現場改善ラボ 記事一覧 お役立ち情報 海外工場の生産管理で直面する5つの課題とは?QCD改善事例も紹介

かんたんデジタル現場帳票「tebiki現場分析」や、かんたん動画マニュアル作成ツール「tebiki現場教育」を展開する、現場改善ラボ編集部です。

海外に生産拠点を展開する企業や製造業にとって、現地の工場をいかに効率的・安定的に運営して、高い生産性を維持するかが最重要課題の1つです。しかし、日本国内とは異なる環境下での生産管理は、言語や文化の壁、人材育成の難しさ、インフラの違いなど、数多くの課題に直面します。

そこでこの記事では、海外工場の生産管理における特有の課題を深掘りし、改善策や注意点について解説します。海外工場に拠点を持つ製造業の成功事例も交えながら解説するので、生産管理の実践のヒントを本記事で掴んでみてください。

海外工場の生産管理で直面する5つの課題

生産計画の遅延とリアルタイムな情報共有の難しさ

生産計画通りに製品が仕上がるかどうかは、生産管理業務における最重要な要素ですが、計画変更や計画外の遅延はよく発生する課題です。

例えば設備故障による生産ストップ、部資材が予定通りに入ってこないことで投入量が確保できない、突発的な作業ミスによるロット廃棄といった不確定要素です。

それだけでなく、特に海外工場の場合、コミュニケーションの難しさから生産進捗状況の把握が遅れ、対応が後手に回ってしまうこともよくあります。市場の動向に合わせて生産計画の変更をしなければなりませんが、変更指示が伝わらなかったり、逆に頻繁に変更しすぎて現場が混乱したり、リアルタイムな情報共有と計画変更の難しさがあります。

納期に対する認識のズレ

生産計画の遅延、未達とともに頭を悩ませるのが、顧客への納期回答の認識のズレです。日本と海外とでは、「時間感覚の厳密さ」が大きく異なっており、例えば日本では「納品期日」が厳守されるのに対し、海外の工場は期日を曖昧に設定して、期日の前後1週間ズレることが珍しくありません。

また、言葉の誤解による納期トラブルもあります。例えば「デリバリースケジュール」について日本から海外担当者に質問した場合、日本側は到着日(ETA:Estimated Time of Arrival)を聞いているつもりが、海外担当者は工場出荷日(ETD:Estimated Time of Departure)を回答してしまい、顧客へ誤った納期回答をしてしまうなどです。

人材流動性の高さと仕事の品質のバラつき

海外工場では離職率が高く、人材の入れ替わりが激しいことが特徴です。仕事を教えてようやく任せられるようになったと思えばすぐに転職され、新しい従業員に再度1から教育しなければならない、という事態が頻繁に発生します。

その結果、経験年数の浅いスタッフや作業者が増え、組織としての仕事の質が安定しない、という状況に陥る現場は少なくありません。

例えば海外工場(アメリカ)に拠点を持つ株式会社Archem でも、「日本国内に比べて転職が一般的で人材が定着しづらい」という課題があり、現場教育に大きな問題を抱えていました。

※最終的に同社は、即戦力を実現するための教育体制を整備しています。詳しくはこちらのインタビュー記事よりご覧いただけます。

特に生産管理業務は、顧客からのフォーキャストに合わせて過不足なく部資材を手配したり、物流期間を考慮して倉庫への出荷指示をするなど、経験に基づく判断が求められます。国際的な物流管理ができる人材の確保も喫緊の課題なのです。

コミュニケーションの壁による認識齟齬と指示徹底の難しさ

海外工場はコミュニケーションの壁が多いことは先述の通りですが、特に製造拠点が集中しているアセアン地域においては、日本語からタイ語、マレー語、ベトナム語などのローカル言語が混在しています。そのためコミュニケーションの難易度が根本的に上がってしまうことが、海外工場では大きな壁となります。

例えばタイのHOEI THAILAND CO.,LTD.では、「指導者によって言葉や教育の仕方が異なり、作業手順のバラつきや混乱を招くことが多い」という課題がありました。(詳細の事例はこちらのインタビュー記事をご覧ください)

また、日本とは異なる仕事に対する価値観への対応も挙げられます。日本では、作業指示の背景や目的を現場が自主的に解釈し、付随する段取りや品質確認といった指示外の業務まで行う「ハイコンテクスト」な対応が期待されることが少なくありません。

一方で、海外の多くの工場では、個人の責任範囲が契約で明確に定められており、指示された業務をその範囲内で計画通りに実行することが職務とされています。

この価値観の相違が、『指示されていないことは業務外』という認識につながり、結果として日本側の期待との間にギャップが生じ、品質のばらつきや非効率な手戻りを引き起こす一因となるのです。 そのため、海外工場で円滑な生産体制を築くには、作業の背景や目的を丁寧に伝え、必要な付随作業を1つひとつ具体的に指示もしくはマニュアル化することが不可欠です。

