- なぜなぜ分析は『本当に意味があるのか?』が疑問
- なぜなぜ分析の進め方やコツを『初心者でも分かるような解説』で見たい
- なぜなぜ分析の事例や例題を参考に『テンプレートやフォーマットを使いながら』分析を行いたい
なぜなぜ分析について情報収集をしている皆さんは、上記のようなことを感じられたことがあるのではないでしょうか?
そこで本記事では、なぜなぜ分析が生まれたトヨタ自動車の社内で「なぜなぜ分析に関する研修」の講師を担当していた伊藤 正光氏より、なぜなぜ分析の基礎知識や手順および要点について例題も交えながら解説いただきます。
この記事を読んで頂くことで、なぜなぜ分析を行う上での注意点や、具体的なコツをご理解いただけます。また、なぜなぜ分析の「Excelテンプレート」および「PowerPointテンプレート」をご用意しているので、手順と併せてご活用下さい。
<監修者>
伊藤 正光 氏(リアルパートナーズ講師)
目次
なぜなぜ分析とは?5回繰り返す必要がある?
なぜなぜ分析とは?
なぜなぜ分析とは、問題発生時に根本原因を深掘りして特定する手法です。
トヨタ自動車の大野耐一氏が発案・提唱したもので、著書「トヨタ生産方式 ― 脱規模の経営を目指して ―」で、例として次のような手順を挙げています。
たとえば、機械が動かなくなったと仮定しよう。
以上、五回の「なぜ」を繰り返すことによって、ストレーナーを取りつけるという対策を発見できたのである。
「なぜ」の追及が足りないとヒューズの取り替えやポンプの軸の取り替えの段階に終わってしまう。そうすると、数ヵ月後に同じトラブルが発生することになる。
【引用元:大野耐一「トヨタ生産方式 ― 脱規模の経営を目指して ―」 page33-34】
このように「なぜ?」と問いかけを繰り返し、問題の原因を見つける手法がなぜなぜ分析です。
なぜなぜ分析は意味ない?取り組む目的
なぜなぜ分析の目的の1つは、繰り返し発生してしまう不具合や問題に対する根本解決策を見つけることです。
起こってしまった不具合に対して、根本対策を講じることなく「一時的な処置」や「その場しのぎの対策」を行っている限りは、再び同じ問題が発生してしまいます。つまりは、問題が「再発」してしまいます。
この、問題や不具合発生の「再発」を防止することが、なぜなぜ分析を行う意義・意味の1つです。
ネット上には「なぜなぜ分析をやっても意味が無い。やるだけ無駄。」という声があるようです。はたして、なぜなぜ分析をやることは本当に無意味なことなのでしょうか?なぜなぜ分析は、やる価値のない分析手法なのでしょうか?
言うまでもなく、なぜなぜ分析を行うこと、つまりは「問題の根本原因を探ること」はとても重要であり、意義・意味・価値があります。根本原因を知らずして、根本解決を図ることはできないからです。
ではなぜ、「なぜなぜ分析は意味が無い」という方々がいるのでしょうか?
それはおそらく、「誤ったやり方」でなぜなぜ分析を行ってしまい、納得のいく根本解決に至ることができなかったからだろうと思われます。分析によって期待した成果を得られなかったことで、分析(手法)そのものを否定してしまっている可能性があります。
あるいは、「ひとまずの処置で十分である」と考えてしまい、なぜなぜ分析の本来の目的を理解していない可能性があります。
その様な考えに陥らないよう、後述の「【トヨタ式】初心者でも分かる!なぜなぜ分析の進め方は?」で正しいやり方を解説します。
「なぜ」を5回繰り返す理由は?5回は必須?
