多品種少量生産とは、多種多様な製品を少ない数量で生産することを指します。
本記事では、多品種少量生産が求められる理由、またメリットとデメリット、そして実際の生産方法について、具体的な事例を交えながら解説します。
多品種少量生産の品質改善には「人的要因のデータを可視化」し、PDCAサイクルに落とし込むことが重要です。では、具体的に人的要因のデータをどのように取得するか、PDCAサイクルをどう落とし込んでいけばよいのでしょうか。
現場改善ラボでは、多品種少量生産における製造品質向上策や、人的要因のデータを可視化する具体的な手段について、詳しく解説した動画をご用意しております。本記事と併せ、是非ご覧ください。
目次
多品種少量生産とは
多品種少量生産の概要
多品種少量生産とは、多種多様な製品を少ない数量で生産することを指します。現代では、消費者のニーズが多様化しています。そこで、1つの製品を大量生産するのではなく、多種類の製品を少量ずつ生産することで、多様なニーズに対応できるという理由から、多品種少量生産が発案されました。
自動車産業では、顧客の好みや用途に合わせたモデルやオプションを提供することが一般的になっており、多品種少量生産の一例と言えます。トヨタ生産方式で知られるトヨタ自動車が、生産量が少ない状況でも、ムダを排除し、効率的に製品を生産することが可能になるという理由から多品種少量生産を発案しました。現場改善ラボでは、多品種少量生産の起源であるトヨタ生産方式について、わかりやすく解説した記事を掲載しています。ぜひこの機会に参考にしてみてください。
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少品種大量生産について
多品種少量生産と逆の意味の言葉は、少品種大量生産です。1つまたは少数の製品を大量に生産することを指します。例えば、ヘンリー・フォードが生産した「T型フォード」は、ほとんどモデルチェンジすることなく、大量に生産/販売されました。「T型フォード」は少品種大量生産の典型的な例です。しかし、現代の市場では、消費者のニーズの多様化に対応するため、多品種少量生産がより重要となっています。
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多品種少量生産が求められている背景
多品種少量生産が求められている背景として、ニーズの変化とインダストリー4.0が挙げられます。ここではそれぞれの背景について解説します。
ニーズの変化
近年、消費者のニーズの多様化により、製造業界では大量生産から多品種少量生産へのシフトが進んでいます。さらに、グローバル化の影響により、消費者の選択肢が増え、一つの製品だけでは満足させることが難しくなっています。さらに、ニーズの移り変わりも早く、同じ製品がいつまでも売れ筋になることはありません。
例えば、ある自動車メーカーが、消費者の環境意識の高まりに対応するために、電気自動車のラインアップを増やすことを決定したとします。同じモデルの車を大量に生産するのではなく、各消費者のニーズに合わせた少量の車を生産することで、市場の変化に迅速に対応することが可能となります。迅速な対応こそが、多品種少量生産の強みであり、ニーズの変化に対応するための重要な戦略です。
インダストリー4.0による現場の変革
インダストリー4.0とは、IT技術の導入により、工場の自動化を目指すことです。インダストリー4.0により、マス・カスタマイゼーション、つまり大量生産と受注生産を両立する考えが注目を集めています。マス・カスタマイゼーションにより、消費者の個々のニーズに対応しながらも、大量生産のメリットを享受することが可能となるからです。
例えば、ある家具メーカーが、消費者の個々のニーズに合わせたカスタムメイドの家具を提供することを決定したとします。1つ1つの家具を手作りすると、コストが高くなり、価格競争力を失ってしまうでしょう。ここでインダストリー4.0の考え方が役立ちます。IT技術を活用して生産ラインを自動化し、消費者の注文に基づいて家具を製造することで、大量生産の効率性とカスタムメイドの柔軟性を両立することが可能となります。