外国人労働者に指示通りに動いていただくために、よく活用されるマニュアルが「動画マニュアル」です。見たままの作業手順をそのまま伝えられるので、母国語に対応したマニュアルを別途用意する必要がなく、読み手の解釈のズレも解消されます。動画マニュアルによる外国人労働者の教育成功事例についてまとめられた資料をあわせてご覧ください(下の画像をクリック)。


動画マニュアル活用事例を読んでみる>>

サプライチェーンの複雑さと現地事情への対応不足

国内で部資材を調達して製造する場合は、通常の物流で間に合わない場合に特急便を使ったり、場合によってはハンドキャリーして届けてもらうなどで部品不足を回避できる場合があります。しかし、海外の場合は通関があったり輸送便の急なキャンセルがあったり、思った通りの納期で材料が届かないことがよくあります。

間に商社が入る場合は情報伝達時間のロスもあるので、余裕を持った部資材調達が必要です。

また、政情不安、感染症の世界的なパンデミック、火山の噴火や地震などの天災、異常気象による洪水や山火事による仕入れ先工場の被災など、サプライチェーンが複雑化すればそれだけリスクも増えます。2社購買、複数生産拠点の確保など、部資材調達におけるBCP(事業継続計画)もしっかりと考えておく必要があります。

海外工場における生産管理業務の改善指針

ここまで解説した、海外工場における生産管理の課題を解消するために、どのような改善策が考えられるかをここから紹介します。

生産計画の精度向上と柔軟に調整できる生産体制の構築

需要予測と関係部門の連携

生産計画の達成度を高めるためには、日々変動する市場動向や顧客からのフォーキャストに合わせてより適切な需要予測ができる体制、そして不測の事態でも柔軟に生産調整できる体制整備が重要になります。

特に、海外の顧客から需要情報を集め、どの海外工場へ割り振るかを決め、各海外工場がそれぞれに生産計画と実行をするグローバル企業ではなおさらです。

販売部門やマーケティング部門からの情報を精査して、需要予測の精度を高めることが重要です。

余裕を持たせたデリバリー計画と適切な在庫政策

海外工場からの出荷の場合、不測の事態を考慮した供給計画が必要です。

政権交代による輸出入規制の変化、ストライキによるフライトのキャンセルなど、日本ではあまりないような物流の停滞が頻繁に発生します。輸送期間に余裕を持たせることに加えて、物流倉庫に多少の余剰を置く在庫政策が必要です。

定期的な情報共有による認識合わせ

情報共有ツールの活用と現場帳票のデジタル化

工場のミッションは、生産計画通りに製品を製造し、顧客の受注に合わせて出荷することです。しかし、出荷すれば終わりではなく、期日通りに顧客に届くまでケアすることが生産管理には求められます。

この考えを海外工場のローカルメンバーにも認識させるためには、デリバリー状況について確認し、その日に出荷しなければならない数量と仕向け先の確認、生産投入しなければならないロット数を毎朝スタッフ間で認識合わせすることが重要です。

特に海外工場では、グラフや図を活用し、言語に頼らずとも、作業員間や拠点間で状況を把握できるような体制作りが重要です。例えば下図はデジタル現場帳票(tebiki現場分析)を用いて「不良品の推移」が自動でグラフ化されたものですが、このようなデータを各工場拠点で管理・記録しておくことで、日本国内からでもすぐに海外工場のデータが見れるようになります。

不良数・不良率の月次推移ダッシュボード(tebiki現場分析)

デジタル現場帳票「tebiki現場分析」による不良品の自動集計ダッシュボード

現場帳票のデジタル化推進や導入のメリット、主要なツール等について詳しく知りたい方は、以下の記事が参考になると思います。情報収集としてあわせてチェックしてみてください。

関連記事:【製造業】帳票電子化の効果と主要システム比較!帳票の種類やツールの選び方も

生産状況のリアルタイムな情報収集と分析および共有

製造工程で停滞しているロットの有無や、NGが多発している工程があれば、いち早く対応して生産計画の遅延を最小限にしなければなりません。そのためには、製造部門との日々の進捗確認や、在庫情報のアップデートなど、工場全体の情報収集を円滑に行う必要があります。社内ネットワークを使った他の海外工場の操業状態や、日本との情報連携も重要です。

