多能工とは、一人で複数の業務を行うことを指し「マルチタスク」とも表現されます。
この記事を読んでいる方は、
「生産効率を向上させて、コスト削減を実現するために、多能工が必要になった!」
「多能工化を導入して製品の品質向上や市場での競争力強化を実現したい!」
「製造業の多能工化のメリットとデメリットについて知りたい!」
といった悩みを抱えているのではないでしょうか。
そこでこの記事では、多能工の定義や誕生の背景、単工化との違いのほか、製造業で多能工が求められる理由や、製造業で多能工化を行なうための方法や注意点、動画マニュアルを導入して多能工化を成功させた事例を紹介します。
この記事を読めば、多能工化が理解でき、製造業の現場改善に役立てられる情報が得られるでしょう。多能工の実現のために、ぜひこの記事を参考にしてください。
目次
多能工化とは?
多能工(たのうこう)とはマルチタスクとも表現され、一人で複数の業務を行うことやその作業者を指します。つまり、「多能工化」とは「1人の従業員が複数の業務をできるような能力を養う教育」だといえます。多能工化は主に製造業の現場でよく使われ、複数の異なる技能を持つ技術者を指し、現場の負荷分散の手法として効果的です。多能工化を導入することで、属人化していた業務の平準化や適切な人材配置を実現し、生産性の向上が期待できます。
多能工化が生まれたきっかけ
多能工化の概念はトヨタ自動車が生産性向上のために取り入れたことから、認知度が上がりました。トヨタは、ムダの徹底的な排除を目指すトヨタ生産方式(TPS)の中で、多能工化を活用して生産性を向上させました。トヨタは多能工化を導入し生産ラインの効率化や柔軟な人材配置を実現したことで、一つの工程に特化した技術者(単能工)だけでなく、複数の工程を担当できる技術者が増加し、生産の柔軟性を高めることに成功しました。
単能工化との違い
単能工とは1人1つの工程やラインを担当することで、1つの業務に特化した技術者のことを指します。一方で多能工は複数の工程を担当できるため、生産ラインの柔軟性が増し、急な生産変更や人手不足の際にも迅速に対応可能です。
近年では製造業の現場が大量生産から変種変量生産へとシフトしている傾向があるため、単能工から多能工にシフトすることで生産性向上が期待できます。
現場改善ラボでは、多能工のメリットや具体的な進め方、多能工化に失敗しないためのポイントについて詳しく解説した記事を用意してあります。ぜひこの機会に参考にしてみてください。
関連記事:多能工とは?メリットや失敗しないためのポイントを詳しく解説!
なぜ、製造業で多能工化が求められているのか?
近年の新型コロナウイルス感染症の感染拡大や、ロシアによるウクライナ侵攻など、事前の予測が困難な事象が相次いで発生しています。結果として、製造業も調達先の把握や生産拠点の変更・拡充といった、サプライチェーンの強靱化が課題となっています。
ここでは、多能工が求められている理由として、次の2つの観点から解説します
- 製造業における人手不足
- 消費者ニーズの多様化
製造業における人手不足
下図にある通り、製造業の就業者数は新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響を受け減少しましたが、2021年は1,045万人、2022年は1,044万人と横ばいです。また、若年就業者数も2012年以降はほぼ横ばいとなっており、非製造業の就業者が増加している反面、製造業では若手社員の雇用が増やせていないのが現状です。
一方で2002年は全産業の就業者数が6,330万人、製造業の就業者数が1,202万人だったことから、全体の約19%が製造業に就業していたことになります。
しかし2022年になると全体の就業者数は6,723万人と2002年よりも増加しましたが、製造業の就業者数は減少し1,044人となり、製造業の就業者数は全体の約16%にまで下落しました。
製造業の人手不足を補うために、複数の業務を担当できる人材が必要であることがデータからもわかります。
参考元:2023年版 ものづくり白書
消費者ニーズの多様化
消費者ニーズの多様化は、製造業にとって大きな課題となっています。なぜなら、一つの製品やサービスがすべての消費者に合致することは難しくなっているからです。現代の消費者は、自分のライフスタイルや価値観に合った製品を求めています。そのため、製造業は多様なニーズに対応するための製品開発や生産技術の改革が必要です。
そこで、多能工は複数のスキルや知識を持ち合わせており、生産ライン上での多様なタスクに柔軟に対応できるため製造業にとって重要な存在であるといえます。消費者ニーズの変化に迅速に応じるためには、製造現場での迅速な判断と行動が求められます。多能工は、製造現場の要求に答えられる貴重な人材といえるでしょう。
例えば自動車産業では、エコカーや電気車、自動運転車など多くの車種が開発されています。自動車は、環境への配慮や都市部での移動ニーズ、高齢者の移動支援など、多様な消費者ニーズに応えるために多品種少量生産を行っています。
多品種少量生産を実現するためには、多能工が持つ多様なスキルが不可欠です。自動車のように、製造業は消費者ニーズの多様化に合わせ、多能工化の導入により、競争力を維持でき企業成長が可能になります。
関連記事:多品種少量生産とは?多品種少量生産のやり方と求められている背景を分かりやすく解説!
