製造業に従事している方や現場改善をしている方にとって「3M(ムリ・ムダ・ムラ)」は避けられない課題であり、その解決が業績向上に直結します。
この記事を読んでいる方は「製造業で品質向上と生産性向上を図るとき、ムリ・ムダ・ムラの削減を検討しているけれど、何をすればいいかわからない…」「製造業の現場や改善部門で、ムリ・ムダ・ムラの理解と改善手法を必要としているから、3Mについて具体的な解説をしてもらいたい!」といった悩みや疑問を抱いているのではないでしょうか。
そこでこの記事では、3Mの概要や発生原因、トヨタ生産方式における3M定義のほか、3Mを無くす実施方法、3Mを無くすことで得られるメリットや3Mの優先順位、具体的な実施方法について紹介します。
製造業の現場で直面する3Mの問題を根本から解決するための実用的な情報が記載されています。この記事を参考に3Mを無くし、よりよい現場づくりを目指していきましょう。
また、製造現場の3Mに気づくための視点や改善を実践する方法について、現場改善ラボでは専門家が解説している動画を無料でご覧いただけます。本記事と併せて以下よりご覧ください。
目次
3M(ムリ・ムダ・ムラ)とは?発生する原因
3Mとは「ムリ・ムダ・ムラ」の頭文字を取った言葉のことです。ここでは、3Mを理解するにあたって2点解説します。
- 3Mとは?
- 3Mが発生する原因
3Mとは?
3Mとは「ムリ・ムダ・ムラ」の3つの頭文字を取った言葉で、主に製造業で効率と品質を最大化するために解決すべき要素のことです。
具体的には、「ムリ」は作業者や設備が持つ能力以上の作業を指し、「ムダ」は不必要な作業や資源の浪費を、「ムラ」は作業の不均一性や品質のばらつきを指します。3Mの要素は生産性の低下、コストの増加、そして品質の低下に直結します。
たとえば製造業においてムリが行われると、作業者の過労や設備の過負荷が生じ、結果として品質が低下することが起こりうるでしょう。さらにムダが存在すると、無駄な在庫や運搬が発生し、コストが増加します。ムラがあると生産量や品質が不均一になり、顧客満足度が低下する可能性が考えられます。
作業者の負担やコスト削減、品質の低下といった製造業の致命傷を無くすためには、3Mを無くすことが不可欠です。
3Mが発生する原因
3Mは主に、負荷と能力のバランスが崩れることで発生します。具体的には、人員配置や生産計画が不適切な場合、3Mが生じ易く、負荷が能力を上回ると作業が滞り、逆に能力が負荷を上回ると人員が余ります。
製造業の例では、生産ラインでの人員配置が不適切であれば、一部の工程で作業が滞り、他の工程では人員が待機しているというムダな状態が生じます。また、生産計画が不明確であれば、必要以上に部品を発注してしまい、必要のない在庫があるというムダが生じる可能性があります。
トヨタにおける3Mの定義
トヨタの生産方式では、ムダは「付加価値を高めない現象や結果」と定義されています。ここではそんなトヨタ生産方式における3Mの定義に関して、3つを解説しましょう。
- 7つのムダとは?
- ムラを無くすための考え方とは?
- ムリの位置づけとは?
7つのムダとは?
トヨタの生産方式では、ムダは「付加価値を高めない現象や結果」と定義されています。7つのムダが存在すると、生産効率が低下し、コストが増加するため注意が必要です。
- つくりすぎのムダ
- 手待ちのムダ
- 運搬のムダ
- 加工のムダ
- 在庫のムダ
- 動作のムダ
- 不良・手直しのムダ
つくりすぎのムダ
つくりすぎのムダは、必要以上に製品や部品を生産することで発生します。たとえば、市場の需要を過大評価して大量に製品を生産したが、実際には売れ残ってしまうケースです。つくりすぎのムダは資本を圧迫し、保管コストも発生します。
手待ちのムダ
手待ちのムダは、一つの工程が完了するまで他の工程が待たされる状態を指します。例として、塗装工程が遅れていることで、組み立てラインが停止している状況があげられます。手待ちのムダが発生した状態は、全体の生産効率を低下させます。
運搬のムダ
製品や部品が工場内で不必要に移動されることが運搬のムダです。たとえば、倉庫から生産ラインへの運搬距離が長すぎる場合、運搬に時間と労力がかかります。
加工のムダ
加工のムダは、製品に付加価値をもたらさない加工を行うムダです。たとえば、製品の見た目を良くするための装飾が、実際には顧客にとって価値がない場合が加工のムダに該当します。
在庫のムダ
製品や部品が過剰にストックされることで発生するムダです。たとえば、安全在庫を過大に設定してしまい、多くの製品が倉庫で眠っている状態が在庫のムダに該当します。
動作のムダ
作業者が不必要な動作をすることで発生するムダです。たとえば、工具を取るために作業場から遠くの場所まで行く必要がある場合、移動時間が動作のムダとなります。
不良・手直しのムダ
製品の品質が低く、修理や再生産が必要な場合に発生するムダです。たとえば、品質管理が不十分で、不良品が出荷されてしまい、後でリコールが発生するケースが不良・手直しのムダに該当します。
ムラを無くすための考え方とは?