なぜなぜ分析において、よくある疑問に「なぜを問う回数は必ず5回でなければならないか?5回は必須か?」というものがあります。
結論として、必ずしも5回である必要はありません。
様々な問題がある中で、根本原因にたどり着くために必要な回数が、必ずしも5回であるとは限らないからです。上述の大野耐一氏による分析事例では、5回目に根本的な原因を突き止めたことで、トラブルの再発を防ぐ一応のメドが立っています。
しかし、ここで更に、6回目、7回目のなぜの問いを発しても良いはずです。状況に合わせ、必要に応じて、なぜの問いを繰り返すと良いでしょう。
なぜ、大野耐一氏が「5回」の事例を挙げたかは、ご本人のみぞ知るところですが、おそらくは「なぜ」を繰り返すことの重要性を説くのに丁度良いとのご判断があったと推測されます。
【トヨタ式】初心者でも分かる!なぜなぜ分析の進め方は?
なぜなぜ分析の提唱者は、トヨタ自動車の元副社長である大野 耐一氏です。
巷には、大野 耐一氏の教えを正しく理解せず、曲解したり、否定したり、都合の良い一部分だけを捉えた分析手法があるようです。これらは、トヨタ式・トヨタ流のなぜなぜ分析と、似て非なるものと言えます。
ここでは、私がトヨタ社内で教えていたなぜなぜ分析の進め方について、テンプレートを交えながら一部ご紹介します。
- 【Excel/PowerPoint】なぜなぜ分析のテンプレートを無料でダウンロード
- 【手順1】なぜなぜ分析のテーマを決める
- 【手順2】より具体的な文章に書き換える
- 【手順3】必要条件を書く
- 【手順4】回答を書く
- 【手順5】原因と結果のつながりをチェックする
- 【手順6】原因究明後、対策内容を標準化する
今回ご紹介するなぜなぜ分析の手順について、より詳しい解説を知りたい方は以下の解説動画も無料でご覧いただけます。ぜひこの機会にご活用いただき、トヨタ流のなぜなぜ分析を体感して下さい。
【Excel/PowerPoint】なぜなぜ分析のテンプレートを無料でダウンロード
今回、初心者の方でもトヨタ流のなぜなぜ分析を行えるように、無料のExcelテンプレートとPowerPointテンプレートをご用意しました。
現場改善ラボのメルマガに登録するだけでテンプレートを入手できますので、まずは以下よりテンプレートをダウンロードして下さい。
▼「エクセル版のなぜなぜ分析テンプレート」のダウンロードはこちら
▼「パワーポイント版のなぜなぜ分析テンプレート」のダウンロードはこちら
テンプレートをダウンロードしたのちファイルを開いていただくと、さまざまな種類のテンプレートがあります。お好みのシートを選んでご使用ください。
【手順1】なぜなぜ分析のテーマを決める
「なぜ○○なのか?」の問いを決める使用するシートを決めたら、次に「深掘りする課題(テーマ)」を決めましょう。具体的には「なぜ○○なのか?」の構文で、文章を書き出しましょう。
この時、どの様なテーマを扱うべきか迷うことがあるかと思います。基本的には、どの様なテーマを扱っても構いません。どの様なテーマを扱うかは、完全にあなたの自由です。
ここで、テーマ選びで考慮する点があるとすれば、以下のものが考えられます。
- なぜなぜ分析によって得られる効果が大きいテーマ。「高い費用対効果」が期待できるテーマ。
- 不具合が発生した際の「損失が大きい」ことが予想されるテーマ。
- 「過去に起こってしまった不具合」だけにとどまらず、「問題が発生していない今の状態(≒現状)」に対する疑問。
たとえば「なぜ今、5人体制でプロジェクトを行っているのか? 効率化して2人でできないのはなぜか?」といったように、現状の問いを投げかけることで今まで気づかなかった改善点が浮かび上がってくることがあるでしょう。
【手順2】より具体的な文章に書き換える
「なぜの問い」を書いた後「より具体的な文章に書き換える」ことで、分析の精度が上がります。抽象的な表現から、より具体的な表現へと書き換えることで、問題がより明確化します。
極力、「数値を含める」ことと「たった1つの事象」のみを扱うことを意識して下さい。
「数値を含めた」分析例
- 悪い例:なぜ今月の故障率は、いつもより高かったのか?
