ECRSの4原則とはEliminate(排除)、Combine(結合)、Rearrange(交換)、Simplify(簡素化)の頭文字を取った業務改善のフレームワークです。
なかには「ECRSの4原則の具体的な定義がわからない。」「ECRSの4原則はどうやって活用すればいいの?」「ECRSの4原則の成功事例は?」といった疑問を持つ方もいらっしゃるかと思います。
そこでこの記事では、ECRSの定義や基本的な考え方、具体的な活用方法、成功事例のほか、ECRSの原則が現場でもたらすメリットについて解説します。
この記事を読めば、ECRSの4原則をしっかりと理解し、現場改善に生かすための実践的な知識を手に入れられるでしょう。
目次
ECRSの4原則とは?考え方や読み方
ECRSは、Eliminate(排除)、Combine(結合)、Rearrange(交換)、Simplify(簡素化)の頭文字を取った言葉でイー・シー・アール・エス、もしくはイクルスと読みます。
ECRSとは「Eliminate(不必要な作業や手順を削除する)」「Combine(関連する作業や手順を一つにまとめる)」「Rearrange(作業の順序や配置を効率的にする)」「Simplify(作業を簡単にし、誰でも理解できるようにする)」という意味を持つ業務改善のフレームワークであり、「改善の4原則」とも呼ばれます。
ECRSの原則の提唱者については、ハッキリとわかっていないのが現状ですが、QCD革新研究所所長の中村茂弘氏による資料には、グルブレス氏の貢献によりECRSの原則が確立されたと明記されています。
当時、製造現場の改善に対し、多くの IEr達はグルブレス氏が開発した工程分析を基とした ECRSという質問を使い、アイデア発掘法を進めてきました。
参照元:中村茂弘著【製造現場改善の源泉を辿り!新郷重夫先生の「工場改善の体系的思考に学ぶ」】
現場改善ラボでは、中村茂弘氏による『利益を生み出す製造現場のQCD』というテーマの講演動画を無料で公開していますので、こちらも併せてご活用ください。
ECRSにおける4つの視点と改善方法
ECRSの4つの原則は、Eliminate(排除)、Combine(結合)、Rearrange(交換)、Simplify(簡素化)ですが、ここではそれぞれの言葉について解説します。これらの視点に着目することで、現場の業務効率化を実現するヒントを見つけられます。
Eliminate(排除)
Eliminate(排除)の視点は、現場の効率化に不可欠です。
製造業において、不必要なステップは時間とリソースを浪費し、最終的な製品のコストを高めるため、無駄なプロセスや手順は生産性を低下させる大きな要因です。そこでEliminate(排除)が必要になります。
たとえば、製品の組み立てラインで不要な検査プロセスがあれば、排除することで、全体の生産時間を短縮できます。
Combine(結合)
Combine(結合)の視点は、製造業での生産性向上に有用です。
関連するステップを一つにまとめること(結合すること)で、作業の流れがスムーズになり、時間のロスを防ぐため、プロセスの結合は、作業の効率化に直結します。
たとえば、製品の品質検査と包装を同一のステーションで行うようにすることで、移動時間が削減され、全体の効率が向上するでしょう。
Rearrange(交換)
Rearrange(交換)の視点は、作業順序、作業場所、担当作業者の入れ替えによって効率化を図る視点になります。
プロセスや作業の順序を交換することでミスが減少し、効率が大幅に向上する場合があります。
たとえば、製造ライン上での部品の取り扱い順序を変更することで、作業者の動きがスムーズになり、生産性が向上する可能性があります。
Simplify(簡素化)
Simplify(簡素化)の視点は、仕事の複雑さによって発生する間違いや抜け漏れをなくすために重要な部分となります。
製造業では、複雑なプロセスは作業者が混乱する可能性が高く、ミスを起こすことで品質に影響を与える可能性があります。たとえば、製品の組み立て手順が複雑であれば、簡素化することで、作業者の負担が軽減され、ミスの削減が期待できるでしょう。
ECRSそれぞれの視点から見ることで、現場の業務効率化を実現するヒントを見つけられます。その他に業務効率化を実現するアイデアを知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
関連記事:業務効率化のアイデア12選と生産性を高めるやり方を徹底解説!
ECRSの4原則の活用によるメリットとデメリット
ECRSの4原則の活用にはメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。ここではメリットとデメリットについて解説しましょう。
ECRSの4原則の活用によるメリット
ECRSの4原則の活用によるメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- コスト削減
- 情報共有改善
- 属人化の防止
コスト削減
ECRSの原則を活用するメリットの一つは、コスト削減です。不必要なプロセスを排除(Eliminate)や統合(Combine)することで、リソースの無駄遣いを防げるからです。
たとえば、製造業でよくあるのは、同じ部品を異なる場所で製造しているケースです。これを一箇所で製造するように統合することで、運搬コストや人件費を削減できます。
製造現場でコスト削減するためには、品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)のQCDを最適化させることがポイントです。QCDを最適化させ利益に繋げる視点については、以下の動画をご覧ください。
情報共有改善
プロセスを簡素化(Simplify)することで、情報の伝達が効率的になるため、情報の共有も円滑になるでしょう。
製造業の現場でよく見られる問題は、情報が煩雑で共有が難しい点です。ECRSを適用することで、必要な情報だけを効率的に共有し、作業の進行をスムーズにする効果が期待できます。
属人化の防止
プロセスが簡素化された場合、誰でも簡単に理解できるレベルになるため、ECRSの活用は属人化を防ぐ効果もあります。
たとえば、特定の作業が一人のスキルに依存している場合、その人が欠けたときに全体の作業が停滞する可能性があります。ECRSの原則に従ってプロセスを簡素化することで、誰でも作業を行えるようになり、属人化を防ぐことが可能です。
関連記事:属人化とは?何が悪い?デメリットや解消方法を解説!
