安全衛生とは、作業環境での労働者の健康と安全を確保するための対策や規則のことです。
安全衛生は労働災害のような職場のリスクを未然に防ぐうえで重要ですが、以下のような疑問や悩みを抱えている方も多いでしょう。
- 「安全衛生に関する法律や規制、ガイドラインなどの情報について詳しく知りたい!」
- 「具体的な安全衛生対策やトレーニングプログラムとは?」
- 「そもそも安全衛生の定義を深く知りたい!」
そこでこの記事では、安全衛生の定義や労働基準法・労働安全衛生法などの安全衛生に関する法律や規則、安全衛生に必要な対策や取り組みを紹介します。
そのほか、必要な役職や安全衛生活動の具体例、特別教育なども解説します。さらに、安全衛生に有効なツールについての解説もするので、是非ご参考ください。
本文中でも解説する「安全衛生委員会」は、議論を通して労災や健康障害の防止を考える取り組みですが、議論のテーマや話すネタが見つからないことが課題視されています。そこで、安全衛生委員会におけるネタの考え方や安全意識を現場に定着させるための正しい手順について詳しく解説した動画を以下にご用意しておりますので、併せてご覧ください。
目次
安全衛生とは?押さえておきたい基礎知識を簡単に解説
安全衛生とは、職場で働く従業員の安全と健康を確保するための一連の活動と管理体制を指します。ここでは安全衛生に関して、以下の3つの観点から解説します。
- 安全衛生の考え方と目的
- 安全と衛生の違い
- 安全衛生に関する資格一覧
安全衛生の考え方と目的
安全衛生の目的は、労働災害のようなトラブルを未然に防ぎ、従業員が安全で健康的な環境で働けるようにすることです。安全衛生への取り組みは企業が果たすべき責任であり、必ず行う必要があります。
実際に、労働安全衛生法では事業者が安全衛生に取り組み、労働災害を事前予防することは義務としており、仮に労働災害が発生していない場合でも、安全衛生への取り組みを怠ることは刑事責任に問われます。
参照元:「労働災害の発生と企業の責任について」
さらに労働災害は従業員の生産性低下や売り上げへの直接的な影響だけでなく、企業のイメージやブランド価値にも深刻な損害を与えます。現場での事故は従業員に不安を与え、結果として仕事への集中力やモチベーションの低下を招きます。
このようなリスクを事前に回避し、労働者の安全を守る上で安全衛生は重要な役割を持つ取り組みです。
さらに安全衛生の取り組みは身体的な安全だけでなく、メンタルヘルス(心の健康)のケアも含める必要があります。精神的な負荷は肉体的な負荷と同様に見逃してはならない問題であり、実際に厚生労働省は2020年に「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正し、カスタマーハラスメントやパワーハラスメントなど、精神面への負荷も労働災害に認定されると発表しています。
参照元:「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」
長時間労働や職場の人間関係など労働環境が原因で発生するメンタルヘルスの問題は、身体的な問題だけでなく生産性に悪影響を及ぼすことが知られています。従業員の心理的な健康を守ることは、従業員が最大限のパフォーマンスを発揮するために不可欠です。
労働災害が発生する原因や防止に向けた具体的な対策について、以下の記事でも詳しく解説しています。是非ご参考ください。
関連記事:労働災害を発生させない8つの対策とは?企業の取り組み事例や標語の作り方も紹介
安全と衛生の違い
「安全」と「衛生」は同じ目的に向かっているものの、手段と焦点が異なります。
「安全」は事故や災害を防ぐことを指す一方で、「衛生」は従業員の健康を維持・向上させる活動を指しています。「安全」と「衛生」は密接に関連しており、一方が欠けても全体の安全衛生管理は成立しません。
たとえば、機械の定期的なメンテナンスを行うことで「安全」を確保し、その際に機械から発生する騒音や振動、排気ガスのレベルも測定して「衛生」の側面も考慮することが重要です。例のように、事故防止と従業員の健康維持を同時に目指すことが、効果的な安全衛生管理につながります。
安全衛生に関する資格一覧
資格を取得することで、製造現場での安全衛生管理が格段に向上します。また、従業員が資格を習得することにより一定レベル以上の専門性と責任感を持つことを証明するため、より高度な業務を任せることが可能になります。
ここでは安全衛生に関する資格として、以下の3つを解説します。
