工場向け安全対策の動画マニュアル「tebiki現場教育」を展開する、現場改善ラボ編集部です。
溶接のスラグ巻き込みは、溶接金属内部に酸化物が取り込まれる内部欠陥で、外観検査では発見が難しく手直しや廃棄コストを発生させる厄介な問題です。日本産業規格でも内部欠陥として明確に定義されており、多くの製造現場では「スラグ巻き込みを防ぐにはどうすれば良いのか」が共通の課題となっています。
そこで本記事では、実際に製造現場での経験がある筆者の観点も踏まえ、スラグ巻き込みの発生メカニズムや主な原因をひも解きながら、作業面の具体的対策と、再発防止を支える現場教育の体制づくりまで解説します。
目次
溶接のスラグ巻き込みとは?発生メカニズムをわかりやすく解説
溶接スラグ巻き込みは、溶接金属内部に酸化物が取り込まれて発生する欠陥です。ここでは、溶接スラグ巻き込みの発生メカニズムを次の順で整理しましょう。
- スラグ巻き込みが起きやすい溶接方法
- スラグ巻き込みと混同しやすい溶接欠陥との違い
スラグ巻き込みが起きやすい溶接方法
スラグ巻き込みは、被覆剤やフラックスを使う溶接方法で特に発生しやすい欠陥です。理由は、被覆剤やフラックスが溶融金属を大気から保護する仕組みにあります。保護の過程で生じたスラグの一部が、浮上しきれずに溶接金属の内部へ残留してしまうためです。なお「スラグ」とは、溶接時に発生する酸化物などの非金属介在物を指す用語になります。
代表的な工法は、被覆アーク溶接(SMAW)やサブマージアーク溶接(SAW)、フラックス入りワイヤ溶接(FCAW)が挙げられます。一方、フラックスを使わないTIG溶接やMIG溶接では、スラグ巻き込みはほとんど見られません。
ここで特に意識したいのが、スラグ巻き込みが溶接金属の内部に取り込まれる欠陥であるという点です。JIS Z 3001-4*1では「溶接金属に巻き込まれたスラグ」と定義され、介在物の一種として分類されています。つまり溶接ビードの表面には痕跡が現れにくく、外観検査だけでは見逃されやすい性質を持つ欠陥です。
実際の現場でも、出荷の少し前の放射線透過試験や超音波探傷試験で発覚する場合もあります。結果として、手直しや廃棄が発生し、品質の問題の要因になりえます。
スラグ巻き込みと混同しやすい溶接欠陥との違い(比較表)
スラグ巻き込みは、他の溶接欠陥と症状が似通っており、現場で混同されやすい欠陥です。理由は、欠陥の発生場所や原因が部分的に重なるためです。検査で異常を見つけても、欠陥の種類を正しく分類できなければ、効果的な対策にはつながりません。
以下の比較表に、主要な溶接欠陥との違いを「発生場所/主な原因/検出方法」の3軸で整理しました。本記事を読んでいる方がいる現場で発生している欠陥がどれに該当するか、照らし合わせながら確認してみてください。
| 欠陥名 | 発生場所 | 主な原因 | 検出方法 |
|---|---|---|---|
| スラグ巻き込み | 内部 | スラグ除去不足、低電流、開先不良 | 放射線透過試験(RT)、超音波探傷試験(UT) |
| ブローホール | 内部 | 水分・油分によるガス残留 | RT、UT |
| スパッタ | 表面周辺 | 電流過多、アーク不安定 | 目視検査 |
| オーバーラップ | 表面 | 溶接速度不足、電流不足 | 目視、浸透探傷試験(PT) |
| アンダーカット | 表面 | 電流過多、速度過大 | 目視、PT |
| ピンホール | 表面 | 気孔の表面開口 | 目視、PT |
各欠陥の一部は以下の関連記事で詳細を解説しています。あわせてご参照ください。
▼関連記事▼
溶接不良「オーバーラップ」原因と対策:標準化を実現する現場教育手法も
溶接欠陥「ピンホール」原因と不良を防ぐ標準化対策とは
溶接欠陥【アンダーカット対策】現場責任者が考える品質を安定させる仕組み化
