど、様々な意思疎通の困難さがあります。異なる文化や商習慣への理解が不足していると、現地スタッフとの間に摩擦や不信感が生じ、業務に支障をきたすことに注意が必要です。

したがって外国人労働者の教育には、言葉や文字による伝達がなくとも成り立つ教育が採用されるケースが少なくありません。例えば視覚的に作業内容が理解できる「動画マニュアル」は1つの有効手段です。

海外拠点を持っていたり、現場が多国籍な人材割合が多かったりする場合は、動画マニュアルのような視覚的なマニュアルを検討すると良いでしょう。動画マニュアルによる外国人労働者の成功事例は下の資料でまとめられているので、あわせてご覧ください(下の画像をクリック)。



動画マニュアル活用事例を読んでみる>>

品質管理に関する課題

海外工場では、作業手順の不遵守が原因で品質不良が発生するケースが後を絶ちません。

日本語で作成された手順書を現地の言語に翻訳していても、翻訳のニュアンスが伝わりにくかったり、専門用語が正確に理解されなかったりして、作業を正しく理解できていないまま作業をしてしまうために品質異常が起きます。あるいは、そもそも手順書が存在しないという、教育体制の不備に真の原因がある場合もあります。

または、教育をしても、楽に作業ができるよう作業手順を無断で変更するローカル作業者も存在することがあります。これは、日本語から英語、あるいは現地語へ翻訳したときに誤変換があったり、カンコツのような重要な部分が伝わりきらなかったりし、「作業手順を変えても問題ないんだろう」と受け止められてしまうのです。

標準作業は、やり方だけでなく、なぜその手順なのかも伝えることが重要です。標準化の浸透に重要なポイントを、トヨタの実践例を交えながらまとめた資料が参考になるので、あわせてチェックしてみてください(下のリンクをクリック)。 

>>>「トヨタ流に学ぶ 作業標準の見直しで実現する製造現場の生産性向上」を見てみる

距離・制度や地政学リスクによる課題

海外工場は、「距離」や「制度」による制約を受けることが多いです。特に生産リードタイムは、設備トラブル1つで致命的な影響を受けます。

例えば、国内であれば即日可能な専門家の派遣や交換部品の調達が、海外では国際輸送や通関手続きで数週間を要し、長期の生産停止に直結するようなケースです。この時間的・物理的距離が、国内とは比較にならないリスクとなります。

また、コスト面では、国内にはない地政学的なリスクが顕在化します。最大の要因は「為替変動」ですが、それに加え、現在(2025年6月時点)のように特定国の政権が大幅な関税引き上げを行うと、あらゆる面でコストが逼迫し、サプライチェーン全体の再構築を迫られる経営判断に直結します。

変動の激しい国際輸送費や、複雑化する通関手続きも、当初の想定を上回る負担となりがちです。こうしたリスクの予測と事前の対策が、海外工場の運営にはより一層求められることになります。

サプライチェーンに関する課題

海外工場で使用する部資材は日本で使用していたものをそのまま転送するだけでなく、現地の仕入先から調達することが一般的です。しかし、日本と違って納期に厳格ではない仕入先からの部資材遅延が発生したり、政治的な理由による関税の急な変更、自然災害による物流の混乱など、様々なトラブルが発生します。

過剰在庫にならず、欠品にならずという微妙な部資材量の調整が求められます。

また、交通インフラが不安定な海外拠点の場合には、物資の移動がスムーズではないので、ある程度の在庫政策も必要になります。あるいは、政情の安定した別の国にある仕入先から調達するなど、生産を止めない継続的なサプライチェーンが必要になります。

海外拠点の話題とは少しそれますが、多くの企業がサプライチェーンの具体的にどのような領域で失敗してきたのか、以下の記事で詳しく解説しているのであわせて参考にしてみてください。

関連記事:【専門家解説】サプライチェーンマネジメント失敗事例から紐解く、SCM最適化を実現するヒント

法規制・政情不安、インフラに関する課題

海外拠点のある国の「労働法」や「環境規制」の最新情報にも常にキャッチアップしていかなければなりません。これらの要素は急に変更されることがあるため、変更に応じて迅速に対応していく必要があります。対応が遅れると法令違反により、罰金や操業停止といった厳しい措置が取られる可能性もあります。

また、大統領の不信任や政権交代、隣国との紛争、労働ストライキなど、日本ではあまり起きない労働環境の変化が起こります。過去には国民が争い合い、空港を占拠して物流の機能不全が発生した事例もあります。政治には常に目を配り、変化に迅速に対応することが求められます。