- 産業保健師
- 安全衛生管理者
- 危険物取扱者
産業保健師
産業保健師は、労働者の健康を守るための専門家です。産業保健師の資格を持っていると、製造業の現場で労働者の健康を守るためのプログラムを設計したり、リスク評価を行うことが可能です。
産業保険医は労働者の健康診断を実施し、その結果をもとに健康管理のアドバイスや指導を行います。そのほか、職場での健康教育や健康啓発活動、職場のストレスやメンタルヘルスの問題に対する対策、労働災害の発生を予防するための活動を行います。
安全衛生管理者
安全衛生管理者は、製造業において作業環境の安全を確保する役割を果たします。安全衛生管理者を取得すると、危険な機械や設備の安全対策を計画し、実施する能力が認められます。
安全衛生管理者は職場の安全衛生に関する計画や方針を策定し、それを実行・推進するほか、新入社員や現場の労働者に対して安全衛生に関する教育や訓練を行い、初動対応や事後対策を実施します。
危険物取扱者
危険物取扱者は、製造業でよく使用される化学物質やガスなどの取り扱いに関する専門知識を持つ資格です。危険物取扱者を取得することで、危険物の安全な取り扱いや保管ができるようになります。
危険物に関連する事故が発生した際の初動対応や事後対策を行うほか、危険物を運搬する際の安全対策やルールを守るように社員を教育することが役目です。
安全衛生に関する法律と規則
安全衛生に関する法律と規則として、ここでは以下の4つを解説します。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 労働安全衛生規則
- 労働安全衛生法施行令
労働基準法
労働基準法は、労働者の基本的な権利と安全を保障するための法律です。労働基準法によって労働時間や休日、賃金などが規定されており、労働者が過度な負担を強いられることなく働ける環境が整えられます。
労働基準法は正社員、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトなど、日本国内で働くほとんどの労働者に適用されます。労働者と雇用主の間で合意された労働条件であっても、労働基準法で定められた労働条件を下回る条件は無効になるため注意しましょう。
労働基準法に違反した場合、たとえば以下のような罰則が課されます。
- 強制労働を行わせていた(労働基準法第5条の違反)
- 解雇予告手当を支払わず、即時解雇した(労働基準法第20条の違反)
参照元:「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」
労働基準法の順守は労働者の健康と安全を守るだけでなく、企業の社会的責任を果たし、企業イメージを向上させることにもつながります。そのため雇用主は法律を理解し、適切な労働環境の整備に努めることが求められます。
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保するための法律です。事業者が労働者に対して安全衛生教育を行う義務や危険な機械や化学物質の取り扱いに関する規定が定められています。
2023年4月1日には改正が加えられ、現場での労働災害が多い傾向にあった食品製造業における新任の職長に対する安全衛生教育が義務化されていることも特徴です。
法改正による変化については、以下の解説動画で詳しく紹介しているため併せてご覧ください。
製造現場では重機やプレス機械といった大きな事故のリスクを伴う操作が要求されることも多いですが、安全な操作には、労働安全衛生法にもとづいた教育が不可欠です。
以下の表は、労働安全衛生法 第四章「労働者の危険または健康障害を防止するための措置」における条文の概要です。第20条から第36条で構成されており、事業者や労働者に対する措置が定められています。
条文 | 内容 |
第20条 | 事業者は、機械等による危険、爆発性・発火性・引火性物質による危険、電気・熱その他のエネルギーによる危険を防止するための措置を講じる必要がある。 |
第21条 | 掘削、採石、荷役、伐木等の業務や墜落・土砂崩れ等の危険を防止するための措置を講じる必要がある。 |
第22条 | 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害や、放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害を防止するための措置を講じる必要がある。 |
