現場改善ラボ 記事一覧 お役立ち情報 製造業における塗装作業の安全対策5選:危険予知(KY)を通じた安全教育のポイントも

工場向け安全対策の動画マニュアル「tebiki現場教育」を展開する、現場改善ラボ編集部です。

製造業の塗装工程には、有機溶剤・高所作業・静電気による引火などのリスクが潜んでいます。作業員に「ルールは伝えた」「マニュアルは配った」にもかかわらず、事故やヒヤリハットが減らないと悩む管理者は少なくありません。

そこで本記事では、工場の勤務経験がある筆者の観点も踏まえ、現場で今日から実践できる安全対策5つと、KY活動・リスクアセスメントの具体的な進め方を解説します。さらに、塗装特有の危険を視覚化する方法も解説するので、ぜひ参考にしてみてください。

製造業の塗装作業に潜む主な危険性と注意点

塗装作業には化学的なリスクと物理的なリスクが存在します。ここでは「何が危ないのか」を正確に理解するために具体的に次の順に2つのリスクを解説します。

  • 有機溶剤による中毒・皮膚障害と火災のリスク
  • 高所作業や搬送機器による墜落・挟まれ事故

有機溶剤による中毒・皮膚障害と火災のリスク

塗装作業の主なリスクが有機溶剤への暴露です。溶剤蒸気は無色透明で、気づかぬうちに体内に吸収されます。トルエンやキシレンなどを吸入すると、頭痛・めまい・肝機能障害を引き起こすため、労働災害に繋がる危険が高いと言えるでしょう。こうした健康上の問題を引き起こす可能性があることから、有機溶剤中毒予防規則*1では、第二種有機溶剤の作業場には密閉設備、局所排気装置、またはプッシュプル型換気装置のいずれかの設置が義務付けられています。

また、溶剤蒸気は空気より重く低所に滞留しやすく、静電気による引火火災の危険もあります。皮膚への直接接触では、皮膚炎や経皮吸収による障害も起こります。「臭いが薄いから安全」という感覚的な判断に頼らず、数値による濃度測定と換気管理の仕組みを整えることが大切です。

それでは、具体的に有機溶剤中毒の事例*9を参考にしてみましょう。3階建て建物の新築工事において、階段室内壁の吹き付け塗装作業中に作業者が有機溶剤中毒で倒れるという事故です。

原因結果
・作業主任者が未選任
・換気量が基準の1/13以下
・吸収缶の破過時間を超過
・作業者の知識が不十分
・監督・指導体制が機能せず
・溶剤蒸気が室内に充満
・マスクの防護機能が失効
・危険の自覚なく作業継続

開口部をビニールで密閉し換気ファンを設置したものの、必要換気量(約1,400m³/分)に対し実際の換気量は約108m³/分と大幅に不足しており、さらに防毒マスク吸収缶の破過時間を超えた使用が重なったことが原因でした。有機溶剤作業主任者の未選任や知識不足も被災を招いた要因であり、換気設備の性能確認と保護具管理の徹底がいかに重要かがわかります。

高所作業や搬送機器による墜落・挟まれ事故

大型部品の塗装では、高所作業台やコンベア周辺での作業が発生します。足場からの踏み外しや自動機への巻き込まれは、化学的リスクとは異なる物理的な危険です。そのため、労働安全衛生規則*2では、高さ2m以上の作業では墜落防護措置が義務付けられています。

新人は足場の点検方法や安全帯の着用ルールを知らないまま作業に入るケースも少なくありません。また、コンベアやロボット稼働中は巻き込まれ・挟まれ事故のリスクがあります。そこで、作業前の安全確認(指差呼称)を習慣化することで、物理的リスクは大幅に低減できます。

それでは具体的に、自動塗装装置を使用する現場で起きた、機械の予期せぬ起動による挟まれ事故の事例*10を確認してみましょう。

原因結果
・元電源を遮断せず作業開始
・不安定なインターロック機構
・作業手順書が未作成
・可動域内での作業を許容
・台車が予期せず起動
・誤操作で通電状態が復活
・安全手順が共有されず
・逃げ場のない挟まれ事故

電子複写機製造工場において、自動塗装装置の清掃作業中に搬送台車が突然動き出し、作業者が挟まれて死亡するという災害が発生しました。元電源を遮断しないまま作業を開始し、インターロック用の鎖が誤って引っ張られたことで通電が復活したことが原因です。作業手順書も未作成であり、安全手順が共有されていなかったことが事故を招きました。機械清掃時の電源遮断の徹底と正しい手順の共有が重要であることがわかる事例です。

塗装作業の安全を確保するための対策5つと注意点

塗装現場での安全を守るには、具体的な対策を標準手順として定着させる必要があります。ここでは現場で実践できる次の5つの対策を解説します。

  • 【対策1】防毒マスク・保護具の適正着用とフィルタの期限管理
  • 【対策2】局所排気装置の確実な稼働と「風の淀み」の解消
  • 【対策3】静電気や火花による引火を防ぐアース接続の徹底
  • 【対策4】一斗缶のフタ閉め・ウエス廃棄など「現場の4S」の定着
  • 【対策5】高所作業・自動機周辺での基本手順遵守