欠陥を正確に識別できれば、原因究明と再発防止のスピードが大きく向上します。まずは現場の状況と表を見比べ、対象を特定するところから始めましょう。
溶接スラグ巻き込みの主な原因
スラグ巻き込みの原因は、作業者の技能・前処理・溶接条件・開先設計の4カテゴリに整理できます。自現場で該当する要因を特定し、的確に対策を講じましょう。
- 作業者の技能に起因する原因(速度・角度・アーク長)
- 前処理・層間管理の不備に起因する原因
- 溶接条件・開先設計に起因する原因
作業者の技能に起因する原因(速度・角度・アーク長)
作業者の技能不足は、スラグ巻き込みの代表的な原因と言えます。溶接速度・電極角度・アーク長の操作が適切でないと、溶融金属の中のスラグが表面に浮き上がれず、そのまま内部に閉じ込められてしまうためです。
例えば溶接速度が速すぎると、スラグが表面に浮き上がる前に溶融金属が固まってしまいます。電極角度が傾きすぎている場合は、アークの力が一方向に偏り、スラグを溶融池の底に押し込んでしまいかねません。また、アーク長を必要以上に長くとると、空気中の酸素や窒素を巻き込みやすくなり、酸化物が内部に残る原因となります。
適正な溶接姿勢と運棒法の遵守が品質を確保する上で極めて重要です。そのため、感覚頼みの作業は欠陥を生むリスクを高めるため、技能の見える化と標準化が急務といえるでしょう。
前処理・層間管理の不備に起因する原因
前処理と層間管理の不備も、スラグ巻き込みを生む要因です。母材表面に汚れや前パスのスラグが残った状態で次の層を溶接すると、酸化物がそのまま内部に取り込まれてしまいます。
具体的には、開先内に付着した油分・錆・水分・塗料の残留が代表的な原因です。多層溶接では、前パスのスラグをワイヤーブラシやチッピングハンマーで確実に除去しなければ、層間に酸化物の膜が残り、次パスで巻き込まれてしまいます。どれほど溶接技能が高い作業者でも、除去の工程を怠れば欠陥は避けられません。
JIS Z 3400*8では、溶接中の点検事項として「溶接金属のパス及び層ごとの清掃及び形状」の監視が求められています。前処理や層間清掃は地味で手を抜きがちな工程ですが、品質規格でも点検必須とされる基本要件であり、スラグ巻き込みの原因として見直すべきところと言えるでしょう。
溶接条件・開先設計に起因する原因
溶接条件と開先設計の不適切さも、スラグ巻き込みを招く見逃せない原因です。電流値や開先形状に問題があると、スラグが表面まで浮き上がれない状態が生まれます。こうした場合、作業者の技能にかかわらず欠陥が発生してしまうでしょう。
例えば電流値が低すぎると入熱が不足し、スラグが浮き上がる前に溶融金属が固まります。開先角度が狭すぎる場合は、溶融池の中でスラグの逃げ場がなくなり、側壁に張りついたまま残留しやすくなります。
ルート間隔や裏当ての設計が不適切なときも同様です。JIS Z 3400*8では、製造事業者は溶接施工要領書(WPS)を作成し、製造過程で正しく使用されることを確実にしなければならないと規定されています。開先角度やルート間隔などの条件はWPSに明文化し、作業者個人の技能に頼らず工程設計の視点から適正化を図ることが重要です。
溶接スラグ巻き込みの具体的な対策【作業編】
ここからは具体的な対策を作業編として整理します。原因に対応する形で、次の順に現場ですぐ実践できる手順と基準を示します。
- 層間スラグの徹底除去と前処理の標準化
- 適切な溶接条件の設定と開先設計の見直し
層間スラグの徹底除去と前処理の標準化
多層盛り溶接でスラグ巻き込みを防ぐには、パス間のスラグ除去を確実に行うことが必須の対策です。スラグは溶接金属の表面に酸化物として残留するため*1、除去しないまま次のパスを重ねると、そのまま内部に閉じ込められて欠陥になります。