第23条 | 労働者の健康、風紀および生命の保持のために、建設物や作業場における通路、床面、階段等の保全、換気、採光、照明、保温、防湿、休養、避難および清潔に必要な措置を講じる必要がある。 |
第24条 | 労働者の作業行動から生じる労働災害を防止するための措置を講じる必要がある。 |
第25条 | 労働災害発生の急迫した危険がある場合、事業者は直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させる等の措置を講じる必要がある。 |
第26条~第36条 | 労働者の協力義務、事業者の講ずべき措置の具体的内容、技術上の指針の公表、事業者による調査義務、元方事業者の講ずべき措置等に関する詳細な規定が含まれている。 |
引用元:労働安全衛生法 第四章 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置(第二十条-第三十六条)
上記の表の中から、製造業の例をもとに要点をピックアップして解説します。
機械等による危険の防止(第20条)
事業者には、機械等による危険を防止するため、適切な保護装置の設置や安全な作業手順の明確化が求められます。また、定期的な機械のメンテナンスと安全検査を行い、機械の故障による事故を未然に防ぐことが重要です。
化学物質による健康障害の防止(第22条)
製造業において化学物質を取り扱う場合、適切な換気設備の設置や個人防護具が不可欠です。事業者は化学物質の安全データシート(SDS)を従業員に用意し、取り扱い方法や緊急時の対応についての教育を徹底する必要があります。
作業環境の整備(第23条)
作業場の通路、床面、階段の保全、適切な換気、採光、照明、保温、防湿、休養施設の設置など、労働者の健康と安全を守るための作業環境の整備が求められます。快適で安全な作業環境は労働災害のリスクを減少させるだけでなく、従業員のモチベーション向上にも影響します。
労働災害発生時の対応(第25条)
労働災害発生の急迫した危険がある場合、事業者は直ちに作業を中止し、労働者を安全な場所へ退避させる等の措置を講じる必要があります。事故発生時の迅速な対応計画を事前に策定し、従業員に周知しておくことが重要です。
労働安全衛生規則
労働安全衛生規則は、労働安全衛生法を具体的に実施するための規則です。労働安全衛生規則によって具体的な作業手順や装置の設置基準、教育内容などが詳細に定められています。
製造業の例としては、化学工場での有毒ガスの取り扱いがあります。労働安全衛生規則に基づいて、ガス漏れが起きた場合の避難手順や、防護マスクの着用方法などが定められています。
労働安全衛生法施行令
労働安全衛生法施行令は「政令」に分類され、法律の実施に必要な具体的な手続きや基準を定めるものです。法律が「何をすべきか」の大枠を示すのに対し、施行令は「どのように実施するか」の詳細を規定します。
労働安全衛生法施行令の存在は、労働安全衛生法の効果的な適用を可能にするために不可欠です。例として、健康診断の実施に関する条項では法律自体が事業者に対して労働者への健康診断の実施を義務付けていますが、具体的な実施方法や項目は施行令や規則で詳細に定められています。
安全衛生に必要な5つの対策や取り組み
安全衛生管理は、労働者の健康と安全を守るために不可欠です。ここでは安全衛生に必要な以下の5つの対策や取り組みについて解説します。
労働災害の防止に取り組む
労働災害を防止するためには、労働災害のリスクを調査しあらかじめ対処することで事故の発生を防ぐリスクアセスメントの実施が欠かせません。事業者は職場の危険因子を特定し、リスクを評価した上で、適切な予防措置を講じる必要があります。また、安全装置の設置や保護具の提供、安全に関する教育・訓練の実施など、具体的な防止策を講じることが重要です。
リスクアセスメントについて詳しく知るために、具体的な進め方や企業事例を解説した別記事「リスクアセスメントの目的とは?実施に向けた進め方のポイントや企業事例も解説」や、元労働基準監督署署長が解説する「リスクアセスメント術」についての下記動画も是非ご参考ください。
安全衛生に関する活動を行う
安全衛生委員会の設置や安全パトロールなど、職場全体で安全衛生に関する活動を行うことがおすすめです。従業員が自主的に安全衛生に対する意識を高めることで、安全な職場環境の構築が期待できます。また、定期的な安全衛生会議を開催し、職場の安全衛生状況を共有することも有効です。