現場改善ラボでは、インダストリー4.0について詳しく解説した記事があります。世界と日本の動向がわかりやすく紹介されていますので、ぜひ参考にしてみてください。
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多品種少量生産が求められる産業分野
多品種少量生産が求められる産業分野としては主に、
- 自動車
- 食品
- 家電製品
- アパレル
などが代表的でしょう。
自動車
自動車産業では、消費者は自分のライフスタイルや価値観に合った車が求められ、燃費性能、デザイン、安全性、快適性など、多様な要素を含んでいます。そのため、自動車メーカーは、異なるニーズに対応するために、多品種少量生産を行う必要があるでしょう。
食品
食品産業でも同様の傾向にあります。健康志向、アレルギー対応、地域性、季節性など、消費者の食に対する要求は多様化しています。そのため、食品メーカーもまた、ニーズに対応するために多品種少量生産を行うことが求められています。
家電製品
家電製品も消費者の好みやライフスタイルに合わせた製品が求められます。例えば、カラーオプション、機能の追加、サイズの選択など市場のトレンドや需要の変化に柔軟に対応するために、多品種少量生産が行われています。
アパレル
アパレルには消費者の個々のセンスやスタイルに合わせて、多様なファッションやアクセサリーが求められます。
アパレルは急速に変化する業界であり、トレンドに迅速に対応することが重要であり、季節や地域ごとに異なるデザインやサイズを提供するためや、限定感や希少性を演出し、製品に特別感を持たせるために、多品種少量生産が必要となります。
多品種少量生産のメリット
多品種少量生産のメリットとして、
- 多様なニーズにこたえられる
- 在庫過多を抑える
ということが考えられます。
多様なニーズにこたえられる
製品の品質、機能、デザインなどを顧客のニーズに合わせて生産できるため、企業は多様なニーズにこたえられるでしょう。その結果、顧客満足度の向上や受注・売上の増加につながります。地域や顧客ターゲット層ごとに生産することで、売上増加と単価・粗利の向上を狙うことが可能です。
例えば、スポーツウェアのブランドでは、ある地域では暑さ対策に特化したウェアを提供し、別の地域では寒冷地対応のウェアを提供することにより、売上を伸ばせられるメリットがあります。
在庫過多を抑える
顧客ニーズに合わせて製品を少量ずつ生産できるため、在庫過多を抑えられるメリットもあります。
市場の需要や動向に合わせて生産量を調整することで、大量生産と比べて過剰在庫のリスクを減らせます。場合によっては完全に受注生産に切り替え、過剰在庫を極力生まないようにすることも可能でしょう。
多品種少量生産のデメリット
多品種少量生産のデメリットとして、
- コストの増加
- 生産効率性の低下
- 生産計画の調整
- 作業者の多能工化が求められる
- ヒューマンエラーのきっかけに
の5つが考えられます。
コストの増加
多品種少量生産は、一見すると効率的な生産方法に見えますが、裏にはコストの増加というデメリットが潜んでいます。製品の種類が増えると、それぞれの製品の設計、開発、生産設備の調整など、初期投資が必要になるからです。
例えば、生産設備の柔軟性を高めるために、新しい技術や装置を導入し、異なる製品に対応するために生産ラインを最適化する必要があり、導入コストが発生します。導入コストは、製品の販売価格に反映され、結果的に製品の価格競争力を低下させる可能性があるでしょう。
生産効率性の低下
多品種少量生産は少品種大量生産と比べると生産効率性の低下を引き起こす可能性があります。なぜなら、製品の種類が増えると、生産ラインの切り替えや設備の調整が頻繁に必要になり、生産時間のロスを生むからです。