- 良い例:なぜ今月の故障率は、通常の3.2%程度ではなく4.7%もあったのか?
「1つの事象を扱った」分析例
- 悪い例:なぜ、入力ミスというものが発生してしまうのか?( ✕ 複数の事象をひとくくり)
- 良い例:なぜ、伊藤さんは「27」を「72」と入力してしまったのか? (〇 個別具体的な1つの事象)
【手順3】必要条件を書く
「なぜの問い」に対して、その事象(≒問題)が成り立つ「必要条件」を、メモ書きとして、どこかに書き出してみましょう。あるいは逆に、その事象(≒問題)が成り立たなくなる「必要条件」を、同じくメモ書きとして書き出してみます。
この手順を踏むことで、「なぜの問い」に対する直接的な要因を挙げることができます。
必要条件を書き出した分析例
「タロウ君が高校受験に落ちてしまった。なぜか?」
- 悪い例:勉強時間が少なかったからだ。
- 良い例:「合格の必要条件は国数英社理の合計点が300点以上」⇒300点に満たなかったからだ。
この事例のように、「直接的な原因(要因)」と「間接的な原因(要因)」とがあり、前者を書き出すことが大切です。そのためには要因を書き出す前に、必要条件を書き出すことで、問題をより明確化しておく必要があるのです。
「なぜの問い」を書いた後、すぐに「思いつくままに要因を挙げる」のではなく、先に必要条件を明確化しましょう。
ただし、必ずしも必要条件が書き出せる問題ばかりとは限りません。大切なことは、「なぜの問い」の文章が十分に具体化されているかを吟味することです。
できる範囲で構いませんので、「なぜの問い」の文章がより具体化すること、明確化することに努めて下さい。
【手順4】回答を書く
テンプレートフォーマットの第1階層に「回答」を書いてみましょう。先の「手順3」にて、必要条件を十分に挙げることが出来た場合には、それを基に書き出すことができます。
とはいえ、この必要条件だけにこだわる必要があるかは、ケースバイケースです。
なぜなぜ分析を進めていくと、型どおりにいかないこと、思う様に分析できないことが多々あります。そのような場合には、無理に型にあてはめようとせず、自由な発想で、論理を吟味して下さい。
【手順5】原因と結果のつながりをチェックする
「なぜ?」「なぜ?」と、深掘りして洗い出した内容がつながりのあるものになっているかチェックしましょう。
チェックのポイントについて【トヨタで学んだ『なぜなぜ分析』ヒューマンエラーに対するトヨタの考え方は?】の解説動画より、抜粋して解説します。
上図のように「のは」を付けることで、原因と結果が正しくつながっているかをチェックすることができます。同様に「からだ」を付けて、内容がつながっているかをチェックします。
原因と結果がつながっていない悪い例
上図のように「のは」「からだ」を付けて検証することで、原因と結果が正しくつながっていないものを見つけることが可能です。
- 道路が凍結していた「のは」スピードが出ていた「からだ」
- スピードが出ていた「から」道路が凍結していた「のだ」
この様に、「のは」と「からだ」を付けて文章を作ることで、原因と結果が正しくつながっているかどうかを、チェックしてください。
【手順6】原因究明後、対策内容を標準化する
なぜなぜ分析を行うと、多くの場合トラブルの再発防止には「標準化」が欠かせないと言う結論に至ります。
- 標準化していないから、トラブルが再発してしまう…。
- 標準化していないから、ミスをしてしまう…。
- 標準化していないから、「うっかり」が発生してしまう…。
- 標準化していないから、予定していたのと違うことが起こってしまう…。
- 標準化していないから、計画通りに行かない…。
なぜなぜ分析の後、すなわち原因を究明・発見した後には、ほぼ必ずと言ってよいほど、その対策として「作業の標準化」や「プロセスの標準化」を行う必要があります。
以前、私のところに『機械の入力ミスといった単純ミスを少しでも減らせないか。なぜを繰り返しても言い訳しか出てきません。』という連絡を頂いたことがあります。
ヒューマンエラーのような問題に対しては、以下のトヨタ流の考え方に沿うと「標準化」がカギを握っています。
- ヒューマンエラーをゼロにするのは困難。極力少なくするしかない。
- ヒューマンエラーをを抑えるためには、標準作業を確立し守る以外に道なし。
とはいえ、標準化のために作業手順書の整備やOJTなど、基本的な取り組みは皆さん既に行っているでしょう。取り組んでいても『ミスが減らない』といった悩む方も多いはずです。
現場改善ラボでは、現場の標準化でお悩みを抱える方に向けた効果的な解決手段をご紹介しています。次章の【標準を現場に落とし込む効果的な方法は?】で詳しく解説していますので、こちらもご覧ください。
以上の手順が、私がトヨタ社内で従業員に対して教えていた、なぜなぜ分析の大まかな手順です。より詳しい手順の解説を知りたい方は、以下より解説動画をご覧ください。
標準を現場に落とし込む効果的な方法は?