安全衛生委員会については、後述する「安全衛生管理体制を整備するには?必要な役職から解説」で詳しく解説します。
従業員のメンタルケア
近年、メンタルヘルスの問題は職場における大きな課題の1つとなっています。メンタルケアとして、労働安全衛生法で50名以上の労働者を抱える事業所で義務化されているストレスチェックの実施はもちろん、カウンセリングサービスの提供、ワークライフバランスの推進といった取り組みが挙げられます。
従業員が心身ともに健康であることは、職場全体の生産性向上にもつながります。
従業員の健康対策
健康対策は、長時間の労働や物理的な負担が大きい製造業では不可欠です。従業員が健康でなければ、生産性が低下し、事故のリスクも高まります。
たとえば、重い物を頻繁に持ち運ぶ作業では、適切な持ち方や休憩時間の確保が必要になります。体をひねったままで重い荷物を持つことで、腰痛の慢性化やぎっくり腰になる可能性があります。
従業員の健康対策として、過度な負担がかからないような環境の整備や、定期的な健康診断の実施が効果的です。
安全衛生にまつわる標語/スローガンを掲げるケースも
標語やスローガンは、従業員が日々の業務で安全衛生を意識するための有効な手段です。短いフレーズで簡潔にメッセージを伝えられ、従業員の頭に残りやすいことから、多くの現場で採用されています。
たとえば、「安全第一」などのスローガンは、ほとんどの製造業で掲げられています。スローガンは、従業員一人ひとりが安全に対する意識を高める効果があるので、有効に活用しましょう。
安全衛生管理体制を整備するには?必要な役職から解説
以下の表で解説する労働安全衛生法の「労働者の就業に当たっての措置」を参考に、労働衛生管理体制を整備しましょう。
条文 | 内容 | 製造業での適用例 |
第59条 | 安全衛生教育: 事業者は、労働者を雇入れた際や作業内容を変更した際、また危険または有害な業務に従事させる際に、安全または衛生のための教育を行わなければならない。 | 新入社員や作業内容が変わった従業員に対して、機械の操作方法や化学物質の取り扱い方など、安全衛生に関する教育を実施する。 |
第60条 | 職長等への教育: 特定の業種に該当する事業場では、職長や作業を直接指導・監督する者に対して、安全または衛生のための教育を行わなければならない。 | 職長や監督者に対して、作業方法の決定、労働者の配置、労働災害防止に必要な事項についての教育を実施する。 |
第60条の2 | 安全衛生の水準向上のための教育: 事業者は、安全衛生の水準向上を図るため、危険または有害な業務に就いている者に対して、その業務に関する安全または衛生のための教育を行うよう努める。 | 危険または有害な業務に就いている従業員に対して、定期的に安全衛生教育を実施し、知識の更新を図る。 |
第61条 | 就業制限: 特定の業務については、都道府県労働局長の免許を受けた者、登録を受けた者、または厚生労働省令で定める資格を有する者でなければ、その業務に就かせてはならない。 | クレーンの運転など、特定の資格を要する業務には、適切な資格を有する従業員のみを配置する。 |
第62条 | 中高年齢者等への配慮: 事業者は、中高年齢者や労働災害防止上特に配慮を必要とする者について、適正な配置を行うよう努める。 | 中高年齢の従業員や特別な配慮を必要とする従業員に対して、その心身の条件に応じた適切な業務を割り当てる。 |
第63条 | 国の援助: 国は、安全または衛生のための教育の効果的実施を図るため、指導員の養成や教育資料の提供など、必要な施策の充実に努める。 | 国からの支援を活用して、安全衛生教育の質を向上させるための指導員の養成や教育資料の導入を行う。 |
引用元:労働安全衛生法 第四章 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置(第二十条-第三十六条)
条文と適用例を参考にしながら、以下の役職について解説します。
▼安全衛生管理体制の模式図と役職▼
統括安全衛生管理者
労働安全衛生法では直接的な記載はないものの、安全衛生管理体制の構築に関わる全般的な指針にもとづく役職です。
統括安全衛生管理者は、企業全体の安全衛生管理を統括する役割を担います。統括安全衛生管理者は安全衛生方針を策定し、実施する責任を担います。
製造業における例として、統括安全衛生管理者が機械の安全ガードの設置や化学物質の取り扱いに関するガイドラインを作成することがあります。
関連記事:統括安全衛生責任者とは?職務や義務をわかりやすく解説!
