品質は製造業では十分に保証されるべき事柄であり、品質を担保する上で、QMS(品質管理システム)はとても重要です。
この記事を読んでいる方は「品質管理システムの定義をよく知らないから教えてほしい!」「品質管理システムの導入の仕方は?」「品質管理システムとEMSの違いは?」といった疑問や悩みを抱えているのではないでしょうか。
そこでこの記事では、QMS(品質管理システム)の定義を紹介し、QMSとEMS(環境管理システム)の違い、QMSの目的、導入の仕方、活用方法を解説します。
この記事には、製造業で品質管理に携わったり、現場改善に関わったりする方に役立つ情報が満載です。QMSの理解を深め、現場改善、品質改善を目指しましょう。
QMSとは
QMSとは品質管理システムのことで『Quality Management System』の略称です。QMSは、製品やサービスの品質を改善し、顧客満足度を高めるための仕組みです。製造業では、安定した品質を保った製品を製造し、納品することが重要であり、安定した品質を維持するためにはQMSが不可欠と言ってよいでしょう。
QMSはマネジメントシステムの一種
QMSはマネジメントシステムの一種であり、組織運営のためのルールや仕組みを定めるものです。顧客に提供するサービスや製品の継続した品質改善を行うために、組織を適切に管理する仕組みと言い換えられます。
マネジメントシステムとは
マネジメントシステムとは、組織を動かすための仕組みのことを指します。マネジメントシステムを導入するにあたり、仕組みがどれほど定着かつ運用されているかチェックし、改善を続けていく必要があります。組織の運営をスムーズに行うためには、明確なルールの順守が必要だからです。
たとえば、製造業の現場で働いている場合、マネジメントシステムによって、製造工程の手順、安全対策、品質管理などが定められます。製造工程の手順、安全対策、品質管理などが適切に運用されているかを確認し、必要に応じて改善を行うための仕組みがマネジメントシステムと言えるでしょう。
日本産業標準調査会(JISC)の定義
日本産業標準調査会(JISC)では、品質マネジメントシステムとは「品質に関して組織を指揮し、管理するためのマネジメントシステム」と定義されています。品質に関する全ての活動を統括し、組織全体の品質向上を目指すための仕組みが必要なため、日本産業標準調査会(JISC)ではこのような言葉が定義されています。
たとえば、製造業で働いている場合、JISCの定義にもとづくQMSの導入により、製品の品質を一貫して管理し、改善することが可能になります。結果として、製品の品質が安定し、顧客満足度を向上させられるでしょう。
品質管理の在り方や基本的な知識を解説した記事もありますので、併せて参考にしてみてください。
関連記事:品質管理の基本を解説!目的や品質保証との違い、主な手法は?
EMSとは
EMSとは『Environmental Management System』の略称で、環境マネジメントシステムのことです。EMSは、組織の環境負荷を管理し、環境保全活動を推進するためのシステムを指します。製造業では、製品製造の過程で発生する環境負荷を最小限に抑えることが求められているため、重要なマネジメントシステムと言えるでしょう。
たとえば、製造工程で発生する廃棄物の量を減らすために新しい工程を導入した場合、新しい工程を導入することはEMSの一環です。その結果、組織の環境負荷が減少し、環境保全に関わってくるでしょう。
QMSとの違い
QMSとEMSは目的に違いがあります。QMSは製品やサービスの品質を管理し、改善することを目的としています。一方、EMSは組織の環境負荷を管理し、環境保全活動を推進することを目的としているマネジメントシステムです。
QMSとEMSの統合
QMSとEMSを統合することで、組織の運営をより効率的に行えるでしょう。なぜなら、QMSとEMSはそれぞれ異なる視点から組織の運営を改善しようとするものであり、QMSとEMSを統合することで、製品やサービスの品質改善と環境負荷の軽減を同時に達成することが可能になるからです。
QMS導入の目的
QMSを導入する目的としては、次の3つがあげられます。
- 顧客満足度の向上
- KGIの設定
- 品質の向上
それぞれ解説します。
顧客満足度の向上
QMSは、顧客が求める品質レベルに到達することを目的としているため、QMSを導入することは、顧客満足度の向上を目指す組織にとって重要です。
