「人時生産性って何?」
「人時生産性と労働生産性、人時売上高との違いを知りたい。」
「人時生産性を上げる具体的な方法は?」
と考えている方は多いのではないでしょうか。
人時生産性とは、従業員ひとりが1時間でどれだけの利益を生み出しているかを示す指標であり、その数値が高いほど、短時間での利益創出が可能となります。ただし、人時生産性を理解し、適切に活用するためには、労働生産性や人時売上高との違いを理解することが重要です。
そこでこの記事では、人時生産性という重要な指標に焦点を当て、意味、計算方法、そして重要性について詳しく解説します。また、人時生産性が注目される背景として、労働人口の減少や日本の生産性の低さなど、現代社会の課題についても触れましょう。
この記事は、製造業の現場改善を目指している方へ、いかに人時生産性が大切かを伝える内容になっております。職場での生産性向上に役立つ情報を提供しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
人時生産性とは
人時生産性は「にんじせいさんせい」と読み、従業員ひとりが1時間で生み出せる利益を表す指標のことを意味します。人時生産性は従業員ひとりに焦点をあてた指標ですので、従業員ひとりあたりの1時間の付加価値を表すことが可能です。数値が大きければ大きいほど、従業員ひとり当たりの利益が高いと言えるでしょう。
具体的に、人時生産性は「粗利益高 / 総労働時間」で算出される指標です。例えば、Aさんが1時間で1,000円の粗利益を生み出した場合には、Aさんの人時生産性は1,000円/時間であることがわかります。つまり、Aさんが1時間あたり1,000円の利益を生み出しており、この1,000円こそAさんの人時生産性になります。
労働生産性との違い
人時生産性は従業員ひとりの1時間あたりの粗利益で示す指標であるのに対して、労働生産性は投入した労働量で成果があげられたかを表す指標です。
例えば、ある工場で10人の従業員が8時間働いて1,000個の製品を生産した場合には、労働生産性は1,000個/(10人×8時間)=12.5個/時間となります。
人時売上高との違い
人時生産性は従業員ひとりの1時間あたりの粗利益を示す指標であるのに対して、人時売上高は従業員ひとり当たりが1時間でどれくらいの売上を出したかを表す指標です。
例えば、Bさんが1時間で2,000円の売上を上げ、その費用が1,000円だった場合を考えれば、Bさんの人時売上高は2,000円/時間となります。一方で、人時生産性の式は(売上2,000円 – 費用1,000円)/ 1時間 =1,000円/時間となり、人時生産性は売上だけでなく費用も考慮に入れた結果を示します。
人時生産性の計算方法
人時生産性の計算式は「粗利益 / 総労働時間」です。計算式からわかるように、人時生産性を計算するためには、まず粗利益と総労働時間を把握する必要があります。
例えば、製造業の工場で、ある製品の製造にかかる粗利益が1日で500万円、その日に働いた労働者が10人で各人が8時間働いていました。ここで、総労働時間は10人×8時間=80時間となります。
つまり、人時生産性は500万円÷80時間=62,500円/時間となります。つまり、この工場ではひとりの労働者が1時間働くことで平均して62,500円の利益を生み出しているということがわかるのです。
人時生産性が注目される背景
近年、人時生産性が注目されている背景には、
- 労働人口の減少
- 日本の生産性の低さ
が挙げられます。
労働人口の減少
日本は少子高齢化が進行し、労働人口が減少しています。内閣府の試算では、2050年には生産年齢人口が1995年比で29.2%も減少すると見込まれています。
労働人口の減少は、企業にとって人手不足という問題を引き起こし、労働環境の悪化や従業員の意欲低下、離職者の増加を引き起こす可能性があります。なぜなら、人手が不足すると、同じ業務量をこなすために従業員ひとり当たりの負担が増大し、結果として労働環境の悪化や意欲の低下を引き起こすからです。
そこで、少ない人数でも経営が成り立つような仕組みづくりが求められており、そのひとつとして、人時生産性の向上が注目されています。
日本の生産性が低い
日本の生産性は、OECD加盟国の中でも低い水準にあります。2021年の時間当たりの労働生産性において、日本はOECD加盟の38か国中27位であり、OECD加盟の主要先進国7か国の中では最下位であるという結果に。理由としては、日本の労働環境は長時間労働が常態化しており、労働時間あたりの生産性が低下しているからと言えるでしょう。
日本の生産性が低いという問題を解決するためには、働き方改革が必要となります。働き方改革の一環として、人時生産性の向上が求められています。人時生産性を高めることで、同じ時間を使ってより多くの成果を出すことが可能となり、企業全体の生産性の向上につながります。
業種別平均値
中小企業庁の中小小売業・サービス業の生産性分析を参考に、次の4業界の業種別平均値を見てみましょう。
- 小売業
- 飲食店
- 宿泊業
- 製造業
それぞれ解説します。
資料:中小企業庁「中小小売業・サービス業の生産性分析」を基に作成
小売業
小売業の人時生産性の平均は2,444円です。小売業は、商品の売上から仕入れコストを引いた粗利が直接的な利益となります。
