工場向け安全対策の動画マニュアル「tebiki現場教育」を展開する、現場改善ラボ編集部です。
天井クレーン作業は、重量物を扱う極めてリスクの高い作業です。わずかな判断ミスや点検漏れが、重大事故や死亡事故につながることも少なくありません。
本記事では、実際に工場の勤務経験がある筆者の観点も踏まえ、天井クレーンの構造や安全装置の役割、事故事例、教育方法、実務での対策を解説します。特に、現場での「ヒヤリハット共有」や「標準化」「技術伝承」に焦点を当て、安全対策の方法も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
なお昨今、「安全な作業手順を動画マニュアルで見える化し、標準化を進める」現場が増えており、工場における主要な安全対策として広く浸透し始めています。詳しい改善効果や事例は「 動画マニュアルを活用した安全教育・対策事例(pdf)」をご覧ください。
労災が起きてからでは遅いので、ヒヤリハットで済んでいる現状のうちに安全対策を練ることが鍵を握ります。
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目次
天井クレーン作業に潜む危険と安全対策が重要な理由
天井クレーン作業とは、工場や倉庫などの天井付近に設置されたレール上をクレーンで重い荷物を吊り上げ、垂直や水平方向に移動させる作業のことです。
製造業や倉庫業などで日常的に行われる作業で、重量物を扱うため、重大事故を引き起こす可能性のある作業です。特に吊り荷の落下は、ワイヤロープの摩耗やフックの外れ止め装置の不具合、または作業者と合図者の意思疎通不足などの要因が重なって発生します。
感電災害では、通電部の誤接触や絶縁不良が原因となり、点検時の安全確認不足が主な要因です。また、走行中のクレーンや吊り荷との接触による挟まれ事故も多く報告されています。
天井クレーン作業の労働災害の原因として考えられるのは「慣れ」「省略」「確認不足」といったヒューマンエラーです。安全装置やルールが整備されていても「これくらい大丈夫だろう」「いつも通りだから問題ない」といった思い込みが事故を招きます。
厚生労働省の労働災害事例でも、天井クレーンの巻過防止装置が作動せず、ワイヤロープが切断してフックが落下した事例が報告されており、設備の老朽化に加え、点検や確認を怠ったことが原因とされています。
つまり、天井クレーンの安全を守るには、純粋にルールを守るだけでは十分ではありません。点検・教育・情報共有といった「仕組み」で見落としやすい危険を先回りして防ぐ必要があると言えるでしょう。
【基礎知識】天井クレーンの構造と安全装置の役割
天井クレーンは重量物を安全に搬送するための設備です。ここでは天井クレーンの構造と安全装置の役割について以下の4点を解説します。
- 天井クレーンの種類
- ガーダ・ホイスト・フック・ワイヤー・レールの構造
- 安全装置の役割
- 故障・損傷が発生しやすい箇所と定期点検の重要性
天井クレーンの種類
天井クレーンには、用途や設置環境に応じてさまざまなタイプがあります。代表的な種類を以下の表にまとめます。
| 種類 | 特徴・用途 | 安全上の注意点 |
|---|---|---|
| オーバーヘッド形 (シングルガーター) | 最も一般的な天井クレーン。柱で荷重を受け、大容量に対応可能。 | 巻上げ高さ(吊りシロ)の確認と、過巻防止装置の作動点検が重要。 |
| オーバーヘッド形 (ダブルガーター) | 大容量・ロングスパンに最適。建屋高さを抑えやすい。 | 高荷重作業が多く、ブレーキ摩耗や走行リミットスイッチの点検が必須。 |
| サスペンション形 | 梁から吊り下げて設置。狭い空間や柱のない場所に適用。 | 揺れや偏荷重が発生しやすく、荷の安定化措置が必要。 |
| 橋形・片脚橋形クレーン | 地上レールを走行し、屋外作業に多く使用。 | 強風時の作業中止基準と、レール清掃・点検を徹底。 |
| ジブクレーン(旋回式) | ポールや柱を支点に旋回。小型現場や補助用途向け。 | 旋回範囲の周囲安全確保と、支柱の基礎固定の点検。 |
| テルハ(モノレール) | レール上を電動ホイストが移動。曲線経路にも対応。 | 曲線部での走行抵抗やフック位置の偏りに注意。 |
各タイプの天井クレーンは、構造の違いによって安全上の注意点も変わります。特にオーバーヘッド形では巻上げや走行時の衝突、サスペンション形では荷の揺れ、橋形では風やレール異常が危険です。設備の特徴を理解し、タイプ別のリスクに応じた安全対策と定期点検を実施しましょう。
※OJT教育の負担軽減を実現する教育アプローチについては、以下の資料で詳しく解説しています。
関連資料:OJT担当者の負担が激減する、OJT教育の新常識とは?