たとえば、製品の不良率を低くすることで、顧客の期待する品質レベルを維持し、結果的に顧客満足度を向上させることが可能になるでしょう。
KGIの設定
KGIの設定はQMS導入の目的になるでしょう。
QMSでのKGI(重要目標達成指標)は「顧客満足度の向上」です。KGIは組織の目標達成のための重要な指標であり、KGIを設定することで、組織全体の品質向上の方向性を明確にできます。
たとえば、製品の不良率を一定の割合で低下させるといった具体的なKGIを設定することで、組織全体が目指すべき品質の目標が明確になります。
品質の向上
QMSを導入することで、組織が提供するサービスや製品の品質を改善するための仕組みがつくられるため、QMSの導入は、品質の向上を目指す組織にとって重要です。
たとえば、製品の製造過程で発生する可能性のある問題を早期に発見し、それを改善することで、製品の品質を一貫して向上させることが可能になります。
顧客満足度の向上・KGIの設定・品質の向上はすべて企業の利益を追及する目的です。利益につなげるための品質改善について、専門家が解説する動画を無料でご覧いただけますので、ぜひ参考にしてみてください。
QMSを支えるPDCAサイクル
PDCAサイクルは、QMSの中核をなす概念で、Plan(計画)、Do(実行)、Check(チェック)、Act(改善)の4つのステップから成り立っています。ここでは、具体的に以下の2項目を解説しましょう。
- PDCAサイクルとは?
- QMSにおけるPDCAサイクルとは?
PDCAサイクルとは?
PDCAサイクルとは、組織が目標を達成し、継続的に改善するための手法のことです。PDCAサイクルは組織が計画を立て、実行し、結果を評価し、改善するという一連のプロセスを体系的に管理するための手法と言えます。
たとえば、製造業における生産ラインの改善を考えてみましょう。Planの段階では、現状の生産ラインの問題点を特定し、改善策を計画します。Doの段階では、計画した改善策を実行します。Checkの段階では、改善策が問題点を解決したかどうかを評価し、Actの段階では、評価結果に基づいて次の改善策を計画します。
例に挙げた一連の流れがPDCAサイクルであり、PDCAサイクルを繰り返すことで生産ラインの品質向上が期待できるでしょう。
QMSにおけるPDCAサイクルとは?
PDCAサイクルはPlan(計画)、Do(実施)、Check(点検)、Act(改善)の順に進行し、組織の品質改善活動を継続的に推進できるため、QMSではPDCAサイクルを理解することは重要です。
QMSにおけるPDCAサイクルは、製品やサービスの品質を向上させるだけでなく、組織のマネジメントシステムそのものの改善も期待できます。なぜなら、PDCAサイクルは組織の課題を明確にし、解決するための具体的な行動計画を立て、結果を評価し、さらなる改善につなげるという、組織運営全体の改善サイクルをつくるからです。
例として、製造現場での不良品率の改善を挙げてみましょう。まず、不良品率の現状と目標を設定し(Plan)、目標達成のための新たな生産プロセスを導入(Do)。次に、新たなプロセスが不良品率にどのような影響を与えたかを評価します(Check)。そして、その結果を基に次の改善策を考え、新たな計画を立てます(Act)。一連のPDCAサイクルを繰り返すことで、不良品率の継続的な改善が実現可能です。
PDCAサイクルを回せば、利益を生み出す製造現場を実現できるでしょう。さらに利益を追求したいと考えている方は、QCD革新研究所所長の中村 茂弘 氏の動画を参考にしてみるといいでしょう。
QMS導入のやり方
QMSを導入するためには以下の順で進めましょう。
- 業務内容を文書化する
- 業務内容を分類する
- マニュアルに沿って運用し改善する
業務内容を文書化する
製造業におけるQMSの導入は、業務内容の文書化(マニュアル化)からはじめましょう。業務内容を明確に理解して共有することが、品質管理の基本となります。
具体的には、現在行っている業務の手順やルールを文書化し、文書に従って業務を行いましょう。実際に文書通りに作業できるような文書を作ることが重要です。あまりにも非現実的な業務手順を文書化してしまった場合、実際の業務と文書が異なり、PDCAサイクルが回らなくなる可能性があるので注意しましょう。
「文書化(マニュアル化)に困っている」と悩んだ経験がある方は、活用されるマニュアルを作るコツやマニュアル作成に使用するツールなどを紹介した次の記事を参考にしてみてください。
関連記事:マニュアル作成『基本のき』5つのコツや手順、ツールを徹底解説!