例えば、1つの製品から別の製品への生産切り替えは、設備の調整や作業者のトレーニングに時間を要することが多い傾向にあります。
多品種少量生産で効率性を高める方法は後述で解説しますが、業務全体の業務効率化を進めるやり方は別記事で解説しているので併せてご覧ください。
生産計画の調整
多品種少量生産は製品の種類が増えると、それぞれの製品の需要予測や生産計画の調整が複雑になるため、生産計画の調整が難しくなるというデメリットがあります。また生産計画が遅れると、その後の製造工程も後ろ倒しになるため、全体のスケジュールにも影響を及ぼす可能性があります。
また需要予測の誤差は、在庫の過剰または不足を引き起こし、経営リスクを増大させる可能性があります。需要の変動やトレンドの変化に対応するため、迅速なプランニングと調整が必要となります。
作業者の多能工化が求められる
多品種少量生産では、作業者の多能工化が求められるというデメリットもあります。製品の種類が増えると、それぞれの製品の生産に必要な技術や知識が異なるため、作業者が多様なスキルを持つ必要があるからです。
例えば、一つの製品の生産から別の製品の生産に切り替える際には、作業者が新たな製品の生産方法を学ぶ必要があります。結果として、作業者のトレーニングコストを増加させ、生産効率を低下させる可能性があるでしょう。
ヒューマンエラーのきっかけに
多品種少量生産は、製品の種類が増え、作業者が扱う製品やプロセスが増えるため、ヒューマンエラーエラーを引き起こす可能性があります。
例えば、作業者が新しい製品の生産方法に慣れていない場合、製品の品質に影響を及ぼすエラーを犯す可能性があります。製品の再生産や修正に時間とコストを要し、結果的に生産効率と製品の品質を低下させる可能性があるので注意が必要です。
ヒューマンエラーを防ぐには、その原因を明確にしたうえで改善を行うことが求められます。ヒューマンエラーが起きる主な原因については、以下の記事をご覧ください。
関連記事:ヒューマンエラーはなぜ起きる?防ぐために必要な8つの対策
多品種少量生産のデメリットを解消する方法
多品種少量生産のデメリットを解消するために重要となる
- 在庫管理
- 工程管理
- IoTの活用
について順に解説しましょう。
在庫管理
多品種少量生産では、多種多様な製品を少量ずつ生産するため、部品や材料の種類が増え、在庫状況を把握することが難しくなるため、在庫管理が重要です。
具体的な対策としては、IT技術の活用が有効です。例えば、ERPシステムや生産管理システムを導入することで、部品表、調達資材の手配状況、在庫状況などの情報を一元化し、見える化することが可能となります。結果として、在庫の過剰や不足を防ぎ、生産効率の向上やコストの削減が見込めます。
関連記事:生産管理システムとは?製造業で導入するメリットやデメリットをわかりやすく解説
工程管理
多品種少量生産では、工程管理もまた重要です。なぜなら、製品ごとに生産工程が異なるため、効率的な工程計画を都度立てる必要があるからです。
具体的な対策としては、生産ラインのレイアウト見直しや部門間のコミュニケーション方法の見直しなどが挙げられます。例えば、部門間のコミュニケーションを改善することで、生産工程全体のムダを削減し、生産効率を向上させることが可能となります。
「そもそも工程管理の方法がわからない!」と悩んでいませんか?そんな方は、工程管理の基本について解説した記事をおすすめしています。
IoTの活用
多品種少量生産において、IoTの活用は生産効率に影響を与えるでしょう。IoT技術を活用することで、生産ラインのデータをリアルタイムで収集し、分析することが可能になるからです。
生産工程の効率化や品質管理の向上、予測保全など、生産全体の最適化を図れます。例えば、IoTを活用して機械の稼働状況をモニタリングし、異常を早期に検知すれば、ダウンタイムを減らせられるため、生産効率を向上させることが可能です。
関連記事:IoT をわかりやすく解説!普及した背景や今後の動向も交えて解説!
