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ISO9001では、規格要求事項としてマネジメントレビューの実施が求められています。マネジメントレビューは、QMS(品質マネジメントシステム)全体を見直し、継続的な改善を図るための重要なプロセスです。
本記事では、ISO9001審査員補の山本 諭氏監修のもと、マネジメントレビューの内容や進め方、頻度の目安など詳しく解説します。
▼監修者:株式会社エイシン・エスティー・ラボ 代表取締役 山本 諭

2004年化粧品容器の製造企業に入社。生産管理、品質管理の経験を経て、製造部門長に就く。100人の従業員をマネジメントする傍ら、独自の自動化で生産性を10倍に向上。生産管理システムの導入やISO9001の認証取得などにも積極的に取り組む。2020年(株)エイシン・エスティー・ラボを設立。ISOの認証取得支援や、財務改善、業務改善に加え、1on1による従業員のモチベーション向上支援に従事。
目次
ISO9001におけるマネジメントレビューとは?目的やメリット
マネジメントレビューとは、経営陣(トップマネジメント)が定期的に集まり、各部門からの報告や実績データをもとに、自社のQMS(品質マネジメントシステム)が適切に機能しているかを確認し、必要な改善の方向性や変更点を決定するプロセスです。
マネジメントレビューの目的は、社内の仕組みやルールが、現在の業務環境や市場の変化、顧客要求に対して適切かどうか、また、その仕組みやルールを守ることで顧客満足の向上に繋がっているかを検証し、さらなる改善の方向性を決定することです。
したがって、マネジメントレビューを適切に実施することで、企業には以下のようなさまざまなメリットがもたらされます。
現状の把握と課題の発見 | 経営陣は顧客からのフィードバック、内部監査の結果、業務の実績データなどをもとに、現在の管理体制がうまく機能しているかどうかを評価します。 これにより、どこに改善の余地があるのか、どの部分がうまく運用されているのかを明確に把握することができます。 |
継続的な改善の推進 | 定期的なレビューを通じて、発見された問題点や改善点に対して具体的な対策を計画・実施します。 こうしたプロセスにより、変化する市場や顧客のニーズに柔軟に対応できる体制が整えられます。 |
経営判断のサポート | マネジメントレビューは、経営陣が戦略的な意思決定を行うための重要な情報源となります。 日々の業務のパフォーマンスや改善の進捗状況を把握することで、将来的に必要なリソースを決定することができます。 |
ISO9001で求められているマネジメントレビューの要求事項
マネジメントレビューは、単に経営陣が集まって議論する場ではなく、ISO9001で定められた具体的な要求事項に沿って、自社のQMSの評価と改善活動を確実に実施することが求められます。
ここでは、マネジメントレビューで確認すべき内容について、各要求事項に沿って詳しく解説します。『ISO9001の基礎知識をおさらいしたい』『ISO9001の要求事項も確認したい』という方は、以下の関連記事も併せてご覧ください。
▼関連記事
・【意味がない?】ISO9001とは?メリットや費用、やめた企業の理由
・【ISO9001】要求事項をわかりやすく解説!現場では何が必要?運用のコツとは
インプットの要求事項一覧と概要
ISO9001の規格要求事項では、マネジメントレビューのインプットとして以下の項目を経営陣へ報告することが求められています。
- 前回までのマネジメントレビューの結果と取った処置の状況
- 品質マネジメントシステムに関連する外部及び内部の課題の変化
- 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に関する情報
- 資源の妥当性
- リスク及び機会への取組みの有効性(6.1 参照)
- 改善の機会
それぞれの要求事項は何を意図しているのか見ていきましょう。
前回までのマネジメントレビューの結果と取った処置の状況
前回のマネジメントレビューで経営陣が指示した改善策や変更点(アウトプット)に対し、実際にどのような対応が取られ、その効果がどの程度現れたのかを確認します。
品質マネジメントシステムに関連する外部及び内部の課題の変化
顧客要求、市場動向、法令改正などの外部環境の変化や、社内の組織構造や業務内容の変更など、QMSに影響を与えるあらゆる変化を確認します。
品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に関する情報
1) 顧客満足及び密接に関連する利害関係者からのフィードバック
顧客アンケート結果や取引先からの要望、苦情などを集計し、自社のサービスや製品の品質を評価します。
2) 品質目標が満たされている程度
設定した品質目標が、どの程度達成されているかを具体的な数値や事例で確認します。
3) プロセスのパフォーマンス,並びに製品及びサービスの適合
製造工程や業務プロセスが計画通りに運用され、製品やサービスが基準に適合しているかを検証します。
4) 不適合及び是正処置