小売業では同じ時間内により多くの商品を販売することで、1時間あたりの粗利が増えるため、販売員の働き方や店舗運営の効率性が直接人時生産性に影響を与えると言えるでしょう。
飲食店
飲食店の人時生産性の平均は1,902円です。飲食店は、サービスの質や料理の提供スピードが高いほど、同じ時間内により多くの客を接客でき、1時間あたりの粗利が増えるため、料理の提供スピードやサービスの質が直接売上に影響を与えると言えるでしょう。
宿泊業
宿泊業の人時生産性の平均は2,805円です。宿泊業は、客室の稼働率が高いほど、またサービスの質が高いほど、同じ時間内により多くの客を接客でき、1時間あたりの粗利が増えるため、客室の稼働率やサービスの質が直接売上に影響を与えると言えるでしょう。
製造業
製造業の人時生産性の平均は2,837円です。製造業は、生産ラインの効率性が高いほど、また製品の品質が高いほど、同じ時間内により多くの製品を生産し、販売でき、1時間あたりの粗利が増えるため、生産ラインの効率性や製品の品質が直接売上に、そして人事生産性に影響を与えると考えられます。
人時生産性のデメリット
人時生産性を高めるために安易に人件費を削減すると、予想外のデメリットが生じる可能性があります。人件費を削減することは、一見するとコスト削減につながり、生産性の向上に寄与するように見えるでしょう。
しかし、人間の労働力を過度に削減すると、組織の柔軟性や創造性が失われることも。長期的な視点で見ると生産性の低下につながる可能性があります。
例えば、人間の労働力を削減しすぎると、時間と心の余裕がなくなり、新たな技術や方法を導入することを躊躇する可能性もあります。人間は新しい状況に対応する能力を持っていますが、人間の労働力が不足すると、対応する能力や余裕が失われ、組織全体の生産性が低下する可能性があるでしょう。
また、人間の労働力を削減しすぎると、組織内のコミュニケーションが減少し、組織の一体感やモチベーションが低下する可能性もあるので注意しましょう。一体感やモチベーションの低下は、組織の生産性に大きな影響を与える要素であり無視はできません。
さらに、人間の労働力を削減しすぎると、特定の人にしかない知識や経験が失われる可能性もあります。
そのため、人時生産性を高めるためには、人間の労働力を適切に管理し、適度なバランスを保つことが重要です。人時生産性を高めるために、働き手である人間を上手に育てて管理する経営が求められます。経営者が見ておきたい、若手育成の定石について専門家が解説する動画も公開しているので、併せてご覧ください。
人時生産性を上げる方法
人時生産性を上げるための方法として、
- 適切な人員配置
- 業務の効率化
- 省力化
の2つを解説しましょう。
適切な人員配置を行う
従業員のスキルや適性に合わせた配置を行うことで、生産性の向上が期待できるため、人時生産性を上げるには「適切な人員配置」を行うことは重要です。
例えば、PC操作が得意な従業員を資料作成の業務に、機械操作が得意な従業員を製造ラインに配置するなど、適材適所の配置が人時生産性を上げる方法になるでしょう。
しかし、人時生産性の向上だけを目指して人員配置を行うと、従業員の成長や社内の知識蓄積が阻害される可能性や業務が属人化してしまう可能性もあります。そのため、人時生産性の目標を設定しつつ、パフォーマンス向上につながるような配置を心掛けることが大切です。
業務の効率化
業務の効率化により労働時間が削減され、人時生産性の向上につながるため「業務の効率化」も人時生産性を上げるための重要な手段です。
具体的には、業務内容を詳細に洗い出し、ボトルネックとなっている部分を特定し、解消を図ることが重要になります。例えば、「特定の従業員にだけ業務が集中している」「ある工程だけに時間がかかっている」などの問題は、マニュアルを整備し業務標準化を進めることで従業員全体のスキルアップや新人の早期独り立ちに寄与し、業務効率の向上が期待できるでしょう。
『伝わるマニュアル』を整備する方法について動画を公開しているので、併せてご覧ください。
省力化
人が行っていた作業を機械やコンピューターに任せて自動化することで人時生産性を上げることができます。
例えば、製造ラインにロボットを導入することで、人間が行う作業時間を大幅に削減することで、同じ時間でより多くの製品を生産することが可能になります。
省力化への具体的な対応策について動画を公開しているので、併せてご覧ください。
人時生産性を理解し現場改善にいかそう!【まとめ】
人時生産性は従業員ひとりに焦点をあてた指標ですので、従業員ひとりあたりの1時間の付加価値を表すことが可能です。
2050年には生産年齢人口が1995年比で29.2%も減少し、人材確保が今後難しくなることが見込まれるため、人材不足を効率性の向上により打開しようとする企業が増えています。また、2021年の時間当たりの労働生産性において、日本はOECD加盟の38か国中27位であり、日本は生産性が低い国となっています。生産性向上を図るための指標として人時生産性が今後注目されるでしょう。
人時生産性を上げるための具体的な方法としては2つあり、「適切な人員配置」と「業務の効率化」と「省力化」があります。紹介した方法で人時生産性を上げつつ、現場改善にいかせば、企業全体の成長と従業員の満足度向上を両立することが可能となるでしょう。