各主要部品と点検の重要性
天井クレーンは複数の主要部品で構成されます。
| 部品名 | 役割・概要 | 故障や損傷が起きやすい箇所・事象 | 安全点検・対策の要点 |
|---|---|---|---|
| ガーダ(Girder) | クレーン全体を支える横梁。荷重を分散し、ホイストやトロリを支える骨格部。 | 溶接部の亀裂、歪み、ボルト緩み | 目視点検と打音検査で変形を早期発見。過荷重運転を防止する。 |
| ホイスト(Hoist) | 荷を吊り上げる巻上げ装置。モーター・減速機・ブレーキを内蔵。 | ギヤ摩耗、ブレーキ摩耗、モーター焼損 | 動作音や制動距離を確認。異音や制動遅れは即整備。 |
| フック(Hook) | 吊り荷を直接保持する部品。荷重を一点に集中させる。 | 変形、摩耗、外れ止め装置の破損 | 形状の変化をゲージで確認。外れ止めの作動を毎回点検。 |
| ワイヤロープ (Wire Rope) | 荷重を伝える命綱。ホイストとフックをつなぐ。 | 素線切れ、錆、潤滑不足、巻きズレ | 潤滑油の状態と素線切れ本数を確認。基準超過時は即交換。 |
| レール (Runway Rail) | クレーン全体の走行経路。直進性を維持する重要部。 | 歪み、異物混入、ボルト緩み | レールの水平度・締結状態を定期確認。清掃を習慣化する。 |
ガーダはクレーン全体を支える梁であり、荷重を分散しながら走行します。ホイストは巻上げ機構で、モーターと減速機を備え、荷を吊り上げる部分です。
フックは吊り荷を直接保持する部品で、外れ止め装置が正常に機能するかを常に確認する必要があります。ワイヤーロープは荷重を伝える命綱であり、摩耗・錆・素線切れが発生していないかを点検することが重要です。レールはクレーン全体の移動経路で、歪みや異物混入があると走行異常を引き起こすので、清掃は重点的に行いましょう。
天井クレーンの構成部品はいずれも連動して動作するため、一部の不具合が全体事故に発展する可能性があります。構造を理解して、定期点検を行えば、安全にクレーン作業ができるようになります。
安全装置の役割と点検の重要性
天井クレーンには、事故を未然に防ぐための安全装置が複数備えられています。具体的な安全装置の名称と役割をまとめた表は以下の通りです。
| 安全装置名 | 役割・目的 | 主な作動内容 | 点検・管理のポイント |
|---|---|---|---|
| 過巻防止装置 (巻過防止装置) | フックを上限位置以上に巻き上げないようにする。 | フックが上限に達するとリミットスイッチが作動し、巻上げを自動停止。 | 定期的に作動確認を行う。 配線の絶縁劣化やスイッチ接点の摩耗に注意。 厚労省事例では作動不良によるワイヤ切断事故も報告。 |
| 過負荷防止装置 | 定格荷重を超える吊り上げを防止する。 | 荷重が基準を超えると警報を発し、巻上げを停止。 | 荷重計の校正を定期実施。 センサーやリレー接点の作動精度を点検。 誤作動や解除不良がないか確認。 |
| 横行・走行 リミットスイッチ | クレーンやホイストがレール端に衝突するのを防止。 | レール端付近でスイッチが作動し、自動減速または停止。 | スイッチ取付位置のズレや破損に注意。 走行範囲を定期確認し、異常な衝突跡がないか点検。 |
| 非常停止装置 | 緊急時に全動作を即停止し、二次災害を防止。 | 操作盤・ペンダントスイッチ・無線リモコンの非常停止ボタンを押下で電源遮断。 | 各ボタンが確実に作動するかを毎回始業前に確認。 押し込み後に復帰できるかも重要。 |
| ブレーキ装置 | 荷の落下・クレーンの惰性移動を防ぐ制動機構。 | 操作を離すと自動で制動がかかる(電磁ブレーキ式など)。 | ブレーキライニングの摩耗や制動距離の増加に注意。 制動音の変化を見逃さない。 |