安全衛生推進者
労働安全衛生法における明確な記載はないものの、安全衛生推進体制の構築に関連する重要な役職です。安全衛生推進者は職場での安全衛生活動を推進する役割を担い、安全衛生に関する教育や啓発活動も行います。
製造業の例として定期的な安全研修や、新しい機械の導入時に安全説明会を開くことが考えられます。
安全管理者
第59条(安全衛生教育)にもとづく役職です。
安全管理者は主に安全に関する事項を担当し、労働者への安全教育や安全パトロール、危険予知活動や安全会議の開催など職場の安全管理に関する具体的な活動を行います。安全に関する専門的知識と技能を持ち、職場の安全を守るための活動を指導・実施します。
たとえば製造業では、作業員が安全に機械を操作できるように操作マニュアルを作成、安全装置のチェックなどを行うのが安全管理者です。
衛生管理者
第59条(安全衛生教育)にもとづく役職です。
衛生管理者は衛生に関する事項を担当し、労働者の健康管理や作業環境の衛生管理、衛生教育や健康診断の実施など、職場の衛生管理に関する具体的な活動を行います。職場の衛生状態を改善し、労働者の健康を守るための専門的な知識と技術を持つ役職です。
製造業でよく見られる例は、作業場の換気や、防塵マスクの提供や呼びかけなどです。
作業主任者
第60条(職長等への教育)にもとづく役職です。
作業主任者は特定の作業やプロジェクトの安全管理を担当し、作業現場での安全指導や作業員の作業管理を行います。安全な作業方法の決定や労働者の配置、作業現場での安全対策の実施など現場レベルでの安全管理を担う重要な役割を果たします。
たとえば製造業では、作業手順の確認や、作業員への安全指示が作業主任者の主な仕事です。作業主任者がしっかりと指示を出すことで、機械の誤操作や危険な行動を未然に防ぐことが可能です。
産業医
産業医は、労働者の健康を守るとともに、職場環境の改善に関与します。健康診断や労働環境の評価を行い、結果にもとづいて改善策を提案することも産業医の仕事です。
産業医は労働者の健康を確保するために必要と認められる場合、事業者に対して勧告を行うことが可能です。勧告には労働環境の改善や健康管理プログラムの導入などが含まれ、事業者は産業医からの勧告を尊重し、適切な対応を取ることが求められます。
また産業医は、職場環境の改善にも助言をすることが可能です。製造業における例として、長時間の立ち仕事や重い物の持ち運びが多い職場で、産業医は適切な作業環境や休憩時間の確保を提案することがあります。産業医の指導・助言権により労働者の健康障害を未然に防ぎ、生産性の向上も期待できます。
さらに産業医は、少なくとも毎月1回作業場を巡視し、作業方法や衛生状態に有害のおそれがある場合には労働者の健康障害を防止するための措置を講じる必要があります。
安全衛生委員会
安全衛生委員会について、ここでは2つの視点から解説します。
- 安全衛生委員会とは
- 安全衛生委員会のネタはマンネリ化しやすい
安全衛生委員会とは
安全衛生委員会は、労働安全衛生法にもとづき設置される組織であり、特定の条件を満たす事業場では設置が義務付けられています。労働者の安全と健康を確保するための重要な役割を果たし、労働者の危険・健康被害を防止するための対策などの重要事項について、労働者の意見を反映した調査審議を行うのも安全衛生委員会です。
安全衛生委員会の中でも安全委員会と衛生委員会が存在します。安全委員会は労働安全衛生法第17条に規定されている組織で、衛生委員会は労働安全衛生法 第18条に規定されている組織です。
参照元:労働安全衛生法
安全委員会は主に労働者の安全に関する事項を扱い、主に以下のような活動を行います。
- 労働災害の原因調査や
- 再発防止策の検討
- 安全に関する規程の作成
- 安全教育の計画
安全委員会の設置は特定の業種や事業規模を有する事業場で義務付けられており、労働者の危険を防止するための基本対策や重要事項について、労働者の意見を反映させながら調査・審議を行うことが目的です。
衛生委員会は労働者の健康に関する事項を扱います。具体的には、以下のような活動を行います。
- 労働者の健康障害の防止
- 健康保持増進のための基本対策
- 衛生に関する規程の作成
- 衛生教育の計画
- 化学物質の有害性調査
- 作業環境測定の結果にもとづく対策
衛生委員会の設置は、常時使用する労働者数が50人以上のすべての事業場で義務付けられており、労働者の健康障害の防止および健康の保持増進に関する重要事項について、労働者の意見を反映させながら調査・審議を行います。
安全衛生委員会のメンバー構成や進め方をどのようにすればよいか知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しているので併せてご覧ください。
関連記事:安全衛生委員会とは?設置目的や基準、構成メンバー、議論テーマ例を解説!