ECRSの4原則の活用によるデメリット
一方で、ECRSの4原則の活用によるデメリットとして以下の2つが挙げられます。
- 周辺社員への周知と理解が必要
- それなりの時間が必要
周辺社員への周知と理解が必要
ECRSの4原則は個々の業務だけでなく、チーム全体の業務フローに影響を与えるため、活用には周辺社員への周知と理解が不可欠です。
たとえば、製造業においては、一つの工程のみが効率化されたとしても、周辺の工程や社員がどのように影響するのかを理解していなければ、全体の効率は向上しません。そのため、ECRSの原則を導入する際には、全員がその意義と方法を理解し、協力する必要があります。
特に現場改善を目指す人にとっては、時間と労力を要する作業です。周知活動を怠ると、最悪の場合、社内の雰囲気が悪くなるなどの新しい問題を生む可能性もあります。そのため、周辺社員への周知と理解は、ECRSの効果的な活用には欠かせません。
それなりの時間が必要
ECRSの原則にもとづいて業務プロセスを見直す作業は、一朝一夕には行えないため、ECRSの原則を効果的に活用するには、それなりの時間が必要です。
たとえば、製造現場での改善を考える場合、各工程の効率化は詳細なデータ分析や試行錯誤が必要で、時間がかかることが多いでしょう。また、改善後のプロセスが確立するまでにも時間がかかる場合があります。
特に、現場改善を目指す人にとっては、急いで改善を行ってしまうと、後で修正が必要な場合もあり、さらなる時間のロスを招く可能性があるため注意が必要です。
また、一度限りの改善で終わってしまうわけにもいかず、継続的に改善を行う仕組みを構築する必要があります。そのため、継続的な改善という意味でも成果を実感するためには時間を要するでしょう。
ECRSの4原則の注意点
ECRSの4原則の注意点として、以下の3つを解説します。
- 目的がぶれないようにする
- 長期的な改善であると考える
- 定期的に見直す
目的がぶれないようにする
ECRSを導入する際、最も重要なのは目的を明確にすることです。目的が不明確だと、IT導入や他の手段が最終目的に置き換わってしまう可能性があります。
たとえば、コスト削減が目的なら、目的に合わせた「排除」のステップから始めるべきでしょう。
長期的な改善であると考える
ECRSは短期的な成果よりも長期的な改善を目指す手法です。特に属人化が問題となっている場合、意識や考え方を変えることは一朝一夕にはできません。
たとえば、社内での生産性向上の目的をしっかりと伝え、数か月、もしくは数年の長期的な視点で改善を進める必要があります。
定期的に見直す
改善実施後も、業務プロセスは常に変化しています。市場環境や技術の進化によって、今が最適とされる方法も時代遅れになる可能性があります。
そのため、一定間隔でECRSの原則に基づいて業務プロセスの見直しを行い、新たな改善点を見つけ出すことが重要です。
ECRSの視点に着目した改善事例
Rearrange(交換)の事例
すかいらーくグループは、2022年12月に猫型配膳ロボットを、展開している約2,100店舗に3,000台を導入しました。導入した猫型配膳ロボットは、すかいらーくで2021年8月に実証実験を開始してから、約1年4カ月での導入となりました。
従来は人が食事やドリンクを運んでいましたが、現在は基本的に猫型配膳ロボットが配膳を行っています。ロボットが作業を行うことによって、人件費の見直しができたり、人が別の作業をすることで生産性が向上するなど企業にとってメリットがあります。
参照元:すかいらーく「ネコ型配膳ロボ」3000台導入を成功させた「特命チーム」に迫る
Simplify(簡素化)の事例
従来の契約書などの印鑑を押印する際、人の手がかかり、作業が非効率であるという問題がありました。
そこで、単純作業の削減と効率化が目的で、契約書などに自動で押印するロボットが登場しました。自動で押印するロボットは、事前にスキャンした書類に対して、登録された位置とハンコの種類に基づいて自動で押印する仕組みです。
自動で押印するロボットにより、書類をスキャンし、登録した位置にハンコを押すという一連の流れを自動で行うことに成功しました。押印の自動化により人手がかからないため、他の重要な業務に人員を割くことができるようになりました。
自動で押印するロボットの事例は、特にS(簡素化)の事例と言えるでしょう。
押印という面倒な作業を簡素化することに成功し、改善を成し遂げた事例です。
参照元:話題の「自動ハンコロボット」、開発担当者に聞いた真意
ECRSの4原則を理解して現場改善しよう!【まとめ】
この記事では、ECRSの基本的な考え方や具体的な活用方法、成功事例を解説しました。
ECRSの4原則は、製造現場で特に重要な考え方であり、Eliminate(排除)、Combine(結合)、Rearrange(交換)、Simplify(簡素化)の4つの視点から業務改善を行う方法です。
ECRSの活用によるメリットとして、コスト削減、情報共有の改善、そして属人化の防止があげられます。また、デメリットとしては周辺社員への周知と理解が必要、それなりの時間が必要の2つがあげられます。
排除によって無駄なプロセスを削減したり、結合と交換で効率的な作業フローを構築したりするなど、多くの成功事例が報告されています。簡素化によっては、作業者がより集中できる環境を作ることも可能です。
ECRSの4原則は、製造業に限らず多くの業界で有用な改善手法と言えるでしょう。具体的な改善事例を参考に、さらなる現場改善にいかしましょう。