【対策1】防毒マスク・保護具の適正着用とフィルタの期限管理

有機溶剤から身を守るために必要なのが、適切に防毒マスクを使用することです。「臭いが薄いから大丈夫」という感覚での判断は危険で、フィットしていないマスクは蒸気を十分に遮断できません。防毒マスクの吸収缶は使用時間に応じた交換が必要であり、個人任せにせず組織的に管理することが求められます。

厚生労働省の資料*3には、有機溶剤作業では有機ガス用防毒マスクの使用が定められています。入職時にフィットテストを実施し、吸収缶の交換日を記録する台帳を整備することが有効です。特に新人や外国人労働者には、着用方法を視覚的に示した手順書を用意しましょう。正しい着用を「当たり前」にする仕組みが重要です。

【対策2】局所排気装置の確実な稼働と「風の淀み」の解消

「スイッチを入れているから安全」という誤解が、塗装現場での中毒事故を招きます。局所排気装置が稼働していても、作業姿勢や物の配置次第で気流が乱れ、溶剤蒸気が特定箇所に滞留する「風の淀み」が生じます。有機溶剤中毒予防規則第16条*4によると、局所排気装置は定められた制御風速を維持しなければなりません。定期的に風速を測定し、基準を下回る場合は整備が義務となっています。

作業台や部材の配置によって排気口がふさがれないよう、具体的な指示を行うことも必要です。稼働しているように見えても機能しているとは限らない、という意識を教育で浸透させましょう。局所排気の点検日と測定値を記録し、報告できる体制を整えることが大切です。

【対策3】静電気や火花による引火を防ぐアース接続の徹底

冬場の乾燥期やスプレーガン使用時、塗装現場では静電気が発生しやすくなります。有機溶剤の引火点は低く、静電気の放電がわずかな火花となって引火事故につながります。

調合室やスプレーブースでは、スプレーガン・塗料容器・作業台すべてのアース接続状態を確認する習慣が必要です。静電気は目に見えないため、新人は軽視しがちなリスクです。アース接続の確認を作業前チェックリストに組み込み、点検記録を残すことで管理を徹底できます。目に見えない危険を意識できる仕組み作りは大切です。

【対策4】一斗缶のフタ閉め・ウエス廃棄など「現場の4S」の定着

調合室での溶剤容器の開けっ放しや溶剤を含んだウエスの放置は「ちょっとした油断」に見えます。しかし、こうした行為は中毒や自然発火の原因となる危険な行為です。消防法*6によると、引火性液体を含むウエスは専用の蓋付き不燃容器に密閉保管することが求められています。

4S(整理・整頓・清掃・清潔)の乱れが事故につながるメカニズムを、新人教育で具体的に伝えることが大切です。「フタを閉める」「ウエスは即座に指定容器へ」という行動を明文化した手順書を整備し、目につく場所に掲示しましょう。作業終了後の後片付け手順をチェックリスト化することで、確認漏れを防げます。

【対策5】高所作業・自動機周辺での基本手順遵守

高所作業台やコンベア周辺での作業は、正しい手順を守ることで多くの事故を防げます。作業前の安全確認(指差呼称)は、見落としを防ぐ効果的な手法です。労働安全衛生規則*2によると、高所作業前には作業床・手すり・安全帯の点検が求められています。

特に新人は「前の人がやっていたから大丈夫」と思い込み、点検を省略するリスクがあります。ロボット・コンベアの稼働範囲内への立ち入りは、機械停止とロックアウトを確認してから行うことを徹底しましょう。

現場で役立つ塗装作業のKY(危険予知)活動と書き方

形骸化しないKY活動は「具体性」が重要です。ここでは、具体性を持たせるために、塗装現場でそのまま使えるKY例文・具体例をみてみましょう。

塗装現場でそのまま使えるKY例文・具体例まとめ

KY活動を機能させるには「現状→危険の予測→対策」の3段構成で記述することが基本です。例えば、スプレー塗装なら「塗装中に溶剤蒸気が滞留する恐れがある→防毒マスク着用と局所排気の稼働確認を行う」のように具体的に書きます。「安全に注意する」という抽象的な記述では危機感が伝わらず、作業員の意識は変わりません。

調合作業では「静電気による引火」、高所作業では「足場の踏み外し」、自動機周辺では「コンベアへの巻き込まれ」など、場面の危険を一覧化しておくと教育に役立ちます。KY用紙のテンプレートを整備し、新人でも記入できる形式にすることで、活動が形骸化するリスクを下げられます。

塗装工程におけるリスクアセスメントの実施事例

令和5年4月及び令和6年4月から化学物質の自律的管理が施行され、塗装現場でも記録保存が義務化されました。義務への対応にとどまらず、実質的な安全向上につなげることが大切です。

化学物質のリスク評価と自律的管理への対応

化学物質のリスクアセスメントは「危険性・有害性の特定→リスクの見積もり→低減措置→記録」のステップで進めます。労働安全衛生法の改正(令和5年4月及び令和6年4月施行)*7によると、特定の化学物質を使用する事業者はリスクアセスメントの実施と記録保存が義務付けられています。