安全衛生委員会のネタはマンネリ化しやすい
安全衛生委員会では議論するネタがマンネリ化しやすいという問題があります。マンネリ化しやすい背景として、同じようなテーマや議題が繰り返され、新しい視点やアイデアが少ない傾向があります。特に製造業では安全に関する基本的なテーマは変わらないため、新しい視点を持ち込むことが重要です。
安全衛生委員会のネタを選ぶ際には、業界のトレンドや新技術を積極的に取り入れるべきです。議論が活性化し、より効果的な安全対策が生まれやすくなります。
たとえば、製造業でよくある安全対策のひとつに機械の安全ガードや保護装置の設置がありますが、単純に設備を設置するといったテーマについて議論するだけではマンネリ化してしまいます。しかし、新しい視点としてIoT技術を用いて機械の動きをリアルタイムでモニタリングし、異常を早期に察知するといった内容を取り入れることでマンネリ化を防ぐことが可能です。
また、他業界の事例を参考にすることで多角的な視点が生まれ、議論が深まる可能性があるので、積極的に他業界の事例を参考にするのもいいでしょう。
より詳細な安全衛生委員会のネタ例や探しのポイントについてはこちらの別記事か、元労署署長の村木 宏吉氏が解説する無料の動画もご用意しておりますので、併せてご覧ください。
安全衛生に関する活動の具体例
安全衛生活動は、従業員の健康と安全を守る上で欠かせない活動です。
ここでは、紙・パルプ・紙加工製品製造業、情報通信機械器具製造業、プラスチック製品製造業の各社がどのような安全衛生活動を行っているか、具体的な事例を紹介します。
紙・パルプ・紙加工製品製造業F社取り組み事例
紙・パルプ・紙加工製品製造業F社では、従業員の安全衛生意識の向上に注力しています。具体的には、従業員全員が年間の安全衛生に関する個人目標を設定し、ロッカーに貼り出して毎日意識するようにしています。
目標は「風邪をひかない」や「自分の身の回りのものを片づけてから次の行動をする」など、簡単なものですが、小さなことの積み重ねが会社全体の安全衛生の取り組みを進めていくと考えているとのこと。また、安全衛生を含む個人面談を実施し、目標の振り返りと評価を行っています。
情報通信機械器具製造業E社取り組み事例
情報通信機械器具製造業E社では「見える化(VM)活動」を通じて職場の効率化と安全性向上を目指しています。「見える化(VM)活動」は職場の無駄を洗い出し、事業構造改革にもつながる戦略的な活動です。活動の第一歩として、保管書類や備品の整理整頓から始め、未使用や不要な物を徹底的に洗い出しました。
チーム単位での見える化実施により、装置の場所や工具の置き場所を明確にしながら安全上の問題を減らしつつ、業務効率を向上させています。装置の配置見直しによる部品の効率的な移動は、業務効率の大幅な向上も実現しました。また、見える化活動はチーム内のディスカッションを活性化させ、従業員の意識向上と教育・育成にもつながっています。
プラスチック製品製造業O社取り組み事例
プラスチック製品製造業O社では「雑談会議」というユニークな取り組みを実施しています。
毎月の部門会議の後に設けられる雑談会議では、仕事以外の話題も含め、従業員が自由に意見を交換します。雑談会議により安全に関わる点についても時間をかけて検討が行われ、原因の把握と改善策を練ることが可能になりました。
また、雑談を通じて従業員同士のコミュニケーションが促進され、職場内の雰囲気改善も実現しています。
従業員の意識を高めるには「安全衛生教育」
安全衛生活動を行うには、従業員の意識を高める安全衛生教育の実施から始めるとよいでしょう。
ここでは安全衛生教育の取り組みとして代表的なものを以下3つ解説します。
- KY活動
- KYトレーニング(危険予知訓練)
- 特別教育
KY活動
KY活動(危険予知活動)は従業員が危険を事前に予測し、予防措置を講じる活動です。KY活動によって労働災害やトラブルを未然に防げるため、製造業においてKY活動は重要です。KY活動に参加することで従業員自身の安全意識が高まり、より安全な職場環境が整備されるでしょう。
製造業におけるKY活動では、従業員が現場で潜在的な危険やリスクを洗い出し、具体的な対策を話し合うことが挙げられます。具体的には作業中に使用する機械の安全装置のチェックや、作業場所の床の状態、化学物質の取り扱い方法などが議論されます。