多品種少量生産の効率性を高める方法
多品種少量生産は少品種大量生産と比べた際に、設備の切り替え時間や製品ごとの部品の管理、生産スケジュールの調整などに時間がかかることで、生産効率性が低下する点がデメリットとして挙げられます。
しかし、多品種少量生産の効率性を高めるための戦略や技術もあるため、これらを組み込むことで生産効率性をカバーしつつ、製品の製造・生産を行うことが可能です。
ここでは多品種少量生産の効率性を高める方法として、次の3つの方法を紹介します。
- 受注を分析する
- 各生産方法を最適化する
- 段取り替えの回数を減らす
受注を分析する
多品種少量生産では、受注の特性を理解し、生産計画を立てることが重要です。製品によって受注のパターンが異なるため、製品に適した生産方法を選択することが効率的な生産につながるからです。
具体的には、受注頻度とロットサイズにより製品を分類し、それぞれの分類に適した生産方法を選択します。例えば、「多頻度大ロット」の製品に対しては、専用ラインを設置することや在庫を持つことが有効です。
分析といっても、難しく考える必要はありません。工程分析についての記事を読めば、理解できることも多いので、ぜひ参考にしてみてください。
各生産方法を最適化する
受注の特性にもとづいて選択した生産方法を最適化させることも重要です。なぜなら、生産方法の最適化により、生産コストの削減や生産時間の短縮を実現できるからです。
具体的には、在庫を持つ場合は最適な在庫量を検討し、受注生産を行う場合は段取りの効率化を図ります。例えば、工場内のレイアウトの変更や作業方法の改善により、段取り時間を短縮し、生産の効率を高めることが可能です。
段取り替えの回数を減らす
多品種少量生産では、製品ごとに生産工程が異なるため、段取り替えの回数が多くなりがちです。段取り替えの時間は製品を生産していない「無駄な時間」となるため、段取り替えの回数を減らすことも重要です。
具体的な対策としては、受注の特性を分析し、同じまたは類似した生産工程の製品をまとめて生産するバッチ生産を行うことが考えられます。結果として、段取り替えの回数を減らし、生産効率を向上させることが可能です。
多品種少量生産の事例
多品種少量生産の事例として、
- アパレル
- 農業
- 食品
- 工場
- 家電
の5つを解説しましょう。
アパレル
アパレル業界は、多品種少量生産の先を行く業界とも言えます。ファッションは季節やトレンドによって変化し、ニーズは常に多様だからです。
例えば、ZARAは「ファストファッション」の代名詞とも言えるブランドで、短いリードタイムで多種多様な商品を市場に供給しています。ZARAは、消費者のニーズに迅速に対応し、在庫リスクを最小限に抑えることに成功した事例と言えるでしょう。
農業
消費者は新鮮で、地元で生産された食品を求めており、そのためには、一つの作物を大量に生産するよりも、多種多様な作物を少量ずつ生産することが求められます。
例えば、CSAは、消費者が直接農家を支援し、季節の野菜や果物を受け取るという形態で、多品種少量生産が実践されています。
食品
食品業界でも、多品種少量生産は重要な戦略となっています。消費者の食の嗜好は多様で、健康志向やエスニック料理への関心の高まりなど、新たなニーズが生まれているからです。
例えば、クラフトビールのブームは、多品種少量生産の良い例です。各醸造所が独自のレシピでビールを製造した良い事例です。
工場
市場のニーズは急速に変化し、製品ライフサイクルが短くなっているため、製造業の工場でも、多品種少量生産は重要な戦略となっています。
例えば、自動車製造業では、顧客の個別のニーズに応じて車をカスタマイズするために、多品種少量生産が行われています。結果として、顧客満足度を高めるとともに、在庫リスクを最小限に抑えられる良事例です。
家電
家電業界でも、多品種少量生産の傾向が見られます。消費者のライフスタイルや好みは多様で、一つの製品を大量に生産するよりも、多種多様な製品を少量ずつ生産することが求められているからです。
例えば、ダイソンは、消費者のニーズに合わせて多種多様な掃除機を製造しています。ダイソンは、消費者のニーズに迅速に対応し、市場のリーダーとしての地位を維持している企業です。
多品種少量生産で効率的な生産現場を目指そう!【まとめ】
多品種少量生産は、多様なニーズに対応するために、多種多様な製品を少ない数量で生産することで在庫過多を抑えるための重要な戦略です。
現代では、消費者ニーズの多様化に対応し顧客満足度向上のため、アパレル、農業、食品、工場、家電などで多品種少量生産が進んでいます。
しかし、多品種少量生産はコストの増加などのデメリットも存在します。そのため、在庫管理や工程管理、IoTの活用など、効率的な生産方法を探求することが求められます。
効率的な生産を行う方法としては、受注の分析や各生産方法の最適化、段取り替えの回数の減少などがあります。
この記事を通じて、多品種少量生産の意義と実践方法について理解を深めていただければ幸いです。
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