塗装現場では、使用する溶剤ごとにSDS(安全データシート)を入手し、暴露限界値と実測濃度を比較することが必要です。記録には「いつ・どの物質を・どんな条件で・どんなリスクを・どう対処したか」を簡潔にまとめることが求められます。具体的には、現場担当者が記入しやすいシンプルな様式を整備することが継続のポイントです。

安全教育が形骸化する原因と「自律的な現場」を作るポイント

「言ったはず」「マニュアルは配った」と言っているだけの現場は、教育が形骸化していると言えるでしょう。問題の根本は「ベテランのカンやコツ」に依存する教育体制、つまり「教育の属人化」にあります。

ベテランの「勘・コツ」に頼らない安全手順の標準化

安全教育が形骸化する主な原因は、正しい作業方法が「ベテランの頭の中」だけに存在することです。ベテランが退職すれば、「カン・コツ」の知識は現場からなくなります。残された新人や外国人労働者が浅い知識のまま作業を行うと作業ミスどころか労働災害のリスクが高まるでしょう。

そこで「溶剤容器のフタは素早く閉める」「作業前に必ず風速を確認する」といった安全動作を言語化し、誰もが参照できる標準作業手順書にまとめることが必要です。厚生労働省の資料*12では、作業手順書に記載すべき事項として、作業手順・使用する保護具・発生しやすい事故とその対策などが示されており、手順書を整備する際の参考として活用できます。また、文字のマニュアルではなく画像や動画を利用したマニュアルも有効です。

重要なのは、手順書を「作って終わり」にしないことです。同資料では、手順書に沿った教育の実施、定期的な作業確認、設備変更時の改訂といった運用サイクルを継続することが求められています。安全を個人の意識や経験に委ねるだけでは、退職のたびに現場は混乱します。間違いなく「誰がやっても同じ手順で、同じ安全水準が保たれる組織」を構築し、維持することが必要です。

文字や口頭では伝わらない「塗装特有の危険」を視覚化する

塗装の微細な動きや溶剤蒸気の滞留は、文字や言葉だけでは正確に伝えられません。教育の質を均一化し、コストと事故を減らすには「視覚化」が有効です。ここでは視覚情報を利用する動画マニュアルの有効性と事例を解説します。

直感的な「視覚情報」による危険感受性の向上と動画マニュアルの活用

「危険の瞬間」は言葉で伝えても、作業員には伝わりにくいものです。一方で、文字や写真だけでは伝わらない危険や動作は、動画なら視覚的に伝達可能です。動画マニュアルを活用した安全教育では、外国人労働者や新人に対しても言語の壁を超えて正確な方法を伝えられます。また、動画はベテランの経験を現場の資産として蓄積することも可能です。つまり、退職してもカンやコツの伝承が可能になります。

具体例として、自動車部品を製造する上松電子株式会社*11の事例を紹介します。塗装工程から組立工程への不良流出が課題となっていました。紙の手順書では検査時の視線の動かし方など細かなニュアンスが伝わらず、外国人派遣社員への指導にも苦労していたと言います。

そこで「tebiki現場教育」を利用して動画マニュアルを塗装ライン専用に作成し、繰り返し教育を実施した結果、約500ppmあった不良見逃し率を5週間かけて撲滅することに成功しました。

こうした事例からもわかるように塗装作業の安全対策に動画マニュアルは極めて有効な手段となりえるでしょう。

【まとめ】塗装作業の安全対策は仕組みで対策しよう

塗装作業には有機溶剤による中毒・火災のリスクと、高所・機械による物理的なリスクが存在します。「言ったはず」「配ったはず」で終わる属人的な安全管理では、こうした事故を防げません。

保護具の適正管理、換気装置の性能確認、作業手順書の整備など、個人の意識に頼らず「誰がやっても安全な状態を維持できる仕組み」を組織として構築することが重要です。さらに、動画マニュアルを活用することで、外国人労働者や新人にも塗装特有の危険を正確に伝えられます。

安全は意識の問題だけではなく、仕組みの問題です。今からでも少しずつ対策を積み重ねていきましょう。

引用元/参考元

*1:e-GOV法令検索「有機溶剤中毒予防規則 第5条」

*2:厚生労働省「労働安全衛生規則第518条」

*3:厚生労働省「防毒マスクの選択、使用等について」

*4:e-GOV法令検索「有機溶剤中毒予防規則 第16条」

*5:日本産業規格の簡易便覧「JIST8103:2020 静電気帯電防止靴」

*6:消防法第10条

*7:厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質規制」

*8:一般財団法人日本規格協会「JIS Z 8501」

*9:厚生労働省 職場のあんぜんサイト「吹き付け塗装作業中、有機溶剤中毒となる」

*10:厚生労働省 職場のあんぜんサイト「電子複写機部品を塗装する自動機械の清掃中、装置が動いてはさまれ死亡」

*11:上松電子株式会社「「教えたつもり」をなくし、塗装工程の不良見逃し率を大幅に削減」
*12:厚生労働省「製造事業者向け 安全衛生管理のポイント ~パートタイマーや期間従業員などの安全衛生のために ~」

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