製造業で多能工化を推進する5つのメリット
製造業で多能工化を推進するメリットとして、以下の5つが挙げられます。
- 省人化・省力化の解消
- 変化に迅速に対応できる柔軟な組織の実現
- 業務平準化の実現
- 現場のチームワーク向上
- 業務可視化によるリスクの回避
省人化・省力化の解消
製造業における多能工化のメリットの一つは、省人化・省力化の解消です。製造業は労働集約的な業界であり、人手不足や高齢化の影響を受けやすい業界です。多能工は複数の業務や工程をこなせるため、人手が不足しても現場の多能工が複数の業務を担当することで、労働力の効率的な活用が可能となります。結果として生産量を維持しつつ、人件費の削減や労働時間の短縮が期待できます。
現場改善ラボでは、省人化・省力化への具体的な対応策について専門家が解説した動画を視聴可能です。ぜひこの機会に参考にしてみてください。
変化に迅速に対応できる柔軟な組織の実現
製造業は市場のニーズや技術の進化に迅速に対応する必要があります。多能工化は、従業員が複数のスキルを持つことで、変化に柔軟に対応する組織を実現します。多能工化によって、新しい技術や工程にも迅速に適応可能になるため、新しい製品の開発や生産技術の導入がスムーズに行え、競争力を維持することができます。
業務平準化の実現
多能工化により業務が集中しないようコントロールがしやすくなるため、業務平準化も期待できます。多能工化した従業員は複数の業務をこなせるため、ある業務がピークを迎えた際や一時的な人手不足が発生した場合でも、他の業務から人員を移動させて対応することが容易になります。
業務の過集中や過度な待ち時間を減少させる効果が期待できることで、空き時間の発生といったムリ・ムダ・ムラを減少させることも望めます。さらに、生産効率を最大化することができ、従業員の過労を防ぐ効果も期待できるでしょう。
現場のチームワーク向上
多能工化は現場のコミュニケーションを円滑にし、チームワークの向上が期待できます。なぜなら、多能工は複数の部門や職種の業務を理解しているため、異なる部門間の連携がスムーズになるからです。結果として、現場の一体感が生まれ、生産効率や品質の向上につながります。
業務可視化によるリスクの回避
多能工化により、業務の全体像を把握し問題点や改善点を早期に特定しやすくなるため、業務の透明性を高めながらリスクの早期発見と回避が期待できます。結果として、生産のトラブルや品質の低下を未然に防ぐことが可能です。
製造業における多能工化に向けた4つのプロセス
製造業における多能工化に向けた4つのプロセスは以下の通りです。
- 必要な業務をリストアップする
- 業務スキルの可視化
- 育成計画の策定
- 定期的な見直しを実施する
必要な業務をリストアップする
多能工化を進める上での効果的な育成計画を策定するためには、製造業における業務の全体像を把握することが重要です。具体的には、どの業務に焦点を当てるべきかやどの業務が他の業務と関連しているのかを明確にすることが必要です。
例えば製造ラインにおける組み立て作業や検査作業などの具体的な業務をリストアップし、それぞれの業務の特性や必要なスキルを明確にすることが求められます。
業務スキルの可視化
業務スキルを可視化することで現場のスキルギャップを明確にし、どのスキルを重点的に育成するべきかの判断材料にできます。
