現場改善ラボ 記事一覧 お役立ち情報 溶接不良「オーバーラップ」原因と対策:標準化を実現する現場教育手法も

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溶融金属が母材と融合せず、ただ表面に乗っかっているだけの状態が「オーバーラップ」です。外観上はビードが太く丈夫そうに見えますが、実際には強度が著しく低く、放置すれば製品の剥離や疲労破壊といった重大事故を招きかねません。こうした不良の多くは「施工条件(モノ)・作業技能(ヒト)・検査基準(仕組み)」という3つの要素のズレに起因しています。

本記事では、実際に工場の勤務経験がある筆者の観点も踏まえ、オーバーラップの発生メカニズムからアンダーカットとの違い、現場で確実に定着させる対策方法まで解説します。「何度注意しても盛りすぎの癖が直らない」「感覚的なコツが伝わらず品質がバラつく」と頭を抱えている方は必見です。

感覚的なコツをどう教育に落とし込むかという壁にぶつかる管理者は少なくありません。この壁を乗り越えるカギは、個人の感覚に依存しがちな作業を、誰でも同じように再現できる形へ標準化し、決められた手順が守られる状態をつくることです。決められた条件や手順が守られない「手順不遵守」を放置すれば、技術のばらつきによる欠陥の連鎖は断ち切れません。溶接特有のカン・コツを組織で統一し、手順不遵守に起因する品質不良を防ぐための考え方と具体策をまとめた資料を公開しています。ぜひ記事と併せてご活用ください。

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目次

溶接欠陥「オーバーラップ」とは何か?

オーバーラップとは、JIS Z 3001-4において「形状不良」に分類される溶接不完全部の一種です。溶融金属が母材と融合せず、表面に重なっただけの状態を指します。一見、余盛が十分に見えますが、強度が著しく低い重大な欠陥です。まずは定義と発生の仕組みを正しく理解しましょう。

オーバーラップの定義:溶着不足が引き起こす「重なり」の正体

オーバーラップは、日本産業規格(JIS)*1において「溶接金属が止端で母材に融合しないで重なった部分」と定義されています。要するに、母材が溶ける前に溶融金属が覆いかぶさった状態です。外観上はビードが太く見えるため、経験の浅い作業者は「しっかり盛れている」と誤解しがちです。しかし断面を見ると母材との境界がつながっておらず、金属的な結合が得られていません。オーバーラップは強度計算に含まれない「見た目だけのビード」であり、管理者は「JIS規格外の不良である」という事実を伝え、修正の必要性を認識させる必要があります。

オーバーラップの発生メカニズム

発生の主因は、溶接電流と速度のアンバランスにあります。日本溶接協会*2によれば、一般的に溶接速度が遅い場合にオーバーラップが発生しやすくなります。慎重になりすぎてトーチをゆっくり動かすと、溶融金属がアークより先に進み、まだ溶けていない母材の上に垂れ落ちます。これが冷え固まることで、融合しないまま「乗っかる」現象が起きます。逆に速度が速すぎると、今度は母材を掘る「アンダーカット」が発生します。

オーバーラップは不良か?発生時の特徴と製品への影響

結論として、オーバーラップは適宜に手直しが必要な「明確な不良」です。最大の問題は、ビードの端(止端部)が鋭角な隙間を作る点にあります。日本溶接協会*3によると「鋭いノッチ状の欠陥」とされ、製品寿命を縮める要因となります。振動や荷重がかかった際、隙間に応力が集中し、亀裂(クラック)の起点になりやすいからです。また、オーバーラップした部分は母材と一体化していないため、設計上の強度(有効のど厚)には算入されません。見た目のサイズに反して、実際には荷重を支える力が不足しています。

表面・内部に現れるオーバーラップの状態と判断の難しさ

オーバーラップは表面だけでなく、見えない部分にも発生するため注意が必要です。表面の欠陥は目視や爪を引っ掛けるなどの物理的な確認で比較的容易に発見できます。厄介なのは片面溶接における「裏ビード」のオーバーラップで、裏当て材と母材の密着不良や溝の位置ズレが原因で発生します。表面からは正常に見えても、裏側で融合不良が起きている可能性は否定できません。発見には超音波探傷(UT)や放射線透過試験(RT)が必要となり、後工程での発覚は手戻りコストを増やします。