仮になぜなぜ分析で原因を特定し、適切な対策を立案したとしても、現場に満遍なく対策内容が浸透していない限り問題は再発してしまいます。
なぜなぜ分析は原因を追及することがゴールではなく、対策内容を標準として現場に落とし込んで改善につなげることが1番の目的です。
とはいえ、現場の標準化を実現するために「マニュアルや手順書の整備」「OJTや座学による教育」では標準を理解しにくいと感じている方もいらっしゃるでしょう。
この章では現場改善ラボより、現場に標準を伝える手段として「動画マニュアルの活用」をご紹介します。
業務標準化に動画マニュアルが効果的な理由
製造業に従事する方を中心に私たちがお話を伺うと、業務標準化を目的にマニュアルの整備やOJTによる教育などを行うケースが多い一方、うまく標準化が進められていないことが少なくありません。
マニュアル/作業手順書の主な課題 | OJT/座学の主な課題 |
・動きが伴う情報を文字や写真で表現できない ・作成者によって分かりやすさがバラつく ・新規作成や改訂時に多大な工数が定常業務外で発生する ・読み手によって理解度にバラつきが生じる ・外国人従業員向けに多言語対応が必要 | ・全ての管理者が分かりやすく教えられるとは限らない ・1度で理解することは難しく、繰り返し教育が必要 ・管理者の業務負荷が大きく定常業務に影響が出る ・口頭で動きが伴うカンコツを伝えることは難しい ・外国人従業員と言葉の壁があり伝えにくい |
このような課題により「標準が伝わらない状態」を生み出し、適切な対策だったとしても問題が再発してしまう恐れがあります。この抜け出す手段として、動画マニュアルの活用が効果的です。
業務標準を動画マニュアルで伝えることで、以下のような効果が期待できます。
- 動きが伴う情報/ノウハウ/カンコツを分かりやすく伝えられる
- 『まずは動画を見て』と管理者の教育工数を大きく削減できる
- 作業者も繰り返し見返すことができる
- 言葉の壁に左右されず視覚的に手順を伝えられる
しかし、動画と聞くと『編集が難しそう…』と感じるかも知れません。
そこで誰でもかんたんに動画マニュアルを作成できるツールとして、現場教育システム「tebiki」をご紹介します。
動画マニュアルをかんたんに作れる「tebiki」とは?