| 警報装置 (ブザー・警告灯) | 作業エリア内の人へクレーン動作を知らせる。 | クレーン起動時や走行開始時に自動で警報音・点灯。 | 音量・点灯確認を毎日実施。故障時は即修理。 警報の聞こえにくい作業環境では補助表示を設置。 |
まず、過巻防止装置はフックの巻き上げ過ぎを防止し、上限位置に達すると自動で巻上げを停止します。厚生労働省の労災事例でも、装置の作動不良によるワイヤ切断事故が報告されており、定期的な作動確認と配線点検が欠かせません。
次に、過負荷防止装置は定格荷重を超える吊り上げを検知すると警報を発し、巻上げを停止します。荷重計の精度維持と定期点検が重要です。さらに、横行・走行リミットスイッチは、クレーンがレール端に衝突するのを防止します。スイッチの取付位置ズレや破損がないか確認しましょう。
非常停止装置は、異常時に即時停止できる緊急用のボタンで、始業前に必ず作動確認を行う必要があります。安全装置は言ってしまえば人命を救う「最後の砦」のような機械です。そのため、定期点検と作動記録し、常に正常に機能するか確認を徹底しましょう。
故障・損傷が発生しやすい箇所と定期点検の重要性
天井クレーンの故障や損傷は、主にワイヤロープ、フック、ブレーキ、電気配線部に集中します。ワイヤロープは摩耗や素線切れ、潤滑不足が原因で切断することがあります。フックは吊り荷の脱落を引き起こすリスクがあり、主な原因は変形や摩耗です。
ブレーキ装置は長期間の使用で摩耗が進み、制動力が低下することがあります。電気系統では、配線の劣化や接点の焼損により、巻過防止装置などが作動しないケースも報告され、厚生労働省の労働災害事例でも、点検不足によるフック落下事故が確認されています。
定期自主検査では、作業前点検と年次点検を分けて実施し、記録を残すことが義務づけられているので、安全対策を徹底し、点検漏れを防止しましょう。
※OJT教育の負担軽減を実現する教育アプローチについては、以下の資料で詳しく解説しています。
関連資料:OJT担当者の負担が激減する、OJT教育の新常識とは?
天井クレーン作業におけるヒヤリハット・事故事例
天井クレーン作業におけるヒヤリハット・事故事例として厚生労働省「職場あんぜんサイト」から以下の4つを紹介します。
- 【ヒヤリハット】ワイヤロープが切断してフックが落下
- 【死亡事故】点検中にクレーン通電部へ接触
- 【死亡事故】吊り荷下への立ち入りによる落下
- 【死亡事故】走行してきたクレーンにはさまれる
※ヒヤリハットのような不安全行動は、単なる注意喚起や直接指導ではゼロにできません。不安全行動が根本的に起きない「仕組み作り」が重要ですが、行動科学の観点から具体的な対策が解説されている「繰り返される不安全行動 行動科学から編み出す決定的防止網」を参考にすると、本質的な安全対策のヒントが得られると思います。
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【ヒヤリハット】ワイヤロープが切断してフックが落下*1
造船所で発生した天井クレーンの労働災害事例です。作業終了後、フックを定位置まで巻き上げていた際に巻過防止装置が正常に作動せず、ワイヤロープが巻き過ぎで切断、フックが落下しました。
幸い死傷者は出ませんでしたが、原因は配線の絶縁劣化や保護継電器の摩耗による装置作動不良、および人為的な巻き上げ過多でした。再発防止には、経年クレーンの定期点検・電気回路の絶縁測定・情報共有体制の強化が必要とされ、装置任せにせず点検と教育を徹底する重要性が示されています。
【死亡事故】点検中にクレーン通電部へ接触*2
プレス機械の金型を天井クレーンで移動中、作業者が漏電したペンダントスイッチとワイヤロープに触れて感電死した事例です。原因は、スイッチ内部のアース線の脱落による漏電と、作業者が濡れた手で操作したことでした。さらに、定期点検や補修が行われておらず、安全管理が不十分でした。
防止策としては、法令以上の頻度での点検・補修、絶縁性の高いスイッチの採用、および作業前点検と安全教育の徹底が求められています。