製造業の例として組み立て作業に必要なスキルや機械操作に関するスキルなど、具体的なスキルセットをマトリックス表に落とし込みそれぞれのスキルレベルを評価することで育成の方向性を定めることが可能です。
育成計画の策定
スキルの可視化が完了したら、育成計画の策定に移ります。具体的な育成の方向性や目標を設定することで、多能工化の取り組みを具体的に進めるためのロードマップが作成できます。
製造業の例を挙げると、新しい機械の導入に伴い操作スキルを習得するための研修や、既存の業務スキルをさらに深化させるための実践トレーニングなど具体的な育成内容や期間を計画することが重要です。
定期的な見直しを実施する
業務の変化や新しい技術の導入など、製造業の環境は常に変化するため、多能工化の取り組みは一度完了したら終わりではありません。そのため、定期的に育成計画の見直しを行い、現場のニーズに合わせてスキルの育成を進めることが必要です。
例えば、新しい製造技術の導入に伴い関連する新しいスキルの育成が必要になった場合など、柔軟に育成計画を更新し多能工化の取り組みを継続的に進めることが求められます。
製造業の多能工化で気を付けるポイント
製造業の多能工化で気を付けるポイントとして、以下の2つが考えられます。
- 育成に負担がかかる
- モチベーションの低下
育成に負担がかかる
多能工化を成功させるためには従業員の育成が不可欠です。しかし、スキルを習得するためには時間と労力がかかるため、多くのスキルや知識を習得することは従業員にとっても企業にとっても大きな負担となります。また、育成には現場の先輩社員によるOJTなど、実際に働いている従業員の協力が欠かせません。しかし、人手不足の製造業では、育成を全てOJTにしてしまうと現場に負担がかかってしまうこともあります。そこで基本的な事項はマニュアルで確認するようにし、直接教える必要があるところだけOJTによる教育を行うと効果的です。
例えば製造業では、機械の操作方法や品質管理の技術、安全対策など多岐にわたる知識が求められます。1人の従業員にすべて習得させるためには、十分な研修時間と実践の場が必要となるため、OJTとマニュアルの有効活用がおすすめです。
モチベーションの低下
多能工化を進める中で、従業員は今までよりも多くの業務を担当することになるため、従業員のモチベーション低下は深刻な課題となります。担当する業務の中には従業員が得意としない、または興味を持たない業務も含まれる可能性が高まります。そのため、多能工化を長期的に継続させるためには、従業員のモチベーション低下を回避する取り組みを行う必要があります。モチベーションの低下を回避するためにはスキルマップの活用が効果的です。
スキルマップは従業員の持つスキルや知識を明確に可視化でき、各従業員の得意分野や成長の方向性を把握することができます。従業員自身も自分のスキルや成果を明確に認識でき、スキルマップをもとに次のステップや目標を設定することが可能です。
さらに、スキルマップをもとにした評価制度の導入により従業員の努力や成果を正確に評価し、適切なフィードバックや報酬を提供できるようになります。結果として、従業員のモチベーションを維持し、成長を促進することが期待できます。
現場改善ラボでは、スキルマップの目的や作り方、メリット・デメリットなど詳しく解説した記事を用意してあります。ぜひこの機会に参考にしてみてください。
関連記事:スキルマップとは?作り方や項目例、テンプレートをご紹介
製造業の多能工化にはITツールの導入がおすすめ!
