化学プラント外面腐食検査員の社内集合研修を
オンデマンド動画化し、効率的・効果的な教育環境を構築


三菱ガス化学株式会社
- 業種 :製造
- 従業員数 :1,001-3,000名
お話を伺った方:
本社 生産技術部 プロセス技術グループ 主席 永松様
新潟工場 SX推進室 技術教育グループ 主査 大橋様
新潟工場 SX推進室 技術教育グループ 副主査 小池様
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課題
- 3交替勤務の運転員へ集合研修を実施するには時間の制約が大きかった
- 設備の検査に関して、文章や写真による表現では実際の現場のイメージを持つことが難しい
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効果
- tebikiによるオンデマンド動画研修にしたことで学習効果が上がり、外面腐食検査員認定試験の合格率が向上した
- 集合研修を実施することで発生していた運転員の残業時間を削減できた
24時間稼働の化学プラントでは集合研修の時間が取りにくい
貴社の事業内容と皆さまのお立場について教えてください
永松様: 当社は、生産品目の90%以上を自社開発技術で製造するユニークな化学会社です。創業以来、新しい技術と価値の創造に取り組み、メタノールやメタキシレン、過酸化水素といった基礎化学品から、高機能エンジニアリングプラスチック、半導体パッケージ材料、光学材料、脱酸素剤「エージレス®」に至る機能製品まで、幅広い事業分野を通じて人々の暮らしを支えている企業です。また、当社の新潟工場は、自社で開発したメタノール合成触媒と製造プロセス技術を用いて、初めて国産の天然ガスを原料としたメタノールを製造することに成功した工場で、メタノールから生み出される様々な化学品も製造しています。現在では、天然ガスからのメタノール製造は国外に移転しましたが、持続可能な社会への貢献を目指して、CO₂や廃棄物からメタノールを介してエネルギーや素材を生み出す「環境循環型メタノール構想」の実証に取り組んでいます。
私は本社の生産技術部に所属しています。 生産技術部は、当社の生産技術に関わる各工場の取り組みを統括・推進するとともに個別課題の解決をサポートしています。また、2021年度からSMART-FACTORYプロジェクトを遂行しており、各工場の生産革新の実現に取り組んでいます。tebikiを新潟工場に薦めたのも、その業務の一環です。
大橋様: 新潟工場のSX推進室について簡単にご紹介します。SXとは持続可能なスマート工場への変革であり、DX推進、CN(Carbon Neutral)推進、人材育成(技術教育)を3本の柱に据えて、工場全体で変革を進めていくものです。持続可能でスマートな工場を実現させるため、SX推進室は工場の皆さんがSXを推進したくなるようにサポートしています。また、4つの専門部会(計画保全、自主保全、個別改善、教育)を有するTPM活動支援も行っています。
小池さんと私はSX推進室の中の技術教育グループに属し、人材育成(技術教育)およびTPM活動支援に携わっています。今回の外面腐食検査員の活動もTPM計画保全の活動支援です。TPM自主保全活動支援として、現場の設備スキルや運転スキルの維持向上を目的に、新人運転員や協力会社作業員の方の技術教育講師を務めています。

tebiki導入前に感じていた課題について教えてください
大橋様: 当工場は日本海に面した場所に位置しているため、プラントの設備が塩害による腐食の影響を受けやすいという特性があります。これまでにも塩害による外面腐食が原因となる高圧ガスの漏洩事故が発生したことがあり、それを契機にプラントの運転員に対する外面腐食検査員の認定制度を開始しました。化学プラントは危険物等の取扱量が多く、設備も巨大なので、設備のメンテナンスを担当する工務部だけで全ての設備を管理することは困難です。そのため、毎日現場をパトロールしている運転員の知識と点検のスキルを向上させて、一次点検で設備の異常を発見して早期に対処することが重要です。
外面腐食検査員の研修は、外面腐食のメカニズムから目視検査の指針や検査のポイント、実際の腐食事例や腐食しやすい箇所などに関する内容で構成されており、約3時間の集合・座学形式で実施していました。研修後、一定の自己学習期間を経た後、受講者はテストを受け、テストに合格した社員は外面腐食一次検査等に関する十分な知識を有する「外面腐食検査員」として認定されます。現在、工場の製造関係従業員の90%以上が「外面腐食検査員」の認定を受け、日常業務の中で腐食の兆候を発見する役割を担っています。