【死亡事故】吊り荷下への立ち入りによる落下*3
亜鉛メッキ工場で、天井クレーンを使い鋼製角パイプ材を移動中、つり治具のピンが抜け落下し、作業指揮者が下敷きとなり死亡した事例です。原因は、斜めつりによるU字金具の変形とピンの抜け、およびつり荷下での作業でした。
また、水切り確認という臨時作業の手順が定められておらず、教育不足も背景にあります。再発防止には、つり荷下立入の禁止、作業手順の明確化、および事前教育の徹底が重要とされています。
関連資料:ヒューマンエラー による労災を未然防止する安全教育
【死亡事故】走行してきたクレーンにはさまれる*4
クレーン点検中、作業者が走行中の天井クレーンと鉄骨柱の間に挟まれ死亡した事例です。原因は、作業計画や指揮者の不在、同一レール上での同時作業、および危険な構造の点検台でした。
作業者が互いの位置を把握せずに作業したことが致命的要因です。防止策として、作業計画の策定と指揮者の配置、マニュアル整備と教育訓練の実施、および危険箇所の事前確認と改善が不可欠とされています。
【教育面】天井クレーン作業の安全対策3つ
天井クレーンの安全対策を現場で根づかせるには、教育の仕組みづくりが欠かせません。ここでは、以下の3つの教育の方法を解説します。
- 安全作業の「基準」を作る(標準化)
- 安全作業の「教え方」を「統一」する(適切な技術伝承)
- 危険やヒヤリハットを可視化して「自分事」にする(危険意識)
安全作業の「基準」を作る(標準化)
天井クレーン作業では、誰が作業しても同じ動きができる「安全の基準づくり」が必要です。曖昧な手順書のままでは、作業者ごとに判断が異なり、ヒューマンエラーを誘発します。
例えば「フックを確実に掛ける」とだけ書かれていても、どの角度・高さで掛けるのか、確認の順序はどうかが不明確なままです。安全作業の基準を作り、現場全体の標準化を推進することが重要です。
標準化を推進する有効手段としては、動画マニュアルや図解付きの手順書など、視覚的に理解しやすい教材の整備が挙げられます。正しい立ち位置を図で示せば、全員が共通の基準で作業ができます。
例えば化学メーカーである児玉化学工業株式会社は、現場で働く外国人の多言語化が進んでおり、動画マニュアルによる標準化推進を実現しています。
※以下の動画は同社の現場従業員がスマホで作成した、実際のサンプル動画です。
▼動画マニュアルによる標準化の例▼
※「tebiki」で10分で作成
上のような複雑な業務作業も、動画で手順をおさめれば「誰が見ても同じ解釈」になり、安全作業の基準を作れます。
※本動画は、製造業の現場教育に特化した動画マニュアル作成ツール「tebiki現場教育」で作成されています。tebikiのサービス詳細や導入事例についてはサービス資料をご覧ください。
>>かんたん動画マニュアル作成ツール「tebiki現場教育サービス資料」を見てみる
安全作業の「教え方」を「統一」する(適切な技術伝承)
天井クレーン作業では、教育のばらつきが事故につながる大きな要因です。特にOJTが中心の現場では、指導者によって教え方が異なり「人によって手順が違う」状態が生じやすくなります。
例えば
- クレーンの確認で、ある作業者は目視のみ
- 別の作業者は荷を揺らして確認する
そんな差が事故の芽になります。
ばらつきを防ぐには「誰が教えても同じ教育内容」を整備することが大切です。動画教材や標準化マニュアルを活用すれば、言語や経験の違いを超えて、共通理解が得られます。
例えば明和工業株式会社では作業場にディスプレイを設置し、QRコードで即座に動画マニュアルを呼び出せる仕組みを設けており、誰でも迷わず標準作業を実行できる環境が整えています。

危険やヒヤリハットを可視化して「自分事」にする(危険意識の刷り込み)
どんなにルールやマニュアルを整備しても、最終的に事故を防ぐのは作業者一人ひとりの「危険意識」です。しかし、経験を積んだベテランほど「自分は大丈夫」と慢心しやすく、油断が労働災害を招きます。