トヨタでは、品質にムラを出さないために「標準」という考え方があります。標準とは、それぞれ作業のやり方や条件のことであり、標準に基づいて作業が行われます。標準が明確でないと、作業者によって品質がバラつく可能性があります。
製造業では、部品のボルトを締める作業がある場合、標準が「カチッという音がするまで締める」と定められていれば、誰でも同じ強さで締められ、品質にムラが出にくくなります。
ムリの位置づけとは?
トヨタの生産方式では、ムリはあまり触れられていないものの、ムリはムダやムラを生む根本原因とされています。ムリがあると、後で修正や手直しが必要になり、ムダやムラを生むことが考えられるでしょう。
たとえば製造業では、長時間労働を前提に製品を製造すると作業者の集中力が落ち、不良品が出る可能性が高まり、ムラを生む要因となります。また、要件定義が不十分なまま生産を始めると、後で大幅な修正が必要になりムダを生む可能性があります。
製造業における3Mを無くすことによるメリット
製造業において3Mが存在すると、生産効率が低下してコストが増加するため、ムリ・ムダ・ムラを排除することは重要です。ここでは、3Mを排除することによるメリットについて、3つの観点から解説しましょう。
- コスト削減
- 従業員のモチベーション向上
- 業務拡大や新規ビジネスへの注力
コスト削減
ムダを排除することで、製造業におけるコスト削減が可能です。不必要な在庫や過剰な生産は資本を拘束し、結果として資金繰りが悪化する可能性があります。
たとえば、在庫を最適化することで、資本コストを削減し、他の有益な投資に回すことが可能です。資本の有効活用は、企業の競争力を高める重要な要素となるでしょう。
従業員のモチベーション向上
ムリ・ムダ・ムラを排除することで、不必要な動作や手続きを排除することで、従業員はより重要なタスクに集中できるため、従業員の作業が効率的になり、結果としてモチベーションが向上します。
重要なタスクに集中できることで、やる気を高め、生産性を向上させる要因となります。高いモチベーションは、良い職場環境づくりや従業員の定着率増加に寄与するでしょう。
業務拡大や新規ビジネスへの注力
ムリ・ムダ・ムラを排除することで、企業は新しいビジネスチャンスに注力する余裕を持つことが可能です。ムダなプロセスを排除することで得られた時間とリソースを新しい製品開発やマーケティング戦略に使えます。
結果として、企業は成長とイノベーションを促進することが可能です。
製造業における3Mの優先順位
3Mの排除には明確な優先順位があります。最初にムダを排除し、次にムラ、最後にムリを排除することで、製造業における生産性と効率が大きく向上します。
ムダを最初に排除
ムダは人や時間や資金などの経営資源を拘束し、企業の資金繰りを悪化させる可能性があるため、最初に取り組むべきは「ムダ」の排除と言えます。ムダとは、付加価値を生まない作業や資源の浪費を指します。たとえば、製造過程での不必要な運搬や在庫は、コストと時間をムダにする要素です。
次にムラを排除
ムラが存在すると、効率的な生産計画が立てられないため、ムダの排除に成功したら、次に「ムラ」の排除に取り組むべきです。ムラとは、作業や品質におけるばらつきを指します。たとえば、製造ラインでの作業手順が一定でない場合、ムラとなり、生産効率を低下させます。
最後にムリを排除
ムリが生じると作業者の疲労やストレスが増加し、それが品質に悪影響を及ぼすため、最後に取り組むべきは「ムリ」の排除です。ムリとは、過度な作業や不可能な要求を指します。たとえば、作業者に過度なタスクを割り当てると、結果として品質が低下する可能性があります。
3Mを無くす実施方法
ムリ・ムダ・ムラは、資源の非効率的な使用と従業員の過度な負担を引き起こすため、製造業において3M(ムリ・ムダ・ムラ)を無くすことは、生産性の向上とコスト削減に直結します。ここではムリ・ムダ・ムラを無くす具体的な手法として、3つを例を示しながら解説しましょう。
- ムリを無くす
- ムダを無くす
- ムラを無くす
ムリを無くす
製造ラインの作業スピードが速すぎると、従業員は過労に陥り、ミスが増える可能性があります。ムリを無くすためには、作業プロセスを見直し、必要ならば追加の人員を配置することが有効です。
また、特定の作業が特に負担が大きい場合、その作業を行う従業員をローテーションさせる制度を導入することが有効です。同じ作業を長時間続けることは、従業員の過労やストレスを引き起こし、結果として生産性が低下する可能性があるからです。
ムダを無くす
製品の部品を遠くから運ぶために多くの時間がかかる場合、その運搬距離を短縮することでムダを削減できます。具体的には、部品の保管場所を見直す、または自動運搬システムを導入するなどの方法があります。
また、部品の在庫を最適化するためには、かんばん方式が有効です。かんばん方式では、必要な部品が必要な時に必要な量だけ供給されるため、在庫のムダが削減されます。
かんばん方式の種類や具体的な役割については次の記事で紹介しています。
関連記事:【図解あり】かんばん方式をわかりやすく解説!メリットとデメリットは?