JIS Z 3181でも「溶接を行う表面には、さび、汚れ及び他の汚染物がないものとする」と規定されており*2、溶接面の清浄さは規格上も前提条件とされています。具体的な手順としては、まずチッピングハンマーでスラグ全体を叩き割り、次にワイヤブラシでビード表面と止端部をこすって細かい残留物を除去しましょう。
こうした手順と判断基準をWPSや作業手順書に明記しておけば、作業者ごとのばらつきをなくし、スラグ巻き込みの発生を安定して防げます。
適切な溶接条件の設定と開先設計の見直し
溶接条件と開先設計を適切に管理することは、スラグ巻き込みを防ぐ上で重要です。溶接電流が低すぎるとアークの力が不足し、溶融池の中のスラグを表面へ押し出せません。溶接速度が速すぎる場合も、スラグが浮上する前に溶融池が凝固し、内部に閉じ込められます。
被覆アーク溶接棒の場合、棒径ごとに溶接材料メーカーが適正電流範囲を示しており、例えば棒径3.2mmで80〜130A、4.0mmで125〜175Aが目安です。開先角度も同様に重要で、角度が狭すぎるとトーチや溶接棒がルート部まで届かずスラグが残りやすくなります。
JIS Z 3604はV形開先で50〜90°が標準とされています*3。こうした条件をWPSに明記し、現場で逸脱なく運用することが、スラグ巻き込み防止に必要です。
溶接スラグ巻き込みの具体的な再発防止策【教育編】
ここまで紹介した対策も、現場で正しく実行されなければ意味がありません。再発防止は「欠陥を起こさない仕組み・教育」にあります。ここでは、次の順で属人化しがちなノウハウを組織の仕組みとして定着させる方法を解説します。
- ベテランの暗黙知を標準化し、教育のばらつきをなくす
- 動画マニュアルで「予防型」の溶接教育体制を構築する
ベテランの暗黙知を標準化し、教育のばらつきをなくす
スラグ巻き込みの再発防止には、技術的な対策だけでなく「欠陥を起こさない仕組み・教育」が必要です。現場で欠陥が少ないベテラン作業者は、チッピングハンマーの当て方や目視確認のタイミングなど、長年の経験から身につけたノウハウを持っています。しかし、こうした暗黙知はOJTの教え方に依存し、教育者ごとに伝わる内容にばらつきが生じます。
こうした属人化を解消するには、ベテランの作業を動画で記録し、「なぜ欠陥が起きないか」を目に見える形で標準化することが有効です。
事例として、株式会社神戸製鋼所*5では、航空機向けアルミ鋳造品の製造現場で紙の手順書とOJTを中心に人材教育を行っていました。しかし、紙では作業内容の詳細が伝わりきらず、OJTも教育者によって教え方が異なるため、作業者の習熟度に差が生じ出来栄えのバラツキにつながっていました。
そこで、動画マニュアルtebikiを導入し、紙と動画を組み合わせた手順書に切り替えたことで、教育内容が統一されバラツキが低減。OJT工数も約3割削減され、400本近い動画マニュアルが現場教育に活用されています。
| 課題 | 導入後 |
|---|---|
| ・紙では作業の詳細が伝わらない ・OJTで教え方にムラがある ・教育者の業務負荷が大きい ・手順を忘れると作業が止まる | ・動画で微妙な動きまで共有可能 ・教育内容が統一され均質化 ・OJT工数が約3割削減 ・動画で自主確認が可能に |
暗黙知を動画という形式知に変換して企業の資産として蓄積することが、品質を属人化から脱するためには有効です。
動画マニュアルで「予防型」の溶接教育体制を構築する
欠陥が発生してから手直し・廃棄で対応する「事後対応型」の管理では、コストも工数も膨らみ続けます。「事後対応型」ではなく「予防型」に転換するには、作業者が作業前に正しい手順を確認できる仕組みが必要です。動画マニュアルを作業前の確認ツールとして運用すれば、久しぶりの作業や多品種現場での条件切替時にも、溶接条件・開先形状・スラグ除去手順をその場で確認でき、記憶違いによるミスを未然に防げます。