作業者の慢心を防ぐには、危険の可視化が効果的です。実際のヒヤリハット事例や映像を共有し、危険行動がどんな結果を生むのかを目で見て理解させます。
さらに、KY(危険予知)活動やヒヤリハット掲示板を活用し、現場で起きた「ヒヤリとした瞬間」をチーム全体で共有することで、「一人で気をつける」から「全員で守る」職場文化が生まれます。
※危険予知活動(KY活動)の進め方の詳細は「KY活動(危険予知活動)の進め方は?記入例文やネタ切れ対策を紹介」でも解説しています
危険を可視化し、共有することこそが、天井クレーンの事故を未然に防ぎ、怪我や死亡を防ぐ最も現実的な安全対策と言えるでしょう。
一方でKY活動は「形だけ」「マンネリ化」といった形骸化が起こることがしばしばあります。これは、作業員が危険を自分事化していない(そんな大事にはならないだろう、と思い込んでいる)ことが根本的な原因です。
安全意識を根付かせるための1つの指針として「動画KYT」が挙げられますが、詳しくは以下の資料で解説しているので、あわせて参考にしてみてください。
関連資料:労災ゼロ!形骸化したKYTから脱却する動画KYTとは
【作業面】天井クレーン作業の安全対策7つと注意点
天井クレーン作業では、一瞬の油断が重大事故につながります。ここでは、現場で徹底すべき以下の7つの安全対策や注意点を紹介します。
- 吊り荷の下に絶対に立ち入らない
- 吊り荷の安定化と介錯ロープの正しい使用
- フック・ワイヤー・外れ止め装置の点検
- クレーン操作中の合図・誘導ルールの徹底
- 感電・接触を防ぐ安全距離と環境整備
- 始業前点検・定期自主検査の手順と記録方法
- 異常発生時の停止判断と報告ルートの明確化
吊り荷の下に絶対に立ち入らない
天井クレーン作業の「吊り荷の下に絶対に入らない」ことは鉄則です。落下事故の多くは「吊り荷の下にいた」ことによるものです。ワイヤやシャックルが切れた場合、吊り荷は瞬時に落下します。その衝撃は数百キログラムから数トンにも及び、回避は不可能です。
作業エリアでは、吊り荷の下やクレーンの走行範囲を明確に区画し、カラーコーンや警告灯などで立入禁止を可視化してください。作業者が不用意に近づかないよう、クレーン運転者と玉掛け者が声かけ・指差呼称を徹底しましょう。さらに、管理者は「立入禁止区域の標示と教育」が継続的に実施されているかを確認し、慣れによる油断を防ぐ仕組みを整えることが重要です。
吊り荷の安定化と介錯ロープの正しい使用
吊り荷を安定させるためには、急操作を避けた滑らかな運転が重要です。天井クレーンでは、巻き上げ・横行・走行の各動作を同時に行うと荷が振れやすく、制御不能になる危険があります。操作は各動作ずつ行い、特に荷を地面から離す瞬間は低速で荷重変化を確認しましょう。
また、荷の重心が偏っている場合は、玉掛け者との連携を密にして、振れを抑えるような巻上げ角度・加減速操作を意識しましょう。クレーン運転者が「荷の安定を保つ運転技術」を身につければ、事故の頻度は減少します。
フック・ワイヤー・外れ止め装置の点検
クレーンの点検では、本体側の安全装置が正常に作動しているかを重点的に確認しましょう。巻過防止装置・過負荷防止装置・走行リミットスイッチは、いずれも作動しないとフック落下や衝突事故につながります。
また、ワイヤーロープやフックの摩耗・断線・腐食がないかを目視で点検し、異常があれば使用を中止してください。こうした点検は運転者が始業前に必ず確認すべき項目です。定期自主検査に記録しておくことで、劣化や異常を早期に発見できます。
クレーン操作中の合図・誘導ルールの徹底
天井クレーンは複数人で連携して操作するため、合図と誘導の統一が必須です。玉掛け者と運転者で合図が統一されていなければ、意図しない操作が起こり、荷が揺れたり、思わぬ方向に移動したりして接触事故を招くからです。