現場教育システム「tebiki」とは、私たち現場改善ラボを運営するTebiki株式会社が展開する動画を軸とした教育改善ツールです。
製造業や物流業、サービス業といった、ヒト/モノ/機械の動きが伴う現場産業を中心に導入実績があります。
以下のような機能を取り揃え、動画マニュアルの活用を通じた現場課題の解決をご支援しています。
- 動画はスマートフォンで撮影したものでOK
- シンプルで操作しやすい編集画面
- 動画の音声が自動で文字起こしされる自動字幕機能
- 字幕の自動読み上げ機能
- 100を超える国や地域の言語へ字幕を瞬時に翻訳(一部読み上げも対応)
- アクセス制限など管理者権限で設定可能
- レポート機能で従業員のマニュアル活用状況を可視化
- テスト機能を活用した習熟度チェックも可能
より具体的な機能は以下の資料でご紹介しています。『tebikiがちょっと気になる』という方は、ぜひご覧ください。
動画マニュアルを活用した業務標準化の推進事例
実際に動画マニュアルを活用し業務標準化を推進し、現場改善につなげた事例として児玉化学工業株式会社をご紹介します。
新人や外国人の従業員を多く抱えている同社では、紙の作業手順書やOJTでは正しい手順が伝えられないという課題を抱えていました。
結果的に製品の品質不良といった問題発生につながっていました。
そこで社内の標準やルールを分かりやすく伝えるため、tebikiを活用した動画マニュアルの運用に取り組み、以下のような改善を実現しています。
- 動画を使って日本人、外国人問わずルールが浸透
- 手順書、マニュアル作成の工数は紙の1/3に
- ルールを見える化して教える手間を削減
- 作業不遵守による品質不良が9割減少
より具体的に動画マニュアルの活用事例と効果を知りたい方は、児玉化学工業株式会社のインタビュー記事か、動画マニュアルの活用事例を凝縮した事例集を以下よりご覧ください。
なぜなぜ分析の分析事例/例題【解説付き】
ここまでご紹介してきた手順を踏まえて、いくつか例題をご用意しました。
解説動画【トヨタで学んだ『なぜなぜ分析』ヒューマンエラーに対するトヨタの考え方は?】内で、例題の解説も行っているので、なぜなぜ分析の事例サンプルとしてもご活用ください。
例題1. シャープペンシルが折れたのはなぜ?
例題2. 女性が転んでしまったのはなぜ?
例題3. 机の上が雑然としているのはなぜ?
これだけは押さえたい!なぜなぜ分析のコツ
なぜなぜ分析の流れについて詳しくご紹介してきましたが『もう少しコツやポイントを知りたい…』という方もいらっしゃるでしょう。
ここからはトヨタ式のなぜなぜ分析を正しく実践するために、少なくとも押さえておきたいなぜなぜ分析のコツを3つご紹介します。
遠因(間接的な要因)ではなく近因(直接的な要因)を挙げる
先ほど「【手順3】必要条件を書く」にて、要因を書き出す前に必要条件を書き出しておくと良い、と述べました。あらためて、下記の分析例をご覧下さい。
<分析例>
「タロウ君が高校受験に落ちてしまった。なぜか?」
- 悪い例:勉強時間が少なかったからだ。
- 良い例:「合格の必要条件は国数英社理の合計点が300点以上」⇒300点に満たなかったからだ。
この分析例では「勉強時間が少ない」ことが遠因(≒間接的な要因)。試験の得点が「300点に満たなかった」ことが、近因(≒直接的な要因)と言えるでしょう。
どちらも、試験の合否に影響を与える要因であるケースが殆どだと思います。しかし、後者の「近因」を挙げることにより、問題への対策がより的を得たものになります。
近因を挙げるコツは、合否の判定を下す基準に着目することです。
「当日のテストの採点結果(=得点)」が「300点」という基準に達していない、ということであれば、100%の確率で不合格という判定が下るはずですし、逆(合格の場合)も然りです。
一方、例えば「勉強時間が500時間以上であれば、合格」という文章を考えてみましょう。
この文章は、原因と結果とが正しく結びついているでしょうか?真実を表しているでしょうか?間接的には合否に関係はあれど、直接的には関連が無い(関連性が低い)と言えます。
