製造業にはさまざまな工程があります。原材料の入荷から製品の出荷に至るまで、各工程で顧客の要求事項を満たしながら業務を進めなければなりません。そして製造現場では日々さまざまなトラブルが発生します。必ず「QC」いわゆる品質管理が必要となります。その品質管理を5Mに基づいて図表で表したものが「QC工程図」です。
この記事ではQC工程表(QC工程図)の作り方から、作成する目的や使用する場面、作業標準書との違い、項目例も含めて網羅した内容を紹介しています。ぜひ最後までご覧になってQC工程表についての理解を深めてください。
品質改善の活動としてQCサークルがありますが、現場改善ラボではQCサークル成功のポイントを専門家が解説する動画を公開していますのでご覧ください。
目次
QC工程表(QC工程図)とは?
それではQC工程表(QC工程図)について解説します。
QC工程表の概要
QC工程表(QC工程図)とは、工程の管理項目が工程順に漏れなく列挙された一覧表です。サービスの生産・提供に関する、すべての工程における品質管理方法を記号や図で示したものです。原材料の入荷から完成品として出荷されるまでの一連のプロセスに沿って、管理特性や管理方法が明確に記載されています。
QC工程表は各工程の製造条件に基づき、5M(人、機械、材料、方法、測定・検査の頭文字をとったもの)で分類した管理項目が記されています。それらを守ることで目的の品質特性が得られます。誰が見ても管理項目がひと目でわかる、製造現場には欠かせないツールの一つです。「QC工程図」とも呼ばれています。
関連記事:品質管理の基本を解説!目的や品質保証との違い、主な手法は?
作成する目的
QC工程表を作成する目的は各工程の品質管理のためです。以下のように幅広い場面で品質管理を促します。
- 一覧性があるため品質管理方法を把握しやすい
- 各工程の無駄や問題点が洗い出せる
- 発生した不良の原因特定
- 新人作業者に作業内容を理解させやすくする
- 現場監督者が工程を把握しやすくなる
- 品質管理においての変更点を記録に残せる
QC工程表を活用することで、品質管理の可視化をすることができ、品質改善につながることも期待できます。QC工程表を使う人の誰が見ても、わかりやすいものにしなければ上記の目的を達成することはできません。手段が目的化しないよう、QC工程表を作成する目的をきちんと把握しておくことが重要です。
関連記事:製造業における品質改善5つの手法は?品質バラつき防止の取組事例を解説
QC工程表を使用する場面
QC工程表は品質管理の土台となります。また目的に合わせて使用する場面がさまざまあります。
作業標準書の作成のたたき台として
QC工程表の管理基準、項目を満たすように、それぞれすべての工程で「作業標準書」を作成します。作業標準書とは、実際に作業者が行う手順や注意点などを具体的に記したものです。作業標準書を作成する際はまずは、基準となるQC工程表が必要となります。
品質管理には、QC工程表の管理項目が日常的に実施されているかのチェックが必要です。品質管理者はチェックシートなどを用いて、各工程で品質が決められた手順で管理されているかを確認します。
関連記事:SOP(標準作業手順書)とは?マニュアルとの違いや作成のコツを解説
不良の原因究明
社内不適合や顧客からのクレームなど、製造工程ではさまざまな不良が発生します。どの工程の、どの作業で基準を満たさなかったのか、手順に問題はなかったのかなど、QC工程表を使用し品質の特性や管理基準を調べます。
この際に、全工程のプロセス、管理基準が明記されていないと、どの工程が原因だったのか、関連する工程はどこなのかなど、原因究明に時間がかかる場合があります。
品質不良の原因の1つにヒューマンエラーが挙げられます。現場改善ラボでは、ヒューマンエラー発生メカニズムと除去する方法を専門家が解説する動画を公開していますのでご覧ください。
作業者の教育資料
新しく工程に従事する作業者には、品質管理の観点から教育が重要です。品質管理の基準を決定し明確化したとしても、作業者が理解していないと満足する品質は保てません。どの工程でどのような管理のもと作業を行うかを教育する際にQC工程表は役に立ちます。
QC工程表で明記したことは簡潔でないと使用に足るものとは言えません。作成する際は教育資料としての使用可能であるかの観点も必要となります。
変更管理に使用
設計変更、製造条件や製造方法が変更する際は、QC工程表の変更も必要です。変更した記録を残していくため、さかのぼって過去の変更履歴や経緯を確認する際にもQC工程表が必要となります。変更管理の際に記録を残していないと、どのような目的で、工程や管理基準を変更したのかがわからなくなり、さらに改善活動をする際に混乱が生じます。