加えて、インフラも海外工場の操業に大きな影響を与えます。例えば国によっては水不足が生じ、飲料水や生活用水の確保が難しくなったり、通信網の脆弱性による情報伝達の遅れ、頻繁に発生する長時間の停電など、工場の操業に大きな影響を与えます。

上記のような事態に陥ると、場合によっては、日本と海外拠点とのデータ・情報共有がリアルタイムでなされなくなります。データと情報共有は複数拠点を持つ製造業にとっては命そのものなので、事前に対策を練っておく必要があるでしょう。

海外工場の課題を克服するための具体的な解決アプローチ

これまで見てきたように、海外工場の運営には多岐にわたる課題が存在します。しかし、これらの課題は適切なアプローチと具体的な施策によって克服できます。

誰が教えても正しい作業手順が伝わる教育体制の整備

品質の確保には作業標準化が不可欠です。手の動かし方、道具の使い方、標準作業時間などをマニュアルに明記し、誰もが正しい手順で作業できるような体制の構築が求められます。

しかし、多国籍人材が混在する海外拠点では、母国語ごとのマニュアルを工程ごとに整備するのは、時間的・労力的にも非常に難しいと言えます。仮に整備できたとしても、翻訳の過程で微妙なニュアンスやカンコツが伝わらず、マニュアルによって教育内容にバラつきが発生しがちです。

マニュアルでフォローできない部分はOJTによる教育で補完するとしても、指導者によって教育方法がバラつくケースも多く、教育品質のバラつきは多くの現場で課題となっています。

そのため、どの国籍の作業者でも理解できる「非言語マニュアル」が整備できると良いでしょう。例えば「動画」や「映像」のような、視覚的な理解が促せるマニュアルです。

実例を挙げると、タイに拠点のある、食品用の包装資材を製造するHOEI THAILANDは、「指導者による教え方のバラつき」「紙マニュアルの読みにくさ」を課題としていましたが、動画マニュアル(tebiki現場教育)の導入によって作業標準化を実現しています。結果的にダウンタイム短縮につながり、工場全体のパフォーマンスが向上しています。

このように、動画マニュアルによって外国人労働者や海外拠点の現場教育がうまくいっている事例は多数存在します。他事例も知りたい方は資料「外国人労働者に「伝わらない」を解決した動画マニュアル活用事例集」をご覧ください(下の画像をクリック)。


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海外拠点とのリアルタイム情報連携の体制構築

日本国内と海外拠点とは、物理的な距離や時差、言語の違いによるコミュニケーションの壁により、生産状況把握の遅れや指示・報告の齟齬が生じやすくなります。

そこで、定期的なミーティングや分析結果の共有を行い、生産に関わる人たちが同じ認識のもとで海外工場を運営できる仕組みが必要です。社内用のクラウドサーバーなどどこからでもアクセスできるストレージに情報を集約できるようにして、24時間情報収集と状況分析がリアルタイムでできる環境を整備しましょう。

例えば「現場帳票のデジタル化」は、各拠点とのリアルタイム情報連携の手段としてよく採用されています。

手書きの作業伝票や出荷指示書をデジタル化することで、世界のどこからでも、パソコンやタブレットから現場のデータがすぐに参照可能です。下図がイメージです。

デジタル現場帳票「tebiki現場分析」のサンプル画面より抜粋

このように海外拠点のデータをリアルタイムで参照できれば、本社と海外工場間で迅速な状況把握と意思決定ができるようになります。

データ収集や活用の遅れはリアルタイムな生産状況の把握を困難にして、本社から見た海外工場がブラックボックス化するため注意しましょう。

サプライチェーンの最適化とリスク管理の強化

先述したように、海外工場は地政学的な要因やインフラの脆弱性から、部資材調達のリードタイムの長期化、為替や輸送コストの変動、通関や輸送網のトラブルによる物流の停滞などといったリスクに晒されやすくなります。

したがって日ごろから、以下のような対策を練っておくことを推奨します。

  • 複数の輸送ルートを確保する
  • 不測の事態が生じたシミュレーションを定期的に行う
  • 日本国内よりもバッファを持たせた納期を設定する
  • (特に重要な部資材は)複数の製造拠点を持つ仕入れ先を選定する

このようなリスクヘッジを意識し、海外特有の問題が発生してもある程度対応できるよう準備しておきましょう。

現地法規制の遵守徹底とガバナンス体制の構築

海外拠点が置かれている、もしくは進出予定の国の法規制や労働環境については、事前に調査していると思いますが、法律は時代とともに変化していきます。カーボン排出量の規制、最低賃金の引き上げなど、国際情勢や環境の変化は常に起きるということを念頭に置きましょう。