ムラを無くす
製造業では、同じ製品でも品質が一定でないと顧客からの信頼を失いかねません。ムラを無くすためには、品質管理の強化が必要です。
具体的には、品質チェックの頻度を上げる、または品質管理システムを導入するなどが考えられます。品質管理システムの導入方法や活用方法については次の記事で紹介しています。
関連記事:QMS(品質管理システム)とは?目的・やり方を分かりやすく解説!
3Mの観点から改善を実施することはとても重要です。3Mを無くす方法は理解したが、それを見つける視点が分からない方もいると思います。そこで株式会社GEMBAコンサルティング 大原 健佑 氏をお招きし、製造現場の3Mに気づくための視点や3M実施後の標準化のポイントを解説します。講演を無料で視聴できるので、こちらも併せてご活用ください。
動画マニュアル導入による3Mの改善事例
3Mの改善手法として設備の自動化やAIによる外観検査などが挙げられますが、コスト面・納期面でみたとき有効なのが動画マニュアルの導入です。ここでは2つを解説しましょう。
- 動画マニュアルとは?
- トーヨーケム株式会社の改善事例
動画マニュアルとは?
動画マニュアルとは、作業手順や安全指導、異常処置などを動画で視覚的に示す教材のことです。紙のマニュアルや口頭での指導に比べ、動画は直感的に理解しやすく、多言語対応も容易です。
動画マニュアルの導入は、製造業において品質向上と効率化を実現する強力な手段であり、視覚的な情報提供が実現でき、従業員は作業手順を迅速かつ正確に理解することができます。特に多言語環境や新人教育において、動画マニュアルは有効でしょう。
トーヨーケム株式会社の改善事例
トーヨーケム株式会社は、ポリマー・塗加工関連事業を手がけている企業です。トーヨーケムが直面していた主な課題は、若年社員への技術伝承が進まないこと、教育のムラがあること、そして業務習熟度や業務レベルのバラツキがあることでした。
トーヨーケムは、教育のムラや業務レベルのバラツキなどの課題を解決するために動画マニュアルのtebikiを導入。tebikiの導入によって視覚的に作業手順を示すことができたため、教育のムラを解消できたほか、技術伝承が進むようになり、属人的な教育や業務も減少しました。
動画マニュアルtebikiは言語や文化の壁を越えて、高い教育レベルの統一化を可能にするため、トーヨーケムはtebikiを活用して今後国内外の工場で教育レベルを統一化する計画です。
トーヨーケム株式会社の事例は動画マニュアルtebikiを導入して見事に教育のムラを無くし、業務のバラツキも無くした好事例と言えるでしょう。より詳細なトーヨーケム株式会社の事例は、以下の記事をご覧ください。
参考元:新人からベテランまで700名を超える組織教育のグローバルスタンダードを目指す
3Mを無くして現場改善に活かそう!【まとめ】
この記事では、3Mが何であるか、なぜ発生するのかから始め、トヨタの3Mに対する独自の定義と対策について詳しく解説しました。
特に、7つのムダとそれを排除するための具体的な手法、ムラとムリに対する考え方とその位置づけについて深掘りしました。
製造業で3Mを排除することで、コスト削減はもちろん、従業員のモチベーション向上や新規ビジネスへの注力が可能になります。
実施方法には多くの選択肢がありますが、最も効果的なのは動画マニュアルの導入です。トーヨーケム株式会社では、若年社員への技術伝承が進まない、教育のムラがある、業務習熟度や業務レベルのバラツキがあるといった問題が有りましたが、動画マニュアルの導入により解決しています。
この記事を通じて3Mを理解し、ぜひ3M排除の取り組みを始めてみてください。
トーヨーケム株式会社の事例で紹介した動画マニュアルtebikiの資料を無料でダウンロードできます。ぜひこの機会にtebikiの資料をダウンロードしてみませんか?