基準は、時に「合格のための必要条件」であったり「物が壊れる寸前の限界強度(耐荷重量)」であったりします。
なぜなぜ分析のテーマごとに、まず基準が何であるかを明確にし、書き出しておくこと。これがなぜなぜ分析を成功させる最大のコツです。
抽象的な文章・言葉ではなく具体的な文章・言葉を書く
<分析例>
「タロウ君はイマイチ、パッとしない。なぜか?」
- 悪い例:すぐさま、頭に浮かんだ要因を列挙していく。
- 良い例:要因を列挙する前に「パッとしている」がどういう状態を指すのか、その定義をハッキリさせる。
前項で、基準を明確にしてから要因を挙げることの大切さを解説しました。基準と同様に、定義を明確にすることで、分析がうまくいく場合があります。
清書は最後に
なぜなぜ分析で手を動かす際に、フィッシュボーン図(特性要因図)を描いたり、ツリー構造の図を描くことが多いですよね。
この時、最初からエクセルファイルやパワーポイントファイル上に記述を行っていくと、次の様な余計な思考に煩わされることが、ままあります。
- 文字のサイズを調整する。
- 枠(オブジェクト)のサイズを調整する。
- 2つの枠(オブジェクト)がキレイに揃うように並べる。
- 線が斜めになってしまったので水平に揃える。
この様な操作を最小限に留めるため、まずは紙などに分析内容を書きなぐり、その後に清書を行うと良い場合もあります。
最近では、タブレット・スマホの「メモ用アプリ」や「電子メモパッド」を活用する方も多い様です。
『なぜなぜ分析がうまくいかない…』陥りやすい落とし穴とは?
ここまでご紹介してきたように、なぜなぜ分析は問題解決に有用な手段です。一方で実際に分析を進めてみると『うまくいかない…』と感じる場面があるかと思います。
うまく分析できない時には、以下に挙げるような落とし穴に陥っていないか確認しましょう。
- なぜなぜ分析の意義/目的を見誤っている
- 個人を吊るし上げる責任追及/攻撃(パワハラ)に利用されるケースがある
- 分析に取り組む姿勢に課題がある
- 分析の内容が「いいわけ」に終始してしまう
なぜなぜ分析の意義/目的を見誤っている
先ほど【なぜなぜ分析は意味ない?取り組む目的】でもご紹介したように、巷には『なぜなぜ分析をやっても、意味がない』と考える方がいるようです。
しかし、大野耐一氏が挙げた事例から分かる様に、起こってしまったトラブルや問題に対して、その根本原因や遠因を探ることは、とても意義のあることです。分析がうまくいかないからと簡単にあきらめるのではなく、問題の本質や根本原因、ひいては根本対策を探り続けることが大切です。
なぜなぜ分析の目的は、問題発生の原因を明らかにし、同じ問題が再発しないようにすることです。
しかし、この目的を見誤って、問題が発生したこと自体に焦点を当て、問題を単にやり過ごすことだけを目的とすることがあります。このような姿勢では、問題が発生する根本的な原因を見落とすことがあり、再発を防ぐことができません。
個人を吊るし上げる責任追及/攻撃(パワハラ)に利用されるケースがある
巷には、なぜを繰り返す問いがパワハラの道具とされてしまうケースがある様です。
- 「なぜ、お前は○○なんだ?」
- 「なぜ、俺の指示通りにできなかったんだ?」
などと、部下を詰問するのに使い勝手の良いフレーズとして「なぜ、なぜ」の質問攻めが使われているようです。この時、本来の問題解決の手段として使われる「なぜなぜ分析」と、「パワハラの道具」としての「なぜの詰問」とは、分けて考えるべきでしょう。
なぜなぜ分析で個人への責任追及や攻撃を行うことは避けるべきです。
その理由は、問題解決において個人の責任や能力を問題にすることは、問題解決に逆効果であるだけでなくパワーハラスメントや不当な批判を引き起こす可能性があるからです。
問題解決においては個人に問題があるとしても、その問題が発生した根本的な原因を特定しシステムやプロセスの改善点に焦点を当てることが重要です。問題の原因を特定することで、同じ問題が再発することを防ぐことができます。