顧客への品質管理の説明資料として
顧客への品質管理の基準を説明する資料として使用します。お客様は製品を購入する際に品質基準に満足しているか、品質管理が正しく実施されているかを気にかけます。その場合にQC工程表を使用し品質管理体制を説明します。図表で示してあり、工程の流れがわかりやすいため説明資料としても役立ちます。そのため、社外の方が見ても理解しやすいようにQC工程表を作成しておくとよいでしょう。
外注業者から原材料を購入する際の工程監査
外注業者から購入する原材料などが、工程の品質基準に満足しているか工程監査を定期的に実施します。その際に、QC工程表を使用します。製品を作る上で原材料や部品の購入は欠かせませんが、購入するものにも品質管理が必要です。自社の製造工程のみならず、製品に関するものすべてでQC工程表は役立ちます。
QC工程表との違い
QC工程表と関連するものとして、作業標準書やコントロールプランが挙げられます。ここでは、それぞれの違いについて解説します。まずは下記の一覧表をご覧ください。内容や作成目的、用途、使用者をそれぞれ比較していますが、若干異なります。イメージとしては、作業標準書は、QC工程表の土台の上にあり、コントロールプランはQC工程表の上位版と覚えておくとよいでしょう。
名称 |
QC工程表 |
作業標準書 |
コントロールプラン |
内容 | 原材料の入荷から完成品として出荷されるまでの一連のプロセスに沿って、管理特性や管理方法が明確に記載されている。決められたフォーマットはなく企業に委ねられている。 | 作業の手順と作業を行う際に注意するポイント、使用する工具などが記載されている。 誰が見てもわかりやすいものとし、作業者が確実に品実基準を満たすものとする。 | 製造プロセスにおける製品と各工程の品質管理が記載されている。コントロールプランは国際規格に沿って作成しなければならない場合がある。 |
作成目的 | ・品質管理の把握 ・品質改善活動 | 各工程、作業において効率よく品質を満たす製品を製造するため | ・品質管理の把握 ・品質改善活動(QC工程表と同じ) |
用途 | ・品質改善 ・工程の問題点の洗いだし | 作業者への教育資料 | ・品質改善 ・工程の問題点の洗いだし |
主な使用者 | 監督者 | 作業者 | 監督者 |
以下の2つに関してQC工程表との違いを解説します。
作業標準書
QC工程表と大きく違う点は使用者の範囲です。QC工程表は主に監理者が使用しますが、作業標準書は実際の作業者が使うものになります。
作業者が各工程の作業を実際に何をどういう手順で行うか、使用する設備や道具、注意点などが記載されていますので、作業者の教育訓練に使用することができます。
コントロールプラン
コントロールプランは QC 工程表より細かい規定があり、安全性の基準が厳しく求められる自動車業界で使用されます。国際基準に則った記載方法が必要となることもあり、フォーマットを企業に委ねているQC工程表とは違い規定の細さが作成時に必要です。
QC工程表に使用する工程図記号の意味
生産対象(物)の流れ、材料が加工されて製品として変化する過程を工程と呼び、これを図示する際に用いる記号を工程図記号といいます。「○」や「□」など、それぞれを組み合わせた記号を用いて各製造プロセスを図示します。QC工程表で使用する工程図記号はJISに準拠しています。基本図記号と補助記号、基本図記号を2つを合わせた複合記号の3つに分けられており、それぞれに名称が決まっています。
また工程には、加工、検査、運搬、停滞の4種類があり、さらに検査は数量検査と品質検査の2つ、停滞は貯蔵と滞留の2つの区分があります。
基本図記号
加工、運搬、貯蔵、滞留、数量検査および品質検査の各記号に分類されます。
補助記号
流れ線で表し、工程系列において系列の状態を図示するために用います。
複合記号
複合検査や複合記号など1つの作業を主としながら、もう一方の作業を合わせて行う際に用います。
QC工程表に盛り込む項目例
QC工程表には5Mに基づき製品に関する情報、工程名、作業方法、設備、部材、作業者(レベル)、記録書類名、特性値、検査方法、測定器など簡潔かつ抜け漏れなく記載しましょう。また、関連文書として各工程で使用する作業標準書なども示しておくと、効率的に作業を進めることができます。あくまで項目例ですので、各企業に合わせて項目を作成するようにしましょう。
製品に関する情報
例として製品に関する情報は以下のような項目があります。
- 製品コード
- 製品名称
- 製品の形状や寸法、重量
- 物理的特性
- 化学的特性
- 電気的特性
- 材質
- 機能
- 性能
工程に関する情報