具体的には、MES(製造実行システム)やERP(統合基幹業務システム)といった生産管理システムの導入が有効手段として考えられます。

人材教育システムの構築と教育ツールの整備

作業標準

離職や転職が多く、人材の流動性が高い海外工場において、品質のばらつきがない製品やサービスを提供するためには、標準作業が不可欠です。

生産計画を立てるために必要な情報収集、需要に合わせた生産投入といった業務には広い知識と経験が必要になりますが、ひとりひとりが異なる計算方法に基づいて計画を立てていたら、生産計画を遵守できないだけでなく、過剰在庫を生んだり、欠品による納期遅延を起こしたり、大きな損失を生む原因になります。

工程の作業と同様に、生産管理業務も標準化を図り、経験年数の少ないスタッフでも精度の高い仕事ができるようにするのが理想です。特に、言語や文化が異なるスタッフが集まる海外工場では、日本国内以上に業務の標準化をする必要があるのです。

作業標準の基礎から実践まで網羅的に解説された資料「トヨタ流に学ぶ 作業標準の見直しで実現する製造現場の生産性向上」もあわせてご覧いただくと、標準化を推進するヒントが得られると思います。国内外に限らず、標準化は現場改善の基礎であり重要なポイントになるのであわせて参考にしてみてください(下の画像をクリック)。


トヨタ流に学ぶ 作業標準の見直しで実現する製造現場の生産性向上

わかりやすい教育資料やマニュアルの整備

海外工場で品質を安定させる上で、作業者のスキルアップ以前に解決すべき最優先課題は「教育指導者のバラつき」です。多国籍の現場では、従業員ひとりひとりに合った言語で指導しなければならない、もしくは英語で教育しなければならないことが多いですが、そうするとどうしても教え方にバラつきが生じ、いつまでたっても適切な生産管理が行われなくなります。

つまり、指導者個人のスキルや経験に依存しない教育体制の構築が必要です。

その有効手段の例として挙げられるのが「動画マニュアル」の活用です。熟練者の「ベストな動き」を一度録画すれば、それが全指導者共通の「お手本」となります。これにより、たとえ指導者自身が新人であっても、ベテランと同じ質の教育を常に再現でき、指導者ごとのレベル差という課題を解消します。

例えば、自動車部品や住宅設備等のプラスチック成形品を手掛ける製造企業である「児玉化学工業株式会社」では、現場従業員が以下の動画マニュアル「ヤスリでバリを取る業務プロセスの解説」を作成し、技術をスムーズに共有しています。

▼動画マニュアルによる教育例▼

※現場従業員が「tebiki」で作成

一目で「何をどうすればいいか」が把握でき、文字では伝えにくい動きもすべて理解できるようになっています。

動画マニュアルによる教育品質バラつきの解消事例や活用イメージについてまとめられた資料(下のリンクをクリック)もご覧いただくと、動画マニュアルの導入イメージがより固まるようになるでしょう。

>>>「教育のばらつき/教育負担の削減が見込める”動画マニュアル”の有効性&活用事例」を見てみる

円滑なコミュニケーション基盤の確立

報連相ができる環境づくり

規定類などのルールや作業手順書があっても、すべての指示が伝達できるわけではありません。年度方針の共有や生産計画の変更など、社員が同じ方向を向いて仕事をするためには、相互にコミュニケーションできる環境(機会)が必要です。

よく行われるのは、グループごとに短時間の「立ち会」の実施です。各担当がその日の生産計画や発生している品質トラブル情報を報告したり、予定業務の共有を行うようにすると、困っていることを周囲のスタッフに把握してもらえて、アドバイスをもらえるようになります。

また、翻訳ツールや多言語対応のコミュニケーションツールを導入すれば、言語の壁によるミスコミュニケーションをなくすこともできます。

ローカルリーダーの育成

海外工場のローカルスタッフへは、文化や生活習慣の異なる日本人よりも、現地リーダーが指示をしたほうが仕事がうまく回ります。ローカルメンバーから信頼が厚く、リーダーシップの取れる人を幹部として育成して、ローカルだけで実務を回せるようにします。

また、必要に応じて日本でのリーダー研修を行い、文化や習慣の違いを認識させて、日本からの通達をローカルリーダーが理解できるようにすることも必要です。責任と権限を与えられることで仕事へのモチベーションが上がり、優秀な人材が会社に残って、海外工場を自走させる原動力が生まれます。

サプライチェーンの最適化とリスク管理

サプライヤの育成と信頼関係の構築

生産計画通りに物を作るためには、材料となる部資材が必要な時に、必要な量届いている必要があります。仕入れ先へのフォーキャスト情報の共有と、密に連絡を取り合える良好な関係の維持が重要です。そのためには、品質管理や納期管理に必要な知識やノウハウを提供して、ローカルサプライヤのレベルアップを支援するような活動をします。