最終的な目標は「問題を解決すること」なので、個人の責任や能力に焦点を当てることは問題解決に貢献することではありません。
トヨタにおけるなぜなぜ分析手法として有名な「トヨタ生産方式」のひとつに、「人を責めずに、しくみを責めろ」という考え方があります。この考え方は、間違いが発生したときに個人に責任を負わせるのではなく、システムやプロセスに問題があるということを意味しています。
つまり、問題を起こす原因をシステムやプロセスの改善点に集中し、より根本的な解決策を見つけることができるという考え方です。トヨタは、この考え方を実践するために、現場の作業者やスタッフと積極的にコミュニケーションを取り問題解決に向けた改善提案を促しています。
また、問題が発生した際には個人に責任を負わせるのではなく、その問題がなぜ発生したのか、システムやプロセスに何らかの改善が必要かを検討し、それらの改善点を取り入れることで同じ問題が再発しないようにしています。
このようなアプローチにより、トヨタは高品質で効率的な生産プロセスを構築し、顧客満足度の向上に貢献しています。
関連記事:トヨタ生産方式(TPS)をわかりやすく解説!2本の柱やカイゼンを成功させるコツとは
分析に取り組む姿勢に課題がある
なぜなぜ分析に取り組む際には、客観的で冷静な姿勢が求められます。しかし、感情的になってしまったり、先入観を持ってしまったりすることで、問題解決が困難になることがあります。
また、チームワークやコミュニケーションが不十分であったり、意見の不一致が生じることで、問題解決が遅れたり、解決策が実現されなかったりすることも起きるので注意が必要です。
分析の内容が「いいわけ」に終始してしまう
ヒューマンエラーに対してなぜなぜ分析を行うと、往々にして「いいわけ」に終始してしまうことがあるようです。
『いいわけの状態になってしまって問題ないのか?』と悩むかもしれませんが、実は、「なぜ」に対する回答が「いいわけ」に該当しても、特段、問題があるわけではありません。
出てきた答えが「いいわけ」に該当する・しないに関わらず、対策を講じることができればひとまず良い、と捉えてみてはいかがでしょうか。
ここで、ヒューマンエラーに関する問題がテーマの分析に対する私の考えをご紹介します。
- 「ヒューマンエラーに対してなぜなぜ分析を行っても、特段、目新しい分析結果が得られることはあまりない」
- 「意識を高く保つ、ということに尽きてしまう(ことが多い)」
- 「業務の標準化による根本対策を打つ」
先ほど「【手順6】原因究明後、対策内容を標準化する」でもご紹介しましたが、トヨタの場合でもヒューマンエラーについては意識向上や「業務の標準化」を前提としています。
『いいわけに終始してしまっている』と感じてしまう場面もありますが、対策を講じるという目的のもと「なぜ?」「なぜ?」と深掘りしてみてください。
まとめ
なぜなぜ分析は、起きた問題や不具合の根本的な原因を追求する有効な手段の1つです。なぜなぜ分析を行うことで再発防止策や改善策を講じることができます。
問題が発生したとき、まずその原因を「なぜ?」という質問で追求し、答えを得たら再び「なぜ?」という質問を繰り返していくことで、深層にある根本原因を明らかにすることができます。
一方で巷にあふれているなぜなぜ分析は、なぜなぜ分析を考案した大野 耐一氏のものに則していないケースも度々あります。この記事を通じて、大野 耐一氏によるトヨタ式のなぜなぜ分析の進め方を実践してみてください。
監修者:
伊藤 正光 氏(リアルパートナーズ講師)
経歴:
1968年にトヨタ自動車 技能者養成所(現:科学技術高等学校)に入社。その後、第二技術部 試作課、試作部 車両組立課、試作部 ユニット組立課、法規認証部 認証試験課などの経験を経て退職。トヨタの中でトップ技能者として認められ、かつトヨタ自動車の技術者の代表として高度熟練技能者を受験し認定。現在はリアルパートナーズの講師として、トヨタ生産方式のオンライン研修やコンサルティングを行っている。