作業前に「誰が合図者か」を明確にし、手信号・音声合図のルールを統一しましょう。手信号は視認性を高めるため、体の正面で行い、他の作業者が混乱しないようシンプルにします。
また、騒音が多い現場では、無線機を使った音声指示を導入するのも有効です。管理者は、月1回の合図訓練や動画教育を行うことで、指示ミスによる事故を根本から防げます。
関連資料:繰り返される不安全行動 行動科学から編み出す決定的防止網
感電・接触を防ぐ安全距離と環境整備
天井クレーンは高所で電力を使用するため、常に感電災害の危険が伴います。実際に、ペンダントスイッチの漏電やアース不良が原因で感電死亡事故が発生した例もあります。
感電を防ぐには、配線・スイッチ・金属部の絶縁状態を定期的に点検し、湿気や油分が付着していないかを確認することが欠かせません。わずかな油汚れや結露でも、漏電や短絡の原因になります。
また、クレーン操作中は吊り荷や構造物との接触距離を十分に確保しましょう。特に複数台のクレーンを併用する現場では、走行レール上での衝突や巻き込みを防ぐために、稼働範囲を区分して管理することが重要です。
さらに、安全距離を守るには「見える・立てる・動ける」作業環境を整えることが前提になります。照明が暗い、床が滑る、足場が不安定といった環境では、動きづらく極めて危険です。安全距離の確保は「作業環境の整備」と理解しましょう。
関連資料:繰り返される不安全行動 行動科学から編み出す決定的防止網
始業前点検・定期自主検査の手順と記録方法
天井クレーンの安全を守るうえで重要なのが、始業前点検と定期自主検査です。始業前点検と定期自主検査は労働安全衛生規則第151条の21および第151条の22に基づき、事業者が実施を義務付けられている項目です。
始業前点検では、ブレーキ・クラッチ・ワイヤーロープ・フック・過巻防止装置などを確認し、異常があれば使用を中止して整備を行う必要があります。特に、ワイヤーロープの素線切れやフックの変形は見落としやすく、重大事故の要因になるため注意が必要です。
また、年1回以上の定期自主検査も義務化されています。点検では、構造部分や電気回路、制御装置まで含めて確認してください。形式的な点検にせず、点検者の技能とチェック体制を見直すことで、トラブルの芽を早期に発見でき、安全意識の定着にもつながります。
異常発生時の停止判断と報告ルートの明確化
天井クレーン作業では、異音や振動などの異常を感じた時点で、即時停止と報告をしてください。「少しなら動くから大丈夫」と判断して続行すると、ワイヤ破断や感電といった重大事故につながります。
現場では、異常発生時の判断基準と報告ルートを事前に明文化し、全員が理解しておく必要があります。運転者・玉掛け者・管理者の間で「異常時連絡フロー」を共有し、停止判断を迷わない環境を整えましょう。
また、異常停止後は必ず第三者立会いのもとで再稼働点検を行い、同様の再発を防ぐ体制を構築します。「止める勇気」も安全対策には必要と言えます。
危険作業の安全対策に成功している企業事例
危険作業の安全対策に成功している企業事例として、ここでは以下の2社を紹介します。
- コスモ石油株式会社:KYTの内容を動画で伝えて安全文化を作る
- トーヨーケム株式会社:危険な作業手順による事故を映像で再現・周知
コスモ石油株式会社:KYTの内容を動画で伝えて安全文化を作る*5
石油精製業界の大手であるコスモ石油株式会社 堺製油所は、京阪神エリアにガソリンや灯油を安定供給する国内有数のエネルギー拠点です。扱う製品はすべて可燃性・危険性が高く、「安全第一」が最優先課題。事故がひとたび発生すれば、事業継続そのものに影響するため、現場の安全文化づくりが経営上重要でした。
しかし、同社にはテキスト中心の安全教育では理解度にばらつきがあり、OJTで補うにも教育負担が大きいという課題がありました。さらに、協力会社を含む多様な作業者へ均一な安全指導を行うことが難しく、KYT(危険予知トレーニング)活動の定着にも限界を感じていたと言います。
