激しい国際競争下で生き残っていくためには、高い品質と生産性を長く安定的に保つ必要があります。そのためにはベテランの技術を、次世代を担う若手にいかに継承できるかが重要です。
少子高齢化に伴ってベテランの技術を引き継ぐ若手が減っている今、技術継承の現場が危うくなっています。本記事では技術継承ができていない6つの課題や解決方法、効果的なツールや事例を解説します。
技術継承には『暗黙知の可視化』がポイントですが、投資対効果が見えづらくスムーズに進めることが難しいのが実情です。
現場改善ラボでは、現場の負担をかけずに技術や現場ノウハウを可視化する教育方法について解説する動画も無料でご覧いただけますので、本記事と併せてご覧ください。
目次
今、技術継承が重要な理由とは?
日本の製造業において、技術継承の重要性が叫ばれています。ものづくりにおいて、高品質な製品を長きにわたって生産していくためには、技術を有するベテランから若手への技術継承が不可欠です。しかし現在、世界トップクラスで少子高齢化が進んでいる日本。少子高齢化は技術を受け継いでいく人材の不足という形で、製造業に大きな打撃を与えています。
ベテランの技術が若手に継承されないと生産性や品質の低下だけではなく、企業の資産と言っても過言ではないベテランの知識やノウハウが途絶えるなどの影響が出てしまいます。人手不足や品質の悪化は、企業の存続さえも危うくする要素です。国際競争力が低下し、質や生産量で引けをとっている日本の製造業が、世界で生き残るためにもベテランから若手への技術継承が重要課題です。
日本のものづくり産業における技術継承の現状と課題
前述したように、日本の製造業では技術継承の重要性が広く認識されています。しかし、技術継承を順調に進められている企業は少ないのが現状です。
独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の調査によると、大多数の企業が技術継承の重要性を理解しているものの、「うまくいっていない」「あまりうまくいっていない」と答えた企業が合計53.8%という結果になりました。技術継承の重大性を理解しつつも、技術継承を進めるのに難しさを感じている企業が多いのが現状です。
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技術継承ができない6つの課題とは?
技術継承の重大性を理解しているのにも関わらず、技術継承がうまく進まずもどかしく感じている企業が多いのが現状です。そこでまずは、日本の製造業で技術継承ができていない6つの課題を解説します。
技術を持つベテランが技術継承へあまり関心がない
技術継承を難しくする課題には、技術を持つベテランが技術継承へあまり関心がないことが挙げられます。ベテランが経営陣などの上層部ではない場合、教えるメリットを感じず技術継承への関心がありません。
また、技術継承を担当するベテランは、教育の時間が増える分、仕事の効率が低下します。若手の上達具合によっては、ベテラン側に相当なストレスがかかることも想定できるでしょう。このように技術を継承するメリットよりもデメリットが勝ることも、技術を持つベテランが技術継承への関心がない原因です。
そのため企業側は、若手に技術継承する意味や目的を伝えること、継承することで仕事の効率が低下するベテランへのサポート体制を整える必要があります。
技術を受け継いでいく若手が不足している
技術継承を難しくしている課題には、技術を受け継いでいく若手が不足していることも挙げられます。いくら技術継承したいと思っていても、肝心の受け継ぐ若手がいなければ技術継承は成り立ちません。そのため、企業側は技術継承を担う若手の確保が急がれます。
また、技術を受け継いでいく若手のなかには、せっかく技術を継承してもすぐに会社を退職してしまうケースもあります。筆者が勤めていた会社では、新卒や中途採用で入社した人に教育をしても、ものの数ヶ月で退職する若手が少なからずいました。
このようにそもそも継承する若手がいない、継承してもすぐに会社を退職する若手が多いことが技術継承を難しくしている課題の1つに挙げられます。
ベテランから若手への教育方法に課題がある
技術継承を難しくしている課題には、ベテランから若手への教育方法に課題があることも挙げられます。ベテラン世代の熟練者は「技術は見て盗むもの」「自分で体得するもの」という、昔の風潮にこだわった指導をする傾向にあるからです。しかし近年は、丁寧な教育環境に重きを置かれているため、若手はベテランの指導方法についていけません。そのため「若手の飲み込みが悪い」と考えるベテランと、「教え方がわかりづらい」という考え方の若手で対立。お互いに不信感を持ってしまい、技術の継承が進まなくなってしまいます。このような状況に絶えられず、継承の途中で仕事をやめていく若手も少なくありません。
また、ベテランの技術指導だけでは、技術のノウハウ全ての伝承は難しいともいわれています。伝承される情報の形態には、形や言葉で表せる「形式知」と、ベテランの勘やコツなど言葉では表しづらい「暗黙知」があります。特に暗黙知はこれまでの経験で培った勘やコツに頼った技術のため、マニュアルやベテランからの指導では継承しきることが難しいのです。
このように、ベテランから若手への教育方法に課題があること、限界があることも技術継承を難しくしている原因です。
OJTを行うベテランへの作業負荷がかかる