溶接方法・材料・用途別に見るオーバーラップの発生傾向

発生傾向は溶接姿勢や工法によって大きく異なります。特に重力の影響を受ける「すみ肉溶接」や「横向・立向姿勢」では、溶融金属が垂れ下がりやすく頻発します。過剰な金属が下に落ちようとするため、下向姿勢と同じ感覚で施工するとうまくいきません。対策として、電流の低減や速度の増加といった条件変更が求められます。トーチ角度も重要で、立板から35°〜55°の範囲に保つことや、狙い位置の微調整が有効とされています。

溶接欠陥「オーバーラップ」を引き起こす5つの原因

オーバーラップは物理的な条件の不整合から生まれます。現場で頻発する5つの原因を解説します。

トーチ角度・運棒操作の不適切:ビード端部での融合不良

作業者のトーチ保持角度の不良が原因の一つです。適切な角度でアークを当てないと、熱が母材に十分伝わらず、溶けた金属が表面に乗るだけの状態になります。すみ肉溶接では特に顕著で、立板に対して35°〜55°の範囲でトーチを保持することが推奨されます。しかし、経験の浅い作業者は手元を見やすくするためにトーチを寝かせすぎたり、狙い位置がずれてアークの熱が溶着部に集中していなかったりします。感覚に頼らせず、角度計や治具を用いて「正しい構え」を教えることが重要です。

低速すぎる溶接速度:溶融金属が先行して母材を覆い隠す

溶接速度が遅すぎることもオーバーラップを招きます。アークが母材を溶かすスピードよりも溶融金属の供給量が多くなり、アークの前方へあふれ出すからです。日本溶接協会も、溶接速度が遅い時にオーバーラップが発生しやすいとしています。あふれ出た金属は、まだ溶けていない冷たい母材の上を覆い隠し、アークの熱が遮断されて母材と融合しないまま冷え固まります。慎重な作業者ほど「ゆっくり丁寧に」運棒しようとして低速になりがちです。指導では「溶融池の先端を追いかける」イメージを伝え、適切な進行速度を維持させましょう。

不適切な電流・電圧バランス:過剰な溶融金属が濡れ広がらずに堆積する

個人の技量以前の問題として、電流と電圧の設定バランスが崩れているケースも多くあります。電流値に対して電圧が低すぎると、ビードが凸状に盛り上がり、母材へなじまずに垂れ下がります。溶融金属の「濡れ性」が悪化し、裾野が広がらないまま高く堆積するからです。日本溶接協会でも、オーバーラップ対策として「電流の低減」を挙げています。ただし電流を下げるだけでは入熱不足となり、融合不良のリスクが高まります。重要なのは電圧との適正な比率を保つことです。

シールドガスの供給不安定:アークの広がりを欠きビードが不安定化

見落とされがちなのが、シールドガスの供給不良によるアークの不安定化です。ガスによる保護が不十分だと、空気中の窒素などが混入し、ブローホールだけでなくビード形状の乱れも引き起こします。日本溶接協会でも、ブローホールの主たる原因として「シールド不良」が挙げられています。シールドが乱れるとアークがふらつき、熱が一点に集中しなくなるため、溶融金属が意図しない方向へ垂れ落ちやすくなります。特に夏場の工場では、暑さ対策の扇風機やスポットクーラーの風が手元に直撃していないか注意が必要です。

スラグの先行と巻き込み:溶融池のコントロール不能が招く欠陥

被覆アーク溶接やフラックス入りワイヤを使用する場合、スラグの動きがオーバーラップの引き金になります。スラグが溶融金属よりも先に流れると、アーク熱を遮り、母材の溶融を阻害するからです。「スラグ巻き込み」の原因でもあり、同時にビード端部のオーバーラップも引き起こします。特に下り坂(立向下進)の溶接や過度な後退角で運棒した場合にスラグが先行しやすくなります。スラグは溶融金属より比重が軽く流動性が高いため、少しの傾きで前に走り出すからです。対策として、スラグを常にアークの後方に送る運棒操作(プールコントロール)が求められます。