工程に関する情報をまとめると以下の通りですが、あくまで一例です。品質に関する項目はすべて漏れなく入れることが重要です。自社の製品や業種により異なるため、使用しやすいように適宜項目をカスタマイズすることも大切です。
工程に関する情報一覧表
項目 |
詳細項目 |
説明 |
工程 | 工程番号 | 加工順番 |
工程記号 | 基本図記号、補助記号、複合記号 | |
工程名 | 漏れがないように全工程を記載 | |
設備、機械、工具名 | 使用する設備類の名称 | |
作業方法 | 簡潔でわかりやすい言葉で記載 | |
管理点 | 管理項目 | 工程で管理する品質項目 |
品質特性 | 管理する品質特性(重量、厚みなど) | |
管理方法 | 検査方法 | 検査をする方法 |
検査時期、頻度 | 検査のタイミングと抜取頻度など回数 | |
使用機器 | 検査に使用する測定機器や計測機器 | |
作業者 | 作業者の認定レベル | |
責任者 | 品質管理項目の責任者 | |
帳票類 | 記録する帳票 | |
システム | 使用するシステム | |
異常処置 | 異常が発生した場合の処置を記入 | |
関連文書 | 関連する文書 |
文書管理に関する情報
文書管理に関する情報は文書番号や日付を明記します。改訂した場合は改訂した日、理由も併せて記載します。後々になってさらに改訂する際に、改定理由の履歴がわからないと混乱を招きます。
- 文書番号
- 作成日
- 改訂日
- 改定理由
- 作成者
- 承認者
QC工程表の作り方
複雑になりすぎないよう必須事項のみを簡潔に記載します。複雑になるといざ使用する際に役に立たないものとなり意味がありません。詳細な部分は作業標準書・手順書で別途記載しましょう。
「QC工程表」のフォーマット、書式の決定
QC工程表には決まった作成フォーマットはありません。業種によって自由に様式や項目を決定できますので、自社に適したフォーマットを採用しましょう。
製品情報の収集
上記の項目例でも紹介しましたが、品質に関係する情報を製品設計、製品企画書、仕様書、部品表などから収集します。
製造工程情報の収集
原材料搬入から、出荷までのすべての工程情報を工程設計などから収集します。
各工程の管理項目(管理ポイント)のリストアップ
品質に影響を与える品質特性(寸法や硬度など)管理項目をリストアップします。
各工程の管理項目(管理ポイント)の管理方法の明記
管理項目の管理方法を明記します。管理基準を明記し、範囲外のものが発生した場合の「異常処置」なども明記します。
QC工程表の作成
集めた情報をもとにQC工程表を作成し完成させます。抜けや漏れがないよう注意しましょう。
作成したQC工程表の確認、承認
製造部の責任者はQC工程表が実施可能か確認します。その後、品質管理部や品質保証部が承認します。
正式な文書として発行
QC工程表を標準書として正式に発行します。
適時、変更管理を実施
QC工程表は作成して終わりではありません。実際に製造工程で実施されているかのチェック、状況の変化や改善活動に合わせて、改訂していくことが重要です。
製造工程では不良の発生やムリやムダが発生します。常に改善活動が求められ品質向上が課題となります。さまざまな課題や問題が発生するため、QC工程表の内容は適時変更が必要です。このことを「変更管理」といいます。
必ず変更管理を通して、改訂する必要があります。改訂する理由や変更による品質への影響、関連各所のレビュー、承認を得たのちに変更します。
まとめ
今回はQC工程表の作成方法をご紹介しました。
- QC工程表(QC工程図)は、品質管理のために製品やサービスの生産・提供に関するすべての工程における管理方法を記載した図表
- 作成目的は品質改善のため。品質管理方法を把握しやすいため、各工程の無駄や問題点が洗い出せる
- 作業標準書
- 作業標準書と大きく違う点は使用者の範囲、コントロールプランはさらに細かい規定が求められる場合もある
- QC工程表に用いる工程図記号は基本図記号と補助記号、複合記号の3つ。加工、運搬、貯蔵、滞留、検査、製造プロセスの流れを表す
- QC工程表には製品情報、工程、文書管理に関する情報を抜けなく、漏れなく、簡潔に明記すること
- 作成するフォーマットは企業に委ねられているので業種に合わせて最適な仕様にすることが重要
- QC工程表は作成して終わりではなく、適時見直し改善が要求される
QC工程表はすべての工程において品質管理の土台となる図表です。日々製造現場で発生する課題や問題に向き合い、改善活動を重ねていく上で欠かせないツールとなるでしょう。いま一度、すべての製造工程をQC工程表で明確にし、さらなる品質改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。