小池様: 当工場は24時間稼働で、運転員は4班3交替制で働いています。そのため、我々、技術教育グループ員は、全ての班を対象に集合研修するために、少なくとも2班に分けて同じ内容を2回説明していました。また、管理職は運転員を集合研修に参加させるために運転員の勤務調整をしていました。さらに、運転員は通常勤務を終えて疲れた中、残業して研修を受けていました。関係者の負担を軽減するため、研修の動画化、オンデマンド化を進めたいと考えていました。
オンデマンド動画研修で認定試験の合格率が向上
tebikiの導入経緯について教えてください
小池様: 外面腐食検査員の集合研修をオンデマンド化したいと考えていたところ、コロナ禍で集合研修ができなくなり、Web会議システムを利用したオンライン研修に変更しました。しかし、オンライン研修では質問がしにくい雰囲気があり、講師が一方的に話すだけになりがちでした。社員が各自の隙間時間で動画を見て学習できる環境を整備したいと考えていたものの、当時は動画マニュアルに関する情報を持っていませんでした。そこに、本社の永松さんから「tebikiを試してみませんか?」と声をかけてもらったことがきっかけでした。
永松様: 私が新潟工場へtebikiを紹介したのは、tebikiが単なる動画編集ソフトではなく、テスト機能なども備えた教育ツールであるところを魅力に感じたからです。また、動画編集操作がシンプルであり、現場で働く方への負担が少ないのではないかと思ったためです。
実際にtebikiを導入した効果についてはいかがでしたか
小池様: 外面腐食検査員の集合研修を実施していた頃は、認定試験の合格率が約70%でした。tebikiによるオンデマンド研修で受講できるようになってからは、合格率が約80%まで改善しました。tebiki導入後、3年連続して高い合格率を維持しています。加えて試験の最低点数も以前より上がっています。tebikiを活用した教育の効果を実感しています。化学メーカーとして漏洩事故は絶対にあってはならないことですので、この認定試験の合格率が上がり、社員の外面腐食に関する知識が向上し、現場パトロールでの点検技能が上がることはとても喜ばしいことです。
大橋様: この成果が出た背景としては、業務の隙間時間などを活用して主体的に学習ができる、まさしくオンデマンド化がポイントではないかと考えています。運転員はプラントが安定していてケアに手間がかからないような時間帯にパソコンで研修動画を視聴できるようになりました。
小池様: 研修を動画化して気付いたのですが、集合研修だと決められた時間帯の中で全ての内容を詰め込まなければいけません。また、当日の進行状況によっては、研修の最後のほうが早口になってしまうようなこともありました。tebikiによるオンデマンド研修にすることで、受講する運転員が自分の理解度に応じて研修を受けることができるようになりました。
また、tebikiには動画の視聴状況を確認できる組織レポート機能があります。受講者に「これを勉強してください」と言ってもすぐにはあまり視聴されず、認定試験の2週間前くらいになるとようやく視聴され始めます。私たち技術教育グループ員は、受講者が実際に視聴しているか組織レポートで確認したり、視聴状況を見て「そろそろ勉強を始めてください」と受講者に伝えることができ、非常に助かります。
スマートグラスでの動画撮影・視聴など活用の幅が広がっています
外面腐食検査員の研修以外にはどのような用途で利用されていますか
大橋様: 現場では、回転機の振動測定や水分計を使った工程分析など、運転員が分析操作を行う機会がよくあります。分析方法についても紙のマニュアルがあるのですが、紙を見ながら操作するのと動画を見ながら操作するのでは、操作に対する理解と操作の精度が大きく違います。やはり、動画だとビジュアルで正しい具体的な操作手順が分かりやすく、教える側の手間も減らせて、現場では役に立っています。


小池様: 部署によっては、スマートグラスで撮影した動画もtebikiにて活用され始めています。スマートグラスで撮影した動画を元に作成された動画マニュアルでは、実際に現場を移動している時間の感覚や、どの弁をどのように操作するかなどが非常にリアルに分かります。また、スマートグラスで撮影するだけではなく、現場でスマートグラスにて動画を見ながら作業するということも可能になっています。スマートグラスで撮影している動画は、見ていると酔う感覚がある人もいるというところが少しデメリットでもありますが、臨場感があって情報量も多いので、今後活用が進んでいきそうです。
他にも、パソコンでの分析ツールの使い方を動画マニュアルにしている部門もあります。経理部門を中心に、分析ソフトや統計ソフトの使い方などをパソコンの画面録画で作成しています。