発生した問題や不適合事案の原因を分析し、実施した是正処置がどのような成果を上げたかを評価します。
5) 監視及び測定の結果
定期的な検査、テスト、データ分析の結果から、各工程の状況を把握します。
6) 監査結果
内部監査や外部監査の結果を確認し、不適合や指摘事項がどれだけ解消されているかを評価します。
7) 外部提供者のパフォーマンス
協力会社が提供する原材料、部品、サービスの品質や納期、受入検査の結果などを評価します。
資源の妥当性
人材、設備、技術、システムなどが、現状の業務に対して十分かどうかを検証します。
リスク及び機会への取組みの有効性(6.1 参照)
ISO9001の規格要求事項6.1では、企業はリスクと機会を特定し、それに対する適切な対応策を決定することが求められています。この項目では、それらの取り組みが実際に効果を発揮しているかを評価します。
改善の機会
日常の業務や内部監査、顧客からのフィードバックなどから、業務改善の余地や新たな取組みの必要性を検討するための材料とします。
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アウトプットの要求事項一覧と概要
経営陣は各部門からのインプットをもとに、以下の事項に関する具体的なアウトプットを決定する必要があります。
- 改善の機会
- 品質マネジメントシステムのあらゆる変更の必要性
- 資源の必要性
これにより、PDCAサイクルが確実に回り、QMSが継続的に改善されます。
改善の機会
インプット情報にもとづき、どの部分で業務改善の余地があるかを具体的に洗い出し、改善の方向性を示します。
品質マネジメントシステムのあらゆる変更の必要性
業務の変化や外部環境の変化に対応するため、QMSの仕組みや手順の変更が必要かどうかを判断します。
資源の必要性
改善策を実施するために、追加で必要な人員、設備、技術、システムなどを見直します。
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マネジメントレビューを活用する流れ【議事録の記載例】
マネジメントレビューは、経営陣が集まる「経営会議」や「幹部会議」などで実施されるのが一般的です。
ここでは、マネジメントレビューの流れと、その際の議事録や報告書の記載例について、ISO9001のケースを例に具体的に解説します。
【ISO9001の例】マネジメントレビューの流れ
ISO9001の場合、以下の流れに沿ってマネジメントレビューを実施します。
1.マネジメントレビューの計画立案
いつ、どのくらいの頻度で、誰が参加するかを事前に決定します。ISO9001の要求事項では、”あらかじめ定めた間隔で”実施することが求められていますので、具体的な頻度は組織が自主的に決定できます。
一般的には年に1回の実施が多いです。その理由として、年度末に1年間の振り返りとしてマネジメントレビューを活用するケースが多いことが挙げられます。
年度末には、品質目標の達成状況や、QMSの全体的な有効性、リスクや機会への対応結果を総括し、次年度の改善策を検討する場として活用しやすいため、多くの企業でこのタイミングが採用されています。
関連記事:【ISO9001】品質目標の設定と達成計画の方法は?目標例も解説
2.必要な情報の収集
前述のインプット項目にもとづき、各部門から実績データ、報告書、顧客アンケートの結果、内部監査報告書、さらにはサプライヤーの評価データなど、あらゆる情報を収集します。
3.経営会議などでのレビューを実施
ISO9001の要求事項は、必ずしもマネジメントレビューのために会議を開催することを求めていません。
経営陣や管理者が集まる「経営会議」や「幹部会議」などの場を活用してレビューを行うことが可能です。集めた情報をもとに、各部門からの報告を共有し、現状の問題点や改善の余地について議論します。
4.改善策や変更点、資源の必要性の決定
議論を経て、前述のアウトプット項目に沿った具体的な改善策や、QMS自体の変更の必要性、さらには追加すべきリソースを経営陣が決定します。これらの決定事項を、議事録や報告書に記載し、関係部門に伝達します。
関連記事:QMS(品質マネジメントシステム)を簡単解説!構築手順や内部監査の方法
マネジメントレビュー時の議事録や報告書の記載例
ここからは関係部門に伝達する際に使用する、議事録や報告書の記載例をご紹介します。
ISO9001の要求事項に基づき、インプット及びアウトプットの項目をそのまま記載し、並列に結果を記録することで、要求事項の抜け漏れを防ぐことができます。
関連記事:【ISO9001】要求事項をわかりやすく解説!現場では何が必要?運用のコツとは
「インプット」の記載例
a) 前回までのマネジメントレビューの結果とった処置の状況
前回のマネジメントレビューのアウトプットでは、製品Aにおける不良率が5.0%を超えているとの指摘があった。
改善策として、製造ラインの機械メンテナンス体制の強化、作業員への再教育、工程管理の見直しを実施した。その結果、不良率は5.2%から2.3%に改善した。さらに、A製品に対するクレーム報告の件数が前年5件から1件に減少した。
b) 品質マネジメントシステムに関連する外部及び内部の課題の変化