KY活動は単に「危険を避ける」だけでなく、従業員が自らの安全を意識しチームで危険を共有することで、対策を共同で考え予防する重要なプロセスです。結果として従業員は自分自身だけでなく、チーム全体の安全に責任を感じるようになり、安全衛生への意識が養われます。
KY活動の具体的な進め方や活動内容の例については、別記事「KY活動(危険予知活動)はなぜ必要?進め方や活動内容の例、記録方法は?」や元労働基準監督署署長による解説する動画もご覧いただけます。KY活動についてさらに深く知りたい方は是非ご参考ください。
KYT(危険予知訓練)
KYTは従業員が危険を事前に予知する能力を高める訓練を指します。KYTはKYトレーニングとも称され、労働災害を未然に防ぐための有効な手段とされています。
製造業におけるKYTの例として、機械操作を考えてみましょう。機械操作では手を機械に挟まれる、物が落下する、化学薬品の取り扱いによる危険など、多くのリスクが伴います。このようなリスクを洗い出すためにKYTを実施すれば、従業員は危険を事前に予知し、適切な対策をとることが可能になります。
KYTを通じて、従業員ひとりひとりの安全意識が高まり、結果として労働災害のリスクが低減することが期待できます。
KYTを実践するポイントや例題については、別記事「KYT(危険予知訓練)とは?取り組む4つの目的や方法、業界別の例題を解説!」や、労働安全コンサルタントによる詳しい解説動画をご用意しております。
KYTについてさらに深く知りたい方は是非ご参考ください。
特別教育
特別教育は、労働安全衛生法にもとづき、特定の危険有害業務に就業する前に実施される教育です。特別教育を受けずに危険有害業務に従事させると、事業者が罰せられる可能性があるほか、社会的信用を失う重大なリスクがあります。製造業では、機械の操作や化学物質の取り扱いなど危険が伴う作業が非常に多いため、特別教育の重要性は高まっています。
たとえば、製造業でよく使用されるグラインダーや電動ハンマーなどの振動工具を操作する際は、誤って使用すると「レイノー現象」や「白指」といった血流障害を引き起こす可能性があるため、特別教育が必須です。特別教育では、工具の選定方法や作業時間の制限、点検・整備・保護具の使用方法などを指導します。
現場改善ラボでは、特別教育の必要性や実際の教育内容について具体的に紹介した記事を以下にご用意しています。特別教育について、さらに知りたい方は是非ご覧ください。
安全衛生教育には動画マニュアルがおすすめ
安全衛生教育を効果的に進める手法として、動画マニュアルの活用が注目されています。動画マニュアルは複雑な手順や安全対策を視覚的に伝えられるため、従業員の理解を深めるのに非常に有効です。
ここでは、動画マニュアルが安全衛生教育において注目される3つの理由について解説します。
- 複雑な手順を伝えやすい
- 教育が属人化しにくい
- 平常時でも学習できる
複雑な手順を伝えやすい
動画は実際の動きや手順を見たままに伝えられるため、文章や静止画だけでは理解しにくい内容の理解が格段に深まります。動画マニュアルによって従業員は具体的な作業の流れを視覚的に捉えられ、安全な作業方法を正確に学ぶことが可能になります。
教育が属人化しにくい
従来のOJTによる教育では、教える人によって教育の質が左右される傾向がありました。しかし、動画マニュアルは動画という同一の教材を使って教えるため、教育内容を標準化し、一貫した情報をすべての従業員に伝達できます。結果として教育の属人化を防ぎ、全員が同じレベルの知識と技術を習得することが可能になります。
平常時でも学習できる
現場ではヒヤリハットやミスが発生した際にその場で教えることが多いですが、動画マニュアルを用いることで、従業員は平常時でも自分のペースで学習を進められます。事故が発生する前に予防策を学べるため、安全衛生教育の効果をより高めることが可能です。また、従業員は必要に応じて何度でも動画を見返せるため、理解を深めやすくなります。
「動画マニュアルをこれから導入したい!」という方に向け、現場改善ラボでは動画マニュアルの導入・活用・作成ガイドである「はじめてのマニュアル作成ガイド」を以下にご用意いたしました。
動画マニュアルを導入するポイントや導入効果も記載しておりますので、是非ご参考ください。
安全衛生教育におすすめな動画マニュアル「tebiki」とは?