そこでコスモ石油が導入したのが、現場教育用の動画マニュアル作成ツールのtebiki現場教育です。
紙では伝えにくい危険動作や手順を「見える化」し、実際の災害事例を再現動画として教育コンテンツ化。月1回の「ゼロ災実行リーダー会議」では、協力会社と共に労働災害の再現映像を視聴しながらKYTを行い、現場全体で危険意識を共有する仕組みを構築しました。
こうした取り組みにより、従業員・協力会社を問わず安全意識の水準が統一され、教育担当者の負担も大幅に軽減。紙マニュアルを印刷・持ち歩く必要がなくなり、教育効率が飛躍的に向上しました。
現場からは「映像で危険を実感できる」「新入社員でも理解しやすい」と好評で、安全第一の文化をデジタルで構築したモデルケースと言えます。
>>同社が扱う動画マニュアル「tebiki現場教育」の紹介ページはこちら
トーヨーケム株式会社:危険な作業手順による事故を映像で再現・周知*6
トーヨーケム株式会社は、東洋インキグループの中核を担う化学メーカーです。ポリマー技術を基盤に、粘着剤・機能性フィルム・液晶パネル用コーティング・メディカル素材など、国内外に多様な製品を展開しています。グローバルに500名を超える従業員が働く同社では、「安全で高品質なモノづくり」を支える教育体制の標準化が大きなテーマでした。
同社が抱えていた課題は、OJT(現場教育)の属人化と安全教育のばらつきです。文字や写真だけの紙マニュアルでは動きを伴う工程を十分に伝えきれず、結果として「人によって教え方が違う」「危険な手順が現場ごとに異なる」といった問題が発生。若手社員の習熟度に差が生まれ、ヒューマンエラーの温床になっていました。
そこで導入したのが、動画マニュアル作成ツールのtebiki現場教育です。危険をともなう工程を映像で再現し、「何が危険で、どの行動が誤りなのか」を視覚的に周知することで、安全教育の質を大きく向上させました。例えば、過去のヒヤリハットや不安全行動を映像で再現し、正しい動作と比較することで、危険を「自分事」として捉えられる教育が実現しています。
さらに、tebikiの編集のしやすさとクラウド対応により、現場で撮影した動画をすぐ教育コンテンツ化できる仕組みを整備。動画マニュアルの作成工数は従来の1/2に短縮され、OJTの教育時間も2/3に削減されました。現場からは「紙では伝わらない動きが理解できる」「危険な作業の再現映像で意識が変わった」といった声が多数寄せられています。
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結論:天井クレーンの安全は「教育」と「可視化」の仕組みで守る
天井クレーンの安全を守るために必要なのは、「教育」と「可視化」に基づいた仕組みづくりです。危険を伴う作業ほど、作業者が自分ごととして危険を認識できる環境が必要です。
トーヨーケムやコスモ石油のように、危険な作業手順を映像で再現・共有する取り組みは、ヒューマンエラーを減らし、安全文化を根付かせるのに参考になるでしょう。
動画マニュアルを活用した標準化と教育の統一によって、属人化やOJTの問題を解決し、誰もが同じ安全基準で働ける現場を構築できます。
参照元/出典元
*1:厚生労働省 職場あんぜんサイト「天井クレーンの巻過防止装置が作動しなかったためにワイヤロープが切断してフックが落下」
*2:厚生労働省 職場あんぜんサイト「天井クレーンでプレス機械の金型を移動させようとして感電」
*3:厚生労働省 職場あんぜんサイト「天井クレーンを使用してつり荷(鋼製角パイプ材)を移動中、つり治具のピンが抜け、つり荷が落下して作業者が下敷きとなり死亡」
*4:厚生労働省 職場あんぜんサイト「クレーンの点検作業中に、走行してきたクレーンにはさまれる」
*5:コスモ石油 堺製油所が実現する“安全第一”の動画教育改革
*6:新人からベテランまで700名を超える組織教育のグローバルスタンダードを目指す