多能工化は身近な取り組みからも始めることができますが、ITツールを活用すると現場の負担をかけることなく、より進んだ多能工化の実現が可能になります。
しかし、扱いが難しいツールを導入してしまうと、現場で使われずにかえって逆効果となってしまいます。そのため、従業員全員がストレスなく使うことのできるツールを導入することが望ましいです。例えば、現場への導入は動画マニュアルがおすすめです。動画マニュアルを活用することで、作業のカン・コツなどの暗黙知とされている業務が可視化できるようになり、業務平準化と多能工化を推進することができます。
動画マニュアル「tebiki」では、スマホやタブレットで簡単に動画マニュアルを作ることができます。次項では動画マニュアル「tebiki」を活用し多能工化を推進した企業事例をご紹介します。
tebiki導入で製造業の多能工化を推進した事例
多能工化を進める中での教育や研修の課題は少なくありません。そこで、動画マニュアルのtebikiの導入をおすすめします。ここでは、tebikiを導入して多能工化を推進した事例として、次の2社を紹介します。
- イセ食品
- カルビー株式会社
イセ食品
イセ食品は、東京都千代田区に本社を置き、国内外で鶏卵の販売・製造を行う企業です。イセ食品の製造現場では、外国籍の従業員が多く日本語の座学研修が十分に伝わらないという課題がありました。
イセ食品はtebiki導入後の3ヶ月間で、現場作業の動画を200本近く作成した結果座学の時間が大幅に削減されたほか、外国籍の従業員も動画を通じて業務内容を理解できるようになりました。
また、動画による教育は文字や口頭の説明だけでは伝わりにくい内容も視覚的に伝えられるため、tebikiを活用することで教育の一貫性が保たれ、従業員間での作業の標準化が進められました。
tebikiのクラウドベースのシステムは、いつでもどこでも動画マニュアルを閲覧できます。これにより、従業員の学習機会を増やすことができ、製造現場の作業標準化と多能工化の推進が実現されたことでイセ食品は品質向上を実現しました。
参考元:導入3ヶ月で動画200本作成。製造現場の作業標準化と多能工化を推進しています。
カルビー株式会社
カルビー株式会社は、日本を代表するスナック菓子メーカーです。カルビー株式会社の製品は、ポテトチップスやじゃがりこなど、多くの人々に親しまれています。カルビー株式会社の製造技術や品質管理は業界内で高く評価されており、国内外での展開を積極的に進めています。
しかし、製造業としての成功の裏には、新規配属者の教育や、多様な背景を持つ従業員のスキルアップが求められるなどさまざまな課題がありました。新人が「一気にすべてを覚えるのは難しい」「教育内容が教える人によって異なる」といった不安を感じる一方で、教育担当者も効率的な教育方法を模索し、その中で、多能工化の推進がカルビーの重要な取り組みとして浮上してきました。
tebikiは動画マニュアルを提供するサービスであり、視覚的に分かりやすく、一貫した教育内容を提供できるため、多能工の教育に非常に適しています。さらに、tebikiには食品業界への導入実績が豊富であり、自動翻訳機能も搭載されているため、日本語が不得意な従業員にも合った教育が可能です。
カルビーではPoC(実証実験)を実施した結果、新人スタッフはtebikiの動画マニュアルを非常に分かりやすく感じ、教育担当者からも動画を使用することで効率的に教育が行えるとの高い評価を受けました。実証実験の成功を受けて、カルビーはtebikiを本格的に導入しました。現在、複数の拠点でtebikiの活用が進められ、多能工の教育やスキルアップに大きく貢献しています。
参考元:カルビーが目指す製造現場の『効率的な多能工実現』と『新人の定着と早期独り立ち』。PoC検証を経て動画マニュアルtebikiを本格導入。
多能工化を実現して現場改善をしよう【まとめ】
多能工とは、マルチタスクと同意義で1人で複数の業務を行うことを指します。
製造業においては、少子高齢化による人手不足や消費者ニーズの多様化により、多能工が求められるようになっています。
多能工化を進めることで、製造業の課題である省人化・省力化の解消や業務平準化を実現し、変化に迅速に対応できる柔軟な組織を築くことが可能になるほか、現場のチームワークの向上や業務の可視化によるリスクの回避も期待できるのが特徴です。
多能工化の推進にあたっては、必要な業務のリストアップや業務スキルの可視化、育成計画の策定、そして定期的な見直しの実施といったプロセスを経ることで、スムーズに進められるでしょう。
動画マニュアルtebikiを活用することで、イセ食品やカルビー株式会社は多能工化を実現しています。tebikiは現場教育の標準化やスキルアップ、言葉の壁を超えた教育を行いたい企業におすすめのツールです。
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