外部課題:新たな環境規制が施行され、排出物管理や廃棄物削減への対応が求められるようになった。
内部課題:生産ラインの老朽化が一部で見受けられ、設備更新の必要性が指摘された。
c) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に関する情報
1) 顧客満足及び密接に関連する利害関係者からのフィードバック | ・顧客アンケート結果:顧客満足度は前年85%から90%に向上。 ・クレーム件数:前年月平均5件から2件に改善。 |
2) 品質目標が満たされている程度 | ・不良率の削減:前年平均4.3%から2.6%に改善。 ・納期遵守率の向上:前年98%から99%へ向上。 |
3) プロセスのパフォーマンス,並びに製品及びサービスの適合 | ・製造ラインの稼働率:前年度92%から95%に向上した。 ・リードタイム:平均リードタイムが10分短縮され、効率性が向上した。 |
4) 不適合及び是正処置 | A工程で発生した不具合に対して、作業方法を変更した。それに伴い、作業手順書の改訂と定期的な教育・訓練を実施した。 是正後、A工程の不適合は発生していない。 |
5) 監視及び測定の結果 | ・工程内不適合率:2.5%(前年3.0%) ・設備稼働率:85.3%(前年84.0%) ・納期遵守率:99.0%(前年同期98.5%) |
6) 監査結果 | 内部監査:不適合1件、指摘事項8件。 改善が必要な点として一部工程の記録管理が指摘された。 外部監査:顧客Aによる外部監査では前回指摘事項がすべて是正された。 継続的改善が認められた。 |
7) 外部提供者のパフォーマンス | ・受入検査合格率:前年96.5%から98.2%に向上した。 ・納期遵守率:前年97.3%から98.0%に向上した。 |
d) 資源の妥当性 | ・設備:主要な加工機は導入から約7年が経過し、更新の検討が必要。 ・人材:オペレーター不足が懸念。増員や技術/技能伝承の取り組みが必要。 |
e) リスク及び機会への取組みの有効性(6.1参照) | ・リスク 原材料価格の高騰に対して、調達先の拡大に取り組んだ。今年度は3件の新規開拓を実現した。 ・機会 B製品の需要増加に対応し、生産ラインを拡充。結果、納期遅れは解消され、計画通りの出荷が実現した。 |
f) 改善の機会 | 従業員からの改善提案が多数寄せられる。 作業効率の向上、組立ラインの自働化、省エネルギー対策など、複数の改善策が検討されている。 |
「アウトプット」の記載例
a) 改善の機会
現在出ている改善提案の実施を徹底するとともに、より具体的かつ効果的な改善提案の提出を求める。
・担当部署:全部署
・期日:次回レビュー
b) 品質マネジメントシステムのあらゆる変更の必要性
オペレーター不足を解消するため、組織改編を含む人事異動を実施する。
・担当部署:人事部
・期日:20××年〇月末
c) 資源の必要性
設備の老朽化に対応し、来年度にA設備の入替を実施する。
・担当部署:生産技術部
・期日:20××年〇月末
ISO9001の審査員補が考える「QMSに基づいたマネジメントレビューの在り方」
ISO9001の審査員は、マネジメントレビューが単なる形式的な「会議」として終わっていないかどうか、また実際に現状分析と改善活動が十分に行われているかを評価します。
重要なのは、経営陣が集まる場で、各種データや報告をもとに、現状の問題点や改善点を正確に把握し、具体的なアクションプランを策定するプロセスとして機能しているかどうかです。
さらに、前回のレビューで決定された改善策が実際に実施され、その効果が定量的な数値や事例で示され、次回のレビューのインプットに確実に反映されているかも、審査員は重視します。
こうした実効性のあるマネジメントレビューは、QMS(品質マネジメントシステム)全体のPDCAサイクルを確実に回すための原動力となり、企業の持続的な成長に繋がります。
不良率や設備総合効率など、マネジメントレビューで確認する定量データは膨大にあり、集計や分析する工数が多く発生します。現場のデータを集める手段の1つである現場帳票をデジタル化すると、このような集計/分析工数を大幅に効率化できます。
実際、ISO9001を認証取得する企業でも、1日2時間ほど発生していた記録の集計/分析作業が、約1分まで効率化されている事例もあります。
インタビュー記事:1日2時間の集計作業が約1分に。スチール製家具製造の共栄工業のデジタル改革
まとめ
ISO9001におけるマネジメントレビューは、規格要求事項にもとづき、経営陣が自社のQMS全体を定期的に振り返り、PDCAサイクルを効果的に推進するための重要なプロセスです。
マネジメントレビューにより、企業は常に品質を向上させ、変化する市場環境や顧客の要求に柔軟に対応できる体制を確立することが可能となります。さらに、定期的なレビューを通じたPDCAサイクルの継続的な実施は、内部監査や外部審査においても高い評価を受け、企業の信頼性向上につながります。
本記事で紹介した実施例を参考に、各社独自の状況に合わせたマネジメントレビューを構築・運用することで、効果的なQMSと持続的な改善活動の実現を期待します。