プレス機械メーカーのアイダエンジニアリング株式会社*6では、多品種少量生産の加工現場で手順書の整備率が数%にとどまり、年に一度しか加工しない部品では設定や段取りに時間がかかっていました。紙の手順書では複雑な加工方法が正確に伝わらず、削りすぎなどのミスによる作り直しも発生していました。そこで動画マニュアルのtebiki導入後はマニュアル総数が2,000件以上に増加し、工程表にQRコードを掲載して必要な動画へ即アクセスできる体制を構築。加工ミスの防止と属人化の解消を実現しました。
| 課題 | 導入後 |
|---|---|
| ・手順書が数%しか整備されず ・必要な手順書がすぐ見つからない ・複雑な加工手順が正確に伝わらない ・加工ミスによる作り直しが発生 | ・マニュアル2,000件以上に増加 ・QRコードで即アクセス可能 ・動画で作業の要点を正確に共有 ・作業前確認でミスを未然に防止 |
予防型の教育体制を整えることで、手直し・廃棄コストの削減だけでなく、現場全体の品質水準を底上げできるでしょう。
スラグ巻き込みの検査・検出方法
スラグ巻き込みは溶接金属の内部に閉じ込められた欠陥であり*1、溶接後の外観検査だけでは発見できません。発生してしまった場合に備え、内部欠陥を確実に検出する非破壊検査の手法を知っておくことが重要です。ここでは代表的な検査方法とその使い分けを解説し、検査コストの観点から予防策の重要性を改めて整理します。
外観検査では発見できない理由と非破壊検査の活用
スラグ巻き込みは溶接金属の内部に生じる介在物であるため*1、ビード表面の目視確認では検出できません。表面に現れるアンダーカットやオーバーラップとは異なり、外観上は正常に見える溶接部の内部にスラグが残留している点が、スラグ巻き込みの厄介なところです。
検出には放射線透過試験(RT)または超音波探傷試験(UT)といった非破壊検査が必要になります。RTはX線やγ線で溶接部を透過撮影し、スラグの影をフィルム上で確認する方法です。UTは超音波を溶接部に入射し、内部のきずからの反射波(エコー)で位置や大きさを評価する方法で、JIS Z 3060*7では板厚や継手形状に応じた探傷方法ときずの分類基準が規定されています。
いずれも専門の資格者と設備が必要であり、検査にはコストと時間がかかります。だからこそ、検査で見つけてから直すのではなく、上流の工程で発生させない予防策を徹底することが最も理にかなった品質管理といえます。
まとめ|溶接スラグ巻き込みの再発防止は「仕組み」で解決する
溶接スラグ巻き込みは、スラグ除去の徹底・溶接条件の適正化・開先設計の見直しといった技術的な対策で発生リスクを大幅に下げられます。しかし、こうした対策を現場で続けるには、作業者個人の技能や注意力に頼るだけでは不十分です。
ベテランの暗黙知を動画で形式知に変え、誰がいつ作業しても同じ品質を保てる教育体制を整えることが、再発防止には必要と言えるでしょう。技術的な対策で「欠陥の原因」をつぶし、教育と標準化の仕組みで「欠陥を起こさない人と現場」を作りましょう。
引用元/参考元
*1:日本産業規格の簡易閲覧「JISZ3001-4:2013 溶接用語-第4部:溶接不完全部」
*2:日本産業規格の簡易閲覧「JIS Z 3181:2005 溶接材料のすみ肉溶接試験方法」
*3:日本産業規格の簡易閲覧「Z 3604:2016 アルミニウムのイナートガスアーク溶接作業標準」
*4:日本産業規格の簡易閲覧「Z 3211:2008軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用被覆アーク溶接棒」
*5:株式会社神戸製鋼所「動画を活用した現場の人材教育効率化と作業標準化」
*6:アイダエンジニアリング株式会社「“辞書代わりの動画”で教育効率UP!多品種の部品加工方法をスマートに学習」