安全衛生教育を現場に負担なく効率的に進めるには、動画マニュアルの「tebiki」がおすすめです。
tebikiは、現場教育の「伝わらない」を解決するために開発されたクラウドベースの動画マニュアルツールです。
安全衛生教育にtebikiが適している理由
tebikiの最大の特徴は、誰でも簡単に動画マニュアルを作成できる点にあります。スマートフォンで撮影し、音声認識システムが自動で字幕を生成するため、正確でわかりやすい教育資料を簡単に作成できます。
また、100カ国以上の言語に対応した自動翻訳機能により、多国籍の従業員がいる職場でも言語の壁を越えて安全衛生教育を行うことが可能です。さらに、教育効果や習熟度の可視化機能により、従業員の学習進捗を明確に把握でき、教育の質をいっそう向上させることが可能です。
動画マニュアルtebikiの機能詳細や導入サポート体制、導入効果について詳細な資料を以下にご用意しております。安全衛生に関する教育や、現場教育にお悩みを抱えている方にご覧いただきたい内容を記載しているため、是非ご参考ください。
安全衛生教育にtebikiを活用している事例
安全衛生教育にtebikiを活用している事例として、以下の2社をご紹介します。
- 理研ビタミン株式会社
- 株式会社フジトランス コーポレーション
理研ビタミン株式会社
理研ビタミン株式会社は、調味料や加工食品などに含まれる乳化剤を製造する企業です。
同社では24時間稼働する工場を有しており、部門間では日勤/夜勤の交代勤務やフレックス勤務、時短勤務、在宅勤務など多様な働き方があり、安全衛生教育のように全従業員を対象とした研修の実施が困難なことを課題視していました。他にも、紙によるマニュアルでは正しい業務手順が伝わらずに業務品質のムラが発生することや、正しい手順や技術が伝承されないという課題が顕在化していました。
そこでtebikiを導入し、動画マニュアルにより自主的かつ自律的にいつでも学習ができる体制を整えました。他にも、業務手順を視覚的に伝えることで業務のばらつきを大幅に減少することに成功しています。
理研ビタミン株式会社によるtebiki導入の効果や動画マニュアル定着のコツについては以下のインタビュー記事でも詳しく紹介しています。是非ご覧ください。
インタビュー記事:品質保証部門と製造部門がONEチームで取り組んだ業務標準化と技術伝承
株式会社フジトランス コーポレーション
株式会社フジトランス コーポレーションは、港湾運送事業や内航海運業、貨物利用運送事業、倉庫業、梱包事業、海上運送業などさまざまな物流サービスを提供している総合物流企業です。
同社の安全衛生推進部では安全教育を重要視しており、講師が座学や技術指導を行っていたものの、講師によって教える内容のニュアンスに差があることで教育内容が標準化されず、安全への認識に差が生じるという課題がありました。他にも、「動き」を口頭で伝えることが難しく、手順や作業品質のバラつきといった問題が発生していました。
そこで、課題解決のためにtebikiを導入し、動画による教育資料やマニュアルを作成したところ、講師側が直接教えなくとも正しい内容を繰り返し視聴することができ、伝える内容がバラつくことを解消できています。他にも、自動翻訳機能によりマニュアルを瞬時に翻訳できるため、外国人労働者にも正しく伝わるマニュアルを負担なく作成することができたというメリットがありました。
株式会社フジトランス コーポレーションによるtebiki活用の様子やマニュアル整備の進め方については以下のインタビュー記事でも詳しく紹介しています。是非ご覧ください。
インタビュー記事:働き方改革の手段としてtebikiを活用。複数の部門で工数の効率化を実現!
安全衛生を理解して現場改善を!【まとめ】
安全衛生が確保されている職場は安全で生産性が高く、従業員のモチベーションも向上するため、安全衛生は製造業において重要なテーマです。
この記事では、安全衛生に関する基礎知識から法的な側面、体制の構築、具体的な対策を解説しました。
安全衛生を現場に定着させるには安全と衛生の違いを理解し、適切な対策を講じることが重要です。また、安全衛生の取り組みを効果的に進めるためには、統括安全衛生管理者や安全衛生委員会などの体制を整えることも求められます。職場の体制を通じて安全衛生に関する情報の共有や、従業員の意識向上につながる活動を行えます。
労働基準法や労働安全衛生法など、安全衛生に関する法律と規則を順守することも重要です。法的な側面を理解し、企業は法令を順守することで、リスクを最小限に抑えられます。また、安全衛生教育の具体的な内容としてKY活動やKYT、特別教育など、多様な教育プログラムについても解説しました。
安全衛生に関する教育を効果的に実施するツールには動画マニュアルがおすすめです。本記事では、視覚的にわかりやすいマニュアルをすぐに作成でき、安全衛生教育の標準化が図れる動画マニュアルとして「tebiki」をご紹介しました。動画マニュアルtebikiの資料は以下の画像から無料でダウンロード可能ですので、ぜひダウンロードしてみてください。