法律に違反すれば業務停止などのペナルティや、経営者の逮捕、罰金刑など重い処罰が下されます。ガバナンス体制の構築と遵法精神の育成が必要です。

ただ、法規制は複雑であり、かつ改正も頻繁に行われるため、自社だけで対応するのは困難です。

したがって現地の法律事務所やコンサルタントなど、信頼できる専門家を雇用し、いつでもリアルタイムな情報にキャッチアップできるような体制構築を推奨します。また、従業員に対する講習会をしていただくのも効果的です。

補足ですが、労務管理、廃液処理、労働安全や消防法などに対して適切な状態なのかを内部監査したり、ISO14000の認証取得をするなど、内部、外部の目でチェックすることも必要です。本社からも監視ができるように、情報の電子化も進めましょう。

海外工場の運営改善や課題解決に成功している企業事例

ここまで海外工場における特有の課題と、それに対する改善策について解説してきました。ここからは、海外に拠点を持つ企業の課題解決事例についてご紹介します。

自社に取り入れられる施策があるかどうか、参考にしてみてください。

株式会社Archem:流動性が高い現場でも即戦力を実現する教育体制を整備

アメリカに拠点を持つ株式会社Archemは以前、多国籍の従業員に対して英語のマニュアルで教育を実施していました。しかし、技術やノウハウが十分に伝わらず、教育に時間と手間がかかっていたのが課題でした。

特に、金型への部材セットや製品の脱型、金型の清掃などは人による作業ばらつきが出やすく、品質が安定しなかったのです。

そこで「正しい作業手順が一目で伝わる教育」を整備するために、動画マニュアル(tebiki現場教育)を導入。言語の壁を越えて、誰が見ても同じように正しい作業手順や安全ルールを理解できるようになりました。

また、動画内の字幕は100か国以上の母国語に自動翻訳される機能を用いているため、英語・スペイン語・ビルマ語など多言語に対応したマニュアル整備が進んでいます、多様な人材が活躍できる環境を構築でき、品質向上、生産性向上、コミュニケーションの円滑化を図ることに成功しました。

同社の詳しい事例は以下のインタビュー記事からご覧いただけます。

インタビュー記事:アメリカ3工場にて言語の壁を乗り越え、製品品質と生産性を向上

HOEI THAILAND CO.,LTD.:指導方法のバラつき解消によるダウンタイム短縮を実現

HOEI THAILANDのタイ工場では、100ページにも及ぶマニュアルを用いて、現地スタッフへの教育を実践していました。しかし紙マニュアルは教育に時間がかかるうえに、指導内容が十分に伝わらない状況もあり、一人前のスキルが身につくまで約5ヶ月を要していました。また、OJT中心の教育では、教える人によって内容にばらつきが生じ、品質の安定化も課題だったのです。

そこで動画マニュアル(tebiki現場教育)を導入して複雑な機械操作や加工手順を動画で見せながら教育した結果、従業員の理解度が飛躍的に向上し、一人前になるまでの期間が5ヶ月から1ヶ月前後まで大幅に短縮されました。また、正しい作業手順が視覚的に標準化されたことで、トラブル時の対応が早くなり、ダウンタイムの解消をすることもできています。

同社の詳しい事例は以下のインタビュー記事からご覧いただけます。

インタビュー記事:動画を活用した不具合対策によりダウンタイム短縮を実現

まとめ

本記事では、海外工場が直面する6つの主要な課題と、その解決アプローチについて解説しました。言語や文化の壁、品質管理の難しさ、複雑なサプライチェーンなど、海外工場の運営には国内とは異なる多岐にわたる課題が存在します。

これらの問題を克服し、グローバルで戦える強い生産体制を築くには、「教育」と「情報連携」の仕組みをデジタル技術で変革することが不可欠です。これらの有効手段として、本記事では以下2つを提案しました。

  • 動画マニュアルによる現場教育の体制整備
  • 現場帳票のデジタル化

特にデジタル現場帳票は、物理的な距離や時差に関わらず、本社と拠点のリアルタイムな情報連携を可能にし、海外工場のブラックボックス化を防ぎます。

この2つのアプローチを両輪で進めることで、海外工場によくある課題を解消しながら運営継続に寄与します。ぜひ検討してみてください(下の画像をクリック)。

 
 
 
 
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