技術継承を難しくしている課題には、OJTを行うベテランへの作業負荷がかかることも挙げられます。若手に1から技術を教えるのは、当然時間や労力が通常の倍かかる作業です。若手に技術を継承するメリットを感じられないベテランは、自分の負担が増えるだけでストレスになってしまいます。加えて、作業のベテランであっても教えるプロではないため、人に教えること自体にストレスを感じる方も多いでしょう。
また、企業は技術継承以前に、会社の売上・生産性の向上に重きをおいています。ベテランへの負荷がかかるにも関わらず、生産性を落とすわけにはいかないため、十分な指導時間を確保できないのも現状です。OJT以前に目の前のノルマに手一杯になることで、OJTの時間を十分に確保できず若手への継承が進まなくなってしまいます。
このように、OJTを行うベテランへの作業負荷がかかることも、技術継承を難しくしている課題です。
関連記事:OJTとは?OFF-JTの違い、負担を減らして効果を出す方法も解説!
マニュアル化するのが難しい
技術継承を難しくしている課題には、技術をマニュアル化するのが難しいことも挙げられます。特に言葉では表現できない「暗黙知」は、ベテランがこれまでの経験で培ってきたもの。企業としてもこの「暗黙知」の部分まで継承したいところですが、勘やコツによる作業のため全てをマニュアルに落とし込むのが難しくなっています。
また、製造業における技術の伝承は、「見て盗むもの」という風潮があり無意識的に共有・伝承されてきました。しかし、現代は丁寧な教育環境を整備するために、作業をマニュアル化するのが一般的です。ただベテランには、作業をマニュアルに落とし込む風潮がなかったために、いざ技術を落とし込もうと思ってもなかなかマニュアル化できていない企業が多いのが現状です。
関連記事:マニュアルの意味とは?わかりやすく作るコツと流れを解説
紙のマニュアルが活用されていない/学習状況が見えていない
技術継承を難しくしている課題には、紙のマニュアルが活用されていない/学習状況が見えていないことも挙げられます。形式上、紙のマニュアルを整備している企業は多いですが、マニュアルを用意したからといって必ずしも技術継承が進むとは限りません。いくら紙のマニュアルを用意しても、写真や文字だけでは継承できる技術に限界があります。ベテランの経験を活かした勘やコツが伝わりにくいため、結局は紙のマニュアルだけでは理解しづらいのです。
また、紙のマニュアルを作成しても、マニュアルが活用されていない場合もあります。筆者の勤めていた現場では紙のマニュアルがあっても、いつの間にかオリジナルの作業方法になっていることが多々ありました。1人ひとりの学習状況も見えないため、作業者の習熟度合いも判断しづらくなっています。このように形式的に紙マニュアルを用意したとしても、活用されていない/学習状況が見えていないことも原因に挙げられます。
技術継承の解決策
少子高齢化や人手不足、国際競争力の低下もあり、日本の製造業では早急な技術継承の動きが求められています。次に、前述したような課題を解決しながら、技術継承を進めていく方法を解説します。
ベテランと若手の世代間を埋めていく
技術継承の課題を解決するには、ベテランと若手の世代間を埋めていくことが大切です。技術継承が進まない理由には、ベテランの教え方に若手がついていけていないことが考えられます。昔は「技術は見て盗むもの」という風潮がありましたが、現代では丁寧に教育する環境に重きをおかれています。この世代間が原因でベテランは「若手の理解力が足りない」、若手は「教えについていけない」と感じることで技術継承が進まなくなってしまいます。
そのため技術継承をする際は、ベテランと世代間を埋めていくことが重要です。特に技術継承を指導するベテランは、若手目線に立って指導することが求められます。また良好な関係で技術継承を進めるためにも、ベテランと若手でできるだけ密にコミュニケーションを取るようにしましょう。
業務工程の効率化/生産性向上
技術継承の課題を解決するには、業務工程の効率化/生産性向上に努めましょう。技術継承する期間は若手の成長ペースに合わせる必要があるため、業務工程に時間がかかってしまいます。
特にベテランは技術継承だけでなく、他の通常業務もあるため生産性が落ちてしまいます。そのような事態を想定して、技術継承では業務の効率化や生産性向上に努めるといいでしょう。
- 若手は作業に入る前にマニュアルで自習する
- 教える作業を細分化し、優先順位をつけて指導する
- ベテランが受け持っている通常業務を分担し、業務の効率化/生産性向上を図る
上記のような方法で、業務工程の効率化/生産性向上を目指せます。特に中小企業では、人手不足でOJTをする時間が設けられないこともあります。現場の作業員だけでなく、事業者側からのバックアップをする体制を整えることも必要です。
マニュアルを動画化する
技術継承の課題を解決するには、マニュアルを動画化するのがおすすめ。本来、マニュアルは紙媒体のものが主流ですが、紙媒体のマニュアルでは技術継承するのに限界があるからです。
そこで活躍するのが、マニュアルを動画化する方法です。動きが伴うような現場作業を動画で記録することで、勘やコツなどの「暗黙知」にあたる技術も視覚的に継承しやすくなります。また作業の合間に動画を見返せるので、いつでもどこでも作業手順やコツを学ぶことができます。
動画マニュアルが技術継承に効果的な理由は?