また、仕入れ先に対する定期的な監査を行い、品質要求に適合していないところを指摘して、修正してもらうことも重要になります。品質改善や問題解決を仕入先任せにせず、一緒に解決できるように工場品管、調達部門と連携して仕入先指導を行いましょう。

不足の事態に備える体制の整備

海外では、日本では起こりにくいことが不足の事態として生じることがあります。海外工場周辺における自然災害や政情不安、感染症のパンデミックなど、様々なリスクを想定しましょう。

そのための対策として、例えば代替調達先をあらかじめ確保しておいたり、生産拠点を複数持つ仕入先から調達するなど、生産計画遵守のための具体的なバックアッププランを用意しておくとよいでしょう。

海外工場の生産管理における成功事例

ここでは、海外工場で生産管理の課題解決に取り組んだ企業の事例を紹介します。

株式会社Archemの事例:アメリカ3工場にて言語の壁を乗り越え、製品品質と生産性を向上

株式会社Archemはシートパッドや産業化成品を製造するメーカーです。アメリカ国内に3つの工場を展開して、多国籍な従業員が働く職場です。

同社は、海外工場にマニュアルの内容が正しく伝わらないことにより、作業者ごとの出来栄えや作業時間のばらつきが大きく、不良が多く発生していました。また、日本国内に比べて転職することが一般的で、人材が定着しにくく、作業者、あるいは教育者が変わる度に新人教育が必要となっていたことも原因の1つです。

そこで、動画マニュアル(tebiki現場教育)を導入して新人に対する作業方法教育や、職場で必要な安全教育などを行いました。英語だけでなくスペイン語やビルマ語の字幕も活用することで言語の壁をなくし、正しい作業方法を定着させることに成功し、工場の生産性が向上しました。

また、テネシー工場では、各工程に設置したモニターで動画マニュアルを常時再生することで、作業者がいつでも正しい作業を確認できる環境を整備しました。その結果、ローテーション作業が多い現場でも作業ばらつきが減り、製品の不良率を低減することができました。

同社の詳しい事例は、以下のインタビュー記事からご覧いただけます。あわせて参考にしてみてください。

インタビュー記事:アメリカ3工場にて言語の壁を乗り越え、製品品質と生産性を向上

HOEI THAILAND CO.,LTD.の事例:動画を活用した不具合対策によりダウンタイム短縮を実現

HOEI THAILANDは、食品用の包装資材をつくるメーカーです。卵豆腐用のチューブ型フィルムパックやクラフト内装紙などを製造しています。

同社は、新人教育に100ページ以上に及ぶ紙マニュアルを用いていたため教育に時間がかかり、独り立ちまでに最大5ヶ月かかっていました。また、教える上司によって指導方法や言葉が異なり、作業手順の統一ができず品質にムラが生じていました。

その結果、不具合発生時の原因究明に時間がかかり、生産ラインが停止するダウンタイムが発生していたのです。

そこで同社は動画マニュアルtebiki現場教育)による教育体制を整備し、「Problem & Improvement(問題解決)」と「Work Instruction(作業標準)」の動画を作成し、属人化していたノウハウを共有することにしました。また、朝礼や夕方のミーティングで直近の不具合とその対策動画を流して、全員で正しい作業を復習するようにしました。

導入の結果、新人の習熟期間を1ヶ月前後に大幅短縮させることができました。また作業が統一されたことで品質が安定し、トラブル発生時も正しい作業とミスをした作業の比較ができるためトラブル解決までの時間が短縮され、ダウンタイムを回避できるようになりました。同じトラブルが何度も発生することもなくなり、安定生産に貢献できています。

同社の詳しい事例は、以下のインタビュー記事からご覧いただけます。あわせて参考にしてみてください。

インタビュー記事:動画を活用した不具合対策により ダウンタイム短縮を実現

まとめ

海外工場の生産管理は、言語、文化、商習慣の違いなど、日本国内とは異なる多くの困難が伴います。しかし、これらの課題をひとつひとつ、着実に対策を講じていくことで解決できます。

重要なのは、以下の3つの視点です。

  1. コミュニケーションをとりやすい環境を整え、現地スタッフとの信頼関係を構築すること。
  2. 作業手順の標準化と分かりやすい教育資料を整備し、人材育成の体制を構築すること。
  3. デジタル現場帳票動画マニュアルといったITツールを活用し、情報共有と分析により生産計画と実績のギャップを埋める決定をすること。

本記事で紹介した指針や事例を参考にしていただき、継続的な改善活動に取り組んで、海外拠点の生産性を最大限に引き出していきましょう。

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