大橋様: 安全に対する知識と感性を高める「安全道場」という取り組みも従来は集合教育で実施していましたが、外面腐食検査員の研修をtebikiでオンデマンド化したこともあって、昨年から「安全道場」の一部の内容をtebikiで動画化しています。この安全道場は年2回開催しているもので、事故発生時の通報確認のフローや労働災害に関する様々な知識、指差呼称の重要性など、現場での安全に関する様々な教育を実施する取り組みです。
その他、工場の消火訓練の一部も今年より動画化しています。化学プラントという特性上、定期的に消火訓練を実施しています。従来は現場に集合して説明を聞いていましたが、現場に行く前にあらかじめtebikiの動画でホースの扱い方や放水時の手順などを確認できますので、現場での訓練の効率が良くなると考えています。
ベネズエラの技術者にも伝わるtebikiの動画マニュアル
実際にご活用いただいてみて、tebikiのオススメポイントを教えてください
大橋様: こだわった動画を作成したいという方からは他社の動画編集ソフトのほうが良いという意見もありますが、現場で隙間時間を使って動画マニュアルを作成する人にとっては、tebikiのシンプルな操作の方が良いかもしれません。特に初めて作成する人にとっては操作が簡単ではないかと思います。
また外面腐食検査員の認定制度を開始してから、ステンレス鋼(SUS)製配管の腐食が発生しました。SUSは腐食しにくいと考えられていたのですが、当工場のような海沿いでは潮風の影響を受けて腐食することが分かりました。そこで、SUS配管の目視検査の指針などに関する動画を新しく作成して検査員の講習コンテンツに追加しました。この新しいマニュアルはtebikiのコース機能でまとめており、既に検査員に合格している社員にも追加教育として受講してもらっています。こういった講習内容が追加された場合にも、改めて集合研修を実施せずにすみ、とても便利です。
永松様: 現場の視点とは少し異なりますが、先日tebikiのユーザー会に参加してTebiki社の社長の貴山さんとお話しする機会がありました。貴山さんは過去に製造業の工場長を経験されたと伺いました。当時の工場長だった自分自身をターゲットユーザーとして考えてサービス開発をされているとおっしゃっていました。だからこそ、tebikiという現場の方が興味を持つサービスを開発できるのだなあと感じました。
今後の展望やtebikiに期待することを教えてください
大橋様: tebiki導入当初と比べると、動画のアップロードにかかる時間も短くなってきていますし、今後も引き続き動画編集に関する機能のアップデートに期待しています。
小池様: 外面腐食検査員の研修はtebikiによるオンデマンド化しているのですが、認定試験は従来と変わらず集合形式でやっています。tebikiのテスト機能を活用できないか検討しています。例えば、認定試験受験用の共通パソコンを用意しておいて、社員には自由な時間に試験を受験してもらうなど、より効率的な活用方法を検討していきます。
永松様: 新潟工場での活用が進んでいることもあり、国内外の他工場へtebikiの紹介を行っています。他工場のニーズに応じて、tebiki導入のサポートをしていきます。また、デジタル帳票のサービス(tebiki現場分析)との連携が強化されていくと、現場での活用の幅も広がっていくものと期待しています。
私が新潟工場へtebikiを紹介した当初の目的は、施工不良トラブルの削減でした。工場では施工不良トラブルを減らすために、紙のマニュアル等を改定してきました。メンテナンスという技能を伝えるには、文章よりも動画の方が作業者に伝わり、施工不良トラブルの低減に繋がるのではないかと考えました。当社の社員のみならず、メンテナンスを実施する協力会社の方にもtebikiを利用してもらい、施工不良によるトラブルが削減することを期待しています。
小池様: 自動翻訳機能を活用していくアイデアもありますね。tebikiは操作画面のメニューも多言語に対応しているので、外国人が動画を作成するという活用方法も考えられます。当社グループでは、サウジアラビアやベネズエラ、ブルネイなど世界各地にプラントがあって、そこの技術者が当工場に5日間程度の技術研修に来ることがあります。先日も、ベネズエラから研修に来ていた方にtebikiの動画を見てもらったのですが、帰国前に5日間の技術研修の中で何が一番印象的だったかと聞いたところ、tebikiの動画だと言いました。研修に来られた方の上司もtebikiに興味を持ってくれ、今度ベネズエラから来日される際、当工場に来て、tebikiの説明を受けることになりました。こういったグローバルな活用方法には、まだまだ可能性があると感じています。