業務内容を分類する
業務内容を分類することで、それぞれの業務が全体の品質管理にどのように影響しているのかを理解しやすくなるため、文書化した後は業務内容を分類しましょう。
(一般財団法人 機械財団法人「機械安全のための規格と法律、設計方法の紹介 詳細」より引用)
具体的には、マネジメントシステム規格を参考にして上位文書を作成します。画像の下の方が下位文章で上に行くに連れて上位文章になります。上位文書には手順よりも大まかな業務上のルールを、下位文書には手順などの具体的な作業を記載するように作成しましょう。
マニュアルに沿って運用し改善する
最後に、作成したマニュアル(文書)に沿って業務を運用し、改善を行います。マニュアルに沿って業務を運用することで、品質管理が体系的に行われ、結果をもとに改善を行うことが可能になります。
具体的には、下位文書と上位文書の作成と分類が終わったら、実際に業務を運用します。運用していく中で、改善点があるたびに文書も修正しましょう。
QMSの規格
QMSの規格として、以下の3つを解説します。
- ISO9001
- JIS Q 9001
- SQF
ISO9001
ISO9001はQMSに関する国際規格のなかで、最も普及している規格であり、信頼性や世界の170ヵ国、100万以上の組織で利用されていることから利用率が高いのが特徴です。業種や業態を問わず、要件を満たせば認証が得られる規格になります。
ISO9001は「一貫した製品・サービスの提供」と「顧客満足の向上」を実現するための要求事項が定められている規格です。たとえば、製造業であれば、製品の品質を一定に保つためのプロセスや、顧客の要求に応じた製品開発のプロセスなどが該当します。
ISO9001についてさらに詳しく知りたい方は、ISO9001のメリットや認証取得する流れをだけに焦点を絞って解説した記事がありますので、こちらをぜひ参考にするといいでしょうにしてみてください。
関連記事:ISO9001とは?認証取得するメリットや流れ、難易度などを解説!
JIS Q 9001
JIS Q 9001は、ISO9001を日本語に訳した規格で、日本の規格として発表されています。ISO9001の規格に法規制などを織り込むことで、日本の組織でも運用しやすいように設けられた規格です。
たとえば、日本の製造業であれば、日本の法規制や文化に合わせた運用が可能となり、より効率的な品質管理が可能となります。
SQF
SQFはSafe Quality Foodの略称で、安全で高品質な食品に関するマネジメントシステムのことです。SQFは、食品限定で発行される規格である点に特徴があります。
主に食品の衛生管理を行うための規格ではありますが、同時に品質を管理する規格である点も重要です。たとえば、食品製造業であれば、製品の安全性だけでなく、味や見た目などの品質も一定に保つためのプロセスが必要となります。
QMSを活用して、現場改善にいかそう!【まとめ】
QMSは、製品やサービスの品質を一貫して向上させ、顧客満足度を高めるための基本的な仕組みです。またEMSは、組織の環境パフォーマンスを管理し、改善するためのマネジメントシステムです。
QMSとEMSは、それぞれ異なる目的を持つ一方で、組織のパフォーマンスを向上させるための共通の目的もあります。
QMSの導入目的は、顧客満足度の向上、KGIの設定、品質の向上など、組織の品質管理能力を強化することです。そのためには、PDCAサイクルを組織に定着させることが重要です。
QMS導入にあたり、業務内容を文書化、分類、運用し、その結果をもとに改善を行いましょう。
QMSの規格としては、ISO9001、JIS Q 9001、SQFなどがあります。紹介した規格は、自社が品質管理活動をどのように行うべきかを示すガイドラインとして活用しましょう。
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