オーバーラップが引き起こす重大な溶接欠陥

オーバーラップが具体的にどのような物理的リスクを持つのか、3点から深掘りします。

溶接部に未融合が残るオーバーラップ

オーバーラップは、止端部に未融合を伴う形状不良です。融合不良と共通する性質がありますが、規格上は別の不完全部として分類されます。外観上のビード幅が確保されていても、母材と溶着金属が界面で結合していない部分は強度部材として機能しません。JIS*4では、融合不良を「溶接境界面が互いに十分溶け合っていないこと」と定義しています。設計図面で脚長が指定されていても、オーバーラップ部分は有効な脚長として機能せず、外観のボリュームに反して母材との結合力が欠如しており、わずかな衝撃で剥離するリスクがあります。

応力集中による割れの誘発

製品寿命を短縮させる「割れ」の誘発も看過できないリスクです。オーバーラップした止端部は、母材との間に鋭角な隙間を形成します。機械部品や構造物に繰り返し荷重がかかった際、鋭い切れ込みに応力が集中します。平滑なビードであれば分散される負荷が、オーバーラップ部分の一点に集まることで金属疲労を引き起こし、脆性破壊が起こる可能性もあります。

外観では分からない表面下に隠れた未融合部分の発生

目視確認が困難な「表面下のオーバーラップ」も重大なリスク要因です。裏面や層間といった目視が不可能な領域にも発生します。片面溶接で裏当て材と母材の密着が不十分な場合、裏ビード側で溶融金属が垂れ下がりオーバーラップを形成します。多層盛り溶接では、前層のビードが凸状にオーバーラップしていると、次層の溶込みを阻害し層間に未融合部分を残します。外観検査では発見できず、超音波探傷(UT)や放射線透過試験(RT)で初めて発覚し、最終検査で内部欠陥が検出されるとビードを全て削り取って再溶接する必要があり、工数とコストが膨大になります。

オーバーラップが強度・品質に及ぼす致命的な影響

オーバーラップは外観不良ではなく、構造物の安全性を損なう重要な不完全部分です。強度不足や腐食、疲労破壊といったリスクを招きます。3点を解説します。

見かけのサイズに反して荷重を伝達できない「未融合」の問題

外観のボリュームに反して荷重を支える力が欠如している点が問題です。いくらビード幅が広くても、結合していない部分は設計上の強度(有効のど厚)に一切算入されません。現場では「脚長が出ているから大丈夫」と判断されがちですが、大きな誤解です。管理者は「未融合部分を有効な接合断面として期待することはできない」という原則を徹底させる必要があります。

段差部への応力集中・繰り返し荷重による疲労破壊の促進

強度不足に加え、製品寿命を縮める「破壊の起点」となるリスクも看過できません。オーバーラップした止端部は母材との間に鋭角な隙間を形成し、平滑なビードなら分散される負荷が一点に集中します。特に振動や繰り返し荷重がかかる機械部品では金属疲労が進行しやすく、静的な引張試験では合格しても疲労強度は大幅に低下しているケースが少なくありません。最悪の場合、亀裂が進展して破断事故を引き起こします。

隙間腐食の発生と塗装欠陥(塗膜剥離)の原因

オーバーラップは、機械的強度の低下に加え、塗装品質や耐食性にも悪影響を及ぼします。JIS規格*5では、金属間の隙間で生じる腐食を「すき間腐食」と定義しています。隙間の内外で濃度差が生じ、腐食電池が形成されることが原因です。毛細管現象で水分や塩分を吸い込み、塗装の下で急速に錆が進行します。また塗装工程でも、鋭い段差には塗料が入り込みにくく、塗膜が形成されない「透け」が起きます。その結果、出荷後に塗膜が剥離し、赤錆が発生してクレームになる可能性もあります。

溶接欠陥「オーバーラップ」を未然に防ぐ対策方法

オーバーラップは、作業者の「腕」だけに依存せず、物理的な条件を整えることで発生リスクを低減できます。5つの視点で解説します。

【条件設定】適正な電流値と「濡れ」を良くする電圧バランス

まず確認すべきは、電流と電圧のバランスが崩れていないかです。電圧が電流に対して低すぎると、溶けた金属が横に広がらず、狭い範囲に高く盛り上がります。ビードの裾野を広げ母材に馴染ませるには、アーク電圧を適度に上げる調整が必要です。電圧を上げるとアークが広がり、溶けた金属を平たく押し広げます。ただし上げすぎると母材を削りすぎるため、決められた条件の範囲内で微調整を行ってください。