技術継承を進めるには、動画マニュアルが効果的なツールです。動画マニュアルとは、作業手順を動画にすることで視覚的に伝えやすくまとめてマニュアル化したものです。動画マニュアルを技術継承に導入することで、以下のような効果が期待できます。
- 視覚的に伝わりやすく、理解が深まる
- 作業クオリティの均一化につながる
- 場所や時間を選ばずに学習できる
- 紙印刷代などのコスト削減が見込める
- 紛失や流出するリスクが少ない
- 教育の進捗管理が効率化できる
- 言葉の壁が障壁にならない
動画マニュアルは、技術を視覚的に伝えることに長けたマニュアルです。紙媒体では伝わりにくかった「暗黙知」部分の技術も、視覚的に学べることで理解が深まります。スマートフォンやタブレットといったデバイスさえあれば、場所や時間を選ばずに学習できるので作業効率の向上にもつながります。また同じ動画を現場内で共有することで、作業クオリティの均一化にもつながるでしょう。
そして、動画マニュアルを導入することで言葉の壁が障壁になりません。外国人労働者を雇う企業が増えている今、外国人労働者との言葉のコミュニケーションが課題になっている企業も多いのではないでしょうか? 動画マニュアルを導入することで、言語での意思疎通は難しくても視覚的に作業方法を教育できます。
具体的な動画マニュアルのはじめ方は、以下でも詳細に解説していますのでご覧ください。
動画マニュアルで技術伝承を進めている例
最後に、実際に動画マニュアルで技術継承を進めている例を紹介します。現場改善ラボを運営するTebiki株式会社の動画教育システム「tebiki」の動画マニュアルを利用している、株式会社テック長沢の事例をご紹介いたします。
株式会社テック長沢では作業標準書をはじめ、社内システムの操作方法や社員研修などに活用いただいています。「tebiki」の動画マニュアルを活用したことで、以下のような効果を実感していただけました。
- 動画マニュアルで教育の質が一定になった
- 指導する側・受ける側の精神的な負担が減った
- 品質・生産性の向上につながった
紙媒体のマニュアルでは、指導者が何を重視するかによって指導するポイントにも差が生じてしまいます。動画マニュアルを導入したことで、オリジナルの動作に変わる現象も減り教育の質が一定になります。動画を観ながら視覚的に比べて指導できるので、指導する側/受ける側の精神的な負担が減るのに加えて、品質/生産性の向上につながるのもポイントです。
より詳細なテック長沢の動画マニュアル活用事例は、以下よりご覧ください。
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まとめ
国際競争が激しい中で日本の製造業が生き残っていくためには、品質や生産性の低下は許されません。製品の質を落とすことなく長く繁栄するためには、ベテランの技術を若手が継承してつないでいく必要があります。しかし、技術継承する側と受ける側の世代間があることや、教育する時間のない職場環境などが原因で技術継承が進んでいないのが現状です。
そのため事業者側は技術継承を進めるためにも、紹介した6つの課題を解決し技術継承を進めやすい環境を整える必要があります。また紙媒体のマニュアルだけでは、技術継承を進めるのにも限界があるため、ぜひ視覚的に教育できる動画マニュアルの利用がおすすめです。
今回紹介した内容を参考に、ベテランから若手への技術継承を確実に進めていきましょう。