【速度管理】溶融金属を先行させない適切な溶接速度

トーチを動かすスピード(溶接速度)の管理も重要です。速度が遅すぎると、溶けた金属がアーク(熱源)よりも前に溢れ出し、冷たい母材の上に乗ってしまいます。若手への指導では「もっと速く」と言うだけでなく、具体的な速度を数字で教えることが必要です。後述する動画マニュアルで字幕をつけ、視覚と文字で速度を伝えるのも効果的です。

関連資料:“伝わらない”“属人化している”カンコツ作業を標準化する最適解

【トーチ操作】アークを母材に叩きつけるトーチ角度と運棒

トーチの操作では、アークを狙った場所に「叩きつける」感覚が大切です。特にL字型の角を溶接するすみ肉溶接では、壁に対して35°〜55°の範囲で角度を保ち、角の奥を狙います。トーチが寝すぎているとアークの力が逃げ、金属が奥まで届かず、溶けた金属が表面に乗るだけの状態(オーバーラップ)になります。指導の際は、手元の角度だけでなく、アークがしっかり母材の角に当たっているかを確認させてください。

【環境要因】アークを集中させるシールドガスの流量・風対策

アークを安定させるためのガスと風の管理も見逃せません。シールドガスが弱かったり扇風機の風で飛ばされたりすると、アークの熱が一点に集中しません。日本溶接協会の資料*6では、風速2m/s以上で対策が必要とされています。工場内では空調の風が溶接場所に直接当たっていないか定期的にチェックしてください。ノズルの内側にスパッタが詰まるとガスの出方が悪くなるため、こまめな掃除をルール化し、常に綺麗なガスが出る状態を保つことも重要です。

【前処理】黒皮・サビの除去と適切な開先形状の確保

最後に、溶接前の準備(前処理)です。鉄の表面にサビや油、黒皮(黒い酸化膜)が残っていると、溶けた金属が弾かれてうまく馴染みません。水を油の上に垂らすと玉になるのと同じ理屈で、弾かれた端が浮いてオーバーラップになるケースが多くあります。溶接する場所はグラインダーで削り、ピカピカの金属面を出してから作業することを徹底させてください。

オーバーラップの事例と改善ポイント

実際の現場で発生したオーバーラップの事例をもとに、危険性と改善ポイントを紹介します。

実際の溶接欠陥事例

オーバーラップは、外観の不備にとどまらず、内部に致命的な空洞を抱える事例が多くあります。韓国の鮮文大学校の研究データによると、オーバーラップ欠陥を持つ溶接部は、正常な溶接部に比べて疲労寿命が約50分の1まで低下しました*7。溶着金属が母材に馴染まず、片側に偏ることで内部に未充填の隙間が生じるためです。一見ビードが繋がっているように見えるため、若手作業者は「合格」と判断しがちですが、実際には強度が著しく不足しています。こうした内部欠陥は、わずかな繰り返し荷重で亀裂を一気に進展させ、構造物の破断事故を引き起こします。実験では、亀裂発生から破断までの時間が極めて短く、予兆を掴むのが困難であることも示唆されています。

原因分析と対策の流れ

欠陥が発見された際、従来はガウジングやグラインダーで除去し、再溶接を行うのが一般的でした。しかし再溶接は多大な工数を要するだけでなく、新たな熱影響で材質を劣化させるリスクを伴います。そこで注目されているのが、超音波ピーニングによる表面改質技術です。研究では、オーバーラップ部に超音波振動を与えることで、疲労寿命が正常な溶接と同等以上に回復することが実証されています。表面を微細に塑性変形させて硬化させると同時に、圧縮残留応力を導入して亀裂の進展を抑え込む仕組みです。すべての欠陥に適用できるわけではありませんが、軽微な箇所の手戻りコストを削減する手法になり得ます。感覚ではなく事実にもとづいて真因を突き止める姿勢が、再発防止の出発点です。

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改善後に品質が安定した事例

品質を恒久的に安定させるには、デジタル技術を活用した定量的な管理が必要です。超音波ピーニングを導入した事例では、処理後の硬度や残留応力の変化をデータ化し、補修基準を明確にしました。その結果、オーバーラップ箇所でも母材(熱影響部)で破断する強度を確保でき、製品の信頼性が向上しています。さらに、溶接時の電流・電圧や施工速度をIoTセンサで常時監視し、条件外れを即座に検知する仕組みも有効です。感覚に頼らず「この数値を超えたらNG」という基準を引くことで、判断のバラつきを排除できます。

オーバーラップが頻発・再発する現場にありがちな3つの課題

オーバーラップが減らない現場には、技術面以外の構造的な課題が潜んでいます。多くの現場が直面する3つの課題を解説します。

溶融池コントロールのコツが数値と文章だけでは伝わらない

マニュアルの数値管理だけでは、オーバーラップを完全には防げません。溶融池は刻一刻と変化し、その流動性を制御する「勘所」は言語化が極めて難しいからです。溶接施工要領書(WPS)の電流値を守っていても、トーチの微妙な運び方一つで溶融金属は垂れ落ちます。ベテランが「プールが膨らんだら進め」と感覚的に伝えても、若手には「膨らむタイミング」が正確に伝わりません。結果として、教科書通りの条件設定なのに欠陥が出るという矛盾に苦しむことになります。

外観検査の限界で後工程の欠陥発覚と手戻りが連鎖する

目視による外観検査だけでは、手戻りコストを増大させかねません。オーバーラップは外観に現れる形状不良ですが、止端部やその近傍に未融合部分を伴う場合があるため、外観検査だけでは影響範囲を十分に把握できないケースがあります。外観が綺麗に繋がっていても内部が未溶着であれば、塗装工程での剥離や耐圧試験での漏れとして後から発覚します。こうなると、製品を解体して再溶接するという甚大なロスが発生します。

関連資料:動画マニュアルを活用した「不良品の後工程流出ゼロ達成」事例

教育の属人化で自己流作業が横行し品質がばらつく

教育の属人化は、現場全体の品質レベルを不安定にさせます。指導者によって教え方が異なると、若手は正解が分からず独自の「自己流」に走るからです。一人の先輩は「電圧を上げて広げろ」と言い、別の先輩は「速度を速めて先行を防げ」と言う—そんな状況が典型です。結果として若手は根拠のない作業でオーバーラップを量産し、なぜ悪いのかも理解できない状態に陥ります。個人の経験則ではなく、組織として統一した「客観的な基準」を提示し、それが守られる状態をつくる必要があります。

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オーバーラップを再発させないための現場定着アプローチ4選

オーバーラップを再発させないための現場定着の方法を4つ解説します。

熟練者の動きを可視化し溶接条件とトーチ操作をセットで標準化する

「作業者によるバラつきをなくす」とは、「誰がやっても同じ品質のビードに仕上げる」、つまり「標準化する」ことと同義です。しかしWPS(溶接施工要領書)に書かれた内容では企業ごとの現場に適さない場合があり、読み手の感覚に依存するため個人の勝手な解釈を許してしまいます。以下は溶接工程そのものの事例ではありませんが、言語化しにくい作業動作を動画で標準化した製造業の参考事例です。

児玉化学工業株式会社では、言葉では伝えにくい「力加減」や「正しい動作」を視覚化し、動画マニュアルを導入して成果を上げました。「プールを先行させるな」と言葉で言うより、映像で正しい動作を見せる方が、言葉の壁がある外国人材や若手でも「何がダメなのか」を直感的に理解できます。

「良品ビードの正解」を共有し後工程での手戻りをゼロにする

「良品」の基準を映像で可視化することは、後工程での不具合を未然に防ぐ有効な手段です。文章だけでは伝わりにくい「力加減」や「作業の目的」も、動画であれば直感的に理解できるからです。児玉化学工業株式会社では、「ヤスリを爪に当てすぎると折れるので優しく削る」という熟練のコツや、「ボルトを入れるのでバリを取る」という次工程への配慮を動画で明確に示しています。「なぜその品質が必要なのか」という理由と「正解の動作」をセットで視覚化して標準化することで、個人の解釈によるバラつきをなくし、組織全体で品質を安定させられます。

▼ヤスリでのバリ取り作業▼

tebikiで作成

即座に手順を確認できる仕組みを整備し自己流作業への逆戻りを防止する

一度正しい方法を教えても、人は楽な方へ流れるため、気づけば自己流に戻ってしまいます。明和工業株式会社の事例では、紙の標準作業書によって生じていた「作業のばらつき」を解消するため動画マニュアルを導入し、現場でいつでも正しい作業手順を視覚的に確認できる環境を整えて、作業の標準化を実現しています。

マニュアルが「確認する手間」を感じさせないものであることが重要です。溶接現場でも、スマホやタブレットでいつでも見られる環境を整えましょう。現場での作業のばらつきを防ぎ、迷った瞬間に手元で正解を確認できれば、自己流への逆戻りを確実に減らせます。

教育内容をデジタル資産化し組織全体の溶接技能を底上げする

技術伝承を「人」から「デジタル資産」へ移行すれば、現場の溶接技能を底上げできます。口頭の指導は消えてしまいますが、動画マニュアルならノウハウが半永久的に残るからです。たとえば「バッテリー液補充」の動画では、冒頭の電源遮断という安全手順や、液面の「スリーブ位置」という判定基準を視覚的に定義しました。

▼電動リフトのバッテリー液補充作業▼

tebikiで作成

言葉では伝えにくい「適量」も、映像で見せれば一目瞭然となり、作業者ごとの認識のズレが生まれません。溶接の電流設定や操作方法も同様に録画し、共有可能な資産として蓄積しましょう。

>>かんたん動画マニュアル「tebiki現場教育」のサービス資料を見てみる

まとめ|目の前の失敗を防ぎ、安定した溶接品質を実現するために

オーバーラップは製品寿命を縮める重大な欠陥です。本記事では、電流や速度といった物理的な発生要因から、再発を防ぐための標準化の手法まで解説しました。根本的な解決方法は、個人の「感覚」に頼る指導から脱却し、正しい技能を組織の「資産」として定着させることにあります。

まずは自社の溶接工程で、良品条件(WPS)が定められ、それが誰にでも守られる状態になっているかを確認してみてください。そのうえで、手順不遵守による品質不良を断ち、熟練者のカン・コツを動画で可視化・標準化する進め方を、以下の資料でご確認いただけます。「手戻りゼロ」の高効率な現場を目指し、対策と教育の仕組みづくりを始めましょう。

>>手順不遵守に起因する品質不良の考え方と対策(実践資料)を見てみる

【補足】溶接欠陥であるオーバーラップを検査で見つける方法

オーバーラップは目視で見逃しやすいですが、ポイントを押さえれば検出できます。外観検査の急所から、非破壊検査が必要な判断基準まで3点を解説します。

外観検査による表面確認の要点

外観検査で注視すべきは、ビードの「止端部(つま先)」の角度です。正常な溶接であれば、ビードは母材に対して滑らかに裾野を広げて繋がります。しかしオーバーラップは止端部が巻き込み、角度が90度を超えて鋭角になります。母材とビードの境界に濃い影ができれば、そこには隙間があり、金属が乗っているだけです。ゲージを用いて角度や余盛の高さを測定し、数値で合否を判定することも有効です。

内部欠陥を疑うべきケースと検査方法

外観でオーバーラップが確認された場合、その直下には「融合不良」が潜んでいる可能性が高いです。特にビード幅が不均一で蛇行している箇所や、極端に盛り上がっている箇所は要注意です。表面の開口欠陥を確認するには浸透探傷試験(PT)が手軽で効果的で、洗浄液と現像液を使うことで目に見えない微細な隙間を赤く浮き上がらせられます。さらに深部の溶け込み不足を疑うなら、超音波探傷試験(UT)による確認を推奨します。破壊事故を防ぐためにも、怪しい箇所は「見えない部分」まで徹底的に調べましょう。

品質管理で定めるべき検査基準

検査基準は「個人の感覚」ではなく、明確な数値に基づいて定める必要があります。JIS規格や社内規定で、許容される余盛の高さや止端部の角度を具体的に明文化してください。例えば「オーバーラップは長さに関わらず不合格」といったゼロ公差の基準を設けるのが一般的です。また、検査結果を写真付きでデジタル記録しフィードバックする仕組みも欠かせません。不良データを蓄積・分析することで、発生傾向を掴み、前工程への改善要求に繋げられます。

引用元/参照元

*1:日本産業規格の簡易閲覧「JIS Z 3001-4:2013 溶接用語-第4部:溶接不完全部」(オーバーラップの定義)

*2:一般社団法人 日本溶接協会(溶接速度とオーバーラップの関係)

*3:一般社団法人 日本溶接協会(止端部のノッチ状欠陥)

*4:日本産業規格「JIS Z 3001-4」(融合不良の定義)

*5:JIS規格(すき間腐食の定義)

*6:一般社団法人 日本溶接協会(風速2m/s以上での遮風対策)

*7:鮮文大学校(韓国)研究データ(オーバーラップ欠